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2ヶ月で5曲をリリース。配信ライブ、noteを使ったコンテンツ
Keishi Tanakaがコロナ禍で感じたこと、生まれた作品、
新たな場所を語る

新型コロナウイルスが音楽業界に与えた影響ははかり知れず、数々のライブやイベントが中止になり、観客も関係者もアーティスト自身も先の見えない不安を胸に、ステイホームに従っていた。間違いなく歴史に残る出来事の中、心に残り続ける素晴らしい作品を作り出すアーティストがいることも忘れてはならない。
Keishi Tanakaはコロナ禍でも精力的に活動を続け、たった2ヶ月で5曲をリリース。驚くべきスピードでコンテンツを発信している。キーボーディスト・Kan Sanoとの共作『The Smoke Is You』、同世代の音楽仲間とリレー形式で楽曲をつなぎ完成させた『Baby, Stay Home』、FRONTIER BACKYARDとのオンラインコラボ楽曲『h/e/a/r/t/b/r/e/a/k』、note限定でリリースした『Fallin’ Down [Home Recording Version]』、『揺れる葉 feat. oysm』。どの曲にも大きな意味がある。さらに4月28日には弾き語り、6月11日には3ピースバンドセットで配信ライブを行い、現在は中止になった『The Smoke Is You』リリースツアーの日程に合わせて、その街にゆかりのある人と日々インスタライブをつないでいる。
また、noteでFM802 DJ 中島ヒロトとのラジオをスタートさせるなど、新しい試みも忘れない。次から次へと私たちの予想を超えた楽しみを作ってくれる。なぜKeishi Tanakaはここまで積極的にクリエイティブを生み出すことができるのか。2020年春からの活動を時系列で振り返りながら、作品に込めた思いや現在の心境について聞いてみた。
ちなみに6月11日に配信スタートした『The Smoke Is You Release Tour at Your Home』は、本来開催されるはずだったツアーファイナルの7月3日までチケット制で購入・視聴することができる。音質、映像、カメラワーク、ロケーション、どれをとっても素晴らしい。配信に新しい価値がうまれたと脱帽した。ぜひ期待値マックスで見てもらいたい。

ライブが中止になっていくのが苦しかった時、新曲の存在に救われた。
 
 
――コロナ前とコロナ禍で音楽活動にも影響が出たと思いますが、最初はコロナのことをどう捉えてらっしゃいましたか?
 
「2月前半ぐらいまでは海外とかのコロナのニュースが聞こえてきてたけど、正直そこまで意識はしてなくて。2月後半ぐらいからライブ中止の話がいくつか出てきて、3月頭に五味さん(岳久/LOSTAGE)とのツーマンライブ中止の告知をSNSでした時に、僕が“ため息ひとつ”みたいなことをつぶやいたんです。そしたら、普段僕がSNSであんまりネガティブなことを言わないからなのか、それに対するリアクションが結構多くて。それで、“やっぱり俺はそっちじゃないな”と思えたというか」
 
――ご自分の立ち位置が、ということですか?
 
「立ち位置というか…、単純に強い気持ちを持っていたいなって。最初の段階でそう思えたのは結構デカくて。その時はまだライブを1ヶ月我慢しようとか、それぐらいの気持ちだったんですけど、前に向く感じはもうあったかな」
 
――Keishiさんはこの状況を嘆いていないんですね。
 
「嘆きかけたのが本当最初の1回だけ。五味さんとのライブが3本目の中止で、“またか”みたいな。今は30本ぐらいなくなってるから全然序盤の話なんですけど、その頃は結構苦しかったですよ。でも今言ったように、お客さんのリアクションでちょっと目が覚めたところもあったんで、みんなのおかげです」
 
――五味さんとのライブの中止発表があって、すぐにインスタライブで弾き語りをされていますね。
 
「その辺りから配信ライブはやろうかなというのはありました。でもここまで長引くと思ってなかったし、“やれることをやろうかな”ぐらいの感じだったんですよ。あと前を向く意味で僕的にもう1個良かったのは、4月15日にKan Sano君との新曲『The Smoke Is You』の正式なリリースがあったので、音楽に対する活動がゼロにならなかった。もちろんツアーはできないし、プロモーションも普通通りに行けないので悔しいこともたくさんあったけど、1個核となる活動が残ってたのは良かったなと思います」
 
――緊急事態宣言が出たばかりの頃ですね。もし少しでも時期がズレていたら……。
 
「どっちにズレても違う意味合いを持ってたでしょうね。でももう歌詞の中に少しコロナを感じてて。歌詞を考えている時にライブが中止になり始めてたんで、ちょっと書けないかもという感じもあったんですけど、逆に今の状況を書いてみようと思って最初の2行を書いたら進みました」
 
――“散々なニュース 繰り返す腑に落ちないワード 崩れたバランス 息を吐き また始めるダンス”の部分ですね。元々『The Smoke Is You』にテーマはあったんですか?
 
「そこまで明確なテーマはなかったです。Kan Sano君が書いた曲なので、曲が届いてからどうしようかと考えようと思ってました。その後、夜のイメージを書こうと思ったけど、言葉がうまく出てこなくて。だったら先にコロナのことを1回吐き出そうと」
 
――やはりモヤモヤした気持ちはあったんですか。
 
「最初の頃はそうですね、うん」
 
――今『The Smoke Is You』を振り返ってみていかがですか。
 
「いつもはライブでやって新曲が完成するみたいなところがあるんで、最後の部分がちょっと奪われた感じは未だに残っています。今配信中のスリーピースライブ『The Smoke Is You Release Tour at Your Home』で、無観客だけど初めてライブで演奏することができて。それでもまだ完璧にやりきったとは言えないですけど、やっと少しずつ自分のものになってきたかな、という感じですね」
 
――ところで先日(6月12日)、恵人(田口/LUCKY TAPES)さんとのインスタライブで、2011年の震災の話が少し出ました。恵人さんがKeishiさんは動じてないように見えるとおっしゃっていて。Keishiさんが前向きに動けているのは、震災で思うように音楽活動できない状況を経験していたから、というのはありますか?
 
「自分ではあんまり意識してないですけど、恵人の話を聞くと少なからず影響はあるというか。10年前の自分とはそもそもの音楽に対するスタンスも変わっていて。自分のためだけにやってた20代、今はもう少し誰かのためになればいいなと思ってるので、そういう意味では違うこともある。ただ2つ目のターニングポイントとしては、恵人のその言葉も結構大きかったです。震災の話は3月中旬頃、まだ人に会える時期に恵人と飲みに行った時にしていた話なんです。自分はたまたま新曲がある良い状況にいるけど、そういうのがない人も周りにいたし、この状況からポジティブを見つけられるかどうかは人によって波があるなと。だからいつも手伝ってくれるサポートミュージシャンと何かやりたくて『Fallin’ Down』を作ったり、という活動に繋がった感じはありますね」
 
――『Fallin’ Down』の前に、4月17日にはFBYとオンラインコラボした『h/e/a/r/t/b/r/e/a/k』も発売になっています。
 
「『h/e/a/r/t/b/r/e/a/k』と『Baby, Stay Home』は、4月頭ぐらいに、いよいよ自粛が長引きそうな空気が流れていたので、家でレコーディングして遊びの延長みたいな感じで音源出そうか、と言ってた2曲ですね」
 
――『Baby, Stay Home』は岩崎慧(セカイイチ)さんがTwitterにトラックを投稿して、1982年生まれのグループLINEのメンバーが次々に手を加えていくリレー形式で完成しました。OTOTOYの『Save Our Place』を通してリリース、売上はライブハウスへのドネーションとして全額送られるとのことで。
 
「LINEグループの中には10人ぐらいいて、「暇だから曲でも作ってみる?」とジョークのように盛り上がってたら、慧くんが“お蔵入りになったネタがあるよ”と言って、ポンとワンコーラスの音源を投げてきたんですよね。で、ちょっと思いついたメロディーがあったんで、歌詞も書いて投げ返したら、次の日にはTwitterでリレーをやろうとなりました」
 
――あれで勇気をもらった人は多いと思います。
 
「嬉しいですね。多分世の中的に不安がマックスになってきた頃で、憂鬱な感情もあったと思うし。リレーが何人か続いてTwitterが盛り上がり始めた頃に、面白い曲ができてるかリリースしようという話になり、それならライブハウスのためにリリースするのが良いのかなってことで、色々探してOTOTOYからのリリースに至りました。タイミングとスピード感、色んな事がカチッとハマった感じがしましたね」
 
――リレーが始まって2週間ぐらいでリリースでしたね。
 
「みんな、前の人が一晩でやってるから、多分プレッシャーもあったと思うんですけど(笑)。僕1番最初で本当に良かったです(笑)」
 
――6月にはリミックス集も出ていますね。
 
「リミックスはシモリョー(the chef cooks me)と、George(Mop of head)と、avengers in sci-fiの2人がやってるThe Department、ROPESのサポートをしてるShogo Takahashiくんの4組がやってくれてます」
 
――この4組はどのように決まったんですか?
 
「シモリョーも僕と同い年なんで最初歌ってもらおうと思ってたんですけど、スケジュールが合わないから後日リミックスとかで参加したいと言ってて。その後、僕がシモリョーのラジオに出演した時に、一気にその話がまとまって、どうせやるんだったら何組か誘うかって、周りで何人か声をかけました」
 
――リミックス集もドネーション楽曲ですね。
 
「ライブハウスは全てのハコに支援したいくらいなんですが、数に限界もあるなと思ったので、3月と4月に僕らが主催したライブをキャンセルしてしまったハコを対象にしています」
 
――お客さん側もライブハウスを守りたい、支援したいという思いはとても強いと思うんですけど、それぞれ抱える状況の中で全て支援できないジレンマもあると思うので、この形は良いですね。
 
「『Baby, Stay Home』に関しては、僕らの音楽を楽しんでもらうだけでいいというか、普通に音楽を買う感覚で、結果支援もできたら一石二鳥ぐらいの感じで、あんまり重たく考えないようになればいいかなと思ってました。全部できる訳はないから、できないことに関して苦しんでほしくないなとすごく思いますね」
 
 
 
noteでの新たな試み
 
 
――4月23日にnoteがスタートしています。noteというプラットフォームを使おうと思った理由はありますか?
 
「正式なリリースとまで言わないぐらいの新曲を、気軽にすぐに売れる場所を作りたくて。家で録ってるものなので、厳密に言うとスタジオでレコーディングしたものとはクオリティにも差があるし。ただ、新曲なので無料で垂れ流しにするのも違う気もして、そういう場所を探してたんです。あと、ライブ配信の音源をそのまま聴いてもらったり、1曲売るのもnoteでやりたかった」
 
――すごく面白い使い方ですよね。
 
「こういう使い方をしてる人があまりいないみたいで、note側の人にも注目してもらえて、面白い動きになりましたね」
 
――用途が幅広いです。
 
「有料と無料、どっちもできるのが良いなと。やっぱり無料で出せるものと出せないものがあって。関わる人が多ければ支払うものもあるし、逆に無料で出せるものは無料でいいかなと思ってるんで、そこを自分で選べる場所というか。サブスクでもいいんですけど、自分が見えない瞬間が出てくるし。今回は“今日できた曲を明日、自分の手で出す”感じで、サブスクよりさらに気軽なものを求めてました」
 
――それで4月28日に配信したアコースティックライブ『ROOMS by YouTube Live』の音源を1曲リリースしたんですね。
 
「そうですね。4月28日は“ワンマンが中止になった残念記念”で弾き語りをやろうと思って。しかも無観客、無スタッフ、無関係者で。部屋にはカメラと僕しかいない状況で、けど何台もカメラがあって、スイッチングはしてもらう。多少トラブルもあったんで反省しつつ、次に活かす感じもありました。初めての大掛かりな生配信で不安もあったので、チケット後払いみたいなシステムを作りたくて、払ってくれた人へのお礼の1曲をnoteに置いておくイメージです」
 
――配信の在り方もコロナで変わってきたと思いますが、どう捉えていますか?
 
「配信に対する世の中の感じとかは僕があんまり敏感に捉えてないかもしれなくて。自分の感覚でやってるところがあるんで、変わってきてるっちゃ変わってきてるし、変わってないといえば変わってない。自分のやりたいことに合ったものをその都度探してやってる感じですね」
 
――なるほど。配信は徐々に無料と有料でクオリティの差別化を図る流れが生まれてきているのかなと思いますが、そこを意識されたりは?
 
「映像や音を意識するとやっぱりお金はかかるけど、全てをお客さんに払ってもらうというよりは、みんなが幸せになるやり方が良いかなと思ってます。全部無料でやって、会場やスタッフ、ミュージシャンが活動できなくなるのも違うし、その辺の良い塩梅を今みんなで模索しているんだと思うんですけど、その時々で配信の内容は違うと思うんで、全てに対してお金を稼がなきゃという考えもないですね。無料の時はちょっとビール飲んで酔っ払ってますけど許してねー、みたいな感じです(笑)」
 

 
コロナ禍でも小さなポジティブを探す
 
 
――5月2日にはnoteで『Fallin’ Down [Home Recording Version]』を発表。兵庫県豊岡市のプロジェクト『MUSICIAN IN RESIDENCE豊岡』で高校生に向けて書いた曲だそうですね。
 
「曲自体は豊岡の話も絡んでるんですけど、それよりもスタッフ含めメンバーと何かを作りたいなと思って。立場的に僕が動けば仕事が生まれることに気づいたんですよ。経済的な話もですけど、どっちかというと心の話。『The Smoke Is You』で感じられた“これがあって良かった”みたいなことが、みんなにも1個あるといいかなと」
 
――なるほど。
 
「1番仕事がなくなってた4月後半の話なので、今もできて良かったなと思う。新曲が聴けるのはお客さんにとっても嬉しいことだろうし。家で楽しめる何かを考えようと思って、手作りポスターやZINEのアイデアもありつつ」
 
――ZINEやポスターを自分で作って楽しめるというアイデアはパッと出てきたんですか?
 
「デザインしてくれてる岩本くんという男がいるんですが、彼と一緒に話してる中で出てきたアイデアです。毎日のように打ち合わせしていて、今も楽しく動けているのには彼の影響もすごくありますね」
 
――『Fallin’ Down』はオールホームレコーディングですね。
 
「人に会わない方が良いんだろうなという時期だったので、みんなの録り方をSNSで紹介するところまで含めて面白がってもらえばと。中にはiPhoneのマイクで録ってる人もいるし。エンジニアも一緒に作品を作る観点だったので、ジャケットの最後の1人はエンジニアです」
 
――“卒業”というテーマではありますが、コロナ禍に通じるような部分もありますね。
 
「そうなんです、たまたまなんですけど。“終わり”みたいなものをテーマにしてて、3月になれば自然に卒業する人はいるんだろうけど、このコロナの中で、自分の意思でもなく季節的なものでもなく終わってしまったものもあると思うんですよ。そういうものに対する言葉にもなればいいかなと、今出すことにしました」
 
――リモートで曲を作ってみてどうでした?
 
「厳密に言うとやりたいことも色々あるし、もう1つ上のことができるはずなんですけど、思ったよりリモートでもちゃんと曲として成立させられるという発見もあって、結構面白かったですね。でもリモートだと次の成長をしにくいなとも思いました。レコーディング終わって、打ち上げしてる時の“ここがああだよね、こうだよね”っていう話がない。そういうので次に繋がるわけじゃないですか。レコーディング以外も一緒で、僕はやっぱり人と人とのやり取りが必要なタイプなので。それはそれで改めて再確認が出来ましたね」
 
――暗い状況の中でも気づくことがあったんですね。
 
「そうですね。ただ、コロナのことをチャンスとは思っていなくて。亡くなってる人もいるし、お店を失った人もいるし、その中で自分だけチャンスと言うのはちょっと違うと思うんですけど、小さいポジティブを探すのは全然悪いことじゃないし、それをやらないといけないなと個人的には思っていて。この何ヶ月かはそれを繰り返してた感じですね」
 
 
 
世間の不安がピークになっていた夜。曲を書く意味はあった。
 
 
――5月13日にはnoteで中島ヒロトさんとのラジオ(毎週月曜21時公開)が始まりました。
 
「ラジオは本当にパッと思いついたんです。何の計画性もなく、思いついた次の日にヒロトさんに電話して、“やろうよ”と言ってくれたんで、その次の日ぐらいに収録して、その次の日ぐらいに世に出た、みたいなペースです。台本を用意するよりは、自然な話の中で音楽の話になってもいいし、近況報告だけでもいいし、昔の学生時代の話でもいい。あまり考えずフリートークでどこまで出来るかみたいなテーマもありました」
 
――私も聞かせてもらっていますが、良い空気感ですね。
 
「FMやAMと違って、僕のことを知ってる人しか聞けないようなクローズの場所なんで、逆にいつもできない話はできますよね。歌あり、笑いあり、涙ありで楽しくやってます(笑)」
 
――そして5月23日に同じくnote限定で『揺れる葉 feat. oysm』がリリース。
 
「『The Smoke Is You』のリリースツアーが中止か延期かという相談をし始めて、世の中の状況も見てたんですけど、中止の発表と同時に良いニュースを出したくて、曲を作ろうと思いました。何となく歌詞の内容もその頃ピークだった不安に対するものになったんですね。で、サポートギターの晶(四本/oysm、ex:Rega)がやってる“oysm(おやすみ)”というインストバンドの曲からサンプリングで1曲使わせてもらって」
 
――完全に1人で作ったんですか?
 
「そうですね。noteがなかったら多分やってなかっただろうし、遊び場を早い段階で作れて良かったなと思ってます。だって、結構良い曲じゃないですか?(笑)」
 
――はい。とても良い曲です。
 
「だなと思って、早く出したかったぐらい(笑)。発表前日に急遽家で映像も作りました。自分ちのカーテンが揺れてるだけの動画なので、ミュージックビデオではなく、オフィシャルオーディオ、曲を聴くための映像って感じなんですけど」
 
――オシャレですよね、あの動画。個人的に、“広い闇の中 声とこのメロディを吹き込む”のところで、“と と と”とリフレインするのが好きです。
 
「ありがとうございます(笑)。既存曲を使ってるので歌がハマらない場所もあって。2番にインストバンドならではの不協和音みたいなのがあるので、ザワッと乱れる感じをイメージして。自分の中で遊んで楽しかった部分です。“声と”は人力ディレイですね。本当は機械でできるんですけど、ひとりで録ってたので自分でやりました(笑)」
 
――歌詞にも救われますね。
 
「テーマがしっかりあって、本当にリアルな今の話だから、自分にもいろんな人にも響きやすいのかなと思ってます」
 
――以前からスピーディーに作品を出したいとおっしゃっていましたが、よりスピード感が増したように思います。
 
「そうですね、でもこれは全然想定外で。この春にたくさんリリースするぞと思ってたわけでもないし、ライブがなくなって、本当にたまたま家にいる時間が多かったから。僕の曲作りで1番時間がかかるのは最初のテーマを探す部分なんです。そういう意味ではテーマが明確だったんで、スムーズに進みましたね」
 

 
心が生き延びるために必要だった、配信ライブ
 
 
――そして6月11日にスリーピース配信ライブが開始しました。配信でこんなハイクオリティの映像が作れるのか! と驚きました。
 
「嬉しいです。前売りチケット制を初めてやったので、満足してもらうために結構こだわった部分はあったし。これはもう本当に、中止になったツアーに対する、今できること。みんなを楽しませるのもそうだけど、自分自身が生きるために、お金の事じゃなくて、心的に生き延びるために必要だったこと。普通のツアーが100だとして、配信でツアーを感じられるかというと、半分も満たされないのはわかってた。だけど100分の1でもツアーを感じられるならやるべきだと思いました。最初、毎日あの規模の配信をやることも考えたんですけど、さすがにいろんな体力が持たないのでメインはあの配信1本とアーカイブにして、お客さんや各都市のDJとコミュニケーションを取るのはインスタライブで、それを毎日やろうと」
 
――配信後すぐに拝見して、その後のインスタライブまでツアーしましたが、より配信の価値が高まっている気がしました。
 
「良かった。そう言ってもらえるとやった意味がありますね」
 
――生配信じゃないと一方的に見る形になりますが、直接感想を言える場所があるだけで、ワクワク感が増しますね。
 
「やっぱり当日感みたいなものが欲しくて。配信って色んなやり方がありますけど、コメントをこっち側が読むか読まないかで、生感が結構変わってくるんですよね。正直そのやり取りがないのであれば、生である必要があまりない。それならトラブルを回避する方がいい」
 
――なるほど。それで収録したものを配信したんですね。
 
「やってることは生ライブなんですけど、別日に撮ることでトラブルが少なくなるし、みんなとのやり取りはインスタライブでやると決めてたんで。今やれる中でどうするのが楽しいかというのは多分みんな考えてやってると思うけど、これが7月3日までの僕の回答です」
 
――配信はライブの代わりにはならないとみなさんおっしゃってますが、Keishiさんもその考えですか。
 
「全くそう思います。代わりにはならないという自覚はあるけど、やる意味もあると思ってる。ちょっと別軸で考えてます」
 
――この状況だから感じる、生のライブの魅力は何だと思いますか?
 
「僕の考え方的には、ライブは一方的なものじゃないんです。今配信中のスリーピースは一方的にこっちがやってるだけなんで、そこがやっぱり普通のライブとは違ってて。普段のライブでやりたいのは、お客さんとやり合う感じ。そのために僕はピンボーカルを選んだので。楽器を弾くことじゃないお客さんとのやり取りに面白さを感じてるんですよ。今回は何で配信ライブでギターを弾いてるかというと、そのやり取りをする必要がないから。現場に人がいてバンドセットでやるならピンボーカルも面白いと思うけど、配信ライブでピンボーカルをやるイメージはあんまりない。そういうことを考えてると、自ずとライブの魅力はわかってくるのかな」
 
――あとインスタライブを見ていて、場所を守りたいという気持ちが伝わってきました。
 
「それはありますね。いくらコロナがおさまっても、場所がなくなったら活動ができない状態が続くし。だからなんとか守りたい。そんな大げさなことはできないけど、せめて気にしたい。単純に会えなかった人たちに画面越しで会う。それは当日やることに意味があると思う。それで興味を持ってもらって、落ち着いたら小旅行をしてもらうのもいいですよね」
 
――『One Love』はKeishiさんが居場所に感謝を伝えるという曲でしたが、ここにきてつながっていますね。
 
「確かに。『One Love』を作るきっかけになった『BREATH』のツアーの時は自分の居場所を作ってもらったのを感じてたんで、今は逆に行けないからこそ、僕の活動がみんなの居場所になって、またお互い繋がっていけばいいかなと思いますね」
 

 
――4月からの2ヶ月間を総括してみてどう思いますか?
 
「振り返るとやっぱり悔しいことの方が多いですよ、口に出してないだけで。ただ、ライブがこれだけなくなったのは辛いけど、何とか自分が壊れないようにやってきて、今はまだ音楽を作ろうとしてるし、ライブもしようとしてるって事は、この期間の動きが間違ってなかったとは思ってます。noteとかリモート取材とか、コロナの中でたまたま生まれたものは継続できるなら継続していっていいと思う。配信ライブもある程度は続くだろうし。ただ、もちろんライブが普通にできることに勝るものはないんで。そうですね、総括、難しいけど、今のところ僕は元気ですって感じです」
 
――きっと、作品が制作できない人もいますよね。
 
「全然いると思いますよ。その人が悪いとか弱いとかじゃなくて。そういう人と喋る機会があったら情報交換して、みんなが良い方向に向かっていければいいなと思ってます。やっぱりみんなで乗り越えないと意味がない。僕の周りには1人勝ちしようとしてる人がいないのも、それも頑張れる理由かなと思います」
 
――頭の中には次の動きへのアイデアもあるんですか?
 
「あるっちゃあるし、ないっちゃない(笑)。アイデアできたらすぐやりますよ。今はそういうモードなので」
 
――Kesshiさんのファンの方は安心してるんじゃないかなと思います。発信してくれる人がいるだけで気持ちが軽くなりますからね。
 
「それはお互い様ですね。そう言ってくれる感じもわかるけど、逆にみんなの声で動けてるところもあるし。お互いパワーを与えあって、生き延びましょう!」

text by ERI KUBOTA 



(2020年6月25日更新)


Check

Release

『Fallin’ Down [Home Recording Version]』 500円
『揺れる葉 feat. oysm』 500円

オールホームレコーディングの『Fallin’ Down [Home Recording Version]』、眠る前に聴きたい『揺れる葉 feat. oysm』、共にnoteにて発売中!
・note
https://note.com/keishitanaka

『The Smoke Is You』

Kan Sanoプロデュースによる共作『The Smoke Is You』各ストリーミングサービスにて配信中!
https://friendship.lnk.to/thesmokeisyou

『Baby, Stay Home』 1100円
『Baby, Stay Home -Remix-』 1100円

ライブハウスへのドネーション楽曲 『Baby, Stay Home』、リミックス集『Baby, Stay Home -Remix-』共にOTOTOYにて配信中!
https://ototoy.jp/feature/saveourplace/

Profile

ケイシ・タナカ…ミュージシャン。作詞家。作曲家。Riddim Saunterを解散後、2012年よりソロ活動をスタート。続けざまにリリースされた『Fill』と『Alley』という2つのアルバムで、シンガーソングライターとしてバンド時代とは違う一面を見せる。「Floatin' Groove」が、全国のラジオ局で多数パワープレイに選ばれるなど、細部にこだわりをみせる高い音楽性を持ちながら、幅広い層に受け入れられる音楽であることを証明した。さらに、3rdアルバム『What's A Trunk?』では、Tokyo Recordings、fox capture plan、LEARNERS、Ropesなど、さまざまなミュージシャンとレコーディングをして話題となる。最新アルバム『BREATH』では、ブラックミュージックと日本人ポップスを見事に融合させ、自身がそのときにやりたい音楽を自由に歌い続けている。アルバムのほかにも、詩と写真で構成された6曲入りソングブック『夜の終わり』や、絵本『秘密の森』など、自身の世界観を表現する多様な作品をリリース。2019年9月に「One Love」、2020年4にKan Sanoプロデュースによる「The Smoke Is You」をデジタルリリース。これらはライブ会場と通販限定のグッズ『A SONG FOR YOU』シリーズとしても販売されている。そのほかにもnoteを使った新曲のリリースも行なっており、リリース情報だけでも目が離せない。ライブハウスや野外フェスでのバンドセットから、ホールやBillboardでの11人編成ビッグバンド、さらには小さなカフェでの弾き語りなど、場所や聴く人を限定しないスタイルで年間100本前後のライブを続けている。自主企画として、バンド編成の[NEW KICKS]と、アコースティックの[ROOMS]を不定期に開催中。また、2017年4月に詩集『真夜中の魚』(シンコーミュージック・エンタテインメント)を発売し、文章にも注目が集まる。『ランドネ』(エイ出版)での連載は5年目に突入。

Keishi Tanaka オフィシャルサイト
https://keishitanaka.com/


Live

ストリーミングライブ
[The Smoke Is You Release Tour at Your Home]
7月3日までアーカイブ配信中!

https://keishitanaka.zaiko.io/e/at-your-home