ホーム > インタビュー&レポート > 世界で一番やさしいラブソングを歌う男・斎藤誠 デビュー35周年のクライマックスといえるツアーが決定! 色あせない名曲を紡ぎ続けた35年を振り返り、語る
――新曲『It’s A Beautiful Day』はジャケットの絵も斎藤さんが描かれたんですよね。ミュージックビデオも本当に素晴らしくて。斎藤さんはじめ画面の中で歌っている皆さんの照れくさそうな表情や、柔らかい笑顔に心がスーッと晴れていくようです。
いろんなところで撮りましたね。あ、ジャケットは15秒ぐらいで描いたものです(笑)。今回の曲の趣旨としては、友達でも恋人でも、奥さんでも旦那さんでも良いんですが、常に隣にいる相棒にたまには素直に気持ちを伝えることをしてもいいんじゃないかなって。“愛している”が言えなかったなら、“今日はいい日だね”と言うだけもいいし、そういう機会をちょっと意識して増やしていけたら――そんな気持ちを込めた曲なんですね。それと同時に、サビを何回も繰り返す曲で、しかもみんなでコーラスできる曲なので、可能な限りいろんな人に参加してもらえる曲になったらいいなと。そういうわけで今回のシングルには何バージョンものカラオケと、ギターも弾けるようにコードネームも歌詞カードに入れています。何バージョンもあるけど曲自体は2曲しかないのを良いことに、歌詞カードの字もすごく大きくて見やすいんですよ(笑)。
――サービス満点です。シングルのリリース自体が『天気雨』(2007年)以来なんですね。
その間もアルバムは出ていたんですけど、シングルはまた特別な想いがありますね。なので、思い入れも強いし、やり残すことないようにいろんなものを詰め込んでみました。
――歌詞の中の、“繋ぎ合う理由は 今日も訊かずに”のところがとても素敵で。大人ならではの繊細さと切なさが入り混じっている関係を感じます。
日本人っぽいですよね(笑)。大人だし、言いにくいところはなんとなーく避けて通っちゃう俺たち世代の悪いところで(笑)。基本的に僕が曲を作る時はヒネりたいので、普通の幸せ賛歌にはなっていなくて、長年一緒にいる人間って、たぶんそんなに素直な間柄じゃないと思うんですよね。そこらへんはちゃんと歌いたいし、本心のところでは繋がっているよということを言葉では言わずに歌にしたというところでしょうか。歌って、そういう意味では便利なものですよね。本心がどんどん歌えますから。僕自身も、この歌と同じことを隣にいる人に言えるかというと、それはなかなかできないですね。
――今のお話で思い出しましたが、『Call Me Daddy』(1988年のアルバム『WOMAN』収録) は恋人にバースデーソングを贈る曲でしたよね。言葉では言いにくい気持ちも歌でなら伝えられるという思いが込められているように思うのですが、そんなふうに斎藤さん自身もお誕生日に歌を贈ったことがありますか?
……1回だけ。
――おお!
しかもつい最近、去年の12月にうちのドラムの成田昭彦さんが70歳になられて、その時に成田さんの為に曲を書きまして。お誕生日ライブで、お客さん全員に歌詞を配って聴いてもらいました。僕がどれだけ成田さんを好きかという想いを書き綴った曲です(笑)。ファンクで、みんなで盛り上がれる曲なんですよ。その曲ね、次のアルバムに入れようと思っているんです。
――楽しみにしています。ただ、斎藤さんの長い音楽人生の中でたったその一度だけというのも意外ですし、歌ではいかにも男女のラブストーリーがたくさん歌われていますが、現実はそうではなく(笑)。
そうですね。言われてみるとその一回だけですし、相手は男性でしたね(笑)。『Call Me Daddy』は年の差のある恋愛を歌っているんですけど、バースデーソングを書くのはなけなしの手段なわけですよね。なんとかして25歳くらいの年の差を埋められないもんかと思って下手な手をいっぱい使うっていう(笑)。それが歌になるとやわらぐというか、そんなに真剣にならなくても歌のプレゼントは出来たりするんだよ、と。でも実際はそういうことをしたいけどできないから何回も歌っているんでしょうね(笑)。
――2曲目の『MUSIC LIFE』も同様に、言葉で伝えるよりも歌に託して聴き手に届けようという曲ですね。とても温かい曲です。
これは今年の1月3日に僕の還暦ライブがあって、当日来てくださった皆さんに1曲新曲を収録したCDをプレゼントすることになって、それがこの曲なんですね。ライブの最後にこの曲をかけたんですけど、その時は今回とはまったく違ってギター2本だけのバージョンで。“僕の35年間の音楽人生の中で、今はこういうことを思っているんです”というのをみなさんに聴いてもらいたくて。成田さんのバースデーソングを作っている時に同時進行で、珍しく歌詞とメロディーを一緒に作りましたね。なので語り口調な、言葉が多めの歌詞になっているんじゃないでしょうか。
――ファンの方へのメッセージととれる歌詞は感動的です。最後のあたりの“どこへだって逢いに行くよ”の少しくだけた歌い方も良いですね。
繰り返すところですね。ちょっと照れが入っている感じの。そういう、曲を締めくくっていく時にちょっと茶化すみたいなやり方を昔、洋楽から仕入れた記憶があって。
――アルバム制作が始まると、外部の音楽はシャットアウトして集中するアーティストもいれば、その逆の方もいらっしゃいますが、斎藤さんはどうですか?
僕はなんでも聴きますね。作っている時に、“あのサウンドはどんなんだっけ?”と引っ張り出したのが50年も前の曲だったりもするんですけど、改めて聴いてそのエッセンスをアイディアの1つに入れたりすることもあります。基本は英語圏のロックが好きなので、そこに戻ると自分の居場所があって素直に曲を書けることがあるんですよね。この間も自分のラジオ番組で、ブレッドっていう60~70年代のアコースティックロックのバンドの曲を流して歌ったんですよ。そしたらディレクターが、“CDは持ってるけど、もう1回ブレッド聴いてみます”と言っていて。ラジオのディレクターだからいろんな音楽を知っているし聴いているけど、そこへアコースティックの基本みたいなブレッドを聴かされて、余りにもサウンドがすっきりしていてびっくりされたみたいで。僕はたまたま選んだ1曲を普通に歌っただけですけど、その影響力というのは僕が思った以上にいろんなところにあるんだなって。そういう意味で、自分が曲を作る時にも自分が知っているものやこれまで経験して聴いてきた洋楽のエッセンスをどんどん詰め込んでいくことが、もしかしたらみんなをびっくりさせることにも繋がるかもしれない。そう確信したんですね。今制作に入っている新作は、そうやって洋楽が大好きだった自分に対してわりと素直なアプローチで作ろうかなと思っています。やっぱり、若い頃はそこを避けていた自分がいるんですね。放っておいても洋楽っぽいと言われていたから、そこを強く出しすぎると、“聴く人を限定するかもしれない”って怖がっちゃう部分があって。でもね、今年で生誕60年を超えましたので(笑)、そこらへんをもっと自由に、“これが大好きー!”というのをそのまま音に出すことをやりたいなと思いますね。
――久しぶりに『WALTZ IN BLUE』(2003年)を聴いて、これまであまりポール・サイモンをじっくり聴いたことがなかったんですが、聴きたくなってきました。
『時の流れに』をカバーしましたね。今、ポール・サイモンの名前が出て僕の中でパーンと膨らんで、このまま放っておいたら『時の流れに』についてワーッとしゃべりだすんですよ(笑)。そうやって中学生ぐらいの頃に感じていた情熱と変わらないパッションがあって、それがある限り大丈夫だなと思うんですよね。
――それがこれまで35年間ずっと変わらずに、あり続けたんですね。
自分ではこの35年間でいろいろ変えてきたつもりでいるんですが、デビューアルバムの『LA-LA-LU』(1983年)を聴いた人が“うん。基本的に一緒だね”って言ったりするんですよ(笑)。やっぱそうなのねって自分でも思うし、自分の中心の幹の部分はそうそう変わらないですね。逆に言えば、デビューした頃から細ーーい幹の部分が自分の中にあったんでしょうね。それがだんだん膨らんできて。だから、セルフカバーのアルバムを出した時にすごく昔の曲とつい最近の曲を並べても、そんなに違和感がないのかもしれないですね。
――これまで35年間、手を伸ばしたら届きそうな距離のライブハウスに立つことも、サザンオールスターズや桑田佳祐さんのサポートでアリーナに立つこともあり、そのどちらも同じぐらいの割合で経験されていますよね。
そうですね。そう考えると幸せだなぁと思いますね。2種類の刺激をもらっているわけで、やっている時のモードは違うし緊張のポイントも違うんですよ。桑田さんやサザンのサポートで入っている時は、絶対間違えないようにしようという気持ちが強くて、雰囲気を作ろうとか考えている余裕はない。で、自分のライブに帰って来た時には、一緒にやっている柳沢二三男(Gtr)に全部任せちゃって、自分はゆるーい感じで、“ここにいる100人、200人の人たちをどんなふうに盛り上げようかな”ということで頭がいっぱいなんですよね。だから、ときどき自分のライブでは間違えるんです(笑)。両方の刺激ってそういうところで、なかなかその両方が経験できる幸せなことはないと思うし、そういう意味でいつも違った種類の緊張をしているので、なかなかご隠居さんにならないんじゃないかなと思いますね。
――いつまでも若いままで。
それを自分で言っちゃうと角が立つかなぁと思って、違う言い方にしてみました(笑)。
――ソロのステージで、“あ、間違えた”“もう1回やります!”という瞬間は、ふわーっと空気が和みますよね。
そうですか。そこに甘えるんですよ、僕は(笑)。
――桑田さんの『若い広場』のミュージックビデオでギターを弾いている斎藤さんを見ることも出来れば、『It’s A Beautiful Day』では雷門や歌舞伎座の前でニコニコされていたり。これからも、リスナーはそのどちらも楽しませてもらえるわけですね。
あぁ。たとえば雷門の前とか歌舞伎座の前とか、そのうちの1つに東京ドームや大阪城ホールがあるのかもしれない。そういう僕のいろんな一面が、僕のMUSIC LIFEなのかもしれないですね。
――本や映画も同じなのかもしれませんが、30年、40年前のものだから古いということはなく、何回も同じアルバムや同じ曲が聴きたくなったり、初めて聴いた時のことを思い出す瞬間もあれば、その時その時の感覚でそれまでとは違う発見もあります。斎藤さんのこれまでの作品もそういう楽しみ方をしています。
そうですよね。たとえば『WALTZ IN BLUE』を聴いて“なかなかいいじゃん”と思うわけですよ。でもその“なかなかいいじゃん”はクセもので、現在の自分がその時の自分に負けていたらどうしようという気持ちが常にあって。今よりも過去のほうがクオリティの高い曲を書いているなと思うことがときどきあって、“その時よりも自分のテンションが下がってたらヤバイな”、“いや、いかんいかん。もっと面白いことを考えなきゃ”って(笑)。そうやって、今の自分は大丈夫なのかチェックする材料になる時がありますね。ライブでやる機会があるので、これまでの曲もわりとよく聴くんですが、そうすると、“この歌詞はどうなんだ?”って30年前のことをダメだしする自分がいて(苦笑)。これまでもそうでしたが、たぶんこれからもそういうことの連続でしょうね。
――新作も、10月27日(土)の心斎橋JANUSでのライブ、『ポップロック35周年ツアー~秋は三種の味わいで~』も楽しみにしています!
そうですね。35周年のツアーですし、たまってきているアイディアもいろんな音になって届けられると思います。僕も楽しみですし、みなさんもぜひ一緒に楽しみましょう!
取材・文/梶原有紀子
(2018年8月14日更新)
<収録曲>
1.It's A Beautiful Day
(オリジナルカラオケ)
2.It's A Beautiful Day
(コーラス用カラオケ)
3.It's A Beautiful Day
(アコースティックギター用カラオケ)
4.It's A Beautiful Day
(マーティン・ギターCM / 番組バージョン)
5.MUSIC LIFE
(オリジナルカラオケ)
さいとうまこと…’58年、東京生まれ。青山学院大学在学中の’80年より音楽活動をスタートし、’81年に発売された原由子の1stソロ作『はらゆうこが語るひととき』にアレンジ、ギター、コーラスなど全面的に参加。翌’82年、小林克也&ザ ナンバーワンバンドに参加。映画『アイコ十六歳』の音楽監督を務める。’83年10月にシングル『ワンスモア・ラブ』、アルバム『LA-LA-LU』でデビュー。翌`84年に2ndアルバム『BE-GRAY』発売。同年サザンオールスターズの野外スタジアムツアーのオープニングアクトを務める。`85年4月に3rdアルバム『PARADISE A GO!GO!』をリリースし、同年秋から翌年まで半年間渡米。’94年、桑田佳祐のソロツアーにギター&コーラスで参加し、以降サザンオールスターズのサポートギタリストとしても活躍。自身の音楽活動に加え、高野寛、つじあやのなど他アーティストのプロデュースやテレビ番組の音楽制作、また毎年ツアーを行い精力的に活動を展開。これまでにベスト盤やカバー盤を含むアルバム18枚をリリース。‘18年1月3日、東京日本橋三井ホールで『斎藤誠本日還暦。ララル男の決意表明!!』ライブを開催。4月に、『天気雨』より11年ぶりとなるニューシングル『It’s A Beautiful Day』を発売。10月20日(土)東京 渋谷 duo MUSIC EXCHANGEを皮切りに『ポップロック35周年ツアー!!~秋は三種の味わいで~』開催。大阪は10月27日(土)心斎橋JANUSにて。
発売中
Pコード126-501
▼10月20日(土)18:00
渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
前売-6800円 当日-7300円(全自由/ドリンク別/税込み)
[出演]斎藤誠/成田昭彦/深町栄/片山敦夫/角田俊介/河村”カースケ”智康/柳沢二三男
[問]duo MUSIC EXCHANGE[TEL]03-5459-8716
8月18日(土)一般発売
Pコード:126-066
▼10月21日(日)16:00
名古屋 BL cafe
前売-5000円 当日-5500円(全自由/ドリンク別/税込み)
[出演]斎藤誠/柳沢二三男
[問]サンデーフォークプロモーション[TEL]052-320-9100 (10:00~18:00)
▼10月27日(土)18:00
心斎橋 Music Club JANUS
前売-5000円 当日-5500円(全自由/ドリンク別/税込み)
[出演]斎藤誠/片山敦夫
[問]キョードーインフォメーション[TEL]0570-200-888
▼9月23日(日)17:00
吉祥寺 STAR PINE’S CAFE
前売-5000円 当日-5500円(ドリンク別途)
[出演]斎藤誠(Vocal/Guitar)/角田俊介(Bass)/河村”カースケ”智康(Drums)
[問]STAR PINE’S CAFE 044-23-2251
オフィシャルサイト
https://tearbridge.com/saitomakoto/