TRICERATOPS、秦基博をゲストプレイヤーに迎え ’19年に急逝したヨースケ@HOMEとの共作曲も初音源化した アルバム『23歳』をリリース! 弾き語りツアー「弾き語りばったり#30 FIRST CLASS DISTANCE」をスタートさせたKANインタビュー
昨年末の11月25日に、通算17枚目となったアルバム『23歳』をリリースしたKAN。80年代ディスコ調の先行シングル『ポップミュージック』ではかなり弾けた境地を示していたが、アルバムの方はお馴染みのビートルズやスティーヴィー・ワンダーらからの影響を強く滲ませたナンバーから、TRICERATOPSとの共演曲、テクノ・ポップやカントリー調に珠玉の切ないバラードまで。“10曲10ジャンル”と呼ぶべき多彩なポップ・センスが凝縮された会心作となっている。2021年の幕開けから恒例の弾き語りツアーをスタートさせる彼に、新作やツアーについて語ってもらった。
「いや、それはなかったですね。4曲目の『君のマスクをはずしたい』はたぶん6月くらいから作り始めた一番新しい曲なんですけど、それ以外はもう前から曲は作っていたモノだったので。あとは、歌詞がちゃんと書き切れるかどうか、ということだけでした。なので、『君のマスクをはずしたい』だけは、その後に新しいのが出来て逆にラッキーだったというくらいで、その他は特に世の中の変化とかの影響はなかったですね」
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――そうでしたか。1曲目からモロにビートルズライクな曲で始まり、2曲目のタイトル曲はスティーヴィー・ワンダー調、後半にはカントリーや古いリズム&ブルース風のナンバーもあり、『23歳』というタイトルと相まってKANさんの音楽的原点が強く出たアルバムになったのかなと。
「それももう、僕は昔からそうですけど、誰みたいな曲を作りたいという目標とするアーティストや楽曲のイメージや方向性があって曲を作っていくことが多いので」
――特に、今回のアルバムはこういう感じのものを、という構想もなかったんですか?
「曲のことは個別に考えているので、全体のコンセプトがあってそれに向けて曲を作っていくことはないですね。コレも今回に限らずですけど、曲が完成した順に外に出していくだけというか(笑)。それぞれの曲をいい形で完成させつつ、できるだけ違うタイプの曲を作ってアルバムに入れるということは常に考えていますね」
――KANさんの23歳の頃、みたいなものが通底するテーマとしてあったわけではなく。
「もちろん曲の構成とかアレンジとかっていうのは、僕は結構頭で考えて組み立てるタイプですけども、もともとの(曲の)初期発想というのは、どうやって出てきたかはわからないところがあるんです。『23歳』という曲も“23歳のぼくは大学の5年生”という歌い出しをなんとなく思いついて、そこからさてどうしようかと考えて作っていった曲ですけど、なぜそのフレーズが出てきたのかは自分でもわからない。で、自分の23歳はどうだったかと思い出しながら作っていくうちに、なんとなくタイトル曲にしたいなと思うようになっていった感じです」
――そうでしたか。
「ただ、もちろん今回は『23歳』というタイトルのアルバムじゃないですか? 最初は僕もどうだろう?と思ったけど、例えば“今回の新しいアルバムのタイトルはナントカです!”と発表して、みんなが“あ、イイね!”と思ったら、僕はダメだ、普通だなと思うんです。“エ~ッ!?”と言われるくらいのタイトルの方が僕はいいかなと思っているし、こんなのはすぐ慣れますから(笑)。ツイッターで発表した時もリプライがいっぱい返ってきましたけど、キョト~ンみたいな人もたくさんいましたしね。でも、聴いてもらえたら“コレはないだろ!”とは別に思わないとは思いますし」
――ま、それはそうだと思います(笑)。
「でも、2010年に出した『カンチガイもハナハダしい私の人生』というアルバムタイトルは、いまだに根本要さんや大橋卓弥くんからは不評ですね。大橋くんとかは“もうホントにあのアルバムは凄いし、全曲イイし、こんな曲を俺らも作らなきゃというモノがいっぱい入っている大好きな作品です。でも、だからこそ言いますけど、あのタイトルは何ですか?!”と今でも言いますから(笑)。でも、それくらいでちょうどいいんじゃないですかね」
――11月末に大阪城ホールで行われた“スキマとYAMA-KANのスイッチオン”でも、KANさんが以前にきゃりーぱみゅぱみゅさんと共演する際にも着用したド派手な衣裳を着て『23歳』のラストに収録された切ないバラードの名曲『エキストラ』を演奏し始める前に、大橋さんは“その衣裳であんなにイイ曲をやらないでほしい”と苦言を呈していましたね…。
「あっ、アレは確かにそうでしたね(笑)。『エキストラ』は(歌詞の内容的にも)完全に後ろの景色になっていなくてはいけないワケですけど、それとは完全に真逆でしたから(※詳細に関しては、ウェブ上に複数アップされているライブレポート記事の写真などをご参照ください)。ただ、これまでにいろんなものを着てライブをしてきましたけど、やはり衣裳がどうであれ、ちゃんと作品(曲)が衣裳に勝てるかどうかですね。あの衣裳だったから曲が入ってこなかった、では負けですよ」
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――なるほど(笑)。そういう勝負だったとは…。
「自分との闘いですね。それでも曲が良かったと言ってもらえるか、ということだと思います」
――…話をちょっと戻しますと、ちょうどアルバムのレコーディングを進められていたコロナ禍の中でのKANさんの日常は、どのような感じでしたか?
「もうコンサートが思うように出来ないというのは本当に困った話ですし、今後も状況を見ていくしかないですけど。レコーディングに関しては出来なくなったということはなくて、みんながマスクをしているというだけでしたね。大勢のコーラスを一気に録るような曲も、今回はなかったですし」
――では、アルバムがこうして完成してみて、KANさんご自身はどういう印象を持たれましたか?
「なんか若くなったな、とは思っています。作品全体が。あんまり難しいことを言っている曲もないですし、思えば4年前に出したアルバムはラブソングらしいラブソングは1曲くらいしかなかったんですけど、今回はもう“好き好き”って全編片思いみたいなアルバムになっていますね(笑)」
――確かに、歌詞の中にストレートに“好き”という言葉が、少し驚くほどの頻度で出てきます。
「そうですね。それもあって、若くなった感じがしているのかもしれない」
――前のアルバム以降で考えると、山崎まさよしさんとのYAMA-KANなどのコラボや楽曲提供も結構あった気がしますが。
「そうですね。YAMA-KANで3曲を作って、あとは平井堅さんに1曲と(藤井)フミヤくんに1曲、馬場(俊英)くんとも1曲共作をやりましたし。でも、あとはやっぱりスキマスイッチの『回奏パズル』ですね(※スキマスイッチの27曲分の要素を再構築した大曲)。アレは大変でした」
――コラボという意味では、19年に亡くなったヨースケ@HOMEさんと11年にライブ用に作っていた曲を初めて音源化した7曲目の『コタツ』も、異色のカントリー・ロック調で印象的です。
「この曲も19年に突然に37歳の若さでヨースケが亡くなったから、じゃああの曲を次のアルバムに入れようとその時点から考えていた曲ですね。僕がひとりだと絶対に作らないタイプの曲なので、コレは“10曲10ジャンル”と言えるのに重要な1曲なんです。だから、あえてガチガチのテクノな『メモトキレナガール』の後に入れています」
――6曲目の『メモトキレナガール』は対照的にPCでの編集を駆使した中田ヤスタカ・マナーな楽曲で、この2曲の並びの振れ幅はKANさんならではと言えるかもしれません。
「ぜんぜん中田さんには届かないですけど。ホントに好きな音楽なんで。なかなか同じアルバムに入っていることはない2曲だと思います。でも、ポップスっていうのは、何をやってもいいので」
――シンプルなバラード調の5曲目の『キセキ』も、自主全曲解説で“思えば、今までに作ったことないかも、的なテイスト”と書かれていて興味深かったですが。
「この曲は、ちょっと意識したのは、コード進行やメロディで今までの自分の感性的にこうなるだろうというところをあえてヤメて、違うやり方で作っていった曲ですね。ツイッターとかで聴いてくださった方がいろいろなことを書いてくれていますけど、『キセキ』だけがどうもしっくりとこないという人がいましたね。たぶん、ずっと僕の音楽を聴いてくださっている方でしょうけど。それはそういうところかもしれないですね」
――なるほど。そんな1曲1曲のアプローチが多彩で聴きどころが多い『23歳』のリリースを経て、2021年は年初から弾き語りツアーの「弾き語りばったり#30 FIRST CLASS DISTANCE」がスタートします(※神戸公演は1/30・神戸文化ホール 中ホール。大阪公演は2/14・Zepp Osaka Bayside、3/12・Zepp Namba、3/27・なんばHatch)。これまでに素数で付けられてきたツアーの数字は、昨年に中止となった#31からひとつ戻り、初の非素数でイレギュラー的になっている部分もポイントだと思いますが。
「今回は、ホントはバンドでのツアーをやる予定で取っていた会場で(いつもはホールで行う)弾き語りツアーをやるんですね。去年まるまる中止になった#31は、のちに同じ規模と同じタイトルで必ずやるという前提で、今回は#30にしています。#31は2月29日から始まる予定だったのを中止するのを決めたのが26日とかだったので、もう内容も決めて練習も終えてやる準備が出来ていたものをそのままやりたいんですよね。だから、今回は次に#31はこの選曲でやるということを想定した上で考えた内容でやろうと思っています」
Text by 吉本秀純
(2021年1月29日更新)
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