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心の奥に潜む感情を表に出すことができないあなたたちへ
残響レコードからミニアルバム『Faux Blanc』リリース
O’dileインタビュー

5月16日、アルバムとしては2作目となる『Faux Blanc』をリリースしたO’dile。前作『WARMDUSCHER』はエレクトロ主軸だったが、今作は生楽器の演奏で、クラシカルでアイリッシュな要素に人間味が加わった。“閉鎖された世界から抜け出し、大きな扉を開ける第一歩”かつ“自分たちの殻を大きく破る1枚になった”という今作。このコピー通り、制作初期の段階において、nats(vo)と機長(g)の間で交わされた濃密なコミュニケーションが、今作の完成に多大な影響を与えたことは無視できない。ギタリスト兼プロデューサーを務める機長は、残響レコード代表取締役・河野章宏その人だ。今、彼が残響レコードを始動させたばかりの頃と同じようなマインドでO’dileの活動を行っているという。元々残響のファンだったというnats。だが、彼女の抱える闇は深く“本気で人間を信用しても痛い目をみるだけ”と言うほど、本音を隠して生きてきた。その彼女を信じさせ、大きな器で導いた機長。そこにあるのは音楽への覚悟、責任、情熱だった。もはや、2人の出会いは運命的と言ってもよいだろう。2人が終始熱く語ってくれたインタビューは約2時間にも及んだ。少しでも、この作品に託す想いが伝わると幸いである。命をかけて生み落とされるO’dileの音楽は、自分の感情をうまく表現することができない不器用な私たちを共感で包み込む、救いの歌である。

 “お前がやめないんだったら、俺はやめないから” 
 
 
――お2人の出会いは、機長さんがお仕事で北海道のラジオ局に行かれた時、ということですね。
 
nats「私が札幌のラジオ局でDJとして喋らせてもらっていた番組で、機長がプロデュースしていたバンドのインタビューを担当したのがキッカケですね」
 
機長「その時に彼女が音楽活動をやってるというのを聞いて、たまたま時間が合って、軽い気持ちでライブを見に行ったんですよね。で、彼女がすごい頑張ってたんで、“もうちょっとちゃんとしたギタリストの方がいいんじゃないの?”って(笑)」
 
nats「いや、ちゃんとしてないわけじゃないですよ!?」
 
機長「ははは(笑)。あとは個人的に札幌に飛行機を所有してる人がいて、よく飛行機を飛ばしに行ってるんで、“そのタイミングでよければギター弾いてあげるよ”って、そんな感じで始まったんです。ちょうどアコースティックギター弾きたいと思ってた時期だったし(笑)」
 
――なるほど(笑)。その時は本格的にO’dileとしての活動をしようということではなかった?
 
機長「なかったですね。僕は暇つぶしです」
 
nats「でも私は高校生の頃から、機長がやってたレーベルの大ファンだったんです。そんな人に“暇な時にでもいい”って言って弾いてもらうんだったらそっちの方がいいよね、と思って、その日でギターをクビにしました(笑)」
 
――即決されたと(笑)。
 
nats「邦楽ロックにのめり込んだキッカケのレーベルだったし、このチャンスは掴んどかなきゃダメだなって。その時期は1人で音楽をやろうとしてたので、具体的にどうしたらいいのかわからなくて。北海道というローカルから出たいと考えてはいるけど、漠然と思ってるしかなかったんです。ただ、“この人からたくさん学びたい”と思ったのは大きいですね」
 
――natsさんにとっては学べる場、機長さんにとってはタイミングよくアコギを弾ける場だったと。それからどのように活動されていったんですか?
 
機長「彼女が作った曲で、すごく良い1曲があったんです。アレンジしたらすげえ名曲になるんじゃないかなと思って、スタジオ入って実際やってみたら、思った通りで。それが『ハルモニア』(『WARMDUSCHER』収録)なんですけど、これはちゃんと形にした方がいいかなと思って、ややギアが入ったんですね」
 

 
nats「とりあえず録音してみようかという話になって。1曲じゃ物足りないから2曲作ろうとなって、そこからですね」
 
機長「彼女が毎月東京に来て、レコーディングスタジオで曲をアレンジしたり、打ち込みを作って、同時に歌の特訓も始めて。その時は軽い気持ちで、曲がたまったからCDにしようという感じだったんです。1枚目の『WARMDUSCHER』を出す時、彼女が所属してたレーベルの社長に、“リリースをしようと思ってるんだけど一緒にやりますか?”と、一応筋として話をしたら“もう彼女をもらってください”と(笑)」
 
――おお。
 
nats「私は1度全国デビューした経験があるので、“全国で活躍できる場が決まるまで置いてあげる。でも決まったらそこに行くんだよ”、という話だったので、完全に契約満了状態で送り出された感じですね」
 
機長「それで、今作の『Faux Blanc』を作ってる時に、クオリティがガーッと上がってきたんです。歌しかり、作曲レベルしかり。作品性や方向性も見えてきたので、そろそろしっかりギア入れるか、というモードに僕がなったんですね」
 
――natsさんは、その時どんなお気持ちでしたか?
 
nats「頑張り次第で認めてくれることがすごく増えたので嬉しかったです。今までダメ出しばかりする上司のもと育ったり、日頃からマイナス面は言ってくれるけど、プラス面を言ってくれる大人が周りにいなくて」
 
――わあ、辛いですね……。
 
nats「そうなんですよ」
 
機長「(笑)」
 
nats「機長は“ここはダメだ、でも私の良いところはここだよ”って、ちゃんと示してくれるんです。そういう大人がやっとできた。頑張ったらそれなりの答えを出してくれる。“こうしてみたらどう?”ってヒントをくれる。だからとにかく本気で食らいついていきました」
 
機長「彼女は、辛い環境を自分で作ってるんですよ。僕もそうですけど、殻を作っておかないと自分の身がもたないみたいな状況、あるじゃないですか」
 
――ありますね。すごくわかります。
 
nats「誠心誠意人に尽くして、向こうから何も反響がなかった時の辛さといったらないんですよ。命が削られてる感がすごくあって」
 
機長「話していても、何かに怯えているというか。少しでも僕の機嫌が悪くなると、“もうこのグループは解散だ”と」
 
nats「幼少期から、そう言われることが多かったんですよね。自己嫌悪がすごくて、自分の心を隠すのが日常でした」
 
――少し否定されたら、全てダメだと思ってしまうんですね。
 
nats「それに、その時は機長を100%雇用主のような感覚で見ていたので、“この人の会社にプラスになるように動かなきゃいけない”と思ってました。でも何か違うよなという話になって」
 
機長「だから1回、“思ってること全部言え、聞くから”と。彼女は普段の生活でも壁を作ることがすごく多いんですよね。だから今までの家庭環境とか、育ってきた環境、学校での過ごし方、そういったものも含めて全部聞いて」
 
――え、すごいですね!!
 
nats「カウンセリングみたいな状態で、生い立ちから全部言いました」
 
機長「そういうことを理解しないと、この子は伸びないなと思って」
 
――ほんとうにすごい。
 
機長「それで彼女の背景がわかったので、“大丈夫、どれだけ怒っても、音楽で成長し続けてる以上、俺はやめない。クビを切るみたいなこともない。だからそこは安心してくれ”と。音楽に関してはすごい怒りますけど、ただ不機嫌だったりムカついて怒ったところで、活動云々とは関係ない、という話をして壁を取り払った感じですね」
 
――うう、素晴らしいですね。そんな理解者なかなかいないですよ。
 
nats「でも最初は素直に飲み込めなくて。どこまで本当かわからないので、全部受け止めないようにしてました。期待して舞い上がっちゃうのは本当にダメだと思ったので、期待しないようにして」
 
機長「でもそれじゃ何も起きないじゃないですか。だから僕は覚悟を決めたんですよ。期待もするし、裏切られても別にいいと」
 
nats「“お前がやめないんだったら俺はやめないから”と言ってくれたのが1番強かったです。それだけ見捨てないでいてくれると言うんだったら、本心から音楽が書けると、やっと思えましたし、やりたいことを本当にやってもいいんだと思えたのはその時くらいです。ほんとに最近の話ですけど」
 
 
ミュージシャンは自分の内面を出していく職業だ
 

機長「もうちょっと深い話をすると、他人の目を気にした思考をやめなさいと。“こう見られたい”とか、“いいね”を押されたいとか、僕は大っ嫌いだ。そういうのを全部やめてくれと」
 
――他人軸ではなく自分軸で考えろと。
 
機長「そう。“自分がこうしたい”という、嘘のないもの、他人の目を意識しないもの、本音が乗った言葉が聞きたい。日常の会話もLINEも、嘘っぽい言葉はいらない。全部本音で、自分の言いたいように、やりたいようにやってくれと」
 
nats「でも、私はいつも本心のつもりで話してたんです。で、何が本心かわからなくてパニックになったり、過呼吸になったりして。特に苦労したのが、“自分が今喋ってることも、1stアルバムの歌詞も全部嘘なんじゃないか”って疑うようになっちゃって」
 
――自分で自分を疑ってしまう?
 
nats「そうです。映画とかで、何が現実かわからなくなるシーンあるじゃないですか。そういう状態に陥ってしまった。だからバイト以外の時間を全部遮断しました。機長の連絡も遮断して、唯一やっていたInstagramもやめたんです。情報を完全にシャットアウトして、人間的な感覚を取り戻すところから始めました。“ご飯美味しい”とか“眠たいから寝よう”とか。何が本心で、本能なのかを確かめ直す。結構、極限状態でしたね」
 
――他人軸で生きていると、自分の欲求がわからなくなりますからね……。
 
nats「そうなんです。ニュースサイトも一般常識的に見た方がいいのはわかるんですけど、自分が見たいわけじゃなくて、“見た方がいいかな”という思考。だから全部遮断したんですよ」
 
機長「それってすごく音楽に反映されてしまうんですよ。ミュージシャンは自分の内面を出していく職業だと思っているので、そこに他人の要素が入ると、“売れ線の曲を書いた方がいいでしょ”という発想になる。でもそんな曲は売れないです。日頃から自分が胸を張って良いと思える言動を行っておかないと、当然音楽にも出てこない。だからどれだけ彼女が過呼吸やパニックになっても、バリバリ殻を剥がす作業をずーっとやってましたね」
 
――ヘビーな作業ですね……。
 
機長「かなりしんどかったですよ。だいぶ本心や本音が出てきて良い状態になっても、音楽以外のことをやると思考が元に戻るんですよ。すぐ閉ざして、怒って、開いて閉ざして、みたいな」
 
nats「ある程度の距離がないとダメなんですよ!」
 
機長「でも距離があると、なかなか良いものが出てこない。良い歌を歌ってもらうためには、メンタリティを維持してもらいたいんですよ。すぐあっちの世界にいっちゃうんで、そこにいかせないように維持するのがすげえ大変です」
 
――器が大きいですね。
 
nats「完全に寄り添ってもらってますね(笑)」
 
機長「彼女は僕じゃなかったら多分ダメだなと思います。ここまで徹底的に付き合おうと思う人がいないと、彼女は活きないと思う」
 
――そこまで向き合ってくれる人に出会えたというのは幸福ですね……。
 
機長「それに、僕自身も学べる部分がものすごくあって。“彼女にこう言ってるけど、俺自身ができてねーな”とかいっぱい発見がある。そういう意味では彼女に感謝してることが結構あるんですよ」
 
nats「ふいにLINEで、“今日はこういうことに気付いた、ありがとう”って言われるんです。“え、どした!?”みたいな」
 
機長「いつも怒られてるのに(笑)。僕、“思考が変われば行動が変わって、行動が変わると結果が変わる”ってよく言うんですけど、本当にその通りで、まず彼女の思考を変えないことには、音楽にも結果が伴わない。今まで壁を作ってきた思考を取っ払う。ライブも最初はお客さんと壁があったし、僕ですらステージの上で壁があった」
 
nats「作ったつもりはなかったんですけど、本能的に守りに入ってる状態ですね。1人で抱え込んできた時間が長かったので、本気で信用しすぎたら自分が痛い目みると常に思ってるので」
 
――そこまでのメンタルだったんですか。
 
機長「そのために1番の理解者が横にいないといけない。役割として、僕はこの立ち位置だと思った。あなたよりも俺の方が、あなたのこと知ってるかもしれない。そういう関係性ができたかなと」
 
nats「鏡ですよね。自分の姿って鏡を通して見なければ分からないんですけど、やっぱり他人の方が顔はよく見てるじゃないですか。本当にその感覚です。ただそれが、機長にも言えることだとは思わなかったですね」
 
 
“残響レコードを通じて生きる希望を見出した人がいる”なんて
彼女に出会う前はわかっていなかった
 
 
――ブログにも書いてらっしゃいましたが、機長さんは、natsさんを見ていて変わった部分があったんですか?
 
機長「ありましたね。僕1年くらい音楽をやめてたんです。全然活動せずに海外行ったりしてたんですけど、今のままの自分の思考回路じゃ、次何かやるにしたって、大きなアイデアは出てこないだろうなと思っていて。CMの仕事とかは求められたものをやるだけなんで、正直感情はいらない。だけど自分が音楽をやる時には、何か変化をさせていかなきゃいけないんですけど、そこにある体育会系の会社をやってるんで、もう上からガンガン言って、実績ねえ奴は黙ってろ、みたいな(笑)。結構ストイック。メジャーアーティストがいっぱいいたので、“メジャー行ったら数字出してなんぼだ”、みたいなことを突き詰める人間だったんですよね。でも女性にはね、これが通用しない(笑)」
 
――ああ(笑)。
 
機長「やればやるほど萎縮するんですよね。とにかく結果と実績を出せと社員にも言ってて、結果が出てる時はいいんですけど、出なくなった時にやっぱりいろんな歪みがバーンと出ちゃうんです。それでうまくいかなかった経験があるので、思考を変えようと考えていた時に、水面下で彼女と活動してた感じですね」
 
――natsさんが入れたスイッチというのは? 
 
機長「今までレーベルをやってきた中での良い部分を、彼女が時々言うんですよ。“ここは良いところですよ”とか。じゃあそのやり方は残そうかな、と思えたり」
 
nats「レーベルのファンとして言ってるんですよね。“あの時の、この人たちのここが好きでした”という話をすると、機長が頭の中でその時期の自分と重ねるんですよ。今、レーベル初期の頃の感覚に近いねって、外部の方に言われたんですよね」
 
機長「そうね、されたね」
 
――ご自分では気付いてなかった。
 
機長「はい。今14年目なんですけど、1番最初にレーベル始めた時の想いを、もう自分では忘れてるわけですよ。いろんな経験や知識も入って、“このアーティストだったらこういう手法で、この仕掛けをすればこれぐらいまでいくな”、みたいなのも大体わかってしまう。その瞬間萎えちゃって、自分の仕事をやってる意味がわからなくなるんですよ。だけど彼女が、“機長はヒットを出してますよ”と言ってくれるんです」
 
nats「世間的に話題になったレーベルでもあるし、絶対そうなんですよね」
 
――確かにそうですよね。
 
機長「“音楽を通じて生きる希望を見出した人が、何十万人といますよ”と。僕は、全くそんなことを思ってやってないんです」
 
nats「意外だったのが、“周年イベントの最後に、お客さんがみんな、ありがとうって言うんだ。何でありがとうって言うんだろう、わかんないんだよね俺”、って話をしてて」
 
――そうなんですか!
 
機長「そうなんです」
 
nats「それって、救われてるってことじゃないですか。私も少なからずそうだし。でも、“そういうことなの?”みたいな、意外な反応が返ってくるんですよ」
 
機長「至って冷酷な人間なんで(笑)。だから変な話ですけど、当時の10代20代、今だと30代くらいの子に、未だにすごいリスペクトされるんですよ」
 
――青春時代に聴く音楽は特にインパクトを残しますもんね。残響は音楽シーンを築いたレーベルですし、影響を受けた人の数も物凄いですよ。
 
機長「今はわかるんです。でも彼女と出会う前は、そんなこと思ってなかった。もしかして、俺がやってきたことに、世の中的に結構価値があるんじゃないかと思い始めたのが最近です。彼女がそう思わせてくれた。だから僕も今変わってる最中かなと思うんです」
 
 
汚いものの中にも美しさはある
 
 
――『Faux Blanc』の制作は、お2人の話し合いの後に進められたんですか?
 
nats「大本はその前からできていたんです。曲が出揃ってきて、フルアルバムにするかミニアルバムにするか、という段階だったんですけど、根本的に“アレンジこれでいいの?”みたいな話になって。1度アレンジを見直して、本当に自分たちのやりたいように、ルーツに近づけました。その上で歌詞もだいぶ書き換えましたね。自分の本心を遠回しに語る曲が多いので、心境の変化によって、自問自答を繰り返して。というか、素がぐちゃぐちゃなので、とりあえずそのまま出してみました」
 
機長「(笑)」
 
nats「整理すると綺麗にまとまってしまうというか、また“こうしなきゃ”というフィルターがかかってしまうので。人間って言葉で言い表せないような複雑さが絶対あるはずで。だから世界観は“嘘のない世界”というテーマで定着させました。嘘をついたり誤魔化す人がたくさんいる世の中で、少しでも素直に生きれたら楽なのにね、という意味で書こうと思いました」
 
――“Faux Blanc”は“偽の白”という意味だとか。
 
nats「たとえばベンチはペンキで塗られているけど、中身は木じゃないですか。今はお化粧にも肯定的ですが、何かを塗り重ねるのは装っていることと同じだよな、と思ってつけました」
 
――ちなみに今作からバンド名の表記をOdileからO’dileに変えられたのは、どんな意図が?
 
nats「ちょっと心境の変化があって。表記を変えたのは、“素直に発言することは大変なこと。ただそれでも私は素直に言っていきたいよ”という意思の表現です。アポストロフィーをつけて“O”と“dile”に区切ったんですが、“O”は“0=ゼロ”にもなる。“dile”はスペイン語で“言葉にする”だから、“自分の素のままの状態で何かを言う”という意味になるなと思って、最終的に決めました」
 
――作品の内容ともリンクしていますね。技術面での変化はありましたか?
 
機長「いらないものをそぎ落としましたね。1作目は全部電子音楽で作ったんですけど、僕はすごい違和感があって。電子音楽の部分を、生楽器に総取っ替えしました。余分なものは基本的に自分たちの気持ちの中で必要ないものだし。やっぱりこっちの方がしっくりきて」
 
nats「そぎ落としたといっても、綺麗にまとめたわけではないですね」
 
機長「ではない。ぐちゃぐちゃの中でも、いらないものを断捨離して。結局そこに残るのは、本音や嘘のない部分だと思うんで。彼女は真面目だから、仕上げを美しくしようとしちゃうんですけど、僕はそんなに美しくなくてもいいじゃんって。汚いものの中にも美しさはある。汚れた部分を出して、人から“汚い”と言われることを恐れてるんですよね」
 
nats「今頭の中で『リンダリンダ』流れてる(笑)」
 
――ドブネズミ~みたいに~美しくなりたい~(笑)。
 
機長「(笑)」
 
nats「でも音楽をやってる以上、命を削ぎ落とされる仕事なんだったら、与えられた時間の中でどれだけアウトプットするかですよね。私、幼少期から人目ばっかり気にしてて、でも仲間外れにされたり、いじめの経験もあるんですよ。周りを気にして発言しても、黙ってても、言われる時は言われるんですよね」
 
――わかります。結局そうなんですよね。
 
nats「何を言っても誤解されてしまう世の中なら、誤解のないように言葉を尽くすというよりは、誤解したい人は誤解すればいい。わかってくれる人だけ残ればいいと思えるようになりました」
 
機長「僕は彼女をそういう思考にまで持っていきたかったんです。会社勤めしてると、なかなか本心を言えないじゃないですか。上司がいて同僚がいて、なるべく好かれるように生きていかなきゃいけない。けど、音楽の仕事は逆で、本音を出したことで、“私の代わりに言ってくれてありがとう”となる。それを俺らがやらなかったら、誰がやるんだ。だからやらなきゃダメだと。そういう話をずっとしてましたね」
 
 
1枚目が懺悔だとしたら、今作が決意の作品
 
 
――聴かせていただいて、『雨部屋』(M-4)と『Clematite』(M-5)がアルバムの核なのかなと思いました。
 
nats「うおー!」
 
機長「気付いちゃいましたか」
 
nats「私の真髄としては、『雨部屋』と『Clematite』は、精神に1番近い状態です」
 
――今作に込められている“閉じられた世界から扉を開けよう”というメッセージの核心が歌詞に詰まっているような気がしました。
 
機長「おっしゃる通りですね。多分『雨部屋』が、彼女の気持ちが100%ダイレクトに出てる曲なんですよ」
 
nats「『Clematite』も出てるよ~」
 
機長「まあわかるんだけど、『雨部屋』とか『Clematite』みたいな曲ばっかりになるとしんどいですよ(笑)」
 
――確かに(笑)。
 
nats「エンジニアさんにも“君の書く曲は暗いね〜”ってずっと言われてます(笑)」
 
機長「僕も含めてちょっと暗い部類の人間なので、気持ちはすごくわかるんですけど、“暗い部類の人間でも明るい気分の時は、こういう明るさもいいんじゃないの?”という提案が、『Lampe』(M-2)や『アンサンブルカーテンコール』(M-8)だったりするんですよね。“人間って1つの面だけじゃない、陰と陽があるよね”というところを作品で見せておかないといけないので、そういうバランスにしました。ちなみに『雨部屋』と『Clematite』は彼女がほぼ最初から最後まで作ってます。逆に『Lampe』と『アンサンブルカーテンコール』は、ほぼ僕が作ってる(笑)」
 
――性格が出ているかのようですね(笑)。個人的に2度・3度とリピートするにつれて、作品の印象が明るくなっていきました。
 
機長「僕もそうでしたね」
 
nats「正直、サッと聴くと“暗っ”と思うのかもしれないんですけど、歌詞の中には常に救いを入れるようにしていて。『雨部屋』は、“1人じゃないということを知ってしまったから、もうこれ以上1人には戻れない”という話で、切ないながらもプラスの意味なんですよ。『Clematite』もそうですね。よく“自分には音楽しかなかった”と言うアーティストさん、いるじゃないですか。私それがあんまり理解できなくて。“歌でしか生きられないんじゃなくて、歌でしか生きるつもりないよね。だからそれ以外を全部捨ててきたんでしょ?”という」
 
――おお、なるほど。
 
nats「夢を追ってミュージシャンになってる人が多いから、それで食べていってる人と、裏腹に食べれてない私、という嫉妬もあるんですけど。私はもともと不器用なので、1つの事しかできないんです。いろんなことをゼロにして捨ててきてしまった自分がいるので、“これしかないって違くない?”と思ってて。それが『Clematite』なんですよ。“私はここで生きることを決めました”という宣言の曲です」
 
――『雨部屋』と『Clematite』は、他の曲に比べて覚悟の重さが違うように感じました。
 
nats「そうですね。1作目では“決心”とかいう言葉は出てこなかった。全然人のこと考えれてなかったなーという反省があるので、何でしょうね……1枚目が“懺悔”だとしたら、今作が“決意”。違う物語のようで、自分自身の成長や過程を描いてると思っています」
 
 
最近O’dileの活動が、レーベルを最初にやってた感じに似ている
 
 
――1曲目の『Qui?』は、ほぼ語りだけですね。
 
nats「フランス語で“何?”という意味なんですけど、語りみたいな詩が入ってて。『Soiree』(M-3)は空中ブランコを題材にしてるんですけど、そこから派生して、“落下する瞬間に思うことって何だろう”と。漫画や映画で“あ、これ死ぬんじゃないか”と思う瞬間に、主人公が覚醒する場面があるじゃないですか」
 
――あるある。
 
nats「それって、本当にあるだろうなと思って。自分が落ちていく状態になった時、それでも希望の光を見てしまう、それが本心だと。じゃあそこに見える私はどういう姿かなというのが、『Qui?』の詩の内容ですね」
 
――なるほど。1曲目が問いかけから入ってるので、その答えを探していくようなイメージで聴いてました。
 
nats「おーーーーーー!! 嬉しい! 計画してたわけじゃないから嬉しい!」
 
機長「そういう仕掛けです、って言っとけばよかったな(笑)」
 
nats「そう受け取っていただけるのはすごく嬉しいです。ちょっと感動しちゃった、私」
 
機長「トータル的に見て、音楽的な振り幅を提示するために1曲目はインストっぽくしましたね」
 
――精神的に変化した分、表現の幅も広がったんじゃないですか?
 
機長「相当広がりましたよ。ライブも当初は打ち込みでやってたんですけど、全然気持ち良くないんですよ。逆に人間味やタイム感、空白を重視してライブをやるようにしたら、急にウケが良くなって、自分たちもしっくりきて。最初はバックバンドを入れてやろうと思ってたんですけど、札幌のライブハウスの店長に、“2人で十分じゃないですか?”と言ってもらえるようになって、じゃあ2人でライブ頑張ってみようかなって。これもまた余分なものを落とした感じだな」
 
nats「その店長が“初期のレーベルの状態を見てるみたいだ”と言ってたんですよね。それが機長的に1番楽しく、1番燃えてた時期だった」
 
機長「そうそう。“最初の頃のエネルギーがすごく出てる。同じものを見てる感じがする”と言われたんですよ。自分でも最近、O’dileの活動が、レーベルを最初にやってた感じの雰囲気に似てるなと思って」
 
nats「私が高校生の時から追っかけてるバンドがちょうどその時期だったので、もう嬉しくてしょうがないです」
 
機長「今はそういうエネルギー量でやってる感じですね」
 
――良い状態なんですね。
 
機長「そうですね! やっと良い状態になりました。スタートラインに立ったなという。今後はただ全力投球でやるだけですね」
 
――これからが楽しみですね。このアルバムが広がることを心から願っております!

text by ERI KUBOTA



(2018年6月 6日更新)


Check

Release

音楽への覚悟と情熱
自分たちの殻を大きく破った1枚

Album『Faux Blanc』
発売中 2000円(税別)
ZNR-203

《収録曲》
01. Qui?
02. Lampe
03. Soiree
04. 雨部屋
05. Clematite
06. フィザリスの実
07. LIP STICK
08. アンサンブルカーテンコール

Profile

ラジオやCMの声で活躍する「nats」と、現役プロ音楽プロデューサー兼ギタリストとして活躍するパイロット「機長」との2016年9月結成。エレクトロを主軸としたサウンドであったり、バイオリン、ビオラ、チェロなどのクラシカルな弦楽器、ウッドベース、ドラム、ピアノなどのサポートミュージシャンも多数参加する生楽器による演奏も行われ、キャッチなメロディにクラシック、アイリッシュのような雰囲気のサウンドが重なりあっている。一度、この作品を聞いたあなたは、O’dileのサウンドの斬新さに、心を奪われることであろう。2018年5月16日、ミニアルバム『Faux Blanc』をリリース。5月29日には、渋谷7thFLOORにて、自主企画『「Raclette」“Faux Blanc”release tour』が行われる。

O’dileオフィシャルサイト
https://odile.themedia.jp/


Live

O'dile and minor syndrome 共同企画『ai/au/ao』
▼7月20日(金) 19:00
南堀江knave
前売 2000円 / 当日 2500円
[共演]minor syndrome/heco/INUUNIQ
[オープニングアクト]川戸千明(ex.chouchou merged syrups.)
[問]南堀江knave■06-6535-0691
チケット前売予約:contact2.odile@gmail.comにて受付。
(予約日程、お名前、枚数をお願いいたします)