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最新シングル『ポップミュージック』リリース&
33年の軌跡が詰まったアーティスト本
『KAN in the BOOK~他力本願独立独歩33年の軌跡』刊行
これまでの歩みについて語った、KANインタビュー

デビュー以降の33年のキャリアの中で様々な音楽的変遷を見せながらも、軽快にして巧みなソングライティングで数多くの名曲を世に送り出し続けてきたKAN。2月26日にリリースされた最新シングル『ポップミュージック』は、80年代テイストの打ち込みディスコ・アレンジと遊び心に満ちた歌詞で、タイトル通りポップな魅力が全開のダンス・チューンとなっている(香瑠鼓のコレオグラフによるMVも痛快)。ほぼ同時に28年ぶりとなったアーティスト本『KAN in the BOOK~他力本願独立独歩33年の軌跡』も刊行した彼に、ポップに弾けた新曲やこれまでの歩みについて聞いた。


――最新シングル『ポップミュージック』は、80年代テイストの打ち込みを多用した音に乗せてKANさんのポップな魅力が全開となった、懐かしくも新鮮なディスコ・チューンとなっています。
 
「そうですね。ここ数年は弦楽器を使ったアレンジが好きで、特にストリングス・カルテットはそれまでにやっていたバンドの上に乗せる弦とは全然意味が違って、すごく頭を使ってやってきたんですけど、今回のようなディスコものも好きなパターンのひとつなので。やっぱり、曲を作る上ではビートルズやビリー・ジョエルが基本ですけど、アレンジに関しては80年代前半の音からの影響が強くあります。僕はデビュー前にディスコでアルバイトしながら打ち込み用の機材を買って触ったりもしていましたから。今回も好きなように作っていると、自然とその感じになっていきましたね」
 
――80年代回帰的な気分が、KANさんの中でまた高まってきたんでしょうか?
 
「いや、曲自体はなんとなく以前から作っていたもので、意識したのはちょっとメロディを和風にしたというところぐらいですかね。’15年に『桜ナイトフィーバー』というディスコ調の曲を出していて、それとまったく同じようになるのは避けようかなと」
 
――歌詞の方にも“アナログレコード”とか“ラジカセ”といった80年代を象徴する単語が出てきますが、同時に“スマホ”や“タピオカミルクティ”といった最近の流行ワードも出てきて。
 
「歌詞に関しては、今回はザッピングというか、ブロックごとに場面がバンバンと変わるような感じになりましたね。最初に曲を頭の中で発想した段階でもう“ポップミュージック”という言葉はメロディにくっ付いていたので、それは残して書き始めました。でも、ポップミュージックという大変大きなテーマの曲になってしまったなと思って(笑)、歌詞を書きながらポップミュージックとは何なのか?ということをいろいろと考えていたんですよ。で、僕はいろんなミュージシャンとお酒を飲む機会がよくあるので、この歌詞を書いている時期はいろんな音楽家に“ポップって何だ?”と聞いて、みんな困ってました(笑)」
 
――それはいきなり問われてもなかなか困るお題ですね(笑)。
 
「ただ、その中でひとりだけ、TRICERATOPSのベースの林くんが“ポップはタピオカですよ! 間違いないです”と即答したんです(笑)。その即答/断言があまりにもカッコ良くて、それまでは頭の中で難しい方向に行きそうになっていたのが解消して、とりあえずタピオカという言葉をBメロに入れようと。で、2番のBメロの同じ箇所も女の子が好きそうな甘いモノにしようと思って“かき氷”にして、もう最初の歌い出しで“ポップってどんな意味?”とこっちから定義付けることも放棄してですね(笑)、ザッピングしながら全体的にポップミュージックというものの在り方が感覚的になんとなく残るといいなという作り方にしましたね。歌詞はちゃんと組み立てて作る方なので、こういうザッピング的な歌詞というのはあまりやらないんですけど」
 
――確かに、ストーリー性の高い歌詞が多いKANさんとしては珍しい感じもしました。
 
「こういう曲だから、もう重要なのは何を言わんとしているかよりも言葉がどれだけリズムに気持ち良く乗っているかだと思いますし。MVの振り付けでダンスのレッスンを受けたのも、20数年ぶりのことでしたね」
 
――でも、ただの80年代回顧ではなくて、サウンド面などは近年KANさんがお好きと公言されているPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅなどのディスコ・ポップ的な部分と通じているのかなと。
 
「そう。僕はこの10年は中田ヤスタカさんしか聴いてないくらい好きなので(笑)。中田さんも80年代の音はすごく研究しているでしょうけど、あの方はやっぱり今の音になるのに対して、僕は好きにやっているとサウンドも含めて80年代になってしまいますね、どうしても。ただ、僕らの世代からすると懐かしいとか古いという感覚ですけど、今の若い人にとってはなんかわかんないけど妙に新鮮と感じてもらえるといいですし、それこそタピオカにしてももう何度目かのブームですしね。でも、ニュアンスとかは昔と変わっていて、そのあたりも含めてポップという感触が残るといいなと」
 
――そして、2月29日にはこれまでの活動を語った時代別のロング・インタビューや親交の深いミュージシャンが参加した企画記事などが詰まった28年振りのアーティスト本『KAN in the BOOK~他力本願独立独歩33年の軌跡』(シンコーミュージック)も刊行されました。
 
「こちらはデビューの頃からずっとお世話になってきたライターの森田恭子さんにインタビューも編集も全面的にお願いして、僕も一部だけ書いています。あとは、交流のある多くの素晴らしいアーティストの皆さんの力を他力本願で借りまくって」
 
――aikoさんがインタビュアーとなって歌詞や曲作りについて聞いた記事や、“星屑の隙間に木村基博(通称・ホスキモ)”として一緒にライブを行うスタレビの根本さん、スキマスイッチ、秦基博さんがKANさん抜きで語った座談会なども気になります。
 
「特に、ホスキモの他の4人に集まってもらって僕のダメ出しをしてもらった座談会は、僕の人間性が一番良く出ていて、どういう人なのかが最もよくわかるページになったと思います(笑)」
 
――こういった活動の節目となる書籍を、30周年ではなく33年目というタイミングで出されるのも、素数がお好きなKANさんらしいですが(笑)。
 
「今回はたまたまシンコーミュージックさんからお話をいただいたからなんですが、僕は基本的にいろんなことを素数で区切っているので(笑)。芸能生活29周年の時は、大きな起伏を付けようと活動をしましたし。やっぱりみんな“20周年”とか“30周年”で区切りを付けようとしますけど、それでは言葉の響きがあまりにも普通で流れていってしまう気がするんですよね。29周年の方が“ん?なんで!?”となるし」
 
――今回これまでの歩みを本にまとめてみたことで、改めて気付かれたことなどは?
 
「僕自身は新たな発見とかはなかったですけれど、もちろん読んでくださる方には全然知らなかったこともいっぱいあると思います。ただ、同じような年数をやっているとどんなアーティストでもいろんなことがあるでしょうけど、僕は特に変わってる方だと思いますね。まず、“普通ならこういう風になっていく”ということに疑問を持つタイプで、“だったら僕はこういうことをする”という考え方が基本にあるので。それは音楽に限らずですけど。ま、ちゃんとヘンな人だというのが、本を読んでもらえばわかると思います(笑)」
 
――初期からのイメージを堅実に守りながら歩んできた音楽家では決してありませんもんね。
 
「みんながそっち行くならオレはこっちから行く、というタイプですからね」

text by 吉本秀純



(2020年5月18日更新)


Check

Release

Single『ポップミュージック』
発売中 1980円(税込)
EPCE-7757/7758
アップフロントワークス zetima

《CD収録曲》
01. ポップミュージック
02. KANのChristmas Song
 (弦楽四重奏とともに)
03. ポップミュージック(カラオケ)
04. KANのChristmas Song
 (弦楽四重奏カラオケ)

《DVD収録内容》
01. ポップミュージック
 (ダンシング・ミュージック・ビデオ)

他力本願独立独歩33年の軌跡が詰まった28年ぶりのアーティスト本

『KAN in the BOOK
 ~他力本願独立独歩33年の軌跡』
発売中 2500円(税込)
A5判 208頁
株式会社シンコーミュージック

Profile

1987年にアルバム『テレビの中に』でデビュー。その後にシングル『愛は勝つ』(90年)の大ヒットなどで人気を不動のものとし、’02年春からはフランスの音楽学校に留学。’04年夏に帰国後は、バンド、弾き語り、弦楽四重奏やオーケストラとの共演などと様々なスタイルでの活動を続けながら、星屑の隙間に木村基博などのコラボ・ユニットなどでも幅広く活躍している。2月26日には最新シングルとなる『ポップミュージック』をリリース。

KAN オフィシャルサイト
https://www.kimurakan.com/