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ソロ活動10年目にたどり着いた新たな提示であり
豊饒なる音楽人生の総決算ともいえる新プロジェクト
RED ORCAについて語る金子ノブアキインタビュー

昨年より水面下で胎動が始まっていた金子ノブアキの新プロジェクトRED ORCAが、12月に行われたライブとアルバム『WILD TOKYO』で本格的に始動した。プロフィールにもある通りメンバーは、金子曰く「腐れ縁」であるPABLO(g)に来門(vo)、そして「若きライジングスター」と称える葛城京太郎(b)と、金子の師匠でもあり、これまでのソロ作もともに作り上げてきたマニピュレーターの草間敬。グランジやミクスチャー、ヒップホップetc.90年代にストリートを席巻したカルチャーを背骨に持つ、なんとも屈強な顔ぶれだ。その彼らが、爆発的なエネルギーと情熱をたぎらせながら重厚かつ詩情豊かに織り上げたアルバム『WILD TOKYO』は、発売直後にiTunesのロックチャートで1位に輝いた。未曽有の事態に直面し不安がつきまとう日々に、豪快にたおやかに鳴り響くこのアルバムが求められることは素直に頷ける。 今回のインタビューで金子は、RED ORCAの誕生から現在まで、そしてライブを行うことができない現状も踏まえ今後についても語ってくれた。インタビューの最後に彼が言った、「ねじれや抑圧は創造を生む。困難を超えた先にあるのは喜びで、喜びを共有することが絶対に待っている」という言葉は金子の曲『Historia』(’14年)の一節を彷彿とさせるし、多くの人の力になるに違いない。『beast test』(M-2)で来門が吐き出す「大事なのは明日より今」というリリックもそう。その「今」の先に明日があって、未来がある。

RED ORCAは僕が言い出しっぺで始まったけど、軸になっているのは来門と京太郎
2人に目掛けて曲を作っているんです
 
 
――RED ORCAとしての活動は昨年からすでに始まっていて、12月には東京、大阪でライブも行われました。その際に会場でBGMに使われていた楽曲のプレイリストがSpotifyで公開されていますが(『RED ORCA LIVE BGM 2019』)、バッド・ブレインズやソニック・ユース、ニルヴァーナ、サイプレス・ヒルなど、まさにそれらを聴いて血をたぎらせてきた面々が『WILD TOKYO』を作ったんだなと。
 
「まさに90年代、ミクスチャー、オルタナですね」
 
――そもそもRED ORCAの始まりはいつ頃にさかのぼりますか?
 
「自分としては日高(日高光啓、SKY-HI)くんと『illusions feat.SKY-HI』(’18年)を作っている頃に映画『MANRIKI』の音楽も作っていて、その頃の感覚が今につながっている感じがありますね。『MANRIKI』の主題歌で来門にラップをやってもらったらハマりがよくて、何曲か作ってみようかって話になったのがもともとの始まりかな。その頃はまだライブをイメージしてなくて、とにかく曲を作ろうと。ただ、『illusions』が出た後に僕のライブに日高くんが来てくれたり、12月には彼が毎年豊洲でやっているライブに呼んでくれて演奏する機会があって。そのときの客席の盛り上がりがとにかくすごくて、自分の中ではライブハウスでもいける感じがするなと何となく思い始めて。その辺りから、ラッパーと曲を作りたいという渇望がどんどん高まっていったんですね。剛士さん(上田剛士、AA=)やJESSEとやるのとはまた別で、僕がこれまでやってきていたアンビエントの要素もあるものをやりたいなと」
 

 
――なるほど。
 
「音楽シーンでいえば、自分の体感として2000年代に入る頃は70年代のガレージロックが流行り出したり、10年代にはメタルとかEDM。あれはやっぱり80年代のゲートリバーブばりばりのディスコサウンドの延長と、メタルが融合した音像が柱になっていると思う。で、ビリー・アイリッシュが出てきて、オンマイクからオフマイクの音にガッと変わった感じがあり、何もないところでただベースが鳴っているだけみたいな曲を聴いたときに、ニルヴァーナの『スメルズ・ライク・ティーンスピリット』が重なったりして。ものすごい既視感があるというか、“これ、体感した気がする”っていう懐かしみがあって。そういう時代性も含めてああいうビート感、グルーブ感でラッパーと一緒にやって、古くならないやり方があるんじゃないかなって。それはドラマーとしても得意なやり方だから、いいのができそうだなと思っていたところに、京太郎(b)と何度か会うタイミングが重なって。彼の方から“スタジオ入って下さい!”みたいなアプローチがあって。彼はセッションマンでもあり路上でもやり、1人でもやるし仲間ともプレイするし、これからどんどん有名になっていくんだろうなという人がわざわざ向こうから来てくれている。日高くんのときもそうだったけど、人の縁てそういうものだから鼻が利いたら一緒にやるべきだなって。ドラマーとしてステージを想像したときに、来門と京ちゃんが並んでやるのかと思ったらすごくわくわくしちゃって、“っしゃ、みんなでライブやろうよ!”って。それが1年ぐらい前ですね」
 
――19年の春ですか。
 
「京太郎が合流してきたのはいちばん最後で、去年の夏前ぐらい。その前にPABLOがプロデュースしているLiSAさんの現場でレコーディングに京太郎を呼んだと聞いていたから、“(RED ORCAに)京太郎を誘おうと思うんだけど”“ええやん”って。そこから制作はあっという間でしたね。僕としては’17年12月にRIZEで武道館をやってからRIZEの現場は1年半ぐらい動きが止まってて、JESSEはThe BONEZがあったし僕のロックバンド的アウトプットは他にAA=だけだったので、何かやらないと体によくないなって(笑)。1人でドラムを叩いてもしょうがないから、みんなでドカン!といく一番得意なヤツをやりたいなって」
 
――90年代の終わりにRIZEや、来門さんを擁するsmorgas(現SMORGAS)が登場した頃は、Dragon Ashや山嵐、宇頭巻(現UZMK)といったバンドとともにラウド&ミクスチャーのシーンがあり、ラップミュージックがより身近になった時期でもありました。
 
「ですね。今の若い子たちがその90年代のストリート感に通ずるものを持っているのも強く感じるし、そういう中から京ちゃんみたいな奴らが自然に出てくる感じが分かりますよね。さっきも言いましたけど、時代の空気感が10年周期で変わっている歴史とか、そういう大きな流れを体感して見たり聴いたり、作ったりするのが根本的に好きなんですね。なおかつ『WILD TOKYO』はものすごく本能的に作った1枚だから、プロジェクトの1stとしてもとても納得がいくものになりましたね」
 
――REDに引っ掛けるわけではないですが、作品全体に5人の血を感じます。気質とか、才能の意味の血ですね。
 
「レコーディング前に僕が作って渡したデモはもっとパキッとした現代的なものだったはずで、そこにラップが入ってベースが入ってドラムも一緒に録ると、そういうことになってくるんですよね。僕の想像よりもはるかに土着的に、プリミティブになってくれました。1曲の中に各々のアレンジメントも枝葉のように分かれていくし、そういうことに長けた人たちが集まっているから、それぞれの楽器だけに注視して聴いても面白いと思います。特に京ちゃんはそういうプレゼンを身上としているし、それが彼のライフラインでもある。端的に言うとベーシストとして認められたい。褒められたい。売れたいと思っているわけだし、来門はMCでも言っているけど、今に賭けているし、ここが最後の勝負なんだという覚悟でやっている。その2人の邂逅がすごく良いんですよね。このRED ORCAは僕が言い出しっぺで始めたことかもしれないけど、軸になっているのは間違いなくあの2人。20歳の年の差があるけど同じタイミングにいるような感覚があって、出所は全然違っても同じエネルギーが放出されている。そういう美しさがすごくある。その2人に目掛けて曲を作っているんです」
 
――アルバムの冒頭『ORCA FORCE』(M-1)からの怒涛の勢いは爽快なほどですが、『Phantom Skate』(M-4)、『Octopus』(M-5)、『LOBO~howl in twilight~』(M-6)あたりは特に2人の熱量をダイレクトに感じます。血が騒ぐとよく言いますが、そうやって掻き立てられるものだけじゃなく心地よさもあって。
 
「僕もそう思って作っているところがありますね。気持ちよく聴きたいし、2人の経験とスキルと知恵みたいなものを僕もそうやって味わいたいし、2人にも気持ちよく泳いで欲しい。そう思って水を張っている感じですね。『Octopus』のベースを作っているときに、最初京ちゃんは“日頃、スラップしてくれとしかニーズがないから、あんまりスラップしたくないんです”って言うから、“そんなトレードマークを持っててよく言うよ!”って(笑)。その技を持った上でこの曲の最後では静寂を作るのがいいと思ったし、そういう曲も一緒に作ろうよって。ただ、アルバムではそういうアプローチだけど、ライブでやる時は最後のところはスラップをバキバキにやらせていて、それがめちゃくちゃカッコイイんですよ。実際に僕も、このマイナーコードでこんなにバキバキにスラップ弾くか?って相当しびれました。その楽しみを前もって想像しながら作っていったし、逆に去年ライブを観ている人たちは、アルバムを聴いて“音源はこうなってたんだ!”って驚くと思う。そうやって楽しんで作りました。制作者でありお客さん目線もあり、気楽に(笑)」
 

 
――気楽というか、今こういうものが聴きたいという金子さんの欲求でもあるんでしょうね。
 
「そうですね。もちろん僕名義のソロワークでやっている、それこそ静謐で何もないような世界もすごく好きだし、今回のアルバムにもそれに近い『Saturn』(M-9)のような曲はあるんですが、日高くんとやったあたりから僕名義のソロには収まらなくなってきたなと思っていて。日高くんには本当に感謝していて、今回『ILLUSIONS~Jump over dimension~』(M-7)のバンドバージョンを入れるにあたって連絡をしたら、“新プロジェクト、いいっすねー! でもジェラシーっす!”って気持ちいい感じでOKしてくれて」
 
――歌詞にも出てきますね。“軌道はsky high”と。
 
「そう。どこかに彼へのメッセージを入れてねとは言っていたんですけどね。ラップとベースが変わるだけで急に生々しい感じになって、全然違いますよね。また日高くんにも来てもらって一緒にやれたら楽しいでしょうね」

 
 
技術、人の縁、タイミング、すべてが合致したから今やれている
何か1つでも欠けたらうまくいかなかったでしょうね
 
 
――思うに、来門さんは90年代の頃よりも今が一番尖っているように感じます。
 
「本人的にも音楽と離れていた不遇だった日々が続いていたんですね。’16年の暮れにROSを組んで、ベースのU:ZO(元RIZE)とギターのHIROKIくん(Dragon Ash)がRIZEの楽屋に来門を連れて来てくれたのが10年ぶりぐらいの再会で。RIZEがツアーに行く直前だったから、じゃあ対バンしてよって話になってその場にお互いのマネージャーもいたから、名古屋、福岡、大阪とHIROKIくんの地元の岡山を一緒に回ったんですね(’17年9月TOUR“RIZE IS BACK”)。その時の来門のスタンスや、1回1回のステージに賭けるたたずまいや姿に僕は胸を撃たれて。RIZEとsmorgasはデビュー時期も近かったし、デビュー前にBACK DROP BOMBをJESSEと一緒に聴きに行っていた頃から、“来門っていうすごいヤツがいる”って噂は聞いていて。それからYKZを観に行ったときに初めて会ったのかな。確かにヤバいヤツだったし、“こりゃ、JESSE喰われるかもな”と思ったのが来門との初対面でしたね」
 
――ヤバい人だったんですね(笑)。
 
「現場に戻ってきたときに“戻れるとは思ってなかった。俺はここしかねぇんだ”とMCでも言っていて。彼の中に感じるブルースみたいなものを僕はすごく重要視しているんですね。音楽的にはブルースじゃなくラップだけどそれはジャンルの話で、いわゆる12小節で回らなくたってブルースを共有するものは音楽の良さであると思う。すべての音楽がそうじゃなきゃいけないとは言わないけど、そういうものを共有したいじゃないですか?」
 
――分かります。共有したいですね。
 
「彼の背中とか言葉から本当にそれを感じるし、おそらく僕が今言いたいことは全部来門が言っているんですよね。僕にとっては今、京ちゃんや来門の発しているものが語り部になってくれているし、それを媒介にして音が形作られている。経験上、バンド形態でやるときって点取り屋が2人いると圧倒的な爆発を生むんですよ。JESSEとKenKenもそう。ただRIZEとの大きな違いは、こっちは草間さんとPABLOがいるから守備力が高いっていう(笑)」
 
――アハハ! なるほど。
 
「僕はバスケが好きなんですけど、たとえるならサッカーの方が分かりやすいですよね。RIZEだと僕はキーパーだけどフリーキックも蹴る感じ。このバンドではキーパーじゃなくちょっと後ろ目のミッドフィルダーぐらいな感じでやれていて、よりオンフィールドな感じですね。草間さんとはソロもAA=もやっているし、仲良くしてもらっていますけど、日本音楽史に残るリビングレジェンドですし、そういう方が一緒に現場をやってくれるのもラッキーなことですよね。彼のもとでこれまでいろいろ学んできたことの総決算じゃないですけど、今まで経験してきたことを駆使してなおかつ本能的に。技術も人の縁もタイミングも、すべてが合致したから今やれていて、何か1つでも欠けたらうまくいかなかったでしょうね」
 
――それがソロ10年目の節目にやってきたのも大きな意味があるように思います。
 
「さっきの音楽の10年周期の話じゃないですけど、節目みたいなものがあるんでしょうね。これまでの日々の縮図ですよね。PABLOと来門っていう腐れ縁2人に、活きのいいライジングスターが出てきてケガから復帰したベテランのフォワードと2トップ組ませるとか最高じゃないですか?(笑)。その上、頼れる先輩までいますから」
 
――来門さんにブルースを感じるという話がありましたが、『Phantom Skate』の後半で来門さんのラップが英語から日本語に切り替わるところや、『ILLUSIONS~Jump over dimension~』、『Octopus』の最後のパートの辺りに、彼の中にあるブルースを共有している感覚があります。『Octopus』の最後は資料に歌詞はありますが、実際には微かに声が聴こえるか聴こえないかでダイレクトにラップが聞き取れるわけではないですね。
 
「聴感上はほとんどわからないでしょうね。来門は“ここに俺がいていいのかな?”と言ったけど、絶対にいてくれないと困るし、それがないと京ちゃんのあのベースは乗ってこなかった。それがより具現化したのは『Saturn』(M-10)ですね。来門は僕のソロも聴いてくれていたみたいで、僕と一緒にやるならポエトリーリーディングみたいなことをやりたいと言っていて。『Saturn』はもともと僕が音楽監督を務めたenraの舞台公演で使った曲で、音源化するなら絶対にラッパーを入れたいとは思っていて。ただ、これを理解してくれる人って誰だろうなとも考えていて。来門とやり始めたときに“これって形になったりする?”って『Saturn』を聴かせたら速攻“やってみるよ!”って。彼は、あんなぶっ飛んで大爆発したようなラッパーだけど、めちゃくちゃ職人なのですごく作り込んでくるんですよ。僕も意外だったんですけど、“これで大丈夫かなぁ?”とか不安そうに言いながらも持ってくる音は絶対的なクオリティに仕上がっていて、『Saturn』は一聴すると超散文詩的にポエトリーっぽく乗せているけど、途中の部分だけを何度パンチインしたりダブッたりしても絶対に同じ音、同じ言葉が入ってくる。彼の中でも自動的にそうなるぐらい仕上がっていて、それは結構びっくりしました。歌詞も彼の中でテーマは一貫していて、それこそ今の彼の意志なんでしょうね。20代ぐらいまではある種の傷を負っていない状態だったからかもしれないけど、ここまで響くものじゃなかった気がします」
 
――最初に『Saturn』を聴いたとき、来門さんのラップは語り部であり詩であり、ポエトリーリーディングなのかなという印象でした。なので、今のお話に驚きつつも納得できます。
 
「僕はいつも休符のために演奏していると言っていますけど、音が止まって何もなくなったときにふと思い出されるものがある。休符にこそ宿るものがfある。だから、いなくなるときのためにガシガシ音を出しているんですよね。彼はきっと、ラッパーとしてそれをやりたいんだと思う。『Night hawk』の中盤で全員がいなくなってピアノとシンセだけになったときに、来門のやりたいことが出来るんじゃないかなって。その精神性を共有できていることが、RED ORCAの作品がうまく形になっている理由の1つですね」
 

 
――前半の日本語ラップのパートですね。
 
「そう。そこへ京ちゃんが入ってくることで、さらに押し引きのコントラストがはっきりする。京ちゃんは大人に混じってやってきただけあって、若いながらもその辺の機微が分かっているんですね。その2人の嗅覚とセンスと今のキャリア感、人生観。その合致しかないですよね。このバンドって、RIZEに賢輔が入ったときのさらに大げさなバージョンというか(笑)。KenKenが20歳で俺らも26とかで若かったけど、自分の弟と一緒にやることが自分の人生におけるミュージシャン、バンドマンとしての最終的な形なんだろうなとうっすら思っていたけど、まさかそのタイミングがもう1回めぐってくるとは思わなかった。京ちゃんは賢輔の一番弟子みたいなもので、10代の頃によく現場に連れてきたりしていたから、一緒に演奏をしたこともあって。まさか、そいつと一緒にバンドをやるなんてね。要は、僕の弟の流派なわけですよね。で、振り返れば弟に音楽をインストールしたのは僕なわけで (笑)。“こういうの聴けば?”とか言って部屋で聴かせて、彼がベースを始めて。そういうこととかもすごく思い出しますよね。わぁ、老け込みたくないなぁと思いながらも」
 
――老け込む(笑)。金子さんの歴史ですね。
 
「それが何周も回って、京太郎が生み出されて僕のもとに来て……それも“キモッ”って思うんだけど(笑)、それをこうやって形にできて残せたことがまずは素晴らしく嬉しいことだし、ライブはもっと生もので一期一会だからもっと貴重なんですよね」
 
――『beast test』のミュージックビデオでもライブの様子は伺えますが、生の迫力や熱量ははるかにすごいだろうなと想像します。
 
「手前味噌になっちゃうけど、ライブは相当いいですね。見た人は忘れないだろうなって思います。これは最大の賛辞ですけど、来門と京ちゃんが前でわちゃわちゃやっているのを見ていると超ウケるんですよ。ドラマー冥利に尽きるしパスの出し甲斐がありますね」

 
 
ねじれや抑圧は創造を生むし、困難を超えた先にあるのは喜び
喜びを共有することが必ず待っているから、それを見届けずにはいられない
 
 
――『LOBO~howl in twilight~』も金子さんのソロ『Fauve』(’16年)収録のバージョンとはまたまったく違う装いで。聴きながら、タイトルになっている『WILD TOKYO』をふっと思い出す瞬間がありました。
 
「そのタイトルも来門。どう考えても来門のセンスですよね。最初に聞いたとき、“WILD TOKYO=ワイルドトウキョウ?バカじゃないの?パンチあるじゃん!採用だわ!”って(笑)。これだけカッコいい音楽をやってるんだから、それぐらいダサいタイトルの方が斜に構えるよりずっといいし、ありがたいことにiTunesのチャートで1位になって改めて『WILD TOKYO』って字面を見たときに、めちゃめちゃインパクトあって笑いましたね。『Night hawk』って曲名も、ROSを組んだときにバンド名の候補に来門が“Night hawkはどうかな?”って出したら“クソダセェ”って却下されたんだって(笑)。それを覚えてたから、あの曲ができたときにどういうタイトルを付けて送ったらウケるかなと思って“曲できたよ。『Night hawk』”と送って。しかもそれがアルバムの推し曲になったりして。そういうのを採用するバンドなんですよ (笑)。大好きですね、そういう悪ふざけが」
 
――来門さんはそうやって正面からズドンと行く感じと、真逆の繊細さを持ち合わせているところが面白いですね。
 
「もともとリリシストとしての文学少年の面と、ちゃんと厨二病でヒロイックな視点も持っていながら、利己的ではないからね。日の目を浴びるために頑張るんだっていうワーキングクラスの一面と、ちゃんと何度も負けている傷もあって。そこらへんが絶妙なんですよね。ミクスチャーの源流はパンクの精神に近いものがあるので、来門のちょっとピエロな一面の根底にあるのもパンクやハードコアの精神なんですよね。滑稽だったり、愚かしくて良いんですよね。そうでありながら、ゴリゴリにかっこいい音を出しているというのがクールネスの1つのあり方だと僕は思います」
 
――その方がリアルで人間味を感じます。PABLOさんのギターも雄弁で存在感があります。
 
「PABLOとはこれまでずっとライブをやってきた強みがここで出ましたね。『LOBO』、『ILLUSIONS』の水滴を垂らすようにポンッ、ポンッ、ポンッと置いていく空間系のギターは彼の大きな強みでもあるし、そのあたりはこの3~4年、僕と一緒に草間さんのもとで磨いてきたところでもあると思うんですね。彼と僕はもともと性格も、ミュージシャンとしての性質も似ていて、お互いに20分ギターソロやりますみたいな人じゃないし、全体を見てチューニングしていくのが得意なんですね。このチームは全員がディレクション能力がすごく高いから、こんな音楽をやっているくせに超民主主義な現場なんですよ。グッズもどれがいいか多数決で決めるし(笑)」
 
――『WILD TOKYO』が今このときにリリースされたことも意味があるように思います。このアルバムの騒々しさや猛々しさにこそ癒されるもの、鼓舞されるものがあるし、私もこのアルバムを聴くことで自分の中に想像以上に鬱屈しているものがあったことに気づかされました。これまで体験したことのない日々を生きている2020年にこの音楽を聴いていたことを後になっても忘れないと思います。
 
「チャートの1位になってスマッシュヒット的なことになったのは嬉しかったし、まずは受け入れてもらったんだなと思いました。やっぱり音を発することの最大の目的と喜びは、人の人生のサウンドトラックになることですよね。最悪だと思うような目に遭ったときに流れていた曲だったり、いい報せが来たときに聴いていた曲。音楽って、直接的に思い出とか景色で残るんですよね。このアルバムがそういうものになって、少なからず聴かれているということが数値化されたことはメンバー自身も喜んでいて、京ちゃんは速攻お母さんに電話していたし、俺にも“嬉しいっす!”ってかかってきました (笑)」
 
――この曲がいつか目の前で鳴る日を、生で音楽に触れられることを楽しみにしています。
 
「そうですね。昨年のライブではまだ誰も曲を知らないにもかかわらずめちゃくちゃ盛り上がってくれて、それも最高だったけど、作品が発売されてからのライブは僕らがおもてなしする場になる。そうなると“ライブ=曲が育てられる場”になるんですよね。放流して自分のものじゃない瞬間になってから、自分たちの産み落としたものと対面するのはステージ上だから。ライブのたびに同じ曲をやっているのに、ステージごとに全然違うものになる。そうやって、最初に放ったものとは全然違う曲になっていく。だからライブが一番好きだし、僕もこれまでいろんな形であらゆる現場に立ってきているけど、ライブに勝るものはないですね。何回でも言うけど、ぶっちぎりでライブが一番です(笑)」
 
――それは、見る側も同じでしょうね。
 
「RED ORCAは音源よりもさらにライブが良いし、そういうメンバーを集めていますからね。ただ、こうなった以上ライブは今のところどうなるか分からないけど、そこに対して何を準備できているかが重要ですよね。RED ORCAに関してはすでに2ndに着手していて、1stではみんなを口説く手前、基本的には僕が曲を作りましたけど、2ndからはみんなのアイディアが欲しいな……と言うまでもなく草間さんがすでに何曲か作っていたりして。僕の方で精査して、ゴリッとアホな感じの音を入れて来門に渡すみたいなことはもう始まっているんですね。今、世界的にライブができない状況で、このときに何ができるかといえば曲を作りまくることだよねって話していて。安心してライブをやれることが一番良いけど、コロナウイルスに関しては治療法が、まだ解明できていなかったり分からないことが多すぎるし、ペストとか世界恐慌とかもこうやって始まっていったんだなと思いますよね。ただ悲観していてもしょうがないので、慎ましくも刀を研ぎましょうと。もちろんライブは一番やりたいし、どうなってもみんなを盛り上げる準備はできているということは忘れないでいて欲しいですね」
 
――この先のための準備はいくらでもできますからね。
 
「みんなが家でじっとしてなきゃいけないときに、部屋の中で転がりまわって盛り上がれるものと、ひとりで静かに聴くのにぴったりな僕名義で出せるもの、どっちもたくさん曲を作っていこうと思っています。今回の『WILD TOKYO』は、まず最初の4曲で分かってもらいたかったからこのラインナップにしたんですね。頭からドーン!イェーイ!ドドドドッ!ガガガガッ!ヒャッハー!みたいに最初に全部持ってきちゃおうよって。で、後半で急にスケベなアラフォーが出てくるみたいな(笑)」
 
――アハハハ! たしかに、冒頭の激しさは何だったのかと思うぐらいの落差が最後の2曲にはありますね。
 
「マジで来門に言いましたから。“この辺でスケベなアラフォー見せてよ”って。それが『Saturn』『Rainbow』(M-10)です。で、アルバムのタイトルが『WILD TOKYO』。最高でしょ?(笑)」
 
――(笑)。
 
「最初はデジタルリリースのみで考えていたけど、盤が欲しいという声を本当にたくさんいただいてて、冗談じゃなくこのアルバムに寄せられた唯一のクレームが“なんでCDがないんですか?”だったんですよ。なので、ライブ会場限定で手に入るようにしようとも考えていたんだけど、何かいい方法を考えます。なんだって楽しんだもの勝ちだから、ヤバいものを作るぞと思うし、みんな頑張ろうぜって。このご時世ならではの、握手できない代わりに足や肘をぶつけ合って挨拶をしている映像、見たことあります?」
 
――あぁ、あります。
 
「ああいう意識改革も始まっているし、そうやってお互いに距離を置いた上で分かり合おうとすることは、人間関係的にも決して悪くないことだと思うんですよね。ひとりでぽつんとやっている空気も孤独じゃないし、手を取り合うことだけが優しさじゃない。そもそも優しさって何だろうとも考えるし、今のこういうねじれや抑圧はものすごく創造を生むし、いちばんクリエイティブなんですよね。これを超えた後にカウンターカルチャーの出番はやってきますからね。そのときは楽しいだろうなって、めちゃくちゃ想像しちゃうよね。それは破壊じゃなくて、困難を超えた先にあるのは喜びで、やっぱり人生賛歌というか人間賛歌なわけですよね。喜びを共有することが絶対に待っている。そう思うと是が非でも生き延びて見届けずにはいられない。RED ORCAを始めて良かったと思いますし、次はもっと尖った曲も歌ものもクソハードコアもある、さらにカッコいいものになりますから。待っていてください!」

text by 梶原有紀子



(2020年4月28日更新)


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Profile

レッドオルカ…金子ノブアキ(ds他)、来門(vo)、PABLO(g他)、葛城京太郎(b)、草間敬(syn他)。RIZEのドラマーでありAA=やソロでも活動している金子ノブアキによる新プロジェクト。’19年11月1日に『ORCA FORCE』を配信リリースしたのに続き、翌週11月8日には金子が音楽監督を務めた映画『MANRIKI』の主題歌として書き下ろした『MANRIKI』をリリース。この時点ではまだメンバーが明かされていなかったが、これまで金子のソロ作品やライブにおいても重要な存在だったマニピュレーターの草間敬とPABLO、RIZEと同時期にsmorgasでシーンに登場した来門に、10代の頃に組んだドラム&ベースのデュオKyotaro&Rikuoでの路上ライブがSNS上で大きな話題を呼び、さかいゆうやLiSAの楽曲にも参加してきた葛城京太郎という強力な布陣に。’19年12月に東京、大阪でライブを開催し、’20年2月にはcoldrain主催の『BLARE FEST.2020』に出演。オルタナティブやミクスチャーを軸に、金子がソロ作で鳴らしてきた1つ1つの音を手ずから磨くように編んだアンビエントや、極彩色の絵画のようなトライバルもちりばめた初のアルバム『WILD TOKYO』を’20年3月20日にデジタルリリース。iTunesロックチャートで1位に輝いた。映画『MANRIKI』は韓国の第23回プチョン国際ファンタスティック映画祭において、ヨーロッパ国際ファンタスティック映画祭連盟(EFFFF)のアジア賞である「EFFFF Asian Award」を受章。

RED ORCA オフィシャルサイト
https://redorca.tokyo/