同世代だけでは出会えない刺激的な瞬間がある
岸谷香インタビュー
1989年生まれのYuko(g)、HALNA(b)、Yuumi(ds)を集め、昨年1月、ミニアルバム『Unlock the girls』の発表で幕を開けた、岸谷香のガールズバンドプロジェクト・Unlock the girlsが、1stフルアルバム『Unlock the girls 2』を5月1日(水)にリリース! 同作は岸谷とメンバーが80’sという“共通言語”を見つけた結果生まれた、80年代のアッパーな質感たっぷりの仕上がりになっている。そんなアルバムの背景にあるバンドメンバーとの関係性や、間もなく始まるツアーの見どころについて岸谷に話を聞いた。
――アルバム『Unlock the girls 2』のテーマは80’sということですが、なぜこのテーマになったんでしょうか?
「私にとって80’sは思い切り青春時代で、小林克也さんの『ベストヒット USA』(アメリカのヒットチャートを紹介する番組)を毎週見て、学校でもその話題で持ち切りっていう時代。だから80’sの音楽は私にはすごく普通で日常なんだけど、今一緒にバンドやっている女の子たちは1989年生まれでリアルに80’sを知らなくて、でも80’sのエッセンスを取り入れている今のアーティストが好きで、一個世代をまたいで80’sに触れているんです。で、その大本である80’sの音楽を聴くと“へ~!”っていう感じで、カッコいいって思うみたいなんですね。彼女たちにとっては憧れだし、私にとっては普通にカッコいいと思って通ってきた道だから妙に話も合って。じゃ、それっぽく!ってどんどん80’sっぽくなっていって、テーマも80’sがいいんじゃないかってことになったんです」
――バンドをやっていくうちに見出されたテーマだったんですね。
「そう、自然に…。昨年ミニアルバムを出してツアーをやって、ツアー以外のライブもしながら、今回のアルバムの曲も一年半かけてちょっとずつ録っていったんですね。だから活動のなかで固まってきた結果で、全員が向いていた方向が80’sだったんですよね」
――ちなみに、バンドメンバーの思う80’sと岸谷さんの思う80’sに違いはありますか?
「ありますよ。例えばですけど、テイラー・スウィフトを聴いた時、80’sの匂いがあったとして、彼女たちはそこで80’sというものを見る。でも私は、テイラーは80’sのあの感じをやってんだなって思う。同じものを逆からお互い見てるみたいな感じ。でもすごくそれがおもしろくて…。もし私みたいに(80’sを)通ってきた人たちだけで作るとただの懐かしいものをやってるだけになるし、かと言って彼女たちだけだとただの憧れになる。だからすごくいいバランスで、リアルタイムの人とそうじゃない人が一緒にやっていることが音楽に出てると思うんですよね。この世代の差があるからできる、なんちゃってでもないし本物でもないっていう絶妙な感じがうまい具合に……(出てる)。共通言語を見つけた感じかな。実は、そもそも1枚目のミニアルバムにある『Unlocked』という曲を作った時、私はドナ・サマーの『ホット・スタッフ』のイメージで作ったんだけど、彼女たちは知らなかったから、ちょっとYouTubeで見てごらんって言って見せたら、“あ~。それってこれだよね?”って言って、今のアーティストのそれっぽいのを逆にYouTubeで見せてくれたんですよ。で、私も“あ~”ってなってね。ほかにも、私が80’sのディスコっぽいのって言って見せると、彼女たちは“ダフト・パンクの感じでしょ?”って言って…(笑)。そういうのは本当に衝撃的でしたね。でも、結果として同じものをいいって言ってることがわかったんですよね」
――メンバーと年の差がいい効果をもたらしたんですね。もともとそこを狙ってバンドメンバーをそろえたんですか?
「そこまで深いことは考えずに、どうせやるならおばさんとじゃなくて若い人とやりたいってことで始まったんだけど(笑)、私が君臨してます!っていう風になったらこの企画はおもしろくないと思ったんです。私が求めているのはバンドなんだ!ってすごい言ってて、みんな同列というか平等っていうか……そういう言葉もちょっとおかしいかもしれないけど、とにかく遠慮はなし!っていう感じ。年齢の違いはあるけど、みんなも楽しんでくださいっていうね。もちろん彼女たちにしたら、最初は会ったことのない人で自分の親ぐらいの年齢だったりするわけだし、私だって(メンバーは)娘や息子の歳に近いから、急に“ね~ね~”とはできないと思うけど、時間をかけて音楽を通してそうなっていけたらいいなと思って。だから今とっても楽しいですね。お互い刺激的だと思う。同世代の人とやっていたら出会えない瞬間がたくさんあると思います」
――Unlock the girlsのように年齢に幅のあるバンドが増えたらおもしろいですよね。
「ほら、いいところでもあるけど年功序列というか、年下の人が年上の人に敬意を払うのが日本人で…。例えば海外なら、名前も“くん”とか“さん”もつけないし、20歳離れていても“Hey,Kaori!”みたいなことでしょ(笑)。だから日本だと(年の差のあるメンバーから成るバンドは)珍しいのかもしれないですね。でも今回のアルバムを作ってみて、こんなに発展的でおもしろくって、同世代だけでは成り立たないってことってあるんだ!って自分でも盛り上がりましたね」
――そんなバンドの楽しさが曲から伝わってきます。だからなのかもしれないですが、やはり80’sってハッピーな音楽が多かったのかな、とも思いました。それには社会的な背景もあるのかもしれませんが…。
「バブル時代の……ね。あと、変な言い方になっちゃうかもしれないけど、今に比べてモノも情報も少なかったと思う。音楽だって選び放題から選ぶというより、これが今イケてます!ってなったら、みんなでそれを聴いていた時代ですよね。みんなであれ好き!みたいな、そういう楽しみ方ってあるじゃないですか。だからディスコでも全員同じ振りで、同じ曲を踊っているみたいな。でも今って“そのジャンル私、興味ない”って同じ世代でも好き嫌いが分かれるし、隣の人が聴いてる音楽をまったく知らなくてもいいし。だけど、私たちの時代って一つヒットがあったら、みんなでそれが好きだったでしょう。だから80年代って“みんなでね!”っていうノリがあったんじゃないかなって思う」
――だから空気感ごと楽しい感じなのかもしれないですね。それに比べると今の音楽は暗い空気感がベースにある音楽が多い気もします。
「そうですね。話がそれますけど、私も子どもたちが聴いてる音楽を聴くと、今って私みたいな多幸感にあふれたものを求める人っていないんだなって感じます。なんか今、子どもたちがいいって言うものって、幸せがあふれているものの逆さま。それがカッコいいんですよね。だから“あ、私って絶対、今の時代じゃない”って思って……(笑)。子どもたちがお母さんの曲を聴かないのもわかる気がしますね。ま、もっとも子どもはお母さんの曲なんて聴かないものだろうけど(笑)」
――個人的に80年代の音楽をリアルタイムで知る世代としては、今作の明るい音楽を聴いて、今もこういう音楽があっていいんだと、どこかホッとしました(笑)。
「今日もほかにいくつか取材をしたんですけど、ある程度、年齢のいった人たちは、みんな安心したって言うんですよ(笑)。安心した……なるほど、おもしろいなって思いましたね。ちょっとだけ今の音楽ってきついなって思っている人たちが“あ、これならわかる”ってことなんじゃないかなって思います」
――そうですね。変わらぬ明るさに安心したんですね。
「どんなに着る服を変えてもアレンジを変えても、そもそも音楽っていうのは性格みたいなものだから変えられないと思うんですよね。だから、そういうの(暗いムード)と同じようなものを作って勝負するっていうのは私にはできないっていうか……。だったら、(自分の持つ音楽で)ぶっちぎっていいや!って。その代わり30代の若い子たちと一緒にまた違う角度から見て新しい音楽になっていけばいいなって思ったんですよね」
――そして、その振り切れた80’sの感じはスケール感あるホーンやストリングス、キラキラしたコーラスやシンセの音など、さまざまな形で表されていますよね。詞にしても女の子の友情を描いた曲『ウェディングベル ブルース』があったりして、そこも80年代っぽい気がしました。
「たぶん自然に私から出てくるものですね。私が一番、音楽を刷り込まれたのが80年代なんで、放っておくとバンバン出てくるんですよ。でも例えば誰かが“それ古いよ!”って否定したら変わると思うんだけど、ガールズの3人(バンドメンバー)はそうじゃなくて、逆におもしろいと思ってたと思います。だからその辺(80’sらしいアレンジ)は全然狙ってないですね。あと『ウェディングベル ブルース』は、バンドのベースの子が結婚したんです。それですごく幸せそうにしていて、今一番いい時だな、私にもそんな時代があったなって思って(笑)、じゃせっかくだし、おめでとう!の気持ちも込めてこの曲を書こうってなったんですよね。友達の結婚式でなんか歌う?って時、歌えるような曲にしたんです」
――なるほど。そんな理由があったんですね。あと、詞に関してさすが!と思ったのが7曲目の『LOVE FLIGHT』。飛行機内での一瞬が、ユーモアある物語に盛大に膨らみます。
「近年、私は飛行機が大好きでいっぱい乗るんですけど、飛行機が怖くてビビっている人もたくさんいるんだろうなって思って、だいたいなんでこんな重いのに飛ぶのかな?とかいろんなことを考え出したらどんどん楽しくなってきて、詞にしようかなってなったんですよね。でも、飛行機が怖いってだけじゃつまらないから、どうせなら映画みたいな感じにしようと思って……」
――読んでいる方にはぜひ曲を聴いてどんな内容か確かめてほしいですね(笑)。さて、5月はアルバムリリースに続いてツアーも! 今回は最新作『Unlock the girls 2』からはもちろん、プリンセス プリンセス、奥居香、岸谷香といった全キャリアの楽曲のなかから、公式ブログでリクエスト&エピソードを募ってセットリストを作成されるとのことですが。
「はい。でも、ただリクエストだけでやるわけじゃないですね。新元号の令和になる5月1日(水)が『Unlock the girls 2』のリリース日なんですけど、私、平成元年に『Diamonds<ダイアモンド>』を出しているんですよね。それで今回、令和元年にアルバムを出すことになって、そんな人もそういないかなと思って…。なんなら昭和にもたくさんアルバムを出しているし、よく考えたら、昭和=プリンセス プリンセス、平成=プリンセス プリンセスと奥居香と岸谷香、で、令和=Unlock the girlsって時代に沿ってたくさん名前もあるし…。ちょっとややこしいけど(笑)、だったらそれを逆手にとって、昭和、平成初期、平成の終わり、そして令和と時代を順に追ったり、さかのぼったりする企画も、今年ならアリかなって思ったんです。で、“令和の曲”“平成の曲”って、私の思い出で振り返ってもいいんだけど、どうせならみんなが聴きたい曲をやった方がいいだろうってことに……(全曲からリクエストを募った)。せっかく3時代をまたいで次の時代を迎えるので、令和は幸せにあふれた時代になるように!っていう願いも込めてね」
――オールタイムベスト+αという感じのレアなライブになりそうですね。
「そうですね。リハーサルはこれからですけど、頭の中で妄想しているのは、例えばバラードとか何か一つのくくりで昭和・平成・令和のそれぞれの時代を表現できたらおもしろいなって考えてます」
――そして幅広い年代の人が楽しめそうです。
「普通は子どもがお母さんやお父さんをライブに連れてくるっていうのが多いと思うけど、今回はお母さんやお父さんの方が子どもを連れてきてくれたらいいなって思いますね」
text by 服田昌子
(2019年5月13日更新)
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