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「身近にある幸せを大切にしたい」
新世代のSSW/トラックメイカー・NORTHが
今の思いを丁寧に紡いだデジタルシングルをリリース!

「思い浮かんだメロディをギターで弾いてみて、それをパソコンに読み込んで音を重ねていくんです。曲づくりは主に自宅で行っています」。音楽の専門学校に通っている頃から自分ひとりで作りあげた音楽をコツコツと配信し、発信することを続けてきたシンガーソングライター/トラックメイカーのNORTH。2019年にデビューすると「君がいないこの世界では」がTikTokで大反響を得て大きな話題となったが、まもなく世界はコロナの渦の中へ…。ライブを開催することもままならず、曲づくりのインスピレーションの源だった友人との楽しい時間を重ねることもやひとり旅にでかけることもできない中で、些細なことでもすごく幸せな瞬間があるということに気づけたことはとても大きな収穫だったという。これまで以上に言葉を大切にすることに重きを置くようになったという彼が、凪いだ海の情景が浮かんでくるラブソング「Tender Blue」をデジタルシングルとしてリリース。今回『ぴあ関西版WEB』に初登場となるNORTHに、デビューまでのこと、楽曲制作について、今考えていることなどたっぷりと話を聞いた。

新しい配信の形を模索して出会ったTikTok

 
――いよいよ季節は秋へといったところなのですが、今年はどういう夏を過ごされましたか?
 
今年の夏も外にはなかなか出られなくて、曲づくりをしていました。リリースする新曲のレコーディングをしたりして音楽に取り組む夏でしたね。
 
――今回、ぴあ関西版WEBに初登場ということで、ちょっと遡ってお話を伺えたらと思っています。デビューというと2019年に発表されたアルバムの『NCYL』になるんでしょうか。
 
実は『NCYL』を出す前からシングルで1曲ずつ発表したりはしていたので、そこからがNORTHとしての始まりかなと思っています。自分としては『NCYL』に収録している「君がいないこの世界では」という曲を世に出した時に、自分がアーティストとして始まっていくんだなっていう思いがすごくありました。
 
――そもそもNORTHとして音楽を始めたきっかけからお聞きしたいのですが…。
 
高校生の頃、たまたま周りで楽器を始めた子たちが結構いたんですね。みんなでバンドを組むっていうよりは各々でギター始めた子がいたり、ベース触ってみる子がいたりっていう感じで、彼らと一緒に遊んでいるうちに流れで「お前もやってみたら?」って言われたのが一番最初のきっかけですかね。
 
――やってみたらと言われるまで楽器の経験は?
 
友達がギターを弾いているのを見ていたり「弾いてみなよ」って渡されたり、遊びみたいな感じでちょっと触るっていうことはありました。実は過去に少しピアノを習っていたことはあるんですけどピアノはあんまり自分にはフィットしなかったというか、割とすぐに辞めてしまって。
 
――何か理由が?
 
発表会が嫌だったっていうのが一番の理由でした(笑)。なんか気恥ずかしくて。ピアノを辞めてからは楽器は触っていなかったんですけど、音楽は好きで聞いていましたね。アニメの曲とか流行っていた音楽…その頃はEXILEさんとか嵐さんとかJ-POPをよく聞いていました。あと母がCDをたくさん持っていたので、アース・ウィンド&ファイアーとかマイケル・ジャクソンとかも。聞く専門だったので、最初はギターを手にしても何を弾いたらいいんだろうって悩みましたね。それを友達に相談したら、GREEN DAYとか洋楽のロックバンドを教えてくれたんです。そういうバンドの曲をコピーしていくうちに少しずつギターも弾けるようになっていきました。
 
――そういう初めての体験から、どんなふうにデビューにつながっていくのかすごく興味があります。
 
高3でようやくバンドを組んでコピーをやっているうちに自分たちの曲も欲しいねって話になったけど、メンバー内に曲を作れる人がいなかったんです。でも実は僕自身、バンドを始めてからオリジナル曲を作ることに興味が湧いていて、いいタイミングだし作ってみようと。とりあえずギターでつくった音をパソコンに入れて形にしていくところからスタートして、高校卒業後に音楽の専門学校に進学しました。
 
――遊びながら楽器を触った高校生活での経験が自分の将来を方向づけるきっかけにもなったんですね!
 
そうですね、高校時代の影響はすごく大きかったですね。バンドをやったことで音楽の楽しさも味わいましたし、自分の曲をみんなが聞いてくれたらいいなっていうのはその頃から芽生えた思いですし。進学してからは授業で音楽の幅広い知識と技術を学べたおかげで自分ひとりで音楽を作っていきたいっていう気持ちも湧いてきて、2年生の終わりぐらいから個人で音楽活動を始めました。
 
――進学後は改めてバンドをやろうみたいな思いにはならなかったですか?
 
授業でレコーディングの仕方とかミックスのやり方みたいなものを学んでいくうちに、自分で曲を生み出して自分自身で音をいじっていくことに新しさと面白さを感じたんです。ジャケット制作も自分でやることに興味がありましたし。授業を通して、ひとりで曲をつくってアルバムを作って世の中に出してみたいっていう気持ちが大きくなった頃でした。なのでバンドを組むというよりかは、ソロとして活動を始めることを選びました。
 
――専門学校に行ったことで、ひとりでも音楽を作れるということに気づいたと。
 
はい、いろいろわかってきた感じです。専門学校に行っていなかったらこのスタイルにはなっていなかったと思います。その頃は「自分の曲を世の中に届けたい」っていう思いが強かったので、ダイレクトに早く届けられる配信で曲を公開していました。コツコツと1曲ずつシングルを配信していって、新しい曲も足してアルバムをリリースしたりもして。最初はインスタで告知していたんですけどうまく伝わらなかった部分もあって、もっといろんなやり方がありそうだなと思っていた時に見つけたのがTikTokでした。
 
――そこでTikTok! ちなみにそれまではどういう配信方法を取っていたんですか?
 
パソコン上にあるプラットフォームから配信したりYouTubeで音源を公開していたんですけど、TikTokを始めてからは本当にいろんな人に曲を聞いてもらえるようになりましたね。本当にTikTokの力は大きかったなと思います。反応も早いしすごく独特で、意図していないものも突然流れてくる刺激的なSNSですごく面白いですよね。TikTokをやり始めてから、さまざまな自己表現があるんだなとそこで感じましたし、NORTHというアーティストを知っていただけるキッカケになったと思います。
 
――次々に流れてくるだけにインパクトの強い楽曲じゃないとユーザーには手を止めてもらいにくいとも思うんですが、TikTokで曲を公開するうえで意識していたことはありましたか。
 
「曲を聞いて欲しい」っていうのが一番の目的なので、曲の中でどの部分をピックアップしたらたくさんの人に聞いてもらえるかということには特に頭を使っていました。
 
――単純にサビの部分がキャッチーなのかなと思うんですけど…。
 
サビ部分をアップすることも考えましたし、実際にアップもしてみたんですが、結果一番大きな反応をもらえたのはサビではない部分でした。
 
――それは狙い通り?
 
そうですね、聞いてもらえるかもと感じました。歌詞や楽曲の雰囲気的にこの曲は、サビ以外の方がTikTokにはフィットするんじゃないかという感覚がありました。ですが、予想以上に反応があったので工夫してよかったなっていうのはありました。それがデビュー曲の「君がいないこの世界では」です。
 
――そこに対するたくさんの反応があって、デビューにつながったんですね。デビューが決まった時の心境はどうでしたか。
 
単純に嬉しかったです。自分の中で目標にしていたことが、TikTokで注目していただいたことで叶いました。でも例えそれがうまくいかなくても、TikTokでの発信は続けようと思っていました。やりながら新しい発見があるかなとか、続ければなにかがあるかなという思いがあったんです。
 
――自分としては思いがけずデビューが決まって、どんなアプローチで世の中に出ていこうとか目指したアーティスト像みたいなものはありましたか?
 
音楽をつくるのも好きだけど映像なんかも凝ったりするのが好きで、映像と音楽を組み合わせていいものを生み出せるようなアーティストになりたいということはずっとイメージしていました。YouTubeに曲をアップしていた頃からそういうことには取り組んでいたので、ある意味今は本当に理想的な形で活動できているなと思っています。
 
 
 
コロナ禍で得た「気づき」が今後も糧になっていく

 
――NORTHの曲を聞いていると一体どうやって曲をつくっているの? ということもすごく気になるんですが、具体的にはどうやって曲をつくっているんでしょう。
 
ギター、ベース、アコースティックギターとかを弾いて、できたメロディーを録音してパソコンの中で使えるソフトに取り込んで組み立てていく形で曲をつくっていますね。主に自宅で制作をしています。最初はギターや鍵盤で弾き語りながらイメージを膨らませて、それをパソコンに詰め込んでいきます。そして取り込んだ音の細かい空間の広がりや狭まり、音の近さや遠さなどを操って、完成形へのイメージに近づけていくという流れです。
 
――そういう作業はバンドでやることは難しいですか。
 
バンドでやるよりは自分の頭に浮かんだことをパソコンに詰め込んでいく作業の方が個人的にしっくりきているので、この形がすごくフィットしているなっていう感じですね。ひとりでやることで全ての楽器を自分の思うようにできますし、ここをこうして欲しいということではなくて自分で調整できるのがいいところだなと思います。
 
――それって曲づくりにまつわる全てを自分自身で理解できてないと難しいですよね。
 
そうですね、そこは専門学校時代にかなり勉強しましたね。例えば、この楽器はこの高さまでしか音が出ないとか、ソフトの機能、どういった種類のシンセがあるとかさまざまです。僕が通っていた学校は音楽全般について学ぶことができたのでレコーディングやミキシングなんかも学べたし、それ以外にも照明とかもちょっとやらせてもらったりもしました。
 
――2019年のデビュー以降、ライブはせずシングルをコンスタントに出しつつアルバムも…という形でリリースが中心ですが、これはコロナの影響も?
 
影響はありますね。ライブをすることが難しかったのでリリースに軸足を置いて。リリースだけではなくて制作面でもなかなか外に出られないことで今までインプットできていたものができなくなったのは辛かったです。自分の中で別のインプットの方法を探してはいるんですけど、楽曲の捉え方とか楽曲の進め方とかは1曲1曲で苦戦しながらも少しずつ変化していっている感じはしますね。この時代に合わせて。
 
――ちなみにコロナ前のインプットというと…。
 
やっぱりライブに行くことが一番大きかったですし、友人たちと遊びに行った時に得られるものがあったりひとり旅が好きなんですけどそこから何かを得ることが多かったです。
 
――それが今はどう変わりましたか?
 
映画、本、アニメや映像からインスピレーションをもらったり、SNSでみんなはどういうことを思っているだろうとか、そういうところからイメージを広げることも多くなりましたね。
 
――インプットに革命が起こった一方で、音楽制作への向き合い方やアウトプットの方法にも変化はありましたか?
 
うーん、そうですね…SNSを通して自分の曲がどういうふうにみなさんに届くんだろうっていうことは、前よりも考えるようになったかもしれないです。SNSひとつとっても別のやり方やアプローチもあるんじゃないかということを考えるようになりましたね。その延長で歌詞はすごく重要なポイントになりました。コロナ禍になってから歌詞に注目して音楽を聞かれているなという印象はあって、言葉選びに対してもこういう言い回しではなくてこっちの言い方がいいんじゃないかなとか、この言葉だと誰かを傷つけてしまうんじゃないかとか、言葉選びに重心を置くようになりました。
 
――コロナを体験してマインドにも変化が訪れる中で、今回のシングル「Tender Blue」を制作するにあたってどんなところからスタートをさせたんですか。
 
弾き語りをしている時にこの曲のメロディがわ〜っと出てきたんですけど、それが自分の中で「優しさ」みたいなイメージが強く湧いたんです。この優しいサウンドを全面に出して、歌詞も落ち着いた優しさに溢れるものを作りたいなと思ったのがきっかけですね。やっぱりニュースを見ていても本当に世の中は騒がしくて、自分自身が優しさを欲していたということもあると思います。僕の音楽がオアシス的な役割というか…心が安らぐ瞬間をみなさんと共有したいと思いました。
 
――現実はすごく殺伐とした時間が長引いていますもんね。
 
本当、そうですね。
 
――先ほど歌詞に重きを置くようになったっておっしゃっていましたけど、「Tender Blue」の歌詞に関してはどうやって優しさを表現しようとトライされたんでしょうか。
 
優しさ・安らぎを何かに言い換えたいと思った時に、思いついたのが海でした。単純に海が好きだし、海を眺めている時って安らぐ瞬間だなっていう思いはずっとあったんです。そのイメージを自分の中にある言葉を使ってどう伝えていくかっていうところはすごく考えましたし、曲を通して「日々いろんなことがあるけど、気がつかなかったところに安らぎの瞬間がある」っていうメッセージを伝えたいとずっと思っていました。
 
――歌詞の中でも特にバチッとハマったワードはありましたか?
 
もちろんフルで聞いていただきたいなと思うんですが、中でもサビに入れた「凪いだ海辺」っていうワードは自分なりに考え抜いた言葉で気に入っています。ここはすごく注目して聞いていただきたいポイントですね。
 
――ちなみに曲づくりの面での工夫とは?
 
まずギターでつくったメロディをパソコンに入れて土台を作っておいて、このサウンドどんな楽器の音があればより自分のイメージしている海の景色をより鮮明に伝えることができるかというイメージをプラスしてどんどん組み立てていきました。ギターの他にもピアノ、ブラス系、シンセサイザー、ドラムの細かな音、ちょっと変な音で遊んでみたりとか。「Tender Blue」はかなり音で遊んでみた感覚があります。
 
――今回は特にピアノの音色に試行錯誤したとお聞きしたんですが…。
 
そうそう、この曲のピアノをあえておもちゃっぽい音色にしているんです。ナチュラルなピアノの音ではなくてチープでおもちゃっぽい音を鳴らす方が可愛さもあるし、今回の曲にはフィットするなと。それも全てパソコンの前でひたすらいろんなパラメーターをいじって実験的にやっていきました。あと今回はちょっと懐かしいサウンドにしている部分もあるんです。海をイメージした時に夕日に照らされている海とかすごくノスタルジーな感じだし、それを表現するには懐かしい感じのするサウンドをつくるのが一番いいんじゃないかなって。それはすごく意識しましたね。
 
――優しさ、安らぎ=海=ノスタルジックなサウンドって連想ゲームみたいにイメージが広がっていく面白さがありますね。
 
それもこれも土台になるテーマがあったからだと思うんです。この曲は今まで気づけなかったことに気づけた体験とか、身近にある幸せを大切にしていきたいっていうことをテーマにしたいなっていうのが制作の出発点でもあったんですよ。
 
――と、いうと?
 
コロナ以前は外に出るにしても旅行したりキレイな景色を見に遠くに出かけたりとかしていたと思うんですけど、コロナ禍になって家の近くを散歩する機会も増えて「あ、こんなところにこんなものがあるんだ」っていうところとか、行ったことのないパン屋さんに行ってみたりとか小さいけど身近なことに気づけたっていうこともあって。そういう些細なこともすごく幸せな瞬間なんじゃないかなっていう経験をたくさん重ねたことで、このテーマに辿り着けました。
 
――これまでがどこまでも自由だったということにも気づきますよね。
 
そうですよね、気づきました。これからも歌詞を書いていくので、こういう気づきはかなり大事なことだったなと思います。やっぱり気づくっていうことが歌詞はもちろん音楽を作るうえでも大事なポイントになっていくと思うので。これからもそういう気づけるポイントを積極的に探していくんだろうなと思いますね。
 
――9月15日に「Tender Blue」をリリースした後は、10月に大阪・東京でのライブが発表されています。これが初ライブとお聞きしているんですが、デビュー前にもライブはされていなかったんですか?
 
実はNORTHとして活動を始めてからは1回もライブはしたことがなくて、これが正真正銘の初ライブになるんです。
 
――そうなんですね! すごく意外です。そんな初ライブを前に、今考えていることはありますか。
 
今のNORTHを見てほしいというか、自己紹介的なライブができたらいいなと思っています。なんせ初めてのライブなので。僕がどういうライブをするのかみなさんも想像がつかないですよね(笑)。NORTHというアーティストをお披露目するライブにしたいなと思っています。
 
――でもそもそも想像つかないのが、どういうスタイルでライブをするんだろう? っていうところなんですが、当日はおひとりで?
 
やっぱりバンドサウンドでやりたいなとは思っています。これまでリリースしてきた作品を聞いていただいた方にとっては披露する曲もまたちょっと違う印象になるかなと思いますけど、より伝わる感じにできたらいいなと思います。バンドなので音も生っぽくなりますし。
 
――当日のバンドは何人編成になる予定?
 
おそらく僕を含めて4人とか5人ですかね? ギター、ベース、ドラム、鍵盤とかの予定です。いつもひとりでやっていることを考えるとなんだか大人数ですね(笑)。
 
――確かに! 初ライブであることはもちろん、今ライブを開催できることそのものが貴重な機会になると思います。10月のライブはどんな時間にしたいですか。
 
今僕の音楽をYouTube見てくれている人やサブスクで聞いてくれている人に、「NORTHの曲を聞いていてよかったな」と思ってもらえる時間にできたらいいなと思っています。初ライブ、僕自身もすごく楽しみです!

編集部注:本インタビュー後、9月8日にライブ中止が発表されました。

取材・文/桃井麻依子



(2021年9月15日更新)


Check

Release

Digital Single
『Tender Blue』
2021年9月15日(水)発売
Apple Music、Spotifyなどで配信

Profile

ノース…1998年生まれ、広島県出身のシンガーソングライター/トラックメイカー。エレクトロ、ヒップホップ、ポップ、アンビエントなどをベースに、楽器とパソコンを駆使して楽曲制作を行う。2019年に発表した1stアルバムの『NCYL』は楽曲制作はもちろん、レコーディングやミキシング、ジャケットイラストまですべて自身で手がけた。また『NCYL』にも収録された『君がいないこの世界では』は、TikTokで大きな反響を呼びLINE MUSICのプレイリストにもピックアップされるなど話題となった。

Instagram
https://www.instagram.com/ktnohr/

YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCUi2hkDocgEMf3fxX_ifQnw