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「今までの牧山純子を知っている方にも驚いていただけるだろうな」
’21年の幕開けを飾るビルボードライブ大阪公演に向け
エレクトリックバイオリンで新たな扉を開いた『アレグリア』を語る
牧山純子ニュープロジェクトインタビュー&動画コメント

 ジャズバイオニストとして独自のスタイルを確立してきた牧山純子が、’20年に新たに立ち上げた“牧山純子ニュープロジェクト”名義でリリースした最新アルバム『アレグリア』。タイトルが意味する“喜び、歓喜”が湧き出すような本作では、スムースジャズやフュージョン、ロックの扉を開き、アコースティック&エレクトリックバイオリンで大胆かつ多彩に奏でた新境地に至っている。そして、’21年も早々の1月7日(木)には、ビルボードライブ大阪にて待望の『アレグリア』リリース記念ライブを開催! Shiho(ex. Fried Pride)をゲストに迎える関西では一夜限りのプレミアム公演に向けての意気込みはもちろん、’19年にロサンゼルスでレコーディングされた今作に挑んだモチベーションをはじめ、初めて手にしたエレクトリックバイオリンについて、“ライブで驚かせたい”と意気込むT・レックスの『20thセンチュリー・ボーイ』カバー秘話など、コロナ禍の心境と音楽家としての決意を熱く語ってくれた。

 
 
自己表現をする道具として、声の代わりにバイオリンがある
 
 
――’20年を振り返っていかがです?
 
「1年間のスケジュールって、“この時期にジャズフェスに出て、自分のコンサートはこの時期で“…”と、だいたい決まっているんですけど、それが全部なくなってしまったので、本当に神隠しにでもあったのかなと思うくらいで…。時が止まっているようで進んでいて、言葉にするのがものすごく難しい1年になってしまいました」
 
――本当に大変な1年でしたね。そんな中、新作の『アレグリア』が4月にリリースされましたが、“牧山純子ニュープロジェクト”という新たな名義でリリースしようと思った訳は?
 
「レコード会社を移籍したタイミングというのもありますし、ここ数年続けてきたクラシックとジャズを融合させて演奏するスタイルを皆さんにだいぶ認知していただけたので、新たな扉を開こうと思ったんです。牧山純子名義では今まで通りアコースティックバイオリンをメインに、クラシックとジャズを融合させたスタンダードジャズを演奏して、牧山純子ニュープロジェクトでは、『アレグリア』の音源に近いフュージョンとかロックをエレクトリックバイオリンで演奏すれば、お客さまも分かりやすいのかなと。今後はこの二刀流でやっていこうと思っています」
 
――このニュープロジェクトで新たに挑まれたスタイルの、インスパイアの源は?
 
「いわゆるアメリカ西海岸の音楽で、スムースジャズとかロック、フュージョンって、すごくメロウでカッコいい音楽が多いんですけど、そのメロディをサックスで吹く人はいても、バイオリンで弾いている人は少ないなと思ったんです。だったら、その立場に私が立ってみたいというイメージが湧きました。そこから、ロサンゼルスのメンバーと制作するということで進んできたプロジェクトなんです」
 
――牧山さんが枠に収まらずそれだけフレキシブルに活動できるのはなぜなのか、興味が湧いてきます。
 
「これまでも自分の作品をプロデュースしていただいた皆さんから、“バイオリンはこうあるべきだ、こうでなければいけないという固定観念を取り払いなさい”と言われることが多かったんです。当初はそれに戸惑いもあったんですけど、今となってはすごく良いチャンスを与えてもらっていたんだなと思いますね」
 
――牧山さん自身は、常にどのような気持ちでバイオリンを弾かれているのですか?
 
「’17年にCDデビュー10周年のアルバムをセルフプロデュースした頃ぐらいから、自己表現をする道具として、声の代わりにバイオリンがあると思っています。歌うように気持ちを表現する音というか。あと、自分がプロデュースする立場になって初めて、今までプロデュースしてくださっていた方々の大変さが分かったんです。そこから年齢を重ねて、いろんな舞台にも立たせてもらって、迷いながらも自分を少しずつ認めてあげられるようになりました」
 
 
『アレグリア』のイメージがちょっと不良っぽくロックな感じなので
ステージでも黒っぽい衣装でシャープでクールにキメたい
 
 
――『アレグリア』は1曲1曲でジャンルやテイストも異なり、牧山さんが弾くバイオリンの表情も多面性があって、まるで女優のようにバイオリンで演じているような印象を受けたんです。なので、先ほど牧山さんがおっしゃっていた“バイオリンは自己表現をする道具”という言葉がピンときました。
 
「ホントですか!? 自分の中にもいろいろなキャラがあるので、そうやって(女優のように)変化できていると聴いていただけたのなら、この作品は大成功だったなと思います。すごく嬉しいです!」
 
――『ラ・フェット・デュ・モール』(M-1)は、冒頭からサスペンスドラマのようなスリリングな展開でハッとさせられます。この曲を1曲目にした理由は?
 


「自分が作ってきた曲とは全くカラーが異なる曲だったので、今までの牧山純子を知っている方にも、“おっ”と驚いていただけるだろうなと思って1曲目にしました。今回のアルバムでは、キーボーディストの安部潤さんと、ロス在住のギタリストのKay-Ta Matsunoさんの2人をサウンドプロデューサーに立てました。Kay-Taさんは曲も書いてくださるとのことで、“私のイメージで書き下ろしてください”とお願いしたら、この曲ができたんです。ただ、すごくカッコいい曲なんですけど、弾くのはとても大変なんです(笑)」
 
――それとは対照的だなと感じたのが『スコッチ・ミスト』(M-6)です。グッとテンポを落としてチルアウトするような感覚がとても心地良くて。これも今までになかったタイプの曲ですか?
 
「これは“ローファイ・ヒップホップ”というジャンルで、こういう曲は私には書けないけれどバイオリンでトライしてみたいなと思って、Kay-Taさんにお願いしました。私にとっては初めてのリズム形態ですし、バイオリンではまだ誰もやっていなかったと思うので、それに挑戦できる喜びから生まれた曲ですね」
 
――他にも、『アレグリア』のレコーディングがロサンゼルスということで、西海岸を拠点にしていたイーグルスの代表曲『ホテル・カリフォルニア』(M-3)や『デスペラード』(M-5)のカバーもありますが、一番衝撃的だったのは、T・レックスの『20thセンチュリー・ボーイ』(M-9)です。この曲をカバーしようと思ったきっかけは?
 
「ただ単にワルになりたくて(笑)。私の中では、ロック=不良なんです。小さい頃からクラシック漬けだった私でも、この曲はあまりにもインパクトが強過ぎて、イントロを聴けばモノの3秒で分かります。今回のカバーでは、“ジャカジャーン♪”と始まるイントロのギターリフをエレクトリックバイオリンで弾いているんですけど、あの音をエレキギターだと思われている方が意外と多いんですよね。なので、ライブで実演して驚かせたいと思っていたんですけど、なかなかそのライブができなかったので…(悔しそうに)。次の大阪公演では『20thセンチュリー・ボーイ』と『ラ・フェット・デュ・モール』は必ずやります! 楽しみですね」
 
――今作では、その辺りのワイルドなイメージもかなり大胆にアピールしていますね。
 
「そうなんです。だから、新しいアーティスト写真でもダメージ・ジーンズを履いてあぐらをかいているわけなんです。親がこの写真を見たら“こんな子に育てたつもりはない!”と思うかもしれない(笑)。爪に黒いマニキュアを塗っただけで“私、超不良!”と思っちゃうタイプなので、エレクトリックバイオリンの赤い指板の上を黒い爪が動いているだけで、“やった!”と喜んでいます(笑)」
 
――牧山さん自身、何か型にハマったものを打ち崩したいとか、切り開いていきたい想いが強い?
 
「その辺は普段の生活ではセーブしていると思うんですけど、音に関しては、いくら暴れても怒られないので(笑)。そういうところがバイオリンには出ているんだと思いますね」
 
――普段は自ずと抑制されている欲求が作品の中で表現されたり、ライブでより発揮されるんですね。実際にエレクトリックバイオリンを弾き始めたのはいつからですか?
 
「『20thセンチュリー・ボーイ』のレコーディングのときです。この曲だけは東京で’19年の12月に録りました」
 
――ちょうど1年ぐらいということで、まだまだ新たな発見がありそうですね。
 
「この子のおいしいところは、まだまだ1~2割ぐらいしか出せていないかもしれませんね。エレクトリックバイオリンはギターのエフェクターを使用するので歪みもしますし、普通のバイオリンとは奏法が全く違うので最初はちょっと戸惑いましたけど、もっともっと可能性があると思うんです。その面白さや(弾き方の)新しい発想はライブで見つけることが多いので、これからはこの子を私がプロデュースして、面白くしてあげたいなと思います」
 
――ブラックとレッドのバイカラーが鮮烈な色合いで漆のように美しいですが、ライブでも使用されるエレクトリックバイオリンは、世界に1台しかないのですか?
 
「このカラーリングは牧山仕様なので、今は世界でこの1台だけですね。ボディも日本人の伝統工芸的な技術を思わせる繊細なフォルムなので、朱色の漆のイメージが合うんじゃないかと思ったら、バッチリハマりました。あと、この子を目立たせてあげるためにどうすればいいかを考えて、『アレグリア』のイメージがちょっと不良っぽくロックな感じなので、ステージでも黒っぽい衣装でシャープでクールにキメたいなと。ただ、バイオリンも黒一色だと目立たないので、指板を赤にしてもらうようにお願いしたんですよね」
 
 
ライブを見ていただいて、拍手をいただける
それだけで、こんなにも音楽が生き生きしてくるんだと実感しています
 
 
――そして、1月7日(木)ビルボードライブ大阪にて、『アレグリア』のリリースライブが行われます。
 


「大阪ではゲストにShihoさん(ex. Fried Pride)に入っていただいて、アルバムの中から選曲して演奏させていただきます。私がレコード会社を移籍したことでレーベルメイトになったんですが、元々Shihoさんとは仲良しで、関西だと『高槻ジャズストリート』でもご一緒したことがあるので、そこで共演した曲もできればいいなと。アルバムの最後で子どもたちがコーラスをしている『ブリザ・デ・アレグリア』(M-10)も、Shihoさんに歌っていただくとかなり大人っぽい感じになると思います。この曲はそもそも、ジャズフェスに出たときにみんなで歌える曲を書こうと思って、’19年にこのアルバムのために書き下ろした曲なんです。リリースライブでみんなに大合唱してもらうのを夢見ていたんですが、コロナ禍の飛沫感染を防ぐために今は皆さんに心の中で歌ってもらって。いずれマスクを取って歌えるようになれば、みんなで大合唱してライブの最後に一体化したい想いでいます」
 
――関西に対してはどのような印象がありますか?
 
「ずっと東京生まれ東京育ちなんですけど、最近はよく“関西人っぽい”って言われるんですよね(笑)。以前、『(情報ライブ)ミヤネ屋』さんのコメンテーターを月イチで3年間務めさせていただいた頃は、ライブ以外のお仕事でも毎月、大阪にお邪魔していて。関西が大好きですし、(関西人っぽいと言われるのは)すごく光栄だなと思っています」
 
――ビルボードライブ大阪は、牧山さんにとってどんな舞台ですか?
 
「それはもう夢の舞台ですよね。私にとってはずっと憧れのステージなので、リリースライブでまた帰ってくることができてすごく嬉しいです。コロナ禍で皆さん大変だと思うんですけど、会場の方々には細心の注意を払っていただいているので…演奏者にとってはステージがないと自分を発揮できないし、エネルギーをチャージする場所がなくなってしまうので、本当に感謝しています」
 
――最後にお客さまに向けてメッセージをお願いします!
 
「コロナ禍になってからはライブも配信が多くなって、今までとはちょっと違う感覚かもしれませんが、withコロナの中でも、どうにかして生で音楽を届けるライブというものの火を消さないように動いていきたいなと思っています。ライブではお客さまからのエネルギーがすごく重要だということを、ライブ活動を再開したときに思いました。ライブを見ていただいて、拍手をいただける。それだけで、こんなにも音楽が生き生きしてくるんだと実感しています。私たち音楽家は皆さんの免疫力アップのために熱い演奏をして、元気になってもらえるように頑張りますので、一緒に楽しい時間、幸せな時間をこれからも過ごしていただきたいですね」
 
――例え今は声を出せなくても、拍手をしたり、何かしらリアクションはできますしね。
 
「マスクをしていても目を見れば、それだけで分かります。声が出ていなくても、その場にいる方々から出ている熱量はやっぱり伝わってくるんです。11月の東京公演では持参してくださったスケッチブックに、“ブラボー!”とか “グレイト!”と書いて見せてくれたり、“純子”と書いたうちわを振ってくれたんです。お客さんもちょっと恥ずかしかったり勇気がいることかもしれませんが、そうやって元気づけてくださっていると思うと、すごく嬉しくて…。本当に個人個人、自由に楽しんで見ていただきたいです。心も身体も元気になって、笑顔で'21年を迎えましょう!」
 
 
Text by エイミー野中



(2020年12月28日更新)


Check

Movie

愛器のエレクトリックバイオリンと
牧山純子からの動画コメント!

Release

イーグルス、T・レックスの強烈カバー
を含むLA録音の刺激的な最新作!

Album
『アレグリア』
発売中 3000円(税別)
キングレコード
KICJ-839

<収録曲>
01. ラ・フェット・デュ・モール
02. キャンディ・シャワー
03. ホテル・カリフォルニア
04. エターナル・ライン
05. デスペラード
06. スコッチ・ミスト
07. ムーン・シャドウ
08. インフィニティ
09. 20thセンチュリー・ボーイ
10. ブリザ・デ・アレグリア

Profile

まきやま・じゅんこ…東京都出身。3歳からピアノ、4歳よりバイオリンを始め、海野義雄、大谷康子に師事。武蔵野音楽大学卒業後フランスで研鑽を積み、帰国後ソリストとして新宿オペラシティ、草月ホール等多数コンサートに出演。’02年バークリー音楽大学に入学しジャズバイオリンを専攻。在学中にデイヴィッド・フォスターやスティーブン・タイラー(エアロスミス)とも共演、ピアニスト小曽根真に師事。’03年3月、『String Department Achievement Award』受賞。同年4月にリサイタルを開催し上原ひろみと、また6月にはニューヨークのカーネギーホールにて、バークリー・ストリングス・オーケストラの一員として、チャーリー・ヘイデン、マイケル・ブレッカー、ケニー・バロンらと共演。帰国後、’08年にアルバム『ミストラル』でメジャーデビュー。’09年にはフジテレビ系月9ドラマ『BUZZER BEAT~崖っぷちのヒーロー~』の音楽を担当。 その後も多くの日本のジャズフェスティバルに参加し、ジャズシーンのみならずテレビ番組『情報ライブ ミヤネ屋』のコメンテーターや、バッグメーカーのキプリスフライヤーズスタイルのアンバサダーを務め、’16年2月には自身初の著書『ジャズとエロス ヴァイオリニストの音楽レシピ』(PHP新書)がAmazon音楽&本部門で1位を獲得するなどマルチな才能を発揮。 同年6月、スロベニア共和国の独立25周年記念コンサートに招かれ交流を深める。’17年11月、同国の風土に魅せられ作曲したスロベニア組曲を収録したアルバム『ルチア~スロベニア組曲』を発表するなど、クラシックとジャズの壁を取り払い演奏する、他のジャズバイオリニストとは一線を画した唯一無二のスタイルを定着させつつある。また同作で『ジャズジャパン・アワード2017特別賞』を受賞。’18年4月より全国コミュニティFM82局で放送される番組『牧山純子 サウンドマリーナ』がスタート。現在は、全国で自身のライブ、テレビ、ラジオ、レコーディング、コンサート等、ジャズ、ポップス、クラシックとジャンルを問わず精力的に活動中。’20年4月8日には、ロサンゼルスにて録音され、エレクトリックバイオリンも取り入れるなど、さらなる新境地に挑んだアルバム『アレグリア』を“牧山純子ニュープロジェクト”名義でリリースした。

牧山純子 オフィシャルサイト
http://www.junkomakiyama.com/

Live

Shiho(ex. Fried Pride)もゲスト出演
リリースライブ大阪公演が間もなく!

 
『『アレグリア』リリース記念ライブ』

【東京公演】
▼11月7日(土)JZ Brat SOUND OF TOKYO
【愛知公演】
▼11月13日(金)ボトムライン

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード190-306
▼1月7日(木)18:30/21:30
ビルボードライブ大阪
自由席6500円
[ゲスト]Shiho
ビルボードライブ大阪■06(6342)7722
※本チケットに整理番号はございません。ご希望の方は発券後、お問合せ先まで要連絡。当日は整理番号順でお席へご案内しておりますが、整理番号をお持ちでないお客様は開場時間の30分後のご案内となります。カジュアルエリアの取り扱いなし。未就学児童及び高校生同士の入場不可。18歳未満は成人の同伴が必要。

チケット情報はこちら


Column

『ミヤネ屋』でコメンテーターも
務める美しきジャズバイオリニスト
牧山純子がFried Prideの
横田明紀男(g)をプロデューサーに
迎えた4年半ぶりのアルバム
『月虹』を語るインタビュー('14)

Recommend!!

エディター奥“ボウイ”昌史さんの
オススメコメントはコチラ!

「普段はライターをメインでやることが圧倒的に多いんですが、今回は編集の立場で取材に立ち合い、インタビューが終わった後に“全部使いたい!”と思うほど、話が弾んでいました。個人的には6年ぶりの再会となった牧山さんですが変わらずとても素敵な方で、取材後にコロナ禍の音楽業界で働く方たちをねぎらいながら思わず目を潤ませる姿に、こっちまでグッときてしまいました…。そんな牧山さんの待望のリリースツアー関西公演となるビルボードライブ大阪で、最新作『アレグリア』の世界を存分に堪能してください。やっぱり『20thセンチュリー・ボーイ』のインパクトがすごかった。カバーの域を超えてブッ飛んでます(笑)。僕にとっても久々のビルボードで、さえ渡るエレクトリックバイオリンのプレイが見られるのが楽しみです!」