「自由さと不自由さを背負った上で解き放つ やり場のない怒りや疑問を感じる人には聴いてほしい」 SOFTTOUCHが語る“自由と不自由の中にある希望” シングル『自由意志/ツボミが開くように』に込めた力
昨年、11年ぶりに復活した4ピースバンド・SOFTTOUCH。1998年に同じ音大の友人同士で結成、2003年解散。2007年春、過去のEP2枚を集めたアルバム『SOFTTOUCH』をリリースし、約10年後の2016年夏に再び活動を開始する。2018年にはASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文ことGotch率いるonly in dreamsから11年ぶりとなる3rdアルバム『リビルド』をリリースし、バンドを“再構築”した。そこからはコンスタントに自主企画イベントを開催するなど精力的に活動を行い、今年11月には両A面シングル『自由意志/ツボミが開くように』を配信とライブ会場限定でリリースする。『自由意志』は既に10月11日に配信されており、『ツボミが開くように』は11月8日(金)に配信スタートとなり、同日には、下北沢GARAGEにて行われるシングル発売記念ワンマンライブ『解放#7』でライブ会場限定CD『自由意志/ツボミが開くように』が発売される。今回ぴあ関西版WEBでは、佐野史紀(vo&g)と星野誠(ds)にインタビューを敢行。今作には自由なはずの世の中に存在する不自由さ、ロスジェネ世代が抱えるやり場のない怒りや不条理を内に秘めつつも、過去や今を肯定して、希望を失わずに日々を生きようという前向きなメッセージが込められている。2人に制作の裏側を語ってもらった。
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音楽活動を止めたことは一度もなかった
――SOFTTOUCHの結成自体は1998年で、5年間活動されたのち、2003年春に解散されています。
佐野 「新しい音楽を新たにやりたくなって、このままバンド活動を続けることはできないと判断させてもらいました」
――2007年に解散した状態で1枚リリースをされていますよね。
佐野 「活動中に出してたEPが2枚あって、それを2 in 1という形で1枚にしたものを出したいとお話いただけ、是非ということで」
――その時はリリースだけだったんですか?
佐野 「ほぼそうですね」
――解散された後はメンバーさん同士の交流は?
佐野 「普通に会ってました」
星野 「お酒飲んだりする仲でした」
――解散後も仲良くされていたんですね。
佐野 「そうですね」
――2016年夏にバンド活動を再開されるわけですが、再始動の経緯をお聞きしたいんですけども。
佐野 「僕が皆に会いたくなり、“飲もうよ”って電話しました」
――では、メンバーさんと離れてる期間もあったんですか?
佐野 「いえ、離れてはないんですが、遊びたくなって」
――音楽活動自体はずっとされていた?
星野 「音楽活動的に止まってる時期は全くなかったですね。佐野個人名義のソロもありましたし、僕と佐野は別でベッドタウンという新しいバンドもやりつつ、ベースの渡辺も個人で音楽活動してたりとか。その中で佐野がたまたま飲みたくなって、声をかけて集まった感じです」
佐野 「ずっと日常的に曲を作っています。それぞれが形はどうあれ、身近なところに音楽がある生活を繰り広げてますね」
――なるほど。久しぶりに4人で集まって、バンドをやろうと盛り上がったんですか?
佐野 「スタジオ入りたいねという話になって。すぐにデモを作って“こういう曲あるんだけど”って皆に渡して、そこから始まりましたね。そのデモをSNSにアップした時に、ゴッチから“とても良いね”とお声がけがあり。そういうのが励みになって今に至ります(笑)」
――それでonly in dreamsから出すことになったんですね。SNSに曲をアップされて、『リビルド』を作るまで、メンバー間で相談やミーティングはされたりしましたか?
星野 「そんな会話はあった気がします。あんまり覚えてないけど(笑)」
佐野 「ゴッチが“良かったよ”と言ってくれたので、“もっと聴いてよ”って曲を送らせてもらったんですよ。そこからやり取りさせてもらって、音源を出そうかって話になって、“こういう話があるよ”とメンバーに伝えて、皆も“やるぞー!”って盛り上がりましたね」
――最初、アジカンと同じインディーズレーベルUNDER FLOWER LABELにいらっしゃったということで、ゴッチさんともそこでつながりはあったんでしょうか。
佐野 「はい、大阪でライブ一緒にやらせてもらったり、交流はありました。」
星野 「入った時期は多少違いますが、同時期に活動してましたね」
佐野 「同時期で同年代だったので、共感できることが多くて」
――アジカンの大躍進を間近で見られていたということでしょうか。
佐野 「そうですね」
――その時、どんな想いでいらっしゃいましたか。
星野 「羨ましいのもあり、誇らしいのもあり、頑張ってほしいのもあり」
佐野 「身近でそういう人がいるというのは感慨深かったです。応援する気持ちが強かったですね」
星野 「おこがましいですけど、こっちも負けてらんないって気持ちも多少はあったような気がします」
佐野 「それは応援したい気持ちの裏返しでね」
――お互いの動向を見守っておられたんですね。ゴッチさんはお2人にとってどんな存在ですか ?
佐野 「音楽家として豊富な経験をお持ちの方なので、自分の見えないところを見ながら何かを指し示すシーンがあるんですよ。一緒にいてワクワクして楽しいよね」
星野 「うん」
――音楽以外のお話もされるんですか?
星野 「もちろん。一緒に制作する時は、雑談をたくさんしながら、和やかな雰囲気が常にある中で、どうしたら良くなるかということを楽しみながら考えています」
佐野 「音楽家としてゴッチを、尊敬しています。そこに触れる時はちょっと興奮します」
――スタジオでは音楽家としての面が強く出ますか?
佐野 「コミュニケーションをとる角度ですね。自分の中で一方的に敬意が入ります。普段の時もそうですけどね」
――前作『リビルド』に引き続き、Turntable Filmsの井上陽介さんが一緒にプロデュースで入られていますが、井上さんがジョインしたのはどういう経緯ですか?
佐野 「ゴッチの紹介です。“初めまして”から始まりました」
――2人でプロデュースするとなった理由は?
佐野 「何だろう、具体的な理由は僕も聞けていないんですけど、サウンド面で陽ちゃん(井上)の色を入れていただいたのは大きかったです」
星野 「実際一緒にやってみると、井上くんは知識的にも技術的にも、ものすごくプロフェッショナルな方だったので、ギターアレンジとかも相談してね」
佐野 「あと、あのお二方が揃うと、空気がゆるゆる〜って(笑)」
星野 「確かに(笑)」
佐野 「陽ちゃんは京都出身なのもあってか、芯は残しながらゆるい空気にしてくれる感じがあって。僕らが“こうしたい”とか“うまくやりたい”って気持ちが先行して熱くなった時は、“どうしはりました”って」
星野 「やわらかい雰囲気なんだけど、ちゃんと締めるとこは締めて、鋭い指摘を入れてくれました。こちらの意思を尊重してくれるプロデュースなので、“ここのフレーズはこうしろ”とか、“その楽器を入れろ”ということは全くない。こちらのやりたいことに対して“こういう方法もあるよ”とか、“こうやってみるのもありじゃない?”とか、彼らの豊富な経験からアドバイスをもらいつつ制作していく感じなので、とてもやりやすく、楽しくできてますね」
――ゴッチさんと井上さんのプロデュースは今作が2枚目でしたが、またやりたいと思われますか?
星野 「やりたいです」
佐野 「絶対やりたいです。指南いただきたいです」
再構築した希望の光から、不自由さの中の自由へ
――再始動後、精力的に活動をされているイメージですが、やはり『リビルド』のリリースでエンジンがかかりましたか?
佐野 「感想や反応をもらえたりするのが嬉しくて、“またやってみる?”って」
――SNSの反応ですね。
佐野 「すごく現代的ですよね。リアクションがダイレクトに入ってくるので、良いこともそうじゃないことも全部受け止めることができる。活動の励みになりますね」
――『リビルド』を改めて振り返ると、どんな作品でしたか?
星野 「11年ぶりに出した作品で、僕ら1度解散はしてますけど、何年ぶりだからとか、あの時より年をとったとか、後ろ向きな気持ちは全然なく、ほんとにやりたいことに精力的に前向きに取り組んだ結果、形になったと思いますね」
佐野 「“再構築”というテーマが前提で、再度構築したもので何が見えるかというと、人は日の光や未来、希望溢れる音楽に魅かれるんじゃないかなと思うんですよね。そういう作品にしたいと思っていました」
――今作の『自由意志』と『ツボミが開くように』は、現代社会に閉塞感を感じる一方で、それでも自由になろうというメッセージを受け取ったんですが、『リビルド』の流れを引き継いているのかなと感じました。制作にはどのように入っていかれたんですか?
佐野 「アルバム『リビルド』が完成した日に、ゴッチに『自由意志』のデモを渡しました」
星野 「『リビルド』ができた時点で、新しい曲がたくさん出来ていて、その中の一部ですね」
――『リビルド』と同時期に制作されていた?
佐野 「同時期というか、ずっと続いてる感じです。『リビルド』を作ったから止まってまた制作ではなく、継続して作ってるので」
――なるほど。ゴッチさんの反応はどうでした?
佐野 「佐野の前のめりな姿勢に“いいね、おもしろいね”って笑ってた(笑)」
星野 「喜んでくれてました。すごいねって(笑)」
佐野 「ゴッチのライブを見に行かせていただいて楽屋で挨拶させてもらった時に、“佐野くん、『自由意志』録ろうよ”って声がけいただいて、是非って」
――『ツボミが開くように』を一緒に入れようとなったのは?
佐野 「もう1曲タッチチョイスで何かあればと話をいただいたので、この曲にしました」
――なぜこの曲を選んだんですか?
佐野 「テーマとして、“自由さと不自由さ”、相反するものなんだけど、両方あって1個を生み出す力を、2つの歌に込めています」
――それぞれについて、どういう曲か教えていただけますか。
佐野 「『自由意志』のサウンドは、楽器の格好良い鳴りや、エモーショナルで情緒的な面を前面に出したい、との想いで録りました」
――SOFTTOUCHの音楽には、フレーズがループしているものが多いと思うんですが、『自由意志』もそうかなと。
佐野 「繰り返しって気持ちが良いんですよ。奇をてらうのもありなんですが、ループが好きですね。毎日、朝日が昇って日が沈むというリズムが自分の中で影響あるのかなと思っていて、その大きなリズムを音楽に集約してみたいのかもしれないです」
――歌唱面で意識されたことはありますか?
佐野 「自由な意志を求めるのは、不自由を感じるがゆえで、不自由があるから自由がある。不自由の中にある自由への力を楽曲に込めたいと思いながら作りました。力強さだけではなく、草木を愛でたり何かを愛する心はすごく普遍的で、力があるものだなと思って、そういう歌を歌いたいと思いました」
――サビの“草花愛でる気持ちと いばらを越え掴むもの”というリリックですね。この力は人間が本能的に持ってる強さですよと言われてる気がしました。相手の喜びを願う優しさも歌っておられますよね。星野さんは『自由意志』、どんな楽曲になったと思われますか?
星野 「テンポも早いですし、エモーショナルな熱い曲だと思います。繰り返しの気持ち良さはあると思うんですけど、そこに盛り上がりを作る難しさもあって。やりすぎちゃうと歌を押しのけて楽器が前に出てしまうこともあるので、シンプルだけど出しすぎず、引っ込みすぎず、山場を作るのが結構難しいなと思いました」
佐野 「ある意味引き算ですね」
星野 「足しすぎると、やりすぎ感が出たり、聴いてる方も疲れたり。バランスが絶妙だと思いますね」
佐野 「過剰なドラマチックは今の我々にはまだ早いというか。等身大の音楽を体現したいと思ってますね」
――テンションのバランスは皆さんで相談して決めていくんですか?
佐野 「もちろんです」
星野 「テンションの話は常にしてるかもしれないですね(笑)」
佐野 「テンションって、天気や体調によって感じ方が全然違うんですよね。歌にすごいガッツが出たり、リズムに躍動感が出たり、逆も然りなので、そこをいかにコントロールするか。ここでジャストにしようぜというテンションを、4人の共通言語でプロトコル(=ルール、約束事)にしてる感じはありますね」
――日々のテンションの上下を合わせていくことを心がけている?
佐野 「日々の凸凹を理想に近づけることではなく、その都度テンションを感じながら、ヴァイブスの最上級を出すことに努めてます」
星野 「なんなら体調によってオッケーラインが微妙に日々変わるので(笑)」
――そうなるとレコーディングの日の体調が大事ですよね。
佐野 「コンディションもありますよね。ほんとに音楽はテンションやヴァイブスで光ると思います」
星野 「1番難しくて面白いところかもしれないですね。わかりやすいのは曲のテンポだと思うんですよ。あれってメトロノームなんで、数字で表現できるんですけど、同じ数字の曲でも、演奏の仕方、気持ちの乗せ方や勢いのつけ方で表情が変わっちゃうし、変えられる。何を良しとするかは僕らの基準というか、美学みたいなところで判定する部分があると思います」
ロスジェネ世代が2020年間近に鳴らす音
――『ツボミが開くように』は何を伝えようとしていますか?
佐野 「最近特に強く思うのは、何か発言したり、行動表現することで誰かと出逢い、また、すれ違うこともある、ということ。悲しみや、楽しさだけで完結することはできない。そんな複雑な要素の中から解き放たれるパワーは力強い。そういう意味を込めました」
――ちなみにジャケットを古書店にしたのはなぜですか?
佐野 「東京・神保町にある矢口書店というお店なんですけど、素敵な場所だなと思っていて。よく通る場所なんですけど、“どうですかね”と提案しました」
星野 「『リビルド』と並べると、何となく対比にもなってるけど、共通項もあるね」
佐野 「『リビルド』は俯瞰であり、今回のも俯瞰だけど、もっとパーソナルなものはあるかなと思います」
――このシングル、どういう人に届いてほしいですか?
星野 「SNSが普及して、皆が簡単に発言できるようになったけれども、いろんな制約や自粛ムードがあったり、常に何かに気を使いながら生活をしなければいけないような気がしていると思うので、日々の生活の中でこれを聴いてもらえたらいいんじゃないかなと思います」
佐野 「目眩がするような素晴らしくもクソでもある世界を受け止めて自身を解き放つ感覚。僕らの年代は氷河期世代、ロストジェネレーションとか呼ばれる世代なんですけど、その世代の人間が2020年間近に鳴らす音というので、社会に不自由さと自由さを“このやろう”ってぶつけた作品ですね。なので、社会や世界に対して疑問を感じる人にも聴いてほしいですね」
――ロスジェネ世代は不遇の時代と言われていますからね。自分たちではどうしようもないのに、バブル崩壊後の不況や、政府の施作に人生を翻弄されてしまっている。
佐野 「今の若い人たちは氷河期世代と若干逆目なんですよね。でもどこかで社会に対して“何でやねん”っていうタイミングがくると思います。そういうところに引っかかったらいいな。多くの人に聴いていただきたい。いろんな感想を知りたいです」
――11月8日(金)に下北沢で自主企画のワンマンライブ『解放#7』があります。“解放”というタイトルをつけたのはなぜですか?
佐野 「楽しくやろうや(笑)」
星野 「皆疲れてるから、“解放~!”っていうことではないの?(笑)」
佐野 「そういうのもある」
星野 「(笑)」
佐野 「楽しむには解き放つのが1番良いんですよね。そういう思いを込めて“解放”とつけてます」
――次の作品のことも考えてらっしゃいますか?
佐野 「もちろんです。人の心に残るような音楽を作りたいと思ってます。楽しみにしていてください」
(2019年11月 7日更新)
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