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ブレなく強靭なバンド・アンサンブルと
社会と対峙した真摯なメッセージで駆け抜けるニューアルバム
『ハビタブル・ゾーン』をリリース!
ソウル・フラワー・ユニオン 中川敬(vo&g)インタビュー

前作『バタフライ・アフェクツ』(18年)からリズム隊などを一新した新体制となり、ロック色を強めたストレートな音楽性で新たな求心力を放ってきたソウル・フラワー・ユニオン。未だに世界的に終息の気配をみせないコロナ禍の中で制作された2年振りのニューアルバム『ハビタブル・ゾーン(“生存可能区域”の意)』は、パンク的なエッジを取り戻した前作を経たところで、バンドが内包してきた“ソウル”的な部分が現行のメンバー体制で強く表面化してきた快作となっている。サウンド面においても歌詞においてもシンプルさを増し、全10曲45分をブレなく強靭なバンド・アンサンブルと社会と対峙した真摯なメッセージで駆け抜ける新作について中川敬(vo&g)に語ってもらった。

――前作からちょうど2年ぶりの新作ですが、とにかく大変な状況下での制作になったと思います。
 
「2019年11月に数曲のベーシック・トラックを録って、その段階で2020年中にニューアルバムを出す、というのは、俺の中では決めてて。2020年に入ってからは、週末に全国のどこかで弾き語りのライブをやりながら、平日にニューアルバムの制作を、1~2月にはやり始めててね。2月も弾き語りのライブが10本以上入ってたけど、2月の半ばあたりから集客が異様に悪くなっていったのよ、どんどん。いよいよオレも引退かな~と思うほどに(笑)、地方の予約が入らへんなぁという状況が始まって、2月後半に大阪のライブハウスでクラスターが出て、一気に世の中の流れはライブハウスの悪魔化に向かって…、そこからは夏まで、ライブ中止の連発やったね」
 

 
――4月には京都の一乗寺から無観客配信のソロ・ライブを行われましたが、それ以外の全国各地で予定されていた弾き語りの公演はすべてキャンセルになったとお聞きしていました。
 
「ただ、ライブができないと嘆いていてもしょうがないから、こうなったら、いつもよりも微に入り細を穿つアルバムを作ろうかな、とか考えて。時間もできたし、とことん細部にまでこだわった作品を作ろう、と。ミックスの最終段階でも、やっぱりこのベースの110ヘルツあたりを1デシベル上げてるのを1.2デシ上げに変えようかな、とか(笑)。どんだけ細かいねん!みたいなことを延々とトラックダウンまで続けてる」
 
――ただ、制作中に楽曲面で刻々と変化していった部分も、当然あったんじゃないかと。
 
「一番変わっていったのは、歌詞やね。特に去年11月にベーシック・トラックを録った6曲は、1~2月に歌録りをガンガンやっていこうと思ってたけど、コロナ禍が始まって、ちょっと待てよ、と自分にストップをかけたところがあった。歌録りを急がずに、世の中の状況を見ながら、という感じではあった。だから、19年夏ごろにできてた『オオイヌフグリ』あたりは半分くらい歌詞を書き換えて、2020年仕様の歌詞になってる。そういうところはどんどん変わっていった」
 
――この曲は≪ロックダウン≫という言葉も、歌詞に具体的に出てきますもんね。その前に収録されている7曲目のタイトルは、よりストレートに『ロックダウン・ブルース』ですが。
 
「2020年はホントにいろいろと考えることができた一年やったというか。1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、そして2020年のコロナ禍と、オレにとっては自分を見つめ直す一年みたいになったところがあって。自分はどこからやって来てどこへ向かおうとしているのか的なこと。オレはホントにバンドばかりやってきてるからね、高校2年から。1983年から大阪のライブハウスに出始めて37年間、ずっとバンドをやり続けてきて、2020年は初めてやっとメンバーに会わんで済んだ(笑)。コロナのせいにして、会わんでも済むんやと(笑)。リモートで共同作業ができる時代ならではの感じやけどね」
 
――なるほど。3カ月ごとの恒例のワンマン公演も、去年の3月と6月は中止になりましたし。
 
「で、その影響でアルバム制作の作業の多くがリモートになったけど、そのことによって、イイ意味で今回のアルバムがシンプルになったところがある。やっぱり今までは、スタジオに入ってああでもないこうでもないとやって、ライブで演奏してみてちょっと違うかったな…とアレンジをこねくり回しながら新曲を作ってきた。オレらの場合はね。それが今回は、8月に久しぶりにメンバーに会って残りの4曲のベーシックを2日間で録るというのがわかった上でのリモート作業4カ月間になって。デモ段階で、最初にオレが簡単なリズムやギター、歌を仮で入れて、それを奥野に渡して仮のオルガンやピアノが入ったものが出来上がったら、次にリズム隊に送って仮のベースや打ち込みドラムを入れてもらうと。そうしたやり取りが2020年っぽくもあったし、アレンジの構造もいつもよりも客観的に整理されて良かったね」
 
――その影響もあってか、メンバー各々の持ち味がより浮き立っているようにも聞こえました。
 
「誰よりも奥野やったね、今回のアルバムでは。34年間一緒にやってきて、奥野とココまで密なやりとりをしたのは初めてかもしれない。奥野は他のツアー・サポートなどの仕事が全部飛んで時間があったし、アルバムの最後のミックスの段階では、いつもは他のメンバーはオレとエンジニアに投げて少し意見を言うぐらいやけど、今回奥野はそこまでしっかり関わったというか。たぶん『ユニバーサル・インベーダー』(92年)以来じゃないかな(笑)。ここまで細かく奥野が関わったのは」
 
――キーボード類のアプローチは、確かにかなり多彩で際立っています。
 
「音楽的にも、アイツの持ち味が活きる方向性やったかもね。いわゆるブリティッシュ・モッズ的なロック~ソウル路線というか。オレも奥野も、10代の頃にそこで育った人種やから。スタイル・カウンシルやらジャムやらザ・フーやらスモール・フェイセズやらTレックスやらデヴィッド・ボウイ、みたいなね。ソウル・フラワー・ユニオンは、知っての通り、かなりヘンな音楽的変遷を辿ってるバンドやけど、ここ数年の流れは他のメンバーにとってもわかりやすいと思うし、オレも狙ってこういう方向性に来ているわけではないところが気持ち良くてね。個人的にもまた10代20代の頃のようにアナログ盤を掘るようになって、期せずして、昔に聴いてたものを再確認するような作業になってて。自分の音楽的原風景の記憶が掘り起こされるようなところがあったし。特にノーザン・ソウルやね。モータウンなんかは折に触れて街とかでも聴こえてくるけど、ちょうど19~20歳くらいの一番多感な時期に聴きまくってた、インヴィクタスやホット・ワックスあたりの、チェアメン・オブ・ザ・ボードとかハニー・コーンとか、あのへんを一昨年あたりに全作アナログ盤で買い直して家で聴いたりして、盛り上がったなー。俺はコレやねん!みたいな(笑)。その影響は、今回明らかにある」
 
――そうですね。スウィート・ソウル的と言ってもいいメロウな曲調の『団地のエコー』(5曲目)と『夜を使い果たそう』(10曲目)の2曲は、特に前作にはなかった感じですし。
 
「2曲目の『ラン・ダイナモ・ラン』や6曲目の『ダンスは抵抗』あたりもかなり明快にホーランド=ドジャー=ホーランド。『ダンスは抵抗』は、今回のアルバムの中で最後に書いた曲でね。6月の大阪のブラック・ライヴズ・マターのデモに行って、それが素晴らしいデモで。関西にこんなにいろんな出自の在日外国人がいてんなと思ったし、そこには差別に対する真っ直ぐな怒りがあって、加えて、未来に向かっていく明るいポジティヴィティがあって。さぁ、最後の10曲目を書くぞという時期で、かなりしっとりとしたニューソウル系の曲を書きかけてたんやけど、もはやそういう気分では全然なくなって(笑)、今日のこのBLMのデモでのオレの高揚を1曲に、ストレートにシンプルにまとめなアカンと思って、1時間くらいで書いたのが『ダンスは抵抗』。以前ならもっと歌詞もこねくり回したやろうし、曲ももっと転調したりしたかもしれないけど、ここはシンプルに行かなあかん、と。170キロ直球。自分でもかなり気に入ってる」
 

 
――『ダンスは抵抗』はもうそのタイトル通りの音であり、歌詞ですよね。他の曲でも“ムラ”という言葉が随所に出てくるのが印象的でした。
 
「いや、ホント、俺の人生、何と闘っているのかと言えばまさにそれやからね。日本的な鎖国ムラ社会。陰湿ないじめ社会。今回のコロナ差別にしても、江戸時代かよ!?みたいな感じで、結局は日本人、みんな“市民”というよりも“ムラびと”でしょ。ただ、その“ムラ”の外にいる人達が素晴らしくて、例えば、テニスの大坂なおみさんとか。そういうムラの外にいる人間がいかに自由に面白いことをやっていくか、次世代がそれを見て何を感じるのかが、今後もかなり重要なことなんよね。真っ当な人らがディスられてたら、金持喧嘩せず、みたいなんじゃなく、ちゃんとみんなで声を上げてアホと闘うことも重要」
 
――もちろん、そういった観点は中川さんの歌詞にずっと通底してあったものですが、よりストレートな言葉でパーソナルな部分から発せられたものになっている気もしました。
 
「自分では連綿と曲を書き続けてるからわからないけど、そうかもしれない。自分の子供も上の子が13歳とかになって、自分自身が同じような歳だった頃のことをいろいろ思い出すようになってね。オレは転勤族の息子で、だいたい2~3年おきに関西中のいろんな場所を引っ越しする生活で、友達を作るのも苦手やったし。その頃のいろんな出来事が今の性格を形成したことも、頭ではわかっていたけどより明確に体系的に整理がついてきて。結局は“ムラ社会”と戦ってきててんね、子供の時からずっと。そういう部分は歌詞にも出てきてて、『団地のエコー』とか『ストレンジャー・イン・ワンダーランド』(4曲目)あたりは、最初は日本の入管問題あたりから曲を書き始めて、日本に住んでる移民や難民についての出来事を聞いたり読んだりしていく中から生まれた曲やけども、実はその曲の中に自分もいるねんね。子供の時からずっと“よそ者”であった自分。そういう曲が生まれ始めているなという自覚は自分にもあって、今後もこの感じはどんどん出てくる気がしてる」
 
――なるほど。そんなシンプルさを増すとともにSFUの本質やソウル・サイドが強く出た新作『ハビタブル・ゾーン』のリリースを経て、直近では、2月6日(土)の横浜サムズアップをはじめとして、2月21日(日)には京都・一乗寺オブリ、3月6日(土)に奈良ビバリーヒルズ、3月27日(土)に大阪・西天満のGANZ toi,toi,toiと、弾き語りのソロ公演が続きます(※いずれの公演も有料生配信が行われ、京都は無観客配信)。
 
「配信ライブは、京都の一乗寺にあるオブリという店で4月から7月まで毎月無観客配信のライブをやらせてもらうようになったのが始まりやったけど、単に弾き語りをやるだけではイマイチやろうと思って、セットリスト全曲を入れ替えるというのを続けてね。そのことによって、2020年の年末でちょうど弾き語りで100曲を歌うことになって、記念の100曲目になったのが年末の京都・磔磔で歌った、ちあきなおみの『喝采』。子供の時に一番好きやった曲を選んだ。これも自分を再確認する行為になった。もちろんニューエスト・モデル、ソウル・フラワー・ユニオン、モノノケ・サミット、自分のソロの曲、そしてカバーと、いろんなものを順番に洗いざらいやっていくという。そういう1年にもなったし、当分はこの感じが続くから、今年も自分を掘り続けようかなと。なので、毎回最低でも1~2曲はレアな曲を投入していこうと思ってるんよね。ぜひ、会場に来れない方は、配信ライブで会いましょう!」

Text by 吉本秀純



(2021年1月29日更新)


Check

Release

Album『ハビタブル・ゾーン』
発売中 2800円(税別)
XBCD-1054
BM tunes


《収録曲》
01. ハビタブル・ゾーン
02. ラン・ダイナモ・ラン
03. 川のない橋
04. ストレンジャー・イン・ワンダーランド
05. 団地のエコー
06. ダンスは抵抗
07. ロックダウン・ブルース
08. オオイヌフグリ
09. 魂のありか~オール・パワー・トゥ・ザ・ピープル
10. 夜を使い果たそう

Live

『中川敬・新春謡初め&SFUニューアルバム発売記念ソロツアー』~ソウルフラワー中川敬の弾き語りワンマン・ライヴ!

【神奈川公演】
▼2月6日(土)横浜サムズアップ

【京都公演】
▼2月21日(日)一乗寺オブリ

【奈良公演】
▼3月6日(土)奈良市ビバリーヒルズ

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード:192-270
▼3月27日(土) 19:00
梅田 GANZ toi,toi,toi
一般-3500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
学割-2000円(高校生、大学生、整理番号付、ドリンク代別途要)
※中学生以下は保護者同伴にて入場無料。付き添いが必要な障がい者の方に限り、介助者1名は入場無料。要身がい者手帳。学割チケットの入場順は一般チケットをお持ちの方の後になります。一般チケットをお持ちの方と同伴の場合は、一緒に入場できます。要学生証。マスク要着用、会場にて検温・消毒にご協力お願いいたします。
[問]GANZ toi,toi,toi■06-6366-5515

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ソウル・フラワー・ユニオン
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