城田優がミュージカルナンバーを集めた
ニューアルバム『a singer』をリリース!
英語の発音にはとことんこだわり、納得いくまで追求
城田優がミュージカルの楽曲を集めたニューアルバム『a singer』をリリースした。誰もが知る王道のミュージカルナンバーや、城田が演じた役から演じたことのない役まで、どこまでも伸びる声が甘く切ない。しっとりと聴ける心地よい大人のアルバムに仕上がった。城田に作品や、努力したという英語の歌、来年主演するミュージカル『ピピン』などについて話を聞いた。
僕にとって毎回成長することは当たり前だと思っている
――アルバムをリリースされて時間が少し経ちましたが、改めてご自身ではどう感じられていますか。
「たくさんの人から『すごく良かった』と言われたり、友人がアルバムを買って、スクリーンショットを送ってくれたりと、単純に今は嬉しい気持ちでいっぱいです。なかなかCDを買ってもらえない時代に、CDを出すこと自体が貴重ですし、特にミュージカルのアルバムを出すのは難しい。こういう形で作品を残せたことはありがたいですね」
――昨年、世界のトップスターたちと共演したコンサート『4Stars 2017』でも感じましたが、歌唱力、表現力ともにものすごく成長されたのでは。このアルバムでも歌い方や声色が曲によって違いますし、それぞれ役になりきって歌っていらっしゃいますね。
「ありがとうございます。自分ではその成長というのは正直、分からないのですよ」
――そうなのですか。
「はい。1年後、2年後にこのアルバムを聴いて『うわっ、下手くそだな』と思えるようにならなきゃいけないと思っています。実際、今それがずっと続いているんです。16歳のときに歌っているのを18歳で聴いて『恥ずかしいな』と思いましたし、20歳のころに歌っていたのを24歳で聴いて『うわっ、下手くそだ!』と(笑)。同じように、それがドンドン続いていかなければいけないと思っているので。自分に満足した時点で成長が止まるということだと思っています。現時点ではもちろん全力を尽くして歌っていますが、数年後に『a singer』を聴いてそう思えるようになりたい。僕にとって成長し続けることは当たり前だと思うので」
――なるほど。ところで、アルバムの選曲はどうされたのですか。
「プロデューサーである事務所の社長やスタッフの方と相談しながら選びました」
――中でも、『闇が広がる』『エメ』『母は僕を産んだ』などは、個人的にどうしても入れたかったそうですね。
「そうですね。『闇が広がる』(エリザベート)はファンの皆さんも好きな曲で、大人気のナンバーです。男性とのデュエットはこれしかないですね。『エメ』(ロミオとジュリエット)、『母は僕を産んだ』(ファントム)は僕がタイトルロールを演じて思い入れのある曲ですね。『僕がついてる』(スウィーニー・トッド)は、僕が演じたアントニーとは違う、トビーとして歌いたかったんです」
――『闇が広がる』は、コンサート『4Stars 2017』で、ブロードウェイのスターのラミン・カリムルーさんとデュエットされ、会場が大いに沸いて盛り上がりました。ラミンさんがトート、トートを演じていた城田さんがルドルフとして歌ったのはどなたのアイデアですか。
「CDにして残すときに、僕がトートをやってラミンがルドルフをやるのはちょっと考えづらい。ラミンの声でルドルフをやるのは違うなと思ったんです。僕は彼がトートをやったら、絶対、はまると思っていたんです。今回のアルバムに関しては、僕からラミンに『トートを歌ってほしい』とお願いしました。ラミンのトートと、城田優がルドルフを歌うということに、このアルバムでしか聴けないレア感が生まれると思いましたし、『エリザベート』ファンや、僕のトートを見てくれたミュージカルファンの方々にも喜んでいただけるのではないかと。僕のトートはほかのCDに録音されているし、舞台で何回もやっていますから」
――『モーツァルト!』からの『僕こそ音楽』も素敵ですね。城田さんはモーツァルトを演じたことがありませんから、城田版の『モーツァルト!』を見てみたかったという声が上がっていました。
「この作品はすごく好きなんです。『エリザベート』もそうですが、ミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイのコンビが生み出した『モーツァルト!』は素敵な楽曲が多くて、ぜひ、入れたかったんです」
――『アラジン』の『ホール・ニュー・ワールド』も落ち着いた歌声でグッと聴かせてくれます。すみれさんとのデュエットは声の相性がピッタリですね。
「最初、すみれさんとレコーディングしたときは『うわっ、やっぱり違うな』と。彼女は圧倒的な歌唱力を持っていますし、英語の発音もネイティブ。僕は英語に関しては一生懸命やっている状態です。また、彼女はR&Bテイストのソウルフルな歌い方ができる。もともと僕は友人として彼女の抜群の歌声を普段から聞いていたので、今回のアルバムでこの曲をデュエットしようとなったときに、すみれさんしか浮かばなかった。あとは、意外性ですね。彼女が歌がうまいことは、あまり世間には知られていないと思うんです。『えっ、すみれと城田優?』と思っている人たちが驚いて、口をポカーンと開けるようなことを実現したかった。また、単体で聞いたときに『これを歌っているのは誰?』となってもうれしいですね」
――さらに、『サウンド・オブ・ミュージック』からの『マイ・フェイヴァリット・シングス』はジャズのアレンジがかっこいいセクシーなナンバーです。城田さんにジャズのイメージはなかったので、新鮮でした。
「そうですね。すごくかっこいい曲になったと思います。葉巻とウイスキーが似合う感じですよね。キーも大人っぽいところで設定しています。この曲はいろんな方が歌っていて、いろんなバージョンがある。どこまで原曲を崩してどこまで我を通すかは難しいところです」
――城田さんとジャズは合いますね。今後もジャズを歌ってほしいです。
「機会があればまたやってみたいですね。ミュージカルをやっていると、いろんな音楽に触れる機会があります。今年僕が出演したミュージカル『ブロードウェイと銃弾』も本格的なジャズではないけど、ニューヨークのジャズエイジ時代のスイングが入った楽曲でした。ジャズはいろんな色を出せる。今、できる限りの範囲で僕の色が出せたと思っています」
――今回は英語、日本語、スペイン語の3ヵ国語で歌われています。世界中の人に聞いてほしいという思いがあるのですよね。
「もちろんです。今回、僕が一番こだわったのは英語の発音なんです。納得いくまで何度も録り直ししました」
――発音がものすごくきれいですね。
「ネイティブの人が聞いても遜色ないレベルにするために録り直しました。僕は、発音は8割ぐらいは分かりますけど、ちょっとした細かいところは分からない。その細かいレベルまで追求してこだわることができたのはありがたいです。英語で楽曲を歌うなら、歌い手は発音がきちんとした英語を習得したほうがいいと思うのです。世界的に活躍していても、英語がダメなだけで評価がガクッと落ちてしまう。それはもったいないことだと思います」
――このアルバムでは、英語から日本語のナンバーに移っても違和感がないですし、日本語で歌うナンバーは、音が日本語の歌詞によく合っていますよね。そこもこだわったのですか?
「『英語のほうがいい』という曲と、『日本語に置き換えても原曲の魅力が損なわれない』という曲にバランスよく分けています。曲によって、どんなにセクシーにかっこよく歌おうとしても日本語と原曲がうまく合っていなければ、聴く人には心地よくならない。それだけは避けたかったんです。合わない日本語をつけて原曲の良さを消しちゃったら音楽を殺すことにもなるので。『僕こそ音楽』、『母は僕を産んだ』など、日本語で歌っている曲はどれもすごく音が歌詞にはまっていると思うんです。言葉って本当に大切ですよね。それは日本語という言語が英語の歌にはまりにくいからですが」
――確かにそうですね。
「今回は、英語で歌う曲が5曲も入っているのでトゥーマッチと思う人もいるかもしれませんが、いいバランスが取れたと思っています。僕は英語圏の人間ではなく、もともと英語が話せるわけでもないですから、これから若いミュージカル俳優さんたちもどんどん英語にチャレンジして素晴らしい英語曲を歌っていく時代になってほしいですね。そうやって一人ひとりのレベルが上がることで、日本のミュージカル界が底上げされていくと思うので。僕はスペイン人なのでスペイン語が話せるのは当たり前ですが、英語に関しては顔が濃いので誤解されてしまう(笑)。でも、努力で習得しているのです」
――来年、城田さんが主演するミュージカル『ピピン』ではブロードウェイのスタッフとお仕事をされますね。アルバムにも同作の『コーナー・オブ・ザ・スカイ』が収録されていて、城田さんは王子のピピン役にピッタリだなと確信しました。
「先日ブロードウェイから振付家が来日して、ワークショップをしたんですけど、すごく難しいですね。本国でこの作品のオリジナルの振付をした人から習うのはありがたいことです。僕自身、たまたまこの話が決まる前に『ピピン』をブロードウェイで観ているのです。その素晴らしさを知っているので、これが日本でできるなんてすごいことだなと思うのですが、同時に悔しい、寂しい思いはあります」
――悔しい?
「“ブロードウェイのチームが集結”という触れ込みで、日本のお客さんのテンションが上がるんだったらちょっと悔しいですよね。本場のほうがいいとなってしまうのは寂しいです。韓国はオリジナルミュージカルもあるし、海外と引けを取らないレベルになってきていると思うのです。僕を含めもっともっと日本のミュージカル界が頑張って底上げしていかなければいけない。『ピピン』をブロードウェイチームでできるというのは挑戦ですし、ありがたいことでもあります。ブロードウェイの作品がニューヨークに行かなくても日本人版として見られるのは素晴らしいことですし、僕も頑張らなければとモチベーションが上がりますが、もっと日本発のオリジナルを作っていかなければという課題も見えますね」
――そうですね。最後に、2019年の3月21日に東京の中野サンプラザホールで城田さんのコンサートが開かれます。どんなコンサートになりそうですか。
「『a singer』 のアルバムを引っ提げて、一夜しかないので、スペシャルな時間にしたいと思っています。サプライズもご用意しています。このアルバムを余すことなく表現しますし、今、自分にできる最大限のものをお見せできればと。僕は常に“今の城田優のベスト”だと思っていて。今が最高で自己ベストを更新していきたいんです。僕はミュージカルデビューが2003年で、振り返ればもう来年で16年ですから、すごい成長を遂げたと思ってもらえるコンサートにしたいです。約2000人が集まる会場で、ワンマンでコンサートをする機会はなかなかないですから、いろいろとこだわりたい。アルバムを聴いて来てくれる人はもちろん、僕の舞台を見たことがない人、ミュージカルに興味がない人にも確実に楽しんでいただける素敵な時間を作りたいです」
取材・文/米満ゆうこ
撮影/森 好弘
(2018年11月26日更新)
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