前作フルアルバム『Be』から約1年半ぶりとなるニューミニアルバム『sheer』はポップな中に新たな音楽性や意外性を秘めている。ファンタジックな世界観で引きこむオープニングの『リトル・ミー』をはじめとした新曲が4曲、先行配信曲の2曲『summer memories』『真夜中の処方箋』、ボーナストラックとして人気の高い『ツキミキミ』のリアレンジバージョンが収録された全7曲で構成。気心の知れたクリエイターたちと共にアットホームな環境で製作され、新境地を感じさせる今作で表現したかったこととは?リモートインタビューとなった今回、画面越しでも間近にいるような話しぶりでレコーディングやプライベートでの興味深いエピソードまで明かしてくれた。7月4日の大阪・Zepp Nambaからスタートする初のZepp Tourに向けての意気込みも含めて、今の彼女のリアルな気持ちとメッセージをお届け!
――新しいミニアルバム『sheer』は伊藤さん自身も構想から携わっていったそうですが、この作品にはどんなテーマがありましたか?
「タイトルの『sheer』には“ごく薄い”という意味も含まれています。最近の世の中は見えているようで見えていない、薄い幕のようなシアーな膜のようなものがあるなと感じていて…。みんなSNSで自分のことを見せるけれど、それが全てじゃないし、すごくいろんな情報が溢れているけれど、本当に大切なことが見え隠れしてしまっている時代だなと。そういう状態が、私にとっては世の中に薄い膜がかかっているように見えるんです」
――なるほど。大切なことが見えづらい世の中になっていると?
「はい、そうですね。見えているようで、膜がかかって霞んでいる世の中のように映っていたので、そこから、『sheer』というタイトルにしました。コロナ禍になっておうち時間も増えたので、携帯でSNSを見ているとネガティブな気持ちになることも多くて。でも、そのままじゃいけないから、そうなった時にどうやって自分の気持ちを前向きに持っていこうかな?って思った時に、自分ならこうしてみようかなっていう一つの答えが、このミニアルバムには詰まっているかなって思っています」
――確かに、一曲目の『リトル・ミー』からパッと気持ちが明るくなるポップミュージックの魔法を感じます!
「良かったです! 作曲してもらったレフティ(宮田“レフティ”リョウ)といろいろ話していく中で、“現実逃避”というテーマが上がってきたんです。SNSは楽しいことだけでなく、ネガティヴなワードも転がっているし、毎日嫌なことも降りかかってきたりするけど、目を閉じて現実逃避すれば、その中だけでも幸せな瞬間ってあるよねって。『リトル・ミー』に関してはサビで歌っているように、雨の日で憂鬱な時も傘を広げると、その傘が空を飛んでいくと想像してみたら、ちょっとワクワクしない?と(笑)。このミニアルバムの導入曲として、みんなをちょっと現実逃避した世界へお連れする曲になっています」
――イイですね! まさにエンターテインメントな体験ですね。
「そうですね。現実逃避というワードだけ聞くとちょっとネガティヴに聞こえたりもするんですけど。私はイイ意味での現実逃避って必要だなと思っているので。この曲では、そこをうまく表現できたんじゃないかなと思っています」
ベースにあるのは実体験
子供からもらった影響が強く反映されています
――日々の生活からちょっと離れて想像力を巡らすことって大切ですよね。
「はい!それは子供の方が上手なんですよ。今年4歳になる息子を見ていると、想像力がすごいなって感心することも多いんです。『リトル・ミー』の音の方にはトイピアノや古いオルガンの音が入っていて、ちょっとファンタジーを想起させる音だったり、子供心を表現する音もたくさん入っています。歌詞だけじゃなく、一つ一つの音に無邪気な子供心が入っているところにも注目して聴いていただけたら、より楽しい曲になるのかなと思います」
――そのあたりはお子さんからインスパイアされることが反映されているのでしょうか?
「そうですね。今回の『sheer』に関しては子供からもらった影響が強く反映されています。(コロナ禍でおうち時間が増えて)子供との時間が長く取れるのは嬉しい反面、つい怒ってしまうことも増えてしまって。やっぱり一緒にいる時間が長いほど、子供がすることで目につくことも多くなって…。怒ってる自分のことが嫌になる瞬間もありましたし(苦笑)。そういう楽しいことや良いことばかりじゃないな…という自分の体験がベースにあってできた作品なので、気持ちを切り替えたい時にこの『sheer』の曲を皆さんの日常に取り入れてもらえたらイイなって思います」
――ちなみに、『リトル・ミー』というタイトルにしたワケは?
「可愛らしくて子供っぽいタイトルがつけたいなと(笑)」
――そういうファンタジックな世界観は『きらり』(M-6)にも通じているように感じます。
「そうですね。この曲も『リトル・ミー』と同じくレフティの作曲です。『リトル・ミー』が“ようこそ『sheer』の世界へ”という導入曲だとすれば、この『きらり』はクライマックスの曲で、現実逃避の完成形です(笑)。今回は世界観重視のコンセプチュアルなミニアルバムになったかなと思っています。実は、“考えすぎず気楽にいきましょう”という裏テーマもありまして(笑)。私自身、ちょっと考えすぎて、落ち込んだりしてしまう性格なので、各クリエイターたちがそんな私自身の性格を見通して、“千晃ちゃん自身が自分のポジティヴを表現してほしい”という客観的な見方も加えてもらいながら作って行きました。なので、私だけが表現したものではなくて、みんなから見た“伊藤千晃のsheerってこうだよね”っていうものも同時に表現してくれた作品だと思っています」
――そうなんですね。
「私のことを、“いつもニコニコ笑っててイイね!”っていうファンの声を耳にするんですけど、実際はそれだけが私じゃないんです。一人になった時はすごく孤独を感じたりするし、子供に怒ってばっかりいるような母親なんじゃないかと、自分を追い詰めたりもします。そういった自分のネガティヴなところも知ってほしいし、それを表現したらこうなるよっていうのも、音楽なら伝えられるなって思います」
――かといって、ネガティヴな部分をダイレクトに出した暗い作風になるのではなく、軽快で華やかな印象が強いです。
「そうですね。リラックスできて、アットホームな温かみがある環境の中で作れた楽曲が多いんです。私一人では表現しにくいなというところも私の仲間たちが支えてくれるので、思い切ったこともできるし、ファンが喜ぶような曲とのバランスをとってくれています。今作は私一人ではなく、伊藤千晃を今まで支えてくれた人たちと作った自信作です!」
『きらり』には息子の声も入っているんです
――そんな中で、『アンドロイド』(M-4)はちょっと異色な曲だなと感じました。クールに装っている女性の葛藤を歌にしているようですが、伊藤さん自身はこの曲をどのように受け止めていますか?
「この曲は私の中でも結構変化球な曲ですね(笑)。I Don't Like Mondays.の皆さんに作ってもらった曲なので、I Don't Like Mondays.のみんなからしたら、これが私の“sheerっぽさ”なんだなと(笑)。彼らの解釈として、“一番シアー(sheer)がかかってるのは千晃ちゃんだと思う”と、“外に向けて見せているようで一番見せてない。そのシアーがかった千晃ちゃんというのをアンドロイドに置き換えて、この曲を歌ってほしい”と言われました。そういう私自身では決して思いつくことができない方向性から切り込んでくれた楽曲が『アンドロイド』です。もう完全にバレてるなと思いました(笑)。さすがだなと。今までお仕事もご一緒させていただいて、いろんな話しもさせてだいたので。ちょっと会話の中で見透かされてる感じが悔しくもあり、嬉しくもあり。今までになかったような曲調で切り込んでくれたのが、嬉しかったですね」
――リード曲として先行配信された『Merry Go Round』(M-2)は思わず体が揺れだすライブ向きのナンバーですね。
「今回の新しい曲の中でも一番キャッチーさが残る曲ですね。今作を引っ提げてツアーも回って行くので、ライブでみんなが盛り上がってくれる曲になるといいなと思っています」
VIDEO
――ライブが楽しみな曲という点では、先程お聞きした『きらり』もハイライトになりそうな一曲です。ライブの演出もとても気になります!
「まさしくその通りです!『きらり』はツアーにおいて、演出込みで歌い上げたいなと思っている作品です。この曲は日常生活で私が息子にしていることを反映させた曲なんです。毎日、寝るときには息子に絵本を読んでいるので、絵本を読んでいるような楽曲を作りたいというところから生まれました。なので、歌い方も息子に絵本を読んでいるような気持ちやテンションで歌っています。レコーディングでは座って歌いました。実は、『きらり』には息子の声も入っているんですよ(笑)」
――え、そうなんですね!
「はい!想像力は子供の方が豊かだったりするので。それを聴く人にも感じてもらいたいなと思いまして。私の息子も初めてレコーディングスタジオに入って、一緒に歌ってもらいました。コーラスではクリエイターの家族の子供にも協力してもらいまして、子供の笑い声も聞こえるような空間で制作していたので、ほっこりした感じが出ていると思います(笑)」
ステージは世界観重視で製作
衣装やメイクにもストーリーがつながる仕掛けが!
――今作は新境地を感じさせてくれます。伊藤さん自身はどのような作品になったと思いますか?
「前作の『Be』というアルバムとは全然違いますね。いまは、音楽的にバンドスタイルで表現していくことが気に入っているので。バンドとしてやった時にはえる曲を意識して作りました。そういう点でも自分にとって新境地だったなと感じています。今回のツアーもバンド編成(キーボード、ギター、ベース、ドラム)で行う予定です。このメンバーも私がバンドを始めるきっかけになった時からずっとやってもらっているので、きっとアットホームな音を奏でてくれると思います。私は性格的に前に前に出るタイプではないのですが、“千晃さんもっといっちゃいなよ!”って背中を押してくれるメンバーがもうちょっとやんちゃな表現をしてくれるので、その真ん中に私が立たせていただいて、バランスをとっている感じですね」
――ツアーのステージやパフォーマンスはどのような構想を考えていますか?
「今回は世界観を重視したいので、衣装やメイクもその世界観に沿った表現ができたらイイなと思って、鋭意製作中です!」
――どんなメイクやファッションで登場されるのかとても楽しみですね!
「オープニングからストーリーがつながるようなイメージで作っているので、みんなにもそこに注目していただけたら嬉しいです!」
――なるほど、タイトルにもなっている『sheer』(以下、シアー)って、ファッション用語で“透け感がある”という意味合いでも使われますが、それも関係しているのかなと?
「はい。実は関係しています。私はファッションやメイクが好きなので、夏になると、シアーな素材のファッションとか、シアーなメイクというワードがよく出てくるので、そこにも引っ掛けたいなと思っていたんです。ツアーのキービジュアルに少しヒントが出ているので。そこからみんなも想像を膨らませてくれたら嬉しいなと思っています」
――今回は初のZeppツアーですね。Zeppという会場にはどんな思いがありますか?
「私にとってZeppは結構おっきい会場なので、久々にそういったところでライブができるのはとても嬉しいです!会場に負けないパフォーマンスや演出を考えるのがすごく楽しかったですね。1日2回公演には正直ビビってますが(苦笑)。体力もつけないといけないなと思って、最近はボクシングに通い初めて体力作りにも頑張っています!」
――すごい!たくましいですね!
「そういうイメージじゃないかもしれませんが(笑)。意外にハードなスポーツが好きなんです。ライブに向けて気合を入れて、基礎体力を上げてがんばります!」
――最後に、お客様に向けてのメッセージをお願いします!
「久々にファンの方の顔が見れるのが本当に楽しみです!私はライブで直接会って距離感を詰めていくのが好きなので、会えない時間が続いてここ数年はとても辛かったんです。ファンの方に会って、仕事に向き合える活力をいただいていたなと再確認できた一年だったので、今回はその気持ちを思う存分伝えたいなと思っています!今は声を出すのは難しいと思いますが、それでもみんながちゃんとライブに参加している気持ちになれるような演出も考えています。やっぱり一体感というものは大事にして行きたいなと思っているから、心の中だけでも楽しい気持ちが倍増できるような演出を考えているので、ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです」
――ツアーの初日はZepp Nambaですね。
「大阪はすごく熱量が高く応援してくれる方が多い印象なので、今からツアーの初日をすごく楽しみにしています。初めてのZeppツアーにもなるので、この機会にぜひ7月4日に難波の方に遊びに来ていただけたら嬉しいなと思います!」
Text by エイミー野中