“NAHAVANDとしての軸が定まった” 確固たる決意のもとドロップされた2ndアルバム『Vandalism』 NAHAVANDインタビュー
ラップミュージックをロック的解釈で再構築し、世に問う2人組、NAHAVAND (ニハーヴァンド) が、1st自主アルバム『最強のふたり-Two Of Strongest-』から約5年の月日を経て、2ndアルバム『Vandalism』を完成させた。今作はGotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION)とmabanua(Ovall)を共同プロデューサーに迎え、Gotchがレコーディング・エンジニアを、mabanuaがアレンジを手掛けている。NAHAVAND初期の頃から交流があったというGotchとの作品作りで見えたものは一体何だったのか。関西のDJ KiMとともに2018年から始動させたオールナイトパーティー“Vandalism”ともリンクした今作。音作りの面でもリリックの面でも、彼らのリアルな“今”が詰め込まれた1枚になっている。今作について2人に話を聞いた。
リズムを追求していたら徐々に韻を踏むようになった
――初歩的な質問ですが、お2人は同級生ですか?
Tokisato(g) 「同い年ですね。学校とかは違います」
――出会いは?
Tokisato 「中学校の時にライブハウスで対バンで出会いました」
Miyauchi(vo) 「SADSのコピーをやってたんですよ」
Tokisato 「僕はオリジナルバンドでギターやってました。Miyauchiくんはその時からボーカリストのオーラすごかったんですよね。めちゃめちゃビジュアル系でしたけど」
――NAHAVANDを結成したのはいつですか?
Miyauchi 「8年前だから18歳の時かな」
――ロックのリズムにラップを乗せるというスタイルですが、元々ヒップホップも聴いていた?
Miyauchi 「NAHAVANDやる上で聴くようになりましたけど、ルーツでいうとロックですね。2人ともBLANKEY JET CITYが好きだし、UKだったらザ・リバティーンズ、アメリカだったらストロークスが好きで」
――ロックバンドをやるのではなく、ヒップホップの要素を入れたのはなぜですか?
Miyauchi 「もともとザ・リバティーンズみたいな音楽をやりたかったんですけど、人数的にも2人だったし、俺が日本で1番ザ・リバティーンズやストロークスに近いと思うバンドはVeni Vidi Viciousとandymoriだったんです。2つとも言葉の乗せ方が軽いんですよね。それはリズム的な意味で。日本語なのに英語っぽく聴こえるというか、聴いてて気持ち良い。僕はそれを目指して同じようなことをやってたんですけど、あまりにリズムを追求するようになって、韻を踏み出して。そのうちGotchさんと会って“お前がやってるのはラップだから、歌詞が聴こえないと何の意味もないよ”と言われて、“俺がやってるのはラップなんだ”と気づいて。そこから日本のヒップホップの人たち、SEEDAさんやS.L.A.C.K.さん、NORIKIYOさんを聴くようになって、よりトラックに対しての歌詞の乗せ方やラップの強弱のつけ方、フローのやり方を自分の中でアップグレードしていきました」
――歌詞はMiyauchiさん、トラックはTokisatoさんが作られてるんですよね。
Tokisato 「完全に分担制ですね」
――お互いに意見を言い合ったりは?
Tokisato 「俺は歌詞やラップについては多分今まで一言も言ったことないですね。俺がトラック送ってMiyauchiくんがGarage Bandでラップ乗せて返してくれるんですけど、その時点でほぼ仕上がってるかな」
――Miyauchiさんの歌詞は具体性が強いですよね。
Miyauchi 「僕の歌詞はそんなに固く韻は踏んでないんですよね。普通に歌詞を文章として書いてて、自然に韻が踏めたらラッキーだなぐらいの印象なんです。歌詞の影響を受けたのはスガシカオさん。描写が細かいんですよ。『秘密』とかの歌詞も全部実際あったことなんですけど、その時のことを思い出して、“あの時こう言ったな”、“こういう香水つけてたな”とか、細かいディテールを思い出しながら書いてますね」
Gotchさんと会って人間的に変わることができた
――今作はGotchさんのレーベルonly in dreamsからリリースされています。2017年に出たシングル『Hold On feat. Gotch』から、Gotchさんと制作面での関わりはあったんですよね。
Miyauchi 「1stフルアルバムの『最強のふたり』は基本的に俺ら主導でやってて、Gotchさんは何も言わなかったんですよ。多分敢えて何も言わずに、俺らの好きにさせてくれてて。『Hold On feat. Gotch』はちょっとだけ“歌詞もっとこうした方がいいんじゃない?”みたいなディレクションまでやってくれて。Gotchさんはどう思ってるかわからないですけど、一緒にやってちょっと手応えがあったというか。そうしてるうちに自然と“うちから出す?”みたいな話になりました」
VIDEO
――これまで2人でセルフプロデュースでやっていたのが、人と一緒にやることで、制作のやり方も大きく変わったと思います。お2人の中で変化した部分はありましたか?
Miyauchi 「今、世界的にもトータルプロデュースというより1曲1曲にプロデューサーがついてるパターンになってると思うんですけど、昔は自分たちで完結することが美しいと思ってたし、自分たちが1番だと思ってたから、他の人の意見を聞くのも嫌だった。でも今は、音楽以外のビデオもジャケットも、それぞれの分野にプロがいると思ってる。もちろん譲れない部分もあるんですけど、基本的にはNAHAVANDは、誰が入っても自分たちが芯を保っていれば変わらないものだと思うので。今回Gotchさん、mabanuaさん、エンジニアの古賀さんに入ってもらいましたけど、あの人たちの持ってるスキルを通したNAHAVANDというのも見れて勉強になったし、嬉しかったしね」
Tokisato 「うん」
――確固たる軸がうまれた。
Miyauchi 「昔は人に何かを言われて自分がブレてしまう恐怖や不安があって、しっかりしてなかったのかもしれない。今なら何言われてもブレないものがあると思ってるから。人を受け入れて、作品発表できるというふうに自分たちが変われたし、人間的に成長できた。やっぱりGotchさんと会って変わった気がしますね」
Tokisato 「音の面でも技術的な面でも、マジで良くなったとこがいっぱいあった。“まだいじくれるんや”みたいな感覚はすごいありましたね。今までは音色とか全然気にしてなくて、エフェクターも使わず、打ち込みとギターアンプでドカーン! みたいなことしかしてなかったんですけど、幅が広がりましたね」
――気が早いですが、次回作品の構想はあるんでしょうか。
Miyauchi 「とりあえず『Vandalism』(M-3)みたいな速い曲ばっかり入れようと思ってますね。ギターとラップのせめぎ合いみたいなね」
Tokisato 「今作は良くも悪くもちょっとヒップホップに寄ったアルバムなんで。もちろん狙った部分もあるんですけど、俺らの良いとこって多分、トラックに乗せたギターVSラップだから、それにちょっと戻ろうかなって。2人のバトルみたいな感じを意識してやろうかなと漠然と考えてます」
レコーディングの裏話は無限にありますよ(笑)
――曲のお話を聞いていきたいのですが、これは核になるなと思う曲はありますか?
Miyauchi 「『Hold On』(M-10)かな。俺すげえ歌詞書き直しさせられたから、思い入れが強くて。他のやつは適当にフワンフワンって書いてて、だからあんまり思い入れないっすね。ほんとに『Hold On』だけ“歌詞”を書いた。他の曲は日記を書いたって感じなんですよ」
Tokisato 「俺は『Vandalism』か『Hold On』かなあ」
――『秘密』(M-5)をイヤホンで聴いた時のザワザワ感がすごかったです。
Miyauchi 「『秘密』はレコーディングの最初らへんに録ったんですけど、Gotchさんのコールド・ブレイン・スタジオの中で1番高いマイク使ったんですよ。“これだったら声が全部聴き取れるかもね”、みたいな感じで録ってたんですけど、俺ガサツだから、レコーディングブースから出る度にドアをバンッて強く締めちゃって、“マイク壊れるから!”って、いつの間にかそのマイク使わせてくれなくなっちゃって。だからあの1曲だけ良いマイクなんですよ(笑)」
――なるほど(笑)。そして『Get Down』(M-8)は、NAHAVANDのテーマソングという感じがしますね。
Miyauchi ・Tokisato 「へえ~!」
――冒頭の“ヴェニヴィディ 二人で見た”というリリックは、2人のことを歌っているようで。
Miyauchi 「Veni Vidi Viciousを初めて見たのがシャングリラで、NAHAVANDやるかやらないかぐらいの時期で。2人で見に行ってて、生で初めて入江良介を見て。入江良介がふわーって外出ていって、“うわ~入江さんだ! 話しかけらんねえよ~!”って言ってたら、Tokisatoが“話かけてきいよ! 今しかないよ!”とか女子みたいなこと言って(笑)。で、一緒に写真撮ってもらって。そこから“俺らもやろうぜ!”みたいな感じで火がつきましたね」
Tokisato 「懐かしいな(笑)」
――良い話ですね。
Miyauchi 「そうなんですよ。そこから始まる歌なんで、確かにNAHAVANDのテーマソングと言ってもいいかもしれないですね」
Tokisato 「あの日から今までの歌かな」
Miyauchi 「この曲、ラップだけ先にできたんですよ。Logic(アメリカのラッパー)の曲をずっと聴きながらフリースタイルしてて。それをアカペラで録って、“これにトラックつけてくれ”ってTokisatoに送って。この曲だけ作り方が違ったんですよね」
Tokisato 「そうやった。めっちゃ困ったもんな(笑)。でも気に入ってますね」
――あと『スロウ』(M-4)から『的な?』(M-7)まで恋愛ソングが4曲続いているのも印象的でした。
Miyauchi 「今回Gotchさんが考えた曲順なんですよ。俺は『秘密』を真ん中に入れて、後半に『Montauk』(M-6)を入れて、『秘密』を中心としたようなアルバムにしたかったんですけど、Gotchさんが“こっちの方がいいよ”って、恋愛系の曲をひとまとめにされました」
――(笑)。
Miyauchi 「最初マネージャーがあげてくれた曲順がすごい良くて、Gotchさんに“俺らこれでいきます!”って言ったら、“俺はこっちの方がいいと思うけどね”って言われて。でもマネージャーのがすごい良いから、押したら“それがいいならいいけど”って納得してくれたんだと思って皆でお好み焼き食ってたら、GotchさんからLINEが入って、“でもやっぱりこっちの曲順の方がいいと思うけどね”って」
――(笑)。
Tokisato 「それで、Gotchさんの言う曲順でスタジオで通して聴いたんですよね。そしたら良かってんな。“おおお!”みたいな」
Miyauchi 「“だから言ったじゃない。恋愛の曲なんかまとめちゃえばいいんだよ”って(笑)」
一同「(笑)」
Miyauchi 「結果オーライなんですけど、曲順はロマンチックではないですよね(笑)。Gotchさん“『秘密』の歌詞の意味わかんないんだけど”とか言ってて、“こんなにロマンチックなことわかんないんだ”と思って。そこら辺が僕と合わないのかなぁ(笑)。つってね(笑)」
リリース記念のオールナイトパーティーは師弟対決
――『Get Down』の歌詞にも出てくるDJ KiMくんですが、彼との出会いは?Vandalismのイベントが始まったのは2018年ですよね。
Miyauchi 「KiMくんはCLUB SNOOZERの大阪のサポートで毎回オープンかクローズどっちか1時間回してて。パーティー終わって皆で朝飯食ってた時に、KiMくんがタナソー(田中宗一郎)さんに“あの曲からあの曲につなげるのおかしいだろ”って説教されてて。タナソーさんはミュージシャンにすごい優しいんですけど、DJには厳しくて。でもKiMくん朝方で眠かったみたいで全然聞いてなかったんですよ。“この人全然話聞いてないな”と思って、それで俺好きになっちゃって。年も結構近かったんで連絡先交換して、それから交流が始まって。俺も自分のパーティーやりたいなと思ってたんですけど、俺ライブハウスで30分ごとのステージをずっと見るのが結構しんどくて。DJだとずっと音楽聴いてるし、好きな曲かかったらおもしろいし、逃げ場があったら喋れるから、DJパーティーをやりたいなと思ったんです。俺たちは30~40分ライブやらせてもらって、あとの時間全部KiMくんに回してもらおうっていうコンセプトのイベント。なので“Vandalism”はKiMくんのイベントかなと俺は思ってます」
――イベント名はどうやって決まったんですか?
Miyauchi 「“パーティーのタイトル何にする?”って話してた時、KiMくんが提案してくれて。ニルヴァーナのカート・コバーンのギターに“Vandalism”っていうステッカーが貼ってあったらしくて、彼ニルヴァーナ好きだから。あと多分KiMくんはそんなつもりなかったと思うんですけど、VandalismとNAHAVANDの“VAND”が被ってるじゃないですか。それでずっと気に入ってて、アルバムタイトルにも使いたいなと思って」
――“Vandalism=文化・芸術の破壊”という意味があるそうですが。
Miyauchi 「僕的には文化・芸術を破壊しようと思って作ったわけじゃないけど、結果的にはそうなってもおもしろいかなと思いますね」
――実際のパーティーはどうですか?
Miyauchi 「KiMくんが好きなトラックをかけ続ける感じなんですけど、多分彼も意識して、Vandalismの時はロックミュージックとラップミュージックが融合したバランスで選曲してくれてるのかもしれないですね。俺らが好きだったアークティックモンキーズとか、ストロークス、ザ・リバティーンズもかかるし、ケンドリックもロジックもフランクオーシャンもかかる。そんなイベントですね」
――6月21日(金)にCircus Osakaで『Vandalism-Osaka-』、6月22日(土)にShibuya O-nestで『Vandalism-Tokyo-』がオールナイトで行われます。ゲストはmabanuaさんと、大阪はDJ SEOさん、東京は田中宗一郎さんですね。
Miyauchi 「今回は師弟対決のパーティーですね。KiMくんの大阪の師匠がSEOさんで、東京はタナソーさんなんですよ。だから、プロデューサーのmabanuaさんと俺ら、SEOさんとタナソーさんとKiMくんで、師弟対決(笑)」
――どんな感じになりそうですか?
Miyauchi 「大阪は何回かやってるのでイメージはあるんですけど、東京はVandalism初めてやるんで、不安もあるんですけど、同時にすごい楽しみですね」
text by ERI KUBOTA
(2019年6月20日更新)
Check