インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 新体制になって初のアルバム『すてきなジャーニー』をリリース! キイチビールの活動休止後、ギターボーカルを務め 力強く前へ突き進むキイチビール&ザ・ホーリーティッツの KDインタビュー


新体制になって初のアルバム『すてきなジャーニー』をリリース!
キイチビールの活動休止後、ギターボーカルを務め
力強く前へ突き進むキイチビール&ザ・ホーリーティッツの
KDインタビュー

キイチビール&ザ・ホーリーティッツは、2019年7月にボーカルであり、作詞作曲を担当するキイチビールが活動休止を発表した。バンド名にもなっているボーカルがバンドから離れたことには、未だにショックを受けている。ただ、予定されていたライブがあったということや、何よりもバンドを止めたくないと残されたメンバーが強く思い、コーラスのKDがギターボーカルを務め、バンドは走り続けることになった。

ここまでは去年1月にアップされたインタビューでも書いているが、何と今年1月には遂に新体制になって初のアルバム『すてきなジャーニー』を発表した。去年のコロナ渦の中でもコンスタントにシングル曲を発表していたし、全てKDによって作詞作曲された楽曲ばかり。これは決して容易なことではない。

そして何よりも驚いたのは、いざKD本人にインタビューしてみると、以前はまだ感じられた戸惑いや不安は一切無く、どんな困難にも怯むこと無く力強く前へ突き進んでいたこと。冷静さを失うことも無く、自分や周囲を俯瞰的に見ながら行動できている。また、別れや出逢いを繰り返しながら生きていくということを感じさせるアルバムになっているが、キイチビールとの別れに引っ張られすぎていないことにも感動した。

もちろん、キイチビールがバンドに復帰するに越したことはないが、今は新しい活動を行うキイチビールとKD率いる新生キイチビール&ザ・ホーリーティッツの対バンを望むことの方が前向きで建設的ではないかとさえ思えるようになった。それは、このアルバムを聴いた全ての人にも伝わると信じているし、バンドの旅路を『すてきなジャーニー』と表現ができている時点で、もはや何も心配することは無い。

既に“次のジャーニー”に当たる新曲たちが楽しみでならない。とにかく僕たちが思っているより、とんでもなくKDはタフにサバイブしている。是非ともキイチビール&ザ・ホーリーティッツの『すてきなジャーニー』を聴いて下さい。

 
――まずは、2020年という難儀で厄介な1年を、どのように過ごされていたかを教えて下さい。
 
「4月の1ヶ月間は何もせず、こもって、ゆっくりしてましたね。最初は焦りももどかしさもあって、音楽もできないし、悶々としていました。でもそれは一瞬で、気付いたら何か前向きになれていましたね。なので、ライブも無かったですし、じっくり家で楽曲制作を進めてました。世間が本当に大変なのはわかっていますが、今回の時間は有り難く思えましたし、自分たちに心のゆとりを与えてくれたと感じています。だから、チャンスと捉えてどっしりと構えますよ。スタッフも前向きで、会社のライブハウスで何かやろうと提案してくれたり、いつでもチャンスを与えてくれたので、それには応えたくて」
 
――インタビューが始まって5分も経ってないですけど、芯の部分は聞けたなというくらいに、何にもブレずに力強く構えて進んでいることに本当に驚いています。
 
「不思議ですよね(笑)。SNSを見ていると、色々なバンドの人が活動を中断されていましたし、気落ちしている人もいましたから。私たちは周りも含めて、もちろん大変な状況ではありますけど、常に前へ進んでいこうという気概を持ってました。そんな悠長なことを言ってる場合じゃないんですけど、本当は」
 
――いやいや、全然悠長なことでは無いですよ。改めて、一昨年夏に新体制にならざるを得ない状態になったというのも大きかったと思うのですが。
 
「新体制になって月2、3本ライブと常にバタバタしていたのが、強制的にでも立ち止まらせられて、自分たちがどこにいるか考え直すことができて、心が健康になった気がするんです。自分がどんな人間か見直すことで、一生懸命になりすぎてメンバーを置いていっていたり、強引で一歩通行なやり方もしてしまっていたりと、フロントマンとしての器の小ささにも気付けましたし、でもそこに強みもあるなとか色々気付けましたね」
 
――一昨年の年末にインタビューして以来ですけど、明らかにインタビュー姿勢というか、言葉を持っている感じというか、全然違うんですよね。
 
「インタビューはすごく苦手なんですけど、自分はこうだと決めつけないことを意識しないと一生自分は変わっていけないので。自分は何者でも無いと思うことで、いろんなことに挑戦できるようになりましたね。例えば、インタビューで緊張して喋れないなら、意識してでもゆっくりと呼吸を整えるとか、そういう小さなことから気にすることで自分が変われますから。とはいえ、新体制になって気付いたのは、結構私はステージでもインタビューでも差し障りのないお利口さんな自分になっていて、『本当はそうじゃないのに…』とストレスがたまったこともありましたね。私は、キイチ君みたいにワ~っと喋ったりはしたくないと考えたりもしていましたし、常にキイチ君の幻影を浮かべて比べられながら、そんな中、どうしたら自分らしくいけるかなと悩んでいました。一時はライブも嫌になって、そんな私の気持ちがメンバーにも伝染していましたね…」
 
――それは、いつ頃の話なんですか?
 
「去年の10月とかなんで、最近なんですよ。今は立ち直っているんですけどね。その時は技術面とか、このままじゃいけないという壁が見えてきて、まぁ当たり前の経過ではあるんですけど。コーラスだけの時は良い意味で曲との距離も保てていて、ラフな気持ちで取り組めていたんです。ただ、タンバリンで賑やかしのパフォーマンスではなくて、ギターボーカルというフロントマンだと、曲との距離が近くなってしまうんですね。だから、明るい曲でも笑いたいだけの気持ちではなくて、フロントマンとして真剣に伝えたいという気持ちも出てくるんです。お客さんから見ると、私に動きがないと寂しいかも知れないですけど、動きよりも、私は誠実な気持ちで伝えたいというのがあって。もう、前みたいにタンバリンを持ったKDには戻れないんですよというのを伝えたいんです。メンバーには、去年の10月くらいに『無理に心を盛り上げたくない』と言って、『別にしなくてもいいんじゃない』と言ってもらって。盛り上げていく明るくて面白い良さとか、特に動きがなくてスンとした良さとか、私たちのスタイルがどんなものなのか今は探りたいですね。それに今は、かっこいい私たちを観てもらいたい。そこにお客さんが何を思うかは自由なんで気にしないです。『楽しませるぞ!』、『夢見させるぞ!』だけにはしたくなくて。夢見るのは自由ですけど、夢見させるというのはしたくないんです。ちゃんと現実が見えるバンドにしたい。ライブハウスには非現実を求めてくる人がいますけど、私たちには現実を見て欲しい」
 
――改めて思うのは、同じバンド名で、それもバンド名にもなっている圧倒的パワーがあるフロントマンの後に、新しいフロントマンとしてバンドを引っ張り、お客さんに観てもらうというのはものすごく大変なことだなと…。
 
「この表現はキイチ君的にも本意じゃないかも知れませんが、私とキイチ君は全くの別人ですし、どちらにも自分があって、どちらも良くてどちらも本物なので、比べたり重ねたりではなくて、今目の前にあるものを感じて欲しいですね」
 
――さきほども触れましたが、やはり圧倒的な成長のスピードを感じるんです。
 
「それは私も感じていますし、自分でもむちゃくちゃ驚いています。元々は保守的で融通の効かない頑固な人間で、バンドを始めてからも、キイチ君が『売れるぞ!』という感じだったので、コーラスの私の立場としては『大衆的な枠からはみ出して欲しくない。突飛な事をして欲しくない』という型にはまりがちだったんです。今は毎日毎日変わってますし、これからも変わりたいと思える人になりました。コーラスの時はキイチ君があまりにも無茶苦茶な方向にいこうとすると、『それは…』と言っちゃうタイプでしたけど、今は理想とされるバンドらしさからいかに外れるかということを考えるバランスも大切なのだなと気付かされましたね。当時はキイチ君も何も言わなかったですけど、当時の私の圧も感じていたのかなと思ったりもして…。どうしてもバンドに合った当て書きっぽい曲を作ろうという負の連鎖にも陥っちゃいますけど、今はコーラスのときにはわからなかったような葛藤の中で曲を作るようになりました。そういう意味では、キイチ君の辿ってきた場所を、全く同じではないですけど辿ってきているのかなと。良い曲だけどキイチビールというバンドっぽくはないから、バンドではできないという葛藤を想像できるようになったのは良かったですね。もちろんバンドへの当て書きも悪くないですし、このバンドだからこそ狙える場所も考えながら、いかにバランスを取っていくかですね。バンドでできないことは、ひとりの弾き語りでやったりもしていますが、そういうバランスが崩れると自分がボロボロになってしまう危うさもあるなと感じたので、キイチ君は辛かっただろうなと思いました。『ごめんね…』という気持ちはありますし、でも今は自分ならそういう境遇にどう対処できるかを考えています。ちょっとしたコミュニケーションで乗り越えられますし、次のアルバムでも、こういう気持ちを持っていたらずっと変わっていけるかなと。変わっていくって凄いですよね…。面白いです」
 
――今回のアルバムは別れや出逢いという変化が描かれたアルバムになったと思うんです。
 
「不思議な話ですけど、こういうアルバムを作ろうとかはなくて、ライブで即戦力になるシングル曲たちをいっぱい作っていたら、1枚のアルバムができていた感じですね。やっと、この8曲たちと適正な距離を取れるようになって、1曲1曲はバラバラですけど、人が体験する普遍的な出逢いや別れが大きなテーマとして満たされている感じはします。そこまで出逢いや別れを意識していることではないんですけど、染み付いているんでしょうね。何かひとつ大きな出来事があると、そこばっかりに目がいってしまうことって普通なんですけど、ひと呼吸して大きな流れで捉えると、本質はそこじゃないなと。何かあったようで、何もなかったみたいな…。キイチ君が今バンドから離れていることと重ねて聴いてもらってもありですし、そういうことを無しにしても、人が生きていく中で立ち止まる時に側に寄り添えるアルバムになりたいです。もちろん、キイチ君とのことを通過した上での今ではあります」
 
――そういう意味では『すてきなジャーニー』というアルバムタイトルはすごく素敵だと思うんです。
 
「別れは別れではあるんだけど、次の出逢いに、次の旅に繋がっていく、ある種のループ感が宿っているなと。思い出はすごく好きですし、それを忘れないことも大事ですけど、でも時間は一方向にしか進んでないですから、明日のことを考えるのが過去の自分を助けることになると思います。そういうことを思えたのも、コロナで考える時間が増えたので。過去と今と未来は本当に繋がっているなと思いますね。そういう意味では大きな時間の流れを取り入れられるようになりました」
 
――例えばですけど、『さよならジャーニー』とか、良い意味で別れに重きを置くこともできた中で、『すてきなジャーニー』という表現が本当に前向きで素敵だなと思うんですよね。
 
「さよならするというのはネガティブかも知れないですけど、この1年で私も色々なものを捨ててきたなと感じるんです。それは決してネガティブな意味じゃなくて、自分を捨てているんです。そうしないと前に進められないし、何かを捨てないと何かを得られないと実感しましたね。でも、『すてきな』というアルバムタイトルのは何故なんだろう…? 『すてきなジャーニー』という曲ありきではありますけど、謎ですね…。すっと出てきたんですよね。歌詞にも出てこないんですけど、その時の自分に降りてきた言葉がそれで。希望みたいなものなんですかね?? そうなって欲しいという…。『すてきなジャーニー』を象徴したいとか、その言葉で強さを表したいではなくて、自然に出てきたんです。添えられた言葉ですね。そういう言葉の使い方ができて良かったです。常に心をオープンにしていることで、そういう言葉が降りやすくなりますし、そこが自分の良さでもあるので、そういう表現をこれからもしていきたいですね」
 
――このアルバムは、バンドが辿ってきた歴史、要はフロントマンとの別れを感じるものにもっとなるかなと思っていたんです。なので、普遍的な意味での別れや出逢いは感じられましたけど、全くバンドの歴史に引っ張られなかったことに一番驚きましたし、一番嬉しかったです。
 
「むちゃくちゃ良い曲を作れば全部ぶっ飛ばせる!…そのことにだけ興味があったので」
 
――この短期間で、ここまでたくましい男前なフロントマンになると思っていなかったので、ただただ嬉しいという、それだけですね…。
 
「こんな人間に自分でもなれるとは思っていなかったです(笑)」

Text by 鈴木淳史



(2021年2月22日更新)


Check

Release

3rd Album『すてきなジャーニー』
発売中 1800円(税抜)
KBHT-0010

《収録曲》
01. ときのほうがく(remastered)
02. オールドな輝きの(remastered)
03. 妄想デート(remastered)
04. ロッカマン通り
05. ゆめみるころがおわっても
06. 夜明けをさがして(remastered)
07. すてきなジャーニー
08. ラッキークレイジーアワー(remastered)

オフィシャルサイト