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柳井“871”貢インタビュー
【第6回】スマホは世界に繋がっていない

柳井“871”貢(やないみつぎ)。株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション/MASH A&Rの執行役員として、「THE ORAL CIGARETTES」など全6組のマネジメントを担当する傍ら、近年は独自に「#871ンスタライブ」「#871さんに質問」など、SNS/noteを中心に主に音楽業界を志望する若者に向けて継続的に発信を続けている。

そんな彼が、自身の仕事やひいては生きる上でのキーワードに掲げる”No Border”とは?境界にこだわらず働き、壁を作らず人と関わり、越境して生きていく、そんな871流「NoBorder的思考」を紐解いていく。

871:個人的な経験なんですけど、僕は自分の持っている各種アカウントで音楽ものの広告が表示されたことがないんですよ。それにはもちろん理由があって、僕はYouTubeなどでビジネス系のコンテンツばかりを見まくっているから、出てくる広告が出会い系かサプリばっかりなんです(笑)。
 
――なるほど(笑)。
 
871:だから僕はもう完全にAIからは、“音楽を好んで聴いたりする人ではない”という認識のされ方なんですよね、きっと。結局アルゴリズムとパーソナライズって、指定された自分のアカウントがひとつの世界となってしまっているので、そこでの自分の行動履歴に基づいた情報しか入ってこない。例えばSNSでも、あるグループをフォローしている人のところには、同じようにそのグループを好きなフォロワーが集まる。そこにアンチはいないわけですよね。だからものすごく偏った世界が出来上がるわけで、それが世界の全てじゃないんだということをきちんと認識した上でインターネットというものに接触しないといけないよね、ということをここ最近強く感じるんですよ。怖いのは、そうした偏った世界に支配されて、それが全てだと思ってしまうことですから。
 
――ものすごく逆説的な現象ですね。
 
871:たしかに世界へのアクセスは容易だけれど、気づいたら村社会に身を置いてしまっているという危険性はすごくありますよね。このあいだ配信をやっている時に「大学で自分の好きなバンドの話ができる友達がいなくて困っています」という相談がきたんです。僕にはその質問の意味がよくわからなくて。と言うのも、自分の好きなバンドの話ができる友達を作りたいなら大学ではなくライブハウスに行けばいいんじゃない?って思っちゃったんですよね。ただ、これってすごく象徴的ではあるよなと思って。つまりそこから僕が感じたのは、日本社会における学校というものの全世界感――ここがすべてで、ここで完結しているという幻想というか欺瞞というか――が大学に行ってもなお厳然とあるんだ、ということなんです。でも学校って義務教育から始まっているわけで、そもそも自分から選んだものではないわけですよね。なのにそれがあたかも自分のほぼ全世界のように感じられてしまう。それどころか、自分で進学することを決めたはずの高校や専門学校、大学ですら、そうしたものの延長として捉えられてしまう。そこにものすごく怖さを感じたんです。
 
――学校が村社会であるからこそ、インターネットで世界とつながっているという感覚を求めやすいとも言えますよね。
 
871:だからこそ、そこが二重に危険というか。先ほどの話に戻ると、結局インターネットで照らされる世界は、自分の趣味趣向を中心にしたごく限られた場所でしかないということなんですよね。大学でバンドのことを話せる友達ができないって相談してくれた人のTwitterのタイムラインは、もしかしたらその人の好きなバンドのことで溢れているかもしれない。同じようにそのバンドが好きな人がフォロワーになっているかもしれない……そういうことなんですよね。なんだか今言いながら、日本のロックシーンというかロック産業って、世の中的に見たらなんてニッチなんだろう?って改めて思ってしまいました(笑)。
 
――どこまで行っても村があるという(笑)。
 
871:一昔前はインターネットに接続しようと思ったらパソコンの前に座るしかなかったから、必然的に部屋に籠ることになった。でもスマホは外に出歩いていてもどこでもインターネットに接続できる。だから、一見アクティブに外に出ているように見えていても、実は世界と分断されて引きこもっている状態、という人は結構いるんじゃないでしょうか。
 
――なるほど。最後にお訊きしたいのが、果たしてアルゴリズムとクリエイティブは共存できるのか?ということです。例えば、僕のような記事を書く人間に対して、このジャンルの記事ではこういう言葉を使ったらバズるということがアルゴリズム的にわかっているから、意識してそれらの言葉を使って書いてくれ、みたいなオファーが来たらと思うとゾッとする(笑)。だってそれ、もはやクリエイティブとは言わないような気がするから。
 
871:それで言うと、音楽の世界では視聴メディアがストリーミングやYouTube、TikTokなどのアプリが中心となることで、最初の5秒でいかにリスナーを掴むか勝負、みたいになっていて、イントロがどんどん短くなっているんですよね。もちろん情報としてそうしたトレンドを知っている、わかっているということは大事なんですけど、それを主軸にして、そこに寄せて作っていくと、結局誰が作っても同じものになってしまう。そうしたテクノロジーの発展というのは僕個人としてはワクワクするし、絶対に否定はしません。だからこそ、その技術をクリエイティブに使うのって、なんだかすごく利益効率が悪いだけのような気がするんですよね(笑)。創造という領域は、やっぱり人間の個性や感受性を基にして成り立つものなんだということを信じていますね。

Text by 谷岡正浩



(2021年6月18日更新)


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Profile

871 - 柳井貢(やないみつぎ)

1981年生まれ 大阪・堺市出身。
HIP LAND MUSIC CORPORATION及び MASH A&Rの執行役員として、bonobos(蔡忠浩ソロ含む)、DENIMS、THE ORAL CIGARETTES、LAMP IN TERREN、Saucy Dog、ユレニワなどのマネジメントを主に担当。

これまで「Love sofa」、「下北沢 SOUND CRUISING」など数多くのイベント制作に携わる傍、音楽を起点に市民の移住定住促進を図るプロジェクト「MUSICIAN IN RESIDENCE 豊岡」への参加や、リアルタイムでのライブ配信の枠組み「#オンラインライブハウス_仮」の立ち上げに加え、貴重な演奏と楽曲をアーカイブし未来に贈るチャンネル&レーベル「LIFE OF MUSIC」としての取り組みなども行っている。

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連載「No Border的思考のススメ
~ミュージシャンマネジメント871の場合~」