ホーム > インタビュー&レポート > 「色あせてばかりだと今やっている意味がないけど、 これから先が楽しみになるようなライブができている」 のびのびとタフに歓喜の歌を紡ぐ 新作『ふぁいとSONGS』について語る BUGY CRAXONEすずきゆきこインタビュー
人生はびゅーてぃふぉー だからこそ気高くいこうぜ
――1曲目の『わたしは怒っている』は初期の作品を思い出すような勢いがあって。資料には“ファーストテイクで終了。しかも無修正!”というギターの笈川さんのコメントがありましたね。
そうそう。この曲、元気でしょ?(笑)。
――はい。『NORTHERN HYMNS』(2002年)あたりが聴きたくなって引っ張り出しました。最近の作品は、家では鼻歌交じりに聴いていたり、和む瞬間もあるのですが、同じ曲がライブでは勢いも迫力も増してとても鋭く聴こえる。そのライブの感覚を今作に感じました。
そのあたりは今回気を付けて作りましたね。ライブでやると曲がここまで派手になるんだって後から気付くことがあって、音源の時点でそれをやればライブではもっと勢いのあるものになるだろうし、ほかにもプレイとか音質とか曲のクオリティも含めて、みんな特に何も口にはしないけど、せっかく21年目に入るので自分達なりに大成長して作りたいという思いはあったんじゃないかな。
――2017年11月の20周年記念ライブも、アルバム制作に良い影響を及ぼしましたか。
そうですね。あの日のライブがよかったから、いろんなことに恵まれてやってきた20年を気持ちよく締めくくることができたなと思いました。“若い頃に聴き始めて、今もずっと聴いてるよ”と言ってくれる人もいて、長く続けていてよかったなーっと。変に色あせてばっかりだと今やっている意味がないけど、自分達も含めて来てくれた人がこれから先を楽しみにできるようなライブになったのがよかった。2018年2月に、その20周年ライブでやらなかった曲をやるワンマンを東京でやりまして、それに向けてこれまでのアルバム13枚の曲を全部おさらいしたんですね。年齢に合わせて曲がある程度シンプルになっていたり、曲が短くなっていたりという変化があったこともわかったし、若い頃の楽曲もちゃんと作り込んであったり細かいことをやっていたり多岐にわたっていろんなことをやっていたんだなって気付くことが多くて。そうやって自分達の曲をおさらいしたことが今回のアルバムづくりの肥やしになりました。最初に曲出しをした段階からバリエーションもたくさんあって。
――1曲目の『わたしは怒っている』はタイトルがらして直球で。ただ、誰かに文句を言いたいわけじゃなく、感情のままにぶちまけるわけでもなく、自分を見つめているとも言える歌でしょうか。そのまなざしは他者にも向けられていますね。
正義感ムキ出しですよね。余計なお世話だしただのおせっかいだなと思うんですけど、自分の中で、なんだかんだ言ってもやっぱり人間は気高く行こうぜみたいな気持ちがあって。動物の美しさももちろんある。それをわかった上で、せっかく動物じゃなく人間に生まれてきて、80年ぐらい生きる人生の間にはいろんな経験もするわけですよね。悪どいことをしてみたり、ひねくれた考え方だけに凝り固まるんじゃなく、せっかく人間なんだから頭使って行こうぜと思うんですよね。音楽に限らず、工夫してより良い道を作っていくのが大人の仕事なんじゃないかなって思う。そういう私のアツさみたいなのが素直に出た1曲だと思いますね。
――『ぼくらはみんなで生きている』(M-2)の歌詞にも「あたまをつかって」とありますね。おせっかいと言われましたけど、そのおせっかいさって今すごく希薄になっていると思います。人と関わることを避けたり、本当は何かしてあげたいけど、自分が働きかけたことを相手が拒絶したら自分が傷ついてしまう。それが怖くて関わること自体を避けてしまったり。
あぁ。たしかに危ないこともいっぱいあるから、余計なお世話も出来なかったりするし、人の成長過程においては、ときには放っておくこともひとつの愛情ではありますよね。ただ、大きな範囲でモノを見た場合、人間というものをもう少し信じて気高く行こうぜと思いますね。
――CDの歌詞カードを開くと最初のページに“人生はびゅーてぃふぉー”と書かれていて、ハッとしました。『ふぁいとSONG』(M-3)の歌詞の一節でもありますが、どんな人でも生きていること自体が素晴らしい。自分の人生もそう肯定してもらえているようで(笑)。
もちろんそうですよ!(笑)。なんかね、正解の形がモデル化されているから、そこに当てはまらないと素敵に思えないみたいにとらえてしまいがちだけど、そういう考え方こそが頭を使うところだよなと思う。たとえばいいマンションに住むとか、いい暮らしをするとか、いい仕事に就く、いい学校に行くことだけが成功、みたいな感覚ありますよね。結婚することが幸せかと問われれば、そうじゃないと答える人もいるだろうし一人が好きな人もいる。自分に合った生き方をするということだけで十分なんだけど、自分で判断することをさぼるとそういう考え方にとらわれがちかなって。お弁当の作り方とかも、何か1つ流行るとみんなのお弁当がそれになるみたいな(笑)。
――わかります (笑)。
別にそうじゃなくてもいいですよね。いろんな情報で自分を分厚くしないようにしておきたいなとはいつも思うんですけどね。
――最初にも言いましたが初期の作品を聴いていて、たとえば「劣等感でてっぺんへ走れ どうせならもっと遠くへ」と歌う『NORTHERN ROCK』(2002年)や、「自由は強ささ 胸を張っていこうぜ」 と歌う『4 COUNT』(同)は、今何かにぶち当たっている10代や20代のリスナーにとって共鳴、共感するところが多いんじゃないかなって。それとともに、ブージーの歌やすずきさんが発するメッセージはその頃も今も変わっていないんだなって。作品を重ねるにつれ、表現の仕方が変わっていったりという変化はあるでしょうけど。
そうですね。そうなのかもしれない。年齢とともに好きだった洋服とかも顔にハマらなくなってきたり(笑)、どんな雑誌を買っていいかわからなくなってきたりするけど、だからといってすべてが自分に合わなくなるわけじゃないし、一個一個丁寧に自分という人間を理解して暮らしていくのがいいと思っているんですね。30代に入って音の感じとかも含めて大きく変わったんですが、それは覚悟を決めて変えたことなので、今はもう変化することに対する恐れはないし、自分の変化を人がどう受け取るかということに対する怖さみたいなのも正直なくて。のびのびやれていますね。
――その大きく変わった時期は、作品で言うと?
『Joyful Joyful』(2012年)ですね。前作から3~4年ぐらい時間があいていたし、自分の年齢も30代に入って、それまで自分を惹きつけていたもの――バンドをやりたいとか、ロックに対する憧れを抱かせてくれた退廃的なものとか、危なげな感じみたいなもの――に、自分の共感の仕方が変わったんですね。カート・コバーンをカッコいいじゃなく“かわいそうだな”と思うようになっちゃったらあんまりそういうことには共感できなくなる。そういうことも含めて“今の自分はこうです”という気持ちで『Joyful Joyful』を作りましたね。
「いろいろあるけど みんなでがんばろうぜ」と、ねぎらいたい
――『ふぁいとSONG』のファイトは励ます際に使われる言葉でもあり、戦うという意味もあります。そういう攻める意味も含めて歌われているのかなとも思いましたが、いかがでしょう?
『ふぁいとSONG』に関しては、サビの「いろいろあるけど、みんなでがんばろうぜ」という一言が最初に出てきたんですね。リハの帰りかなんかに、メンバーに対してふと思ったというか。みんな40代になっていい大人になっても、週に1回とか2回、楽器を持って同じ時間を過ごしていて。同世代のバンドの中には、自分ではどうにもできない理由で活動を休まざるをえなかったり、活動ペースを変えながらやっている仲間もいて。そんな中で自分達は1つのバンド名で続けられていて、いろいろあるけど頑張ろうぜってメンバーに対して思って。それで書いたんですね。後から他の部分の歌詞ができていって、曲が完成して何回も演奏をしていくうちに、自分達以外の顔が見えてくるというか。たとえば朝電車に乗って通勤している人とか、仕事の帰りに同じ電車に乗り合わせる人たち。私は楽器を持っているけど周りはスーツの人がいっぱいいて、お互いへとへとで疲れた顔をしてる。けど、みんな今の平成の日本を生きてて、ここ数年いろんな自然災害もあって誰もが普通の顔をして普通の様子で過ごしているけど、ただごとじゃない事態にそれなりに向き合っているはずで。そういう変な時代感というか、変な感じの今を一緒に過ごしているみんなにねぎらいの気持ちを込めて“ふぁいと”と付けました。誰かと戦うわけじゃなく、戦うとしたら自分でしょうね。
――なるほど。鼓舞するというより、包み込むような。
そうですね。同じ立場とか、同じ出来事を共有している人たち同士だったら仲良くできるし応援し合えると思うんですけど、この地球とか世界を見たときに真逆の立場や真逆の思想、真逆の価値観の人もいて、それは小さな日本の中でもそうですよね。そういう自分と逆の人とか、自分と違う立場にいる人同士が、お互いポジションは違うけどそれぞれに大変さを感じているよねというのを少しだけわかっておけると、もう少し大らかになれるんじゃないかなって。社会が自分1人とか、自分に似た人だけで構成されているわけじゃないし、いろんな人がいてできているんだよっていうのを忘れないようにしたいなとは思いますよね。
――大人になるにつれ励ましてもらえる機会は少なくなります。“がんばろうぜ”と声をかけてもらうのはやはり嬉しいですね。
“私のほうが大変だし”みたいに傷み比べをしてもしょうがないですもんね。
――『フラットでいこう』(M-7)はネオアコ調なギターも軽やかで、旅に出たくなるような爽やかな曲です。JRや地下鉄の車内で流れたらすごく合うだろうなって (笑)。
普段練習しているスタジオもレコーディングスタジオにも東京メトロに乗って通っていて、いつも車内で石原さとみさんのCMを見ながら通ってるんですよ。なので、そこは強く意識して書きました(笑)。その曲の歌詞は、たぶん一番時間がかかると思ったので書けるまで放っておいていたんですね。ある日スタジオの帰りの電車で、私はその日のレコーディングの出来がよくてのんきな感じで乗っていたんですけど、乗ってくる人たちはみんな仕事帰りでお疲れで。そういう人から見ると私みたいなのんきに見えるヤツは腹が立つのかもなって(笑)。そもそもバンドという好きなことがやれていて、そのおかげであんまりイライラしていないのかもしれないけど、でもまぁ私はフラフラしてるよなって(笑)。電車に乗っている40分ぐらいの間にそんなことを考えてて歌詞を思いついて、家に帰ったらきっとすぐ寝ちゃうから焼鳥屋へ寄って飲みながら歌詞を書きました。だいたい酔ってましたけど、2時間ぐらい完成できたから素晴らしい!(笑)。
――アハハ!飲みながら歌詞を書くこともあるんですね!
初めてです。普段はそんなふうには書かないんですけど40代ともなると飲んでも書けるんですね(笑)。『ぼくらはみんなで生きている』もそうですよ。1から書くというより、だいたいのテーマは絞り込んであって、仕上げの段階を飲みながら書いたという感じですね。
――なるほど。それと『ハッピーでラッキー』(M-8)、このタイトルはまさしくブージーの音楽を表していますね。
フフ。幸せって、つかむものなのか作るものなのか、与えられるものなのかわかんないけど、どう考えても自分1人とか自分の努力だけでどうにかなることじゃない気がしますよね。
――そういう考え方って、すずきさんが生まれ持ったものでしょうか?
そうですね。うちは家庭環境が変な感じだったんですけど、暗さがなかった家で。たとえば超貧乏でご飯が食べられないから家のピアノを売りましょうとなった場合、“ピアノ売っちゃうの?”とオロオロ泣くんじゃなくて、“じゃあこれを売ったお金でお寿司食べよう!”みたいな家で (笑)。あまりシリアスになり過ぎないDNAだと思うんですけど、それに年々磨きがかかっているのかもしれない。だいたいのことは自己責任だと思っているので、よくないことが起こった時には、それに気付けない自分も含めて、ここから何とかすればいいんじゃないと思うので。
――平成も終わるしオリンピックも来るけど、去年買ったハンドクリームをやっと使い終わったところ、と歌う『じきにスターダスト』(M-9)のような生活感は、着慣れた服みたいに心地よいです。この曲も、軽やかな『フラットでいこう』も、ライブで聴くとまた一味違った硬派な印象だったりするのかなと期待します。
東京でレコ初ライブ(2018年10月21日)があったんですけど、今まで感じたことのないような、ステージに出た瞬間にその場にいるみんながこのアルバムを深く理解している感じがあって。集まってくれた人の中にはちびっこもいたし、おじさんも若い女の子も、同年代ぐらいのレディもいれば、目上の人達もいて。そうそう、海外の人もいてその人はサイン会にも来てくれてカタコトの日本語で“あなたの歌は素晴らしい”って。日本語で歌ってるのにわかるのー?ってびっくりしました。そうやって、いろんな世代の人達がこのCDを自分のものにしてくれている感じがあって。ステージから見ていて、みんな歌ってくれてるなって。楽曲がまた新たな力を生んでいて今までで一番、20周年記念のライブよりいいライブができたのがよかったです。
――最初に言われた通り、大成長されていますね。ブージーは今の4人が何か大変なことにならない限り続きますよね。
そうですね。福利厚生含めて考えつつ、ストレスチェックもしつつ(笑)。あんまりいい数値が出なかったら、すずきからお手紙届けようかなって。“悩んでるなら話聞くよ”みたいに上から(笑)。腹立つだろうねー、みんな。
――まさに『すずきのナイスな生き様』(M-10)ですね。「アドバイスするよ」という歌詞もありますが、最後に「応援してね」で終わるのがいいなぁと思います。
腹立つでしょ?(笑)。はっちゃけた曲ができたし、聴いてくれた人達が“クソッ”て思うような中身にしようと思って、できるだけのおふざけを入れて。“アドバイスするよ”とか言われたくないし、とか思いながら書いてましたね(笑)。
――アハハ!聴いている私達が応援してもらっているところもあり、でも聴き手が何らかの力になることができたら嬉しいし、21年目を迎えたバンドがおふざけでも「応援してね」と歌って明るく終わるアルバムは素敵ですよ。
それならよかった。応援してねとか、助けてねとか、人にお願いすることとかも明るく楽しく言えたほうがいいし、切羽詰まっちゃう前にそうしておくのが大事かなと思うんですよね。“助けて”って声が上げられない人も、いろんなことがシリアスになっている人もいると思うけど、困ってる時に素直にヘルプミーと言えたり、深刻になる前に何とかしようぜっていう気持ちはどこかにあるかな。この曲の「応援してね」はおふざけですけど(笑)、明るく楽しくアルバムを終えることができてよかったし、2月7日(木)にも大阪でライブがあるのでそれも是非楽しみにしていてほしいですね。
取材・文/梶原有紀子
(2019年1月24日更新)
発売中
TECI-1600 定価:¥2,778+税
<収録曲>
01.わたしは怒っている
02.ぼくらはみんなで生きている
03.ふぁいとSONG
04.無問題
05.めんどくさい
06.平和
07.フラットでいこう
08.ハッピーでラッキー
09.じきにスターダスト
10.すずきのナイスな生き様
▼2019年2月7日(木) 19:30
[会場]LIVE HOUSE Pangea
[料金]オールスタンディング -3300円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[共演】the coopeez
[問]夢番地:06-6341-3525
ブージークラクション…写真左から、笈川司(g)、ヤマダヨウイチ(ds)、旭司(b)、すずきゆきこ(vo&g)。1997年、札幌にて結成。1999年にシングル『ピストルと天使』でメジャーデビュー。2003年にレーベルとマネジメントを兼ねたZubRockA RECORDSを設立し、精力的にリリース&ツアーを重ね、2007年、怒髪天の増子直純主宰のレーベル、Northern Blossom Recordsでの活動を開始。2009年にはデビュー10周年を記念するアニバーサリーアルバム『Cheeseburgers Diary』をリリース。4年ぶりのオリジナルアルバムとなった『Joyful Joyful』(2012)以降、『いいかげんなBlue』(2013)『ナポリタン・レモネード・ウィーアー ハッピー』(2014)『Lesson』(2015)とコンスタントにリリース。2017年には再びメジャーに移籍し1月に発売した結成20周年ベストアルバム『ミラクル』に続き、13枚目となるオリジナルアルバム『ぼくたち わたしたち』をリリース。11月19日には、結成20周年記念ワンマンライブを開催し、同ライブを収めたDVD『20周年記念ワンマン 100パーセント ナイス! 2017.11.19 at SHIBUYA CLUB QUATTRO』を2018年2月28日にリリース。10月17日に14作目となるアルバム『ふぁいとSONGS』を発売。同作を携えたツアー『BUGYのナイスな生き様ツアー』を2019年2月1日札幌を皮切りにスタート。大阪公演は2月7日(木)Pangeaにて。