久しぶりのライブ『SLOW DAYS』に出演したyonawo
ミニアルバム『LOBSTER』や音楽的ルーツについて語る
荒谷翔大(vo)&田中慧(b)インタビュー
自粛期間中にレコード会社が送ってくれたCDの中に一際目につくものがあった。楳図かずおを彷彿とさせるようなおどろおどろしい顔、それも上部分のみで髪も眉も緑色。その顔の横から緑色の爪が特徴的な指が何かを掴むようにして、こちらを覗いている。一種のジャケ買いの様な感覚で、他に何枚かCDもあったが、すぐに手に取って聴いた。それがyonawoのアルバム『LOBSTER』。資料にはネオソウルと書かれているが、いわゆるオシャレなだけの音楽ではなく、その音とその言葉の重なりから風情や情緒を感じる事ができる。インタビュー前日にライブを観る機会もあったが、そこでも音楽だけではなく、その奥にある人柄を感じることもできた。
この御時世なのでリリースから3ヶ月経ってのインタビューになったが、だからこそ彼らにとって久々のライブのことも含め、いろいろなことが聞けたように思う。それにしても物事が上手くまとまらず混乱するという意がある『矜羯羅がる』という曲が、耳に心にスッと緩やかに入ってくるのは、本当に不思議だし、本当に心地好い。是非とも彼らの曲を聴いて欲しい。
――このインタビュー前日に服部緑地野音で『SLOW DAYS』というイベントがあって、僕も観に行っていたのですが、久しぶりのライブはいかがでしたか?
荒谷「やる前は結構緊張するんだろうなと思っていたんですけど、意外と始まったら今までで一番緊張しなかったですね」
田中「僕も緊張というより、ただ暑かったですね。とにかくライブが久しぶりだったので、こんな感じだったなと思い出しながらライブをやっていましたね」
荒谷「配信ライブはしていましたけど、お客さんの顔が見えないじゃないですか。昨日はしっかりとお客さんがいると感じましたね。それは久しぶりの感覚でした」
田中「配信だとお客さんのパチパチという拍手も無いしね」
荒谷「そういうお客さんの反応は無いよね。配信だと反応は文字面でくるから。昨日は一瞬で生の反応がきて、これやったなと。昨日は深い関わりができた感じがします」
田中「生も配信も、どっちの良さもありますよ。弾き語りの配信ライブはやってますけど、いわゆるバンドでのがっつり配信ライブはやってないですね」
荒谷「普段のライブだとライブ中にお客さんは喋れないですけど、配信ライブはライブ中にお客さんはコメントで喋れる。でも、顔が見えてないから不思議というのが正直なところですね。お客さんがのってるところは見えないですけど、僕が歌う高揚感はあるし、歌うのは好きだし、みんなに見られるのも好きですね」
田中「『SLOW DAYS』でいうと、あの日の環境もあったと思います。1年前も同じ場所でライブをしましたけど、雨が降っていて。昨日は晴れて暑かったし、去年より良いライブができているのではと思ってライブをやっていましたね。特に後半に向けて良いライブができました。環境もライブも良かったので、緊張もとけました」
――昨日MCもすごく良かったんですよ。最近はフェス文化が根付いたので、メッセージを込めるという意味とは別に、ただただ盛り上げるMCが特に若手は多いと思うんです。でも、yonawoはお客さんの方を変に見ずに、メンバー同士横向いてボソボソと喋るのが自然で良かったんですよ。昔は、そういうバンド多かったなと何だか懐かしかったし、とても新鮮でしたね。
田中「グダグダでしたよ(笑)」
荒谷「僕らの世代だと、どうでもいい話をMCでするバンドは、そんなにいないかもですね。少し上だとOKAMOTO'Sくらいかなと。僕たちライブよく行ってて、OKAMOTO'Sが4人だけでどうでもいい話をMCでしてるのが面白くて。あの感じを僕らも無意識にできたらいいなと。あくまで自然体なんですよね、OKAMOTO'Sは」
田中「そもそも僕は人前で話すのが苦手で、大変なので、荒ちゃんに任せてて」
荒谷「フェスは短く緩くを考えてはいます。みんなが喋る感じにはしたいですね」
――僕も久々の野外ライブでしたし、おふたりにとっても久々のライブだったと思うので、いろいろとお伺いしたいのですが、本来なら、この取材もミニアルバム『LOBSTER』がリリースされた4月頃にあったと思うんです。リリースされて3ヶ月も経ってからのインタビューというのは、どんな感じですか?
荒谷「今は、もう次のアルバム制作に入っているので、『LOBSTER』は結構置き去りになっている感じがあって。今日もずっといろいろなインタビューを受けてて、結構記憶が戻りつつあります」
――この3ヶ月の間ってアルバムを聴き直したりしましたか?
田中「あんまり聴きたくない方ですね。何ででしょうかね? 恥ずかしいのかも。ベースですけど、自分のを何回も聴くと、どうしても、ここをこうしとけば良かったという点が見つかるんですよ。それを次に活かすのも大切ですけど、やっぱり見つけたら落ち込むので」
荒谷「ナイーブ(笑)」
田中「そこを見つけたことで、次の作品にそういうことが無いようにとできるので勉強にもなるんですよ。まだまだ未熟者ですから。まぁ、結論は恥ずかしくて聴けないです。でも逆にレコーディングの時に録ってみて、これどうなるのかなと思っていたものが、でき上がってから聴いて、これで良かったと思うこともありますし」
荒谷「僕も基本的には聴かないです。頑張って作って、ホッとしちゃうので。それに自分の歌を録音したものを聴くのは好きじゃないですね。自分の声は聴きたくないです。歌うのは好きなんですけどね。ただ、好んで録音したものは聴きたくないですね。聴き直したら聴き直したで、ここをこうしておけば良かったと思うことは、たくさんありますよ。アレンジの部分をもうちょっとできていたら良かったなとか。このフレーズで良かったのかなとか。後は、その時のエピソードを思い出すことはありますね。アレンジをこうしようと言ったなとかというエピソードが蘇る瞬間があって、そこは楽しいです」
――ジャケットもすごく好きで、僕は音の前に、まずジャケットに惹かれて聴き始めたんです。
荒谷「ジャケットのアートワークはドラムの野元君が手掛けていて、みんなでアイデアは出すんですけど、野元君の絵はメンバーみんな好きなんです。あと、音楽を始める時に、野元君に絵を描いていると言われて、その絵がむちゃくちゃ独特で、これは使えるぞと思いました(笑)。いい意味でですけど」
田中「荒ちゃんの詩の世界ともリンクするしね」
荒谷「野元君も寄せてくれてるしね」
田中「繋がりあるよね」
荒谷「今回のは、スタッフ交えていろいろな話をして、CDのリリースとしては初めての(メジャー)デビューだから、みんなの世界に入っていく感じがいいよねとなりましたね」
――この色も、また良いんですよ。
荒谷「色は何でだっけ?」
田中「色は何やろね?」
荒谷「野元君の中に流行りの色とかあるから」
田中「他の色でも試してみて、この色が選ばれて」
荒谷「でも、異物感があるジャケットよね」
――異物感があるからこそ惹きつけられたんでしょうね。音のことも聴いていきたいんですけど、他のインタビューでもUKロックなどについて答えられたりしていますが、改めてルーツについてお伺いしたいなと。
荒谷「逆にみなさんのルーツがどういうのかがわからんよね。そういう話、こないだカレー屋さんでもしてて(笑)。サチモスとかヨギーとか、一般的な僕ら世代だとそこかなと。UKロックから、こういうネオソウルになったというのはイメージつかないでしょうね」
田中「サチモス、ヨギー、ネバヤンは高校の時、めっちゃ人気あって、フェスとかで観てました」
荒谷「かっこよかったよね。僕も、その時期にフェスに触れて、フェスっていう、こんなものがあるのかなと思いましたね。空の下で、いい大人が踊って(笑)。あっ、ルーツをお願いします!」
田中「(笑)。バンドを始める時、ギターボーカルをやってたんですけど、2000年代初頭の音楽でいうと、ホワイト・ストライプスとかストロークスとかヴァインズとかハイブスとか、ガレージロックというかロックンロールリバイバルと呼ばれてた、あそこの感じが好きでしたね。楽器を始めようと思ったのは、そこがきっかけでした。あのあたりのバンドって、曲のリフとかかっこいいじゃないですか? まぁ、ニルヴァーナのリフとかもそうですけど、そういうのが大好きですね。ヨーロッパのガチャガチャやってるバンドというか、まぁ、イギリスか、あっ、アメリカのバンドもいますけど(笑)」
荒谷「みんな、そのあたりの音楽にははまっていたよね」
田中「今も好きですし、何かイギリスという国に感じてるんでしょうね。今はポーティスヘッドとかマッシブアタックとか、(イギリスの)ブリストル(地方出身ミュージシャン)の音が好きです。湿っぽい暗いそういうのが好きなんですよ。やっぱりイギリスという土地に何かを感じているんですよ、初めにはまったのはビートルズだし。でも、まだ、その感じている何かの正体はわからなくて」
荒谷「湿っぽくて暗いとこを、僕の音楽にも感じてくれているのかな? そういう奥にあるものは、みんな共通してるから波長が合うし、だから一緒に音楽をやっているんでしょうね」
――例えばyonawoの音楽をオシャレと捉える人もいるかも知れませんが、僕も、その湿っぽさとか暗さというか、そういうものに惹かれたんだなと今、思いました。
荒谷「僕としてはオシャレな曲を作っている気は無くて、こういうのがオシャレなのかと気付かされるというか、後付けのオシャレですかね。みなさんが名付けたというか。未だわかんないですね」
田中「正直な話、ネオソウルというのも飲み込めてなくて」
荒谷「飲み込まなくていいよ(笑)」
田中「まぁ、そう言った方がわかりやすいんだろうね」
荒谷「リスナーさんに提示しやすくなるしね」
田中「R&Bなんかも知っていって、好きになったから、そういう音楽にも寄ってっているよね」
――荒谷さんのルーツも教えてもらえますか?
荒谷「僕は幼稚園の頃、よく親が聴いていたのが、ノラ・ジョーンズとか、ユーミンとか、竹内まりやとかで、当時から、そのあたりが印象的でしたね。で、中3とか、高1とかで、はっぴいえんどが引っかかってきて、こんな素敵な音楽があるんだなと思いました。それと、はっぴえんどで言うと、松本隆のことも知らずに、松田聖子とかの歌謡曲を聴いていて、これもあの人、これもあの人と、知らず知らずで影響を受けていましたね。それと後はビートルズですかね。小6の時に赤盤と青盤を買って、テレビの特集かなんかでジョン・レノンは知ってて、その人のやってたバンドなんだってなりました。結果、大きな分かれ道としては、ビートルズとはっぴいえんどですね、自分で音楽をやり始めるという意味では。それで中学生の時に鼻歌で歌を作り始めて、ただ楽器はできないのでボイスメモで録って、毎日歌って覚えてました」
田中「最初に荒ちゃんの曲を聴いた時、身近に作詞作曲をしてる人がいなかったので、それだけで凄いなとなりましたよ。今までに感じたことの無い特別な気持ちになりましたね」
荒谷「いつくらい?」
田中「高校かな。メールかなんかで送ってくれて、新しい風が吹いたというか。それも日本語の詞だし。日本語で、こんなに突っかかり無く聴いたことないかもと思いました。ちゃんと意味としても入ってくるし、音としてもスッと入ってくるし。その表現力に驚きましたね、只者じゃないと!」
荒谷「(爆笑)」
田中「本当にドキドキしましたから。例えば、『矜羯羅がる』とかキラーフレーズだし、今までも曲の中で、こんがらがるという言葉が出てきたことはあったんでしょうけど、そこを繰り返して聴かした人はいないかも」
荒谷「こんがらがるのゴリ押し(笑)」
田中「歌詞でいうと、『後ろ指なら指しておくれよ ほら今刺せ』の部分も凄いと思って」
荒谷「頑張った覚えはある(笑)」
田中「情景描写も自然じゃないですか?!(と言って、思わず立ち上がり、ライターが持ってる歌詞カードの方に来る)」
荒谷「売り込みに来たみたい(笑)」
田中「とにかく音としても凄い」
荒谷「歌っていて気持ちいい歌い回しは、聴いていても気持ち良いから」
――でも、『矜羯羅がる』は、まず漢字で、こんがらがるを、こう書くんだという点に惹きつけられたというのがありましたね。
荒谷「僕も矜羯羅がるという漢字があるんだと知って、これは映えるなと。だから、狙い通りです(笑)」
――最後に今年も下半期4ヶ月くらいですけど、どういう風に活動していきたいか教えてもらえますか?
荒谷「いろんな業界があやふやで何もできないけど、昨日のフェスもやりましたし、何かしら状況を良くしていきたいですけど、もう昔には戻れないかもですしね。できるだけのことをやって、制作物は届けたいです。もしライブが無くなっても、制作した作品は届けたいですから。みなさんの生活を少しでも色づけたいですね」
田中「いい作品、いい曲をいっぱい録りたいです」
荒谷「より良いライブ活動を考えてやっていけたらなと」
田中「いろいろ、模索していきたいです」
Text by 鈴木淳史
(2020年8月 6日更新)
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