ホーム > インタビュー&レポート > 錚々たる作家陣による楽曲と透明感ある歌声のコラボが 聞き応えあるアルバム『PRESENT for you * for me』 岩崎宏美が語る歌への思いと人生を楽しむ秘訣とは
――「贈り物」がコンセプトとのことですが、まずはそのいきさつを教えてください。
私が今年、還暦になるので、そういう意味で記念の年でもありますし、さだまさしさんや、学校の先輩でもある森山良子さんなど、皆様に書き下ろしの曲をお願いしました。
――さださん作詞・作曲の『残したい花について』を1曲目に持ってこられたのは?
まず、CDを入れてスピーカーから聞こえてくる温かさ、体温を感じる曲はこの歌かなと思いまして。シングルカットはありませんが、テレビなどのお仕事では、この歌を歌っています。今回、作家陣、クリエイターの方が錚々たるメンバーで、世代も幅広いんです。2曲目の『あかぺら』は阿久悠さんの歌詞に河口恭吾さんが曲をつけられました。河口さんが作られたデモ音源を聞いて歌いたいと思って歌わせていただきました。『つめたい火傷』は、ある日知り合いを通して「宏美さんのファンなので、ぜひ、これを聞いてもらえますか」というメッセージと共にCoccoさんからデモ音源が届きました。私にとっては思いがけない「プレゼント」でした。
――ライナーノートを拝読したところ、『つめたい火傷』は難しかったと。
そうですね。この曲は新しい歌い方を開拓しながら歌いました。Coccoさんが歌っているデモテープが、さりげなく歌っているようで、実はものすごく計算されていて。ちゃんとそのように歌わないとまとまらない世界なんです。まずはCoccoさんの歌を体に入れないとこの歌は歌えないだろうと必死でした。デモ音源を何回聴いたかわからないくらい。だから歌入れは最後の最後になりましたね。まだ歌えない、まだ歌えないって(笑)。
――宏美さんのキャリアは今年で43年。その中においてもまだ「開拓」という境地がおありであることに驚きました。
まだまだいっぱいありますよ! 私は特に自分の世界を守って歌ってきた人間だと思うので、43年歌っているわりにはコブシも回らないし、合唱団出身だからあんまり冒険もしない。どちらかというと、まず譜面に忠実に歌うという世界だったので。今からその道に行くわけではないですけど、例えば、シャンソンとか、ジャズの世界とか、もっともっと勉強しないといけないことがたくさんあるだろうし、学ぶことだらけだと思います。
――『五線紙の上』を作詞作曲された境 長生さんが宏美さんの親衛隊と、バラエティーも豊富ですね。
あの方はね、すごく面白い人なの。“岩崎宏”という名前で店で私の歌を歌って、親衛隊のみんなで盛り上がっているみたい。意味が分からない(笑)。よく意味のわからないことをやっているんですよ。
――光田健一さんの楽曲もそうですが、宏美さんのことを良く知っていらっしゃる方が書いている詞ということに親近感があります。
光田さんの『タカラモノ!』の詞を読んだとき、うちの夫婦のことを知っているのかなと思いました。私は結構自由奔放に生きていて、夫の方が慎重なんですけど、Facebookで繋がっているだけの光田くんがそういうところを察知して詩を書いてくださったんじゃないかなって思いますね。来年で結婚10周年なのですが、岡本真夜さんも『10年目のLove Letter』を書いてくださいました。
――『真夏のサクラ』もそうですが、長く活動を続けていらっしゃる中でつながったご縁で、新しい作品が生まれていますね。
そうですね。『真夏のサクラ』も東日本大震災の時に出来上がった詞ですが、あの時は皆様に聞いていただく機会がなくて。でも温めている期間があったから、桜の印象が亡くなった父と重なって。より一層、いろんな思いを抱きながら歌うことができました。そういう意味では、今の時期で正解だったのかなと思います。
――『PRESENT for you * for me』の中で特に思い入れの強い楽曲はありますか?
そうですね…それぞれにあるのですが、『あかぺら』は阿久先生の歌をまた久しぶりに歌えてうれしかったですね。『あかぺら』というタイトルに合わせて光田さんが作ってくれたコーラスのアレンジもすごく素敵で。あと、Coccoさんはやっぱりすごい人なんだなって思いましたね。どの局に行っても「なぜCocooさんと宏美さんなんですか」って必ず聞かれるんです。私はまだお会いしたことがないのですが、「とても大好きで、岩崎さんのことをイメージして書きました」など、たくさんの思いが込められたお手紙をいただきました。沖縄に行くチャンスがあれば、お会いしてみたいですね。
――作家さんによって歌の個性が異なりますが、どういうふうに歌と向き合われたのでしょうか?
まず全面的に受け入れる。あと、斎藤誠さんと光田さんの曲に関しては、それぞれがプロデュースされました。誠さんの『もいちどデュエット』は、3回くらい歌ったら「宏美さん、もういいね。これは歌い込む歌じゃないから。上手になったらダメなんだよ、この歌は」って。「どんどん馴染んでいって上手になっちゃうと面白味がなくなっちゃうから、僕はこれでいいと思います」って。それは斎藤さんならではだと思いましたね。光田さんは私よりも高い声が出る人で(笑)、彼がコーラスアレンジをしたデモテープを聴くと軽く「ふ~っ」て出しているんだけど、私は必死。必死になって歌いました(笑)。
――ボーカルとコーラスとでは違いますか?
違いますね。コーラスの時は均一に音を出さないといけないので、なるべく感情を入れないようにして歌いました。最初は完成形がわからず不安でしたが、自分の声が重なっていくにつれ、ハーモニーがどんどん広がっていく、そういう組み立てをしながらコーラスアレンジをした光田さんはすごいなと思いました。私は数学が弱いので…。音楽って数学ができない人には難しいと思いますね。私は感覚で歌ってきましたが、譜面が少し分かるようになったら、これは計算するのが大変だなと思いました。夫がピアノをやってきて、譜面が分かる人なので、分からないことがあると夫に譜面を見せて「これはどうなるの?」って教えてもらうのですが、「宏美さん、感覚で歌うからダメなんですよ、計算しないといけない」と言われて。それは無理だって(笑)。だから私はあまり難しく歌わないようにして、ごまかして歌っている(笑)。
――宏美さんは天性のものをお持ちだと思います。毎年いろいろなアルバムをコンスタントに出されていますね。
ありがたいことに1年に1枚、アルバムをリリースすることができています。それに関しては恵まれていると思います。あと2年したら、今度は45周年の企画も考えたいですね。
――すぐですね。
そうなんですよ。あっという間です。これからの2年の間にも、また何かがあるのでしょうね。去年は、ずっと夢だったディズニー映画『美女と野獣』でポット夫人役の吹き替えを初めてさせていただきました。ここに来て新しいことを始めているので、ナレーションのお仕事も増えていったらいいなと思っています。
――宏美さんが受け取られた贈り物の中で、印象に残る、思い出に残っているものは何ですか?
小さい頃、自転車を買ってもらえない子だったんですね。それでデビューしてある歌番組に出たとき、プールでの中継だったのでいろんなことをしなくちゃいけなかったんです。私は新人だったので、どの競技にも出なくちゃいけない。だから何でも出ていたんですよ。そしたら敢闘賞ということで自転車をいただきました! フランス製の自転車で、黄色で、ライトもついてない、すごくシンプルな小さい車輪の自転車でした。マネージャーは「これは送ってもらいましょう」って言ったんですが、私は早く乗りたいから自転車を車に詰めて帰りました。「私、小さくなりますから、自転車を乗せてください」って。その後よく乗っていたのですが、夜はお巡りさんに注意されてました(笑)。ライトついてないから。「君はもう一人の体じゃないから、ライトつけなさい」って。
――警察官も宏美さんと分っていらっしゃったんですか。
はい、近所では有名だったから(笑)。デビュー当時、うちに帰ると玄関の色紙がどんどんたまっていくんですよ。母が頼まれて。でもなかなか書けなくて、溜まっていってましたね。
――去年9月に「グッドエイジャー賞」を受賞されました。
年を重ねて賞をいただくことは、なかなかないじゃないですか。そういう中で、「グッドエイジャー賞」という素敵な賞に巡り合えて、うれしかったですね。
――年を重ねる自分を楽しむ秘訣は何でしょうか?
私はいまだに小学校や中学の同級生たちと遊んでいるでんす。みんなでテニス合宿とか行って。去年も軽井沢に行ったんですけど、大雨が降って15分しかできなかったんです。そしたら「コート代は要りません」なんて言われて、「無料でできちゃった!」って喜んだり(笑)。その時は、森山良子ちゃんが近くでコンサートをやっているっていうことで、良子ちゃんも同じ学校の先輩なので、みんなで観に行って。そして最後は軽井沢の駅で釜飯弁当を買って食べながら帰りました。雨は降ったけど最高に楽しかった!みんな同じ年だから、「私たちが60歳って信じられないわよね!」とか言いながら(笑)。
――お話を聞いているだけで、とても楽しそうな光景が浮かんできます。
ダイエット中と言いながらもご褒美で美味しいものを時々食べたり、映画を観たり、お芝居を観たり。先日、八千草薫さんと村井國夫さんが出られた舞台『黄昏』を観たのですが、八千草さんは80代であのセリフの量を覚えていることに驚きましたし、すごくかわいい奥さんを演じられていて、とても素敵でした。自分より年上の方を見て、刺激を受けて、感激して、感銘を受けるって大事なことだなって本当に思いました。あのぐらい可愛い人になりたいですね。宝塚の娘役をされていた方ですので、本当、可愛すぎます。
――最後にコンサートのことをお伺いします。10月13日(土)には神戸でライブがありますが、どういった編成でしょうか?
ピアノ、ベース、ドラム、それに弦カルテット。今回のアルバムの中からも5曲くらい歌います。 まだ親衛隊がおりますので、親衛隊と一緒に盛り上がれる曲をメドレーにしたり、あとは往年のヒット曲も歌いますから、初めて来た方にも楽しんでいただけると思います。
――親衛隊の方は長いですか。
入って何十年の方もいるし、途中から入って楽しんでいる方もいます。みんなすごく仲が良くて、コンサートの前にその土地のものを食べたり、終わったあともみんなで盛り上がってるの。私よりいいもの食べてるんですよ、みんな。ご当地グルメとか。こっちは楽屋のお弁当なのに(笑)。みんないいもの食べてるな~って(笑)。
――宏美さんは「テレビで拝見する方」というイメージがあったのですが、歌を聴くとすごく身近な存在に思えてきて。その魅力って何かなと考えていたのですが、親衛隊の皆さんの存在も大きいでしょうか。
親衛隊は家族みたいな感じですね。年に数回しか会わないですけど、みんなすごくお行儀がよくて。今年から親衛隊のリーダーが変わったのですが、しっかりとみんなを統括されていて、個々でも一生懸命応援してくださるので、私はすごく助かっています。
(2018年10月 4日更新)
発売中
Imperial Records TECI-1594
限定盤4,630円+税(DVD付き)
通常盤2,778円+税
<収録曲>
01.残したい花について
02.あかぺら
03. 10年目のLove Letter
04.ずっとずっと
05.真夏のサクラ
06.つめたい火傷
07.もいちどデュエット
08.イブの物語
09.タカラモノ!
10.五線紙の上
発売中Pコード:117-680
2018年10月13日(土)17:00
神戸国際会館こくさいホール (兵庫県)
全席指定-6500円
[出演]岩崎宏美
[問]神戸国際会館こくさいホール:078-231-8162
岩崎宏美オフィシャルサイト
http://www.hiroring.com/
岩崎宏美
いわさきひろみ●1975年4月25日に「天まで響け!! 岩崎宏美」をキャッチフレーズに『二重唱(デュエット)』でデビュー。2作目の『ロマンス』で第17回日本レコード大賞新人賞をはじめ、数々の新人賞を受賞。その後『思秋期』『聖母たちのララバイ』など数々のヒット曲を生み出す。1987年にはミュージカル『レ・ミゼラブル』(ファンティーヌ役)に出演。2006年にはラスベガスにてバリー・マニロウと共演、2007年にはチェコフィルハーモニー管弦楽団とのコラボ・アルバム『PRAHA』をリリースするなど、海外での活動も積極的に行う。2016年8月、ジャズピアニスト国府弘子と二人だけでレコーディングしたニューアルバム『Piano Songs』をリリース。2017年にはデビュー40周年を迎え、40周年記念シングル『光の軌跡』とセルフカバー・ベストアルバム『MY SONGS』をリリース。また、映画『美女と野獣』のポット夫人役として念願のディズニー映画の声優デビューを果たすなど、幅広い活動を続ける。2018年8月15日、最新オリジナルアルバム『PRESENT for you * for me』をリリースし、全国ツアーも開催。