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無防備でリアルな感情、そして希望
日常にそっと寄り添う2年ぶりのフルアルバム『Blend』
LUCKY TAPESインタビュー

2020年11月25日、LUCKY TAPESが約2年ぶりに通算4枚目となるフルアルバム『Blend』をリリースした。先行配信シングル『Actor』『Mars』『BLUE feat. kojikoji』『Trouble』『ランドリー』、そして大阪のガールズバンドDIALUCKのハルをボーカルに起用した『Happiness feat. ハル』を含む、全12曲が収録されている。また今作は、作詞作曲、編曲、レコーディング、ミックス、マスタリングまで、全ての工程が宅録で制作された1枚。2018年にリリースされた前作『dressing』では、真っ白な状態で生まれた人間が環境や様々な選択によって、アイデンティティや個性などの“色”を纏っていく様を描き、今作では“その色づいた他人と他人、環境や時代と共存する過程”が描かれている。宅録で作られているため音数がグッと少なくなった今作は、柔らかく穏やかで質感のある音色が心地良く、内面の近いところに寄り添ってくれているようだ。希望や光を感じさせる一方で、“ずるいのはいつも自分で 楽な方にばかり逃げていたな”といった、リアルで詩的なリリックの数々にハッとさせられる。“COVID-19も一種の色を持った時代の風潮で、そんな時代とともに生きる2020年の風刺画かもしれない”と高橋海(vo&key)が述べるように、コロナ禍で高橋自身が感じた感情や日常が投影されている側面もある。一体どんなことを思いながら制作を進めたのだろう。高橋に話を聞いた。

コロナ禍での制作
 
 
――今年(2020年)は8月から4ヶ月連続で作品のリリースが続いていましたが、このスピード感にコロナは影響していますか?
 
「そこは特に関係ないかな。コロナでライブができなかったので、リリースするしかなかったのはあるんですけど。ただ、アルバムの全体像が見えてきて、楽曲を詰めていく中で、個人的にシングルカットしたい曲や、映像を作りたいと思う曲が結構あったので、レーベル側に無理を言って、シングルを4曲出させてもらいました」
 
――メンバーさんとコロナ禍での活動について話し合いはされました?
 
「特にしてないですね。12月5日に1年ぶりぐらいに有観客でライブをやるんですけど、そのライブ後に来年(2021年)以降の話をしようとは言ってあります(笑)」
 
――自粛期間中はどんなやり取りをされていたんですか?
 
「基本はメッセンジャーアプリや電話で、ほぼ曲に関するコミュニケーションしか取ってなかったかもしれないです。普段会ってる時は音楽に関係ない話もするし、一緒に洋服買いに行ったりしてたけど、今年1年は本当に楽曲制作にまつわるやり取りしかしてない気がします」
 
――コロナ禍の活動ですごく印象に残っているのが、6月に配信された『LIVE IN (personal) SPACE』です。
 
「見てくださってありがとうございます。嬉しいです」
 
――曲に合わせてマッピングされていく映像がとても綺麗で、何回も見てしまいました。
 
「配信した日は、本来LUCKY TAPESの企画ライブがあるはずだったんですよ。それがコロナの影響でなくなってしまって。中止のアナウンスをした際に、ライブに来る予定だった方、チケットを買ってくださった方から“北海道から行く予定で今年1番の楽しみだった”とか、“妹や会社の同僚と行く予定でした”といった声が、僕の個人アカウントにたくさん飛んできて。楽しみにしてくださっていた方々に対して何かしたいなと思ったのが最初のキッカケです。自粛になる前、最近仲が良いタイ人の映像ディレクターと頻繁に会ってたので、配信をやりたいと彼に相談して。アニメーションやマッピングを使ったら面白いかもねというアイデアも、彼と話していく中で出てきたので、一緒に作り上げた感じですね」
 
――あの美しさには本当に感動しました。反響も大きかったんじゃないですか?
 
「嬉しいです。反響は結構ありましたね」
 
――ライブができなくなったことに関して、何か思うことはありましたか?
 
「自分はアーティストとしてライブをするのももちろん好きなんですけど、人前に出て演奏するより、自宅にこもってちまちま作業してる方が好きなので、そこまで苦ではなかったかもしれないですね。ただ、ツアーに出たり海外でのライブはかなり刺激になっていたし、その経験が制作に繋がっていた部分もあったので、なくなったのは寂しいし、1年を振り返った時に今年の思い出や記憶が1つもない。MVの撮影で山に行ったりしたけど、ほんとそれぐらい。また海外でライブして、屋台のご飯食べたりしたいです」
 
――家にいると単純に外からのインプットが減ると思いますが、普段はどんなものからインプットされてるんですか?
 
「基本は音楽からの影響が1番大きいです。ものすごい楽曲を聴くと自分も作りたくなるし、去年まではライブが結構大きくて、すごいライブを見た後に家に帰って曲を作ることが多かったですね」
 
――今年はそれが減ってしまう形になりましたが、曲作りに影響したりは?
 
「やっぱり人に会ってない分、あまり歌詞の題材がないというか、書きながら“また同じこと言ってるな”、みたいなのは何回かありました」
 
――確かに今作は、内容が一貫している感覚がありました。
 
「それが逆にアルバムテーマというか、統一感につながってるのかもしれないですね」
 


 
よりメンバーの個性を活かせる作品に
 
 
――では今作のお話をお聞きしたいのですが、今作にも収録されているシングル『Actor』のリリース時(2019年10月)から、アルバムについて考えていたんですか?
 
「何かしらまとまった作品を2020年秋頃に出せればいいなという目論見はあったんですけど、その当時は特にアルバムという構想はなかったかもしれないですね」
 
――前作のアルバム『dressing』からのテーマを発展させようと思ったのはいつ頃ですか?
 
「そもそも僕、楽曲を作ったりアルバムを作る時、テーマを最初に設けてそれに沿って作っていくタイプではなくて、出来ていく過程や、最終的にできた段階でテーマ付けするんです。今回も曲がほぼ揃って、アルバムタイトルを決めるタイミングぐらいですね」
 
――では『dressing』を発展させたというよりは、曲が揃った結果、見えたものがテーマになったと。
 
「そうですね」
 
――今回は全て宅録で制作されたんですね。
 
「ギターとベースのレコーディングはメンバー個人がやってるんですけど、それを編集したりミックスする作業は全部僕の自宅で行ないました」
 
――作りにくさはなかったですか?
 
「もともとバンドを始める前に、トラックメイカーとしてパソコン1台で音楽を作ってネットに公開していたし、最近もありがたいことに他のアーティストさんのプロデュースや、CM音楽のお仕事をいただいていて、それは自宅で完結することが多いので、慣れてはいました。LUCKY TAPESで宅録は初めてだったんですけど、普段自分がやってることとそこまで変わらなかったので、逆にやりやすかったかもしれないです」
 
――今作は全体的にギターがすごく耳に入ってきますね。
 
「サウンド面も“こうしていこう”みたいのがあったわけじゃないんです。でも宅録で作る分、前作までのほとんどの曲に入っていたホーン隊もいないし、生ドラム、パーカッション、コーラスが入ってこないので、よりメンバーの個性を活かせる作品になるかなというのは何となく考えていました。最初からリリースを見越して作り込んでいたので、メンバーにデモを投げる段階であまり音を足さず、わざと隙間を開けた状態で渡す、みたいなことはやりましたね。何パターンも弾いてもらって、こちらで組み替えていったので、本人的にはサビ用のフレーズとして弾いてても、自分が勝手にイントロに持ってきたりしています」
 
――なるほど。『Actor (Blend ver.)』(M-4)がアルバムバージョンになっていますが、変えたところは?
 
「アルバムの中でこの曲だけ先にレコーディングスタジオで録っていたので、1曲だけ音像の違うものが入ってきたら違和感があって、宅録で録り直しました。とはいえ元の楽曲のイメージを崩さないようなアレンジにはしてますね」
 
――ラストに『BLUE feat. kojikoji (Acoustic)』(M-12)が収録されています。これには意図はあるんですか?
 
「これは完全にレーベル側の事情です。アルバム制作の都合上、もう1~2曲必要になってしまい、急遽『Interlude』(M-1)と『BLUE feat. kojikoji』のアコースティックバージョンを追加しました」
 
――そうだったんですね。物語的な感じがあって、『Interlude』でアルバムの世界に入っていく感覚になれて良かったです。
 
「僕もストーリー性を作るのが好きで、何かしら繋ぎっぽいことはしたいなと思ってたので、ちょうど良かったです(笑)」
 

 
何者でもない“自分”になりたいと思う瞬間がある
 
 
――今作の中で、核になる曲はありますか?
 
「核になるのはやっぱり『Happiness feat. ハル』(M-11)かな。この楽曲ができたぐらいの段階でアルバムの全体像が見えてきて。この曲に付随して他の楽曲たちがどんどん生まれていったんです」
 

 
――そうなんですね。
 
「『Happiness feat. ハル』が完成したのが、自粛期間が明けるか明けないかぐらいの時期なんですけど、その前に宅録で作った『Mars』を先行配信していて。ただ『Mars』の時点ではミックスが思うようにいかなくて、“やっぱりスタジオに入らないと難しいな”と思っていたんですけど、『Happiness』ができた時、方向性が見えた瞬間があったんです。やっとアレンジや作り方の落とし所が見つけられた。『Mars』もアルバムにまとめる時にミックスし直しているので、若干配信とは音が違います」
 
――やはり今作で『BLUE feat. kojikoji』と『Happiness feat. ハル』は印象的です。kojikojiさんとハルさん、お2人のどこに惹かれてオファーをしたんですか?
 
「前作『dressing』に参加してくださったCharaさんやBASIさんもそうなんですけど、楽曲ができた段階で、ふとその人が歌ってる姿が頭の中で鳴るというか、アイデアが出てくるのでそれに従っただけなんです。毎回理屈ではなく、感覚的に人選してますね。あと、コジちゃんもハルさんも、どこかのタイミングで一緒に音楽をやりたいなとはずっと思っていました」
 
――『BLUE』と『Happiness』は、どんなことを思って書いた曲ですか?
 
「『BLUE』を書いたのは自粛期間真っ只中で、誰もが感じてた先の見えない不安や、モヤモヤしたフラストレーションを曲にぶつけていて、『Happiness』は自粛が明けるか明けないかぐらいのタイミングで書きました。暗闇に少し光が差して、わずかな希望が見えてきた時期だったので、そういったものがダイレクトに描かれていると思います」
 
――『Happiness』はまさにそうですね。個人的に『3:33』(M-6)から『生活』(M-7)、『ランドリー』(M-8)の流れがとても好きなんです。『生活』の最後の歌詞、“明日は今日より少しはマシでしょう”と『ランドリー』の最初の“昨日よりはマシだと思えた”が繋がっていますよね。
 
「これ、実は全く意図してないんですよ。この2曲を曲順的に繋げようとも思っていなくて。それぞれ別で書いてて、曲順を考える時に“あ、ここ繋がってる”と気づきました(笑)」
 
――『生活』の弾き語りはすごくリアルですよね。
 
「アコースティックアレンジにするのは最初から決まっていたので、歌詞も馴染みの良い普段の日常を描きたくて。あまり大それたことも言ってないし、ファンタジックでもないし、毎日生きてることを書こうと思った曲です」
 
――リアルな高橋さんの気持ちが入っている曲なんですね。
 
「そうですね。まあ、それを言ったら全曲そうなんですけど」
 
――『ランドリー』の“何者にもなれるそんな時代と 何者にもなりたくない矛盾”というフレーズがすごく人間の真理を突いてるような気がして、衝撃を受けました。
 
「これもほんと自分自身のことを書いているので、そうやって共感してくださるとは思っていなくて、皆がどう考えてるのかもわからずに書いていたんです。今は簡単にいろいろなことに手が伸ばせる時代で、ツールも揃ってるし、アプリケーションもある。YouTuberになる人が出てきたり、すごい時代じゃないですか。自分は実際に音楽活動してアーティストとして生きてるんですけど、役割を演じているというか……人間になりたくなる瞬間があるんですよね(笑)。上手く話せないな。これって皆抱いてることなんですかね?若い子たちなんか特に、夢や希望に満ち溢れてる感じがしているけど」
 

 
――確かに若い子はキラキラしてるように見えます。もしかしたら、本来の自分と肩書きの間で揺れたり悩む人もいるかもしれないですね。高橋さんも輝いているように見えますが……。
 
「そう見せてるだけですよ。自分の場合は、何者でもない自分になりたいと思う瞬間があるんですよね」
 
――音楽をしている高橋さんでもない、ただの人間?
 
「はい」
 
――『ランドリー』の歌詞に出てくる“冴えない僕”は、高橋さんのことですか?
 
「そうなりますね(笑)」
 
――その自己評価は意外でした。
 
「本当ですか。結構何事に関してもそう思ってますよ(笑)。まあ、音楽以外のことに関してかな。音楽に対しては自信はすごくあるし、誰にも負けない良いものを作ってる感覚もあるんですけど、それを取ってしまったら本当に何もないというか。冴えないし、なんかダメだなあと思うことが多いですね」
 
――プライベートとか、性格がですか?
 
「全てかな。性格もですし、毎日の生活とかも」
 
――毎日、どんなふうに過ごしてらっしゃるんですか?
 
「昼前に寝て、夕方起きる生活をしてます(笑)」
 
――今のお話を聞いて、今作に繊細な印象が加わりました。
 
「あ、かなり繊細だと思いますね。よく言われます。完璧主義だし」
 
――今作には無防備な1人の人間を歌う曲が多いなと感じましたが、高橋さんは内面を曲でさらけ出すことには抵抗はないですか?
 
「抵抗がなくなってきましたね。もともと自分自身、内面をあまり出さずに周りに合わせて生きてきたようなタイプだったので、歌詞を書き始めた頃は当たり障りのない言葉を選んだり、音を優先して選ぶことが多かったんですけど、少しずつ自分のことを書いて、さらけ出すようになって。それが意外にも共感していただけて。そういうことを思ってるのは自分だけじゃないんだなと感じられたし、自信にも繋がって、もっとこういった部分を出してもいいなって。黒い部分といったら違うのかもしれないけど、普段感じてるストレスやフラストレーションを、音楽というフィルターを通してなら受け入れてもらえると思って書き始めたのがキッカケで、今に至ります」
 
――作り手の経験や内面が見えると、より心に届きやすいと感じます。弱さや黒さが愛おしいというか。高橋さんご自身が抱く展望はありますか?
 
「諦めてるとはまた違うんですけど、バンドとしてここからの大きな変化というのは、自分自身そこまで望んでいなくて。緩やかに長く、このメンバーと一緒に音楽を鳴らし続けられたらいいなと思っています。それとは別に、個人で昔作っていたようなトラック作りに再チャレンジしたい。変わらずバンドで曲をリリースしながらも、個人名義の作品を作っていきたいです」
 
――それは音楽家としての、高橋さんのこれからですね。
 
「音楽家ではなく、1人の人間としてですか?」
 
――『ランドリー』の歌詞にも”無謀計画”という単語がありますが。
 
「それで言うと、急に海外とか住んでみたいです」
 
――おお。どこですか?
 
「特にどことは決めてないですけど。音楽を通じて海外に行くようになったり、向こうに友達ができたりするうちに、別に日本にこだわる必要はないなと思ったし、違った刺激や価値観の中で生きてみたい。ただ旅行で長居するんじゃなくて、ちゃんとそこで生活してみたいです」

Text by ERI KUBOTA 



(2021年1月13日更新)


Check

Release

Album『Blend』

【初回限定盤】
3900円(税別)
VIZL-1812
《付属特典》
限定”ZINE”(書籍)
”Blend” Instrumental CD

【通常盤】
2700円(税別)
VICL-65430

《収録曲》
01. Interlude
02. BLUE feat. kojikoji
03. No Sense
04. Actor (Blend ver.)
05. Trouble
06. 3:33
07. 生活
08. ランドリー
09. Mars
10. Over
11. Happiness feat. ハル
12. BLUE feat. kojikoji (Acoustic)

Profile

ラッキーテープス…高橋海、田口恵人、高橋健介の3人組。2015年にデビュー・アルバム『The SHOW』をリリース。翌2016年にシングル「MOON」をリリースし、同年全国公開された映画『オオカミ少女と黒王子』(主演:二階堂ふみ)には挿入歌として新曲2曲を提供。7月には、共同プロデューサーにtoeの美濃隆章氏を迎えた2ndアルバム『Cigarette & Alcohol』をリリースし、フジロック・フェスティバルへも出演。ホーン・セクションや女性コーラス、パーカッションなどを加えた総勢9名のライブ・パフォーマンスも各方面より高い評価を集めている。2017年9月にEP『Virtual Gravity』をリリースし、そのリリース・ツアーでは全国各地ソールドアウトが続出。2018年5月にメジャー・デビューEP『22』を、10月にはメジャー・デビュー・アルバム『dressing』をリリース。2019年にはアジアでもライブを行い、配信シングル「Actor」をリリース後、過去最大規模の全国ツアーを行った。 2020年11月25日(水)メジャー2nd通算4枚目のアルバム作品『Blend』をリリース。

LUCKY TAPES オフィシャルサイト
http://luckytapes.com/