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柳井“871”貢インタビュー
【第5回】改めて考えさせられるチケットビジネス-後編-

柳井“871”貢(やないみつぎ)。株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション/MASH A&Rの執行役員として、「THE ORAL CIGARETTES」など全6組のマネジメントを担当する傍ら、近年は独自に「#871ンスタライブ」「#871さんに質問」など、SNS/noteを中心に主に音楽業界を志望する若者に向けて継続的に発信を続けている。

そんな彼が、自身の仕事やひいては生きる上でのキーワードに掲げる”No Border”とは?境界にこだわらず働き、壁を作らず人と関わり、越境して生きていく、そんな871流「NoBorder的思考」を紐解いていく。

第4回と第5回は前後編という形で、エンタテインメントをチケットビジネスの観点から考える。

――あと、この流れで聞いておきたいのは、「一般発売」ってもはやどんな価値を持つのだろうということですね(笑)。チケット発売の時期が早くなることにより、プロモーションとセットになった先行販売がいくつも行われ、最終的に一般発売となるんですけど、その時点でチケット販売の種類は果たしてどれほどあるのだろうって、ユーザー目線ですけど思ってしまいます。アリーナクラスのツアーの場合、先行販売のメニューはトータルでだいたいどれくらいの数があるんですか?
 
ぴあ担当:最初のファンクラブ先行から入れると、多いもので15種類くらいありますね。
 
――なるほど。
 
871:要するに、「発売中」って出すよりも、「○○先行受付中」って出す方が、打ち出しやすいじゃないですか。で、一般発売の価値や意味というところで言うと、そこはもう「即日完売御礼」という札を出すための、言わばあらかじめ決められた約束みたいなもの、なんじゃないでしょうか。もちろん全部が全部そうだとは言いませんが、何ヶ月もかけて何種類も先行販売をやって、一般発売で売り切れ、おめでとう!ってファンと共に喜ぶための一種の装置と考えるのがどこかエンタメっぽくて面白いですけどね。だからファンやユーザーももうわかっているはずなんです、一般発売で用意されているチケットが極少というのは。そう考えると、すごくプロレス的ですよね(笑)。
 
――ははは。ラリアットされるのをわかっててロープに飛ばされて戻ってくるみたいな(笑)。
 
871:“チケットビジネスはプロレスである”って言ったら言い過ぎかもだけど(笑)。何かそこに物語は感じますよね。いろいろな立場の人の悲喜交々があって。
 
――たしかに(笑)。
 
871:あと、この1年で言うと、やっぱりコロナの影響は見逃せないと思います。
 
――と言うと?
 
871:一般発売の意味合いとしてもうひとつあったのは、チケットプレイガイドの公平性を保つという観点から--ほとんど暗黙の了解に近い慣習だと思うんですけど――一般発売は数社横並びで販売するということがあったんです。でも、コロナによって来場者情報が厳密に求められる中、購入先が複数にまたがると、いざコロナの状況で公演が延期や中止なった場合に各社のレギュレーションが違いますから、非常にオペレーション上困難になる。ということで、一社にお任せするという流れになってきているんですよね。
 
――つまり、コロナによって一般発売という概念がますます薄らいできていると。
 
871:そうですね。
 
ぴあ担当:一般発売で主だったプレイガイドの窓口をすべて使うというのは、独占販売という見え方をアーティストサイドが気にするためということもあったでしょうし、もうひとつ、インターネットが普及する以前の慣習がそのまま残ってるという側面もあるかと思います。つまり、一社に絞ってしまうとその情報が行き渡らないためにお客さんが混乱してしまうということがあったんですよね、かつては。でも今はアーティストのオフィシャルホームページやSNSを通じてすぐに情報はわかるわけで、だからテクノロジーは発達したのに、なぜか意識だけは昔のまま残ってしまったというのが「一般発売」の正体なのかもしれませんね。それがコロナで一掃されたというか、ようやく気づかされたというか。
 
871:もっと極端なことを言うと、千枚以下のチケットだったらBASEのようなサービスを使って自分たちで売ることもできますよね(笑)。実は、チケットサプライヤーの競合は、チケット業界の中だけではないということも、このコロナ禍によって明らかになったことかもしれません。もちろん公演やツアーの規模が大きくなれば別ですけど。でもそれはチケットに関することだけではなく、アーティストやプロダクションも同じなんですよね。アーティストの競合はアーティストだけでなく、YouTuberもインスタグラムのインフルエンサーも競合なんですよね。いちエンターテイナーとしていかにユーザーの可処分時間の取り合いに臨めるかどうか、そこの意識がますます問われてくるのだと思います。
 
――とにかく、今までと同じではあり得ない、ということははっきりしていますね。
 
871:そのとおりだと思います。

Text by 谷岡正浩



(2021年6月11日更新)


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Profile

871 - 柳井貢(やないみつぎ)

1981年生まれ 大阪・堺市出身。
HIP LAND MUSIC CORPORATION及び MASH A&Rの執行役員として、bonobos(蔡忠浩ソロ含む)、DENIMS、THE ORAL CIGARETTES、LAMP IN TERREN、Saucy Dog、ユレニワなどのマネジメントを主に担当。

これまで「Love sofa」、「下北沢 SOUND CRUISING」など数多くのイベント制作に携わる傍、音楽を起点に市民の移住定住促進を図るプロジェクト「MUSICIAN IN RESIDENCE 豊岡」への参加や、リアルタイムでのライブ配信の枠組み「#オンラインライブハウス_仮」の立ち上げに加え、貴重な演奏と楽曲をアーカイブし未来に贈るチャンネル&レーベル「LIFE OF MUSIC」としての取り組みなども行っている。

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連載「No Border的思考のススメ
~ミュージシャンマネジメント871の場合~」