ジャンルの境界面を自由に揺蕩う音を生み出す
んoonとはどんなバンドなのか
ボーカル・JCとベース・積島にインタビュー
んoon(ふーん)は、ボーカルのJC、ベースの積島直人、キーボードの江頭健作 、ハープのウエスユウコからなる4人組バンド。2014年にベースの積島を中心に結成された。2018年6月にFLAKE RECORDSから1st EP『Freeway』をリリースしたことをキッカケに、JCがtoeのアルバムに、ウエスがTENDREのシングルに参加し、注目を集める。ロングセラーとなった1st EPから1年が経ち、2019年6月5日、待望の2nd EP『Body』がリリースされた。JCのささやくような柔らかい歌声とピアノが独自の世界へと誘う『Lumen』(M-1)、鼻歌とフィールドレコーディングの雑踏から構成される『BodyFeel』(M-2)、ビートがきいた『Summer Child』(M-4)、二次元のキャラや動物がどんどん合体していく不思議なMVの『GUM』(M-3)など全6曲。“ジャンルを無駄にクロスオーバーさせるより、その境界面に揺蕩うことを重視する”とのコンセプト通り、彼らの楽曲は実に幅広い表現を用いてサウンドメイクされる。知らぬ間に頭の中でループするメロウな歌声と良質なメロディー、意味深な歌詞。1度作品に触れると、良い意味でのめり込んでしまう、中毒性のあるバンドだ。同時に未知の部分も多い。んoonは一体どんなバンドで、どのように作品を作っているのか。全容を明かすべく、JCとリーダー積島に話を聞いた。
んoonはご縁系バンド
――まず、んoon結成の経緯を教えてください。
積島「私が友人だったハープのウエスさんと後輩の江頭を誘い、最初は3人で始めました。2年後、ウエスさんが“ボーカルがいます”と知人を紹介してきました。それがJCです。そして実は私、10年前にJCと知り合いでした」
――何のつながりだったんですか?
JC「よく見かけてた感じです」
積島「要は偶然共通の知り合いがいたんですね。僕はウエスとJCが知り合いだったのも知らなくて」
JC「ゆーこ(ウエス)とはほんとにたまたま出会って、“バンドやってるんですー”って言ってて、リーダー(積島)と会ってから“あれ、知ってる”っていう感じになったんだよね」
――最初積島さんはバンドをやりたいと思って声をかけられたんですか?
積島「んoonの前に僕らずっと、変なノイズ系の音楽を個人でやっていて。その時ウエスさんは別のフィールドのノイズ系で活躍してた人なんです。で、そろそろ小綺麗な音楽をやりたいなと思って、彼女に声をかけたんです」
――最初はインストだったんですか?
積島「そうです」
――2年経ってボーカルを入れようという話になった?
積島「編成を見てお分かりかと思うんですけど、どういうパートや音が欲しいかを決めてなくて、知り合いや、一緒にやりたいと思った人たちができるパートで増えていったバンドなので、ボーカルをそこまで入れたい感じもなかったんです。でもボーカルが見つかったということは入れるタイミングなんだろうというわけで、JCが参加したんですね」
――それで今の音楽性になったんですね。
積島「そうです。JCの前で言うのもあれですけど、JCがハーッと一声放つと、俺らがやろうとしていたものとは比べものにならないほどの説得力があったので、この4人でちゃんと鳴らせる音を作っていこうと思いました」
――JCさんの歌声がバンドに大きな影響を与えたと。
積島「でも皆ちょいちょい目立とうとして、小技を挟もうとしてるのがお聴きいただけるかと思います(笑)」
JC「出たがりが多いですよね。私が1番出たがらない」
積島「そうですね。SUGIZOが3人いるバンドと捉えていただければ」
――なるほど(笑)。バンドのコアコンセプトが“直観と思いやり”というのは、どういうことなんでしょうか。
積島「我々のバンドはアイデアを持ってる人が多いんですね。でも“これやりたい”と言う時には、内容よりも言い方が大事。言い方にカチンときて“やりたくない”と言っちゃったりもする。だから皆のクリエイティビティを壊さないように、なるべく伝え方を重視しようというのが思いやりです」
JC「スピード感があるから、伝え方がちょっと雑になっちゃうんですね?」
積島「そういうことです。あともう1つエピソードがあって、JCが前に“我々は住んでる惑星が違う。惑星を超えるには素直さしかない”と言ったんですよ。それが元になってます」
――ほう。
JC「気まずいじゃん(笑)」
積島「真面目な解釈をすると、我々は聴いてきたものがかなり違って、R&B系やソウル系が好きな人もいれば、プログレが好きな人もいる。自分がカッコ良いと思うものが相手にとっても同じとは限らないんですよね。お互いの想いを薄まることなく100%出すには、やっぱり思いやりを持ったコミュニケーションが大事かと思います」
――楽曲はどういう作り方をされているんですか?
積島「前提として、曲も詞も全員でやってます。僕が手グセのリフを持っていって皆が彩色していくパターン、JCが鼻歌を持ってきてコードを当てていくパターン、ハープのウエスさんがハープじゃなくDTMでかっちりしたデモを作り上げてきて、それをまた分解していくパターン。そこにキーボードの江頭が非常におしゃれなアレンジをしてくれます」
――歌詞は?
積島「歌詞は基本JCか私が書いてます。鼻歌から言葉を当てはめるのがJCで、自分は書いたものをJCに投げて、メロを作ってもらったりします。あとは足りない部分を皆に投げたり、比率は違えど全員でやってますね」
――なるほど。
積島「1st EPの頃くらいから、1人の頭の中で作ったものを皆に振っていくことにおもしろみがなくなっちゃったんですね。それよりも、話し合いや否定や肯定を繰り返して、他人と関わって、もたつきながら作ったものの方がおもしろいねって。だから根っこはその部分を押していこうとなったんです」
JC「球のぶつけ合いみたいな感じで(笑)」
――4人で作られているからこそ、予想できない広がり方をするんですね。
積島「ごめんなさい、そうなんですけど、そう言うと何かおもしろくないバンドになっちゃうんで。皆が好き勝手やってるというか、我々はウケを狙いたいですね」
――不思議なバンドですね。本能的に音楽をやっている感覚が伝わってきます。歌詞にも意味があるようなないような。
積島「ありがとうございます。歌詞に関しては完全に後者ですね。聴く人が心情を代弁しそうな気配のあるものを避けたがるきらいはあるかもしれない。“この人は私のことを歌ってくれてる”とか、物語を投影されるのはちょっとね」
JC「それは聴く人の自由じゃん。作る側に込める意味はないかもしれないけど、受ける側は好きに聴いていただいて大丈夫ですよ」
積島「でも1回どこかで裏切りたいので、PVとか気持ち悪い感じの素晴らしい作品を作ってます」
JC「MVも狙ってるというよりかは、作ってくれる谷口(暁彦)さんの感性がすごいんです。我々は結構ご縁系のバンドで、リーダーと私が知り合いだったのもそうなんですけど、谷口さんも元々リーダーがノイズ時代に組んでた相方で」
――へー!
積島「谷口はメディアアートの分野で素晴らしい活動をしていて、映像もやってるんですけど、隣の中学、同じ高校で、親友でもあって、作品も尊敬できるんです。やっぱりすごく自信がある曲ができた時は、信頼できる知り合いにちゃんとお願いしたい。だからディレクションや指示は一切せず、全部信頼してお任せしたら、あんな素晴らしいのが出来てきました(笑)」
――本当に不思議な映像ですよね。
JC「私たちも出来上がるまでどんな映像か知らないんです(笑)。それがめっちゃ楽しみです」
――んoonが音楽で表したいことを端的に言うとしたら、何ですか?
積島「ちょっとズレますけど、JCが入る前、初めて3人でスタジオに入った時、キーボードの江頭に“今日どうだった?”と聞いたら“ふーんって感じ”と言われて。これがバンド名の由来なんですね。だから基本は表現が“ふーん”で終わればいいかなと思ってますね」
JC「はっはっは(笑)」
積島「伝えたい思いとか気持ちは、俺、メールとか言葉で言えるし(笑)」
――別に音楽で言わなくてもいいと。
積島「そうそう」
――リスナーから“んoonの音楽でめちゃくちゃ高まった!”といった反応を求めているわけでもないんですか?
積島「付随的にそうしていただけると非常にありがたいし、何よりの感動ですけど、あんまり目的には置いてないですね。多分そうすると“こうやるべきだ”とか、自分たち以外の基準が出来ちゃうから」
DAWAさんとの出会いで、知らない世界を知った
――FLAKE RECORDSのDAWAさんとの出会いは?
JC「私たちがずっとお世話になっているツバメスタジオの君島結さんが、音源をDAWAさんに送ってくださっていて、フィートバックをいただいたんです。1st EPは、自主盤とFLAKEからの2回リリースさせてもらっているんですが、最初は全部手弁当でやっていて、amazon DOD(amazonが注文を受け、CDを製造・出荷するサービス)を使ってCD化してて。それからDAWA砲(ものすごい勢いとスピード感で発信していくことをバンド内ではこう呼ぶ)にあい、知らない世界を教えてもらいました」
積島「CDのことをフィジカルって言うって、初めて知りました」
JC「そういう業界用語的なことからね。でも1番嬉しかったのは、DAWAさん含め、パッションベースですごいスピード感を持って、いろんなことを形にしていくカッコ良い人たちが周りにいっぱいいることに気付けたこと。感動しながら疾走した去年1年間でした」
――DAWAさんは情熱と愛情がありますよね。
JC「DAWAさんのおかげでtoeの山嵜さんとも一緒にやらせてもらえたり、ほんと足向けて寝れないですね(笑)」
――では、1stを出してからバンドの状態は変わりましたか。
積島「変わりました。それまでは2週に1回ぐらい練習場所にふわっと集まってたんですけど、1st以降はライブにすごく誘っていただいたのもあり、練習時間が一気に増えましたね」
――バンドとしてもスピード感が増したと。
JC「そうですね。いい筋トレ。筋肉がつき始めてます」
新しい芽が開いた2nd EP『Body』
――『Body』の制作は、1st EP『Freeway』が出てから進めていかれたんですか?
積島「半分そうです。というのは、『Freeway』を配信でリリースした時点でいくつかの曲は出来上がっていたり、1stに間に合わなかったけど、新しい曲は数曲あったので。それと並行して、何とか形になるまで曲を作って、ライブを経てアレンジをやり直して、これでいこうとなって、3月か4月くらいに録音しましたね」
――先ほど、全員の掛け算での制作にシフトチェンジされたとおっしゃっていましたが、前作と今作で変わった部分はありますか?
積島「曲を作るのは、何回かライブで試して変えていく作業が多いので、完成まで時間がかかってたんですけど、数曲は期日が迫ってくる中で、突貫でやろうみたいな話になって、“明るい曲、踊れる曲”ぐらいの、ほんとにわかりやすいもので、テーマを絞っていったんですね」
――1枚のトータルバランスとして。
積島「そうそう。で、やってみたら意外とおもしろくて」
JC「物理的な期限を決めたことにより新しい芽が開いた感はありました(笑)」
積島「あとは音圧とか、セミアコースティックな響きじゃなくバンドチックな聴こえ方には結構こだわりを持ちましたね。ドラムのビートがハッキリするとか、全体の聞こえ方も意識しました」
――核になる曲は、PVにもなっている『GUM』ですか?
JC「PVに関しては『GUM』が1番出来高がわかんないだろうということでお願いしたので、意図的なリードは特にないかもしれないです」
――PV、そういう基準で選ばれてるんですか!
積島「谷口の映像のニュアンスで、『Suisei』(M-6)とかアップな曲は、人とか何かヤベエのがいろいろ動くんだろうなって想像はつくんですよ。その流れで『GUM』が1番しっとりしてるし、歌詞で“いよいよ人間がむきだされる”とか言ってるから、これが谷口を通したらどうなるんだろうねって爆笑しちゃって、」
JC「結果、歌詞に対して何かを当てる作業をあんまりしてなくて、“スルーかーい!”みたいになって、それもまたおもしろくて。すごく幸せなものができました」
――未知数をはかる決め方が新鮮ですね。
積島「作曲の時と一緒で、個人よりも可能性があるのがチームプレーだと思ってはいるんだけども、そうすると、んoonも1つのユニットになるので、んoon以外の人がどういう眼差しで作ってくれるかが、やっぱり我々は想像し得ないんですね。空振りしたらヤバいとも思うんだけど、そこら辺は彼を信頼しているので」
――今作の中で聴いてほしいポイントはありますか?
JC「『Custard』(M-5)の後半で、積島と江頭の男子2人が初めてコーラスにチャレンジしています(笑)。最初エフェクトで私のジェンダーを変えてやったんですけど、どうしてもエフェクト感が出ちゃったんで」
――個人的には『Suisei』が好きです。
JC「『Suisei』は昔からやってた曲で、気圧で頭痛いのがやだなーって思ってできた曲なんです。今回、リーダーがライナーノーツを初めて書いてみたんですけど、私たちのドタバタ劇や裏エピソードがきっちり入ってておもしろかったんです(笑)。喋りたがりの口下手が多いので、文章にしてもおもしろいなと思いました」
――2nd EP『Body』、改めてどんな作品になったと思われますか。
積島「てんでバラバラで、統一のテーマもなく、とっ散らかってる。それが非常に成功したと思ってます」
――それは狙ってされていることなんですよね。
積島「いや、素でやったらこうなったんです。前は『Freeway』という楽曲があり、EPのタイトルにもなりましたけど、今回そういうものもなかったので、どれをとってもどれがどれだかっていうような、非常に分裂してる感じができたから良いかなと思ってます」
――JCさんはどうですか?
JC「気持ち的には同じです。もうちょっとガチャガチャできたらいいなと思いますね」
――8月31日には『FLAKE SOUNDS NIGHT 2019, TONE FLAKES Vol.137』がありますね。
JC「めちゃめちゃ楽しみです。去年の『TONE FLAKES』がすごい良かったので、帰りの道で大阪ロスが始まって(笑)。初遠征だし、あれだけいろんなバンドの皆さんとやるのも、DAWAさんのイベント出るのも初めてだし、青春でした(笑)」
――大阪でのライブは2回目ですか?
積島「そうです。今回は準備も機材も車の運転も去年よりも格段にレベルアップしています。」
――楽しみですね! 最後に今度の活動について教えてください。
積島「今の時点でも非常に気持ちよく恵まれてやらせてもらってますが、これからもずっとそうできればいいと思ってます」
JC「健康第一」
積島「そうそう、体資本主義。で、いっぱい新しい曲作ってライブして、できる限りやっていきたいと思ってます」
text by ERI KUBOTA
(2019年8月 9日更新)
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