「強いアルバムを作りたかった」――
約1年半ぶりのNEW ALBUM『GRACE UNDER PRESSURE』で
SAが聴かせたバンドの真骨頂
「強いアルバムを作りたかった」――約1年半ぶりのニューアルバム『GRACE UNDER PRESSURE』でSAがなによりも表現したかったのはそれに尽きると、インタビューでTAISEI(vo)は話してくれた。人生のマイルストーンともいえる50歳を迎えた彼を筆頭に、さまざまな想いで20代、30代、そして40代を経てきたメンバーによるSAは、まぎれもなくパンクのレジェンド。であるとともに、真摯な音楽の探求者でもある。今作のリードトラックでもある『赤い光の中へ』(M-5)のミュージックビデオは、漆黒の夜明け前から赤い光の差す時間帯へと移りゆく中で撮られた、一本の映画のような仕上がり(字幕のような歌詞にも注目を)。ゲストはナシ、メンバー4人だけで“これぞSA”とリスナー及びコムレイズ(=SAファンの総称)をうならせるだけの音楽を鳴らすことを目指し、ジャケットやブックレットの字体、色調にも美意識を貫いた。その充実の新作を通して、2018年最新型のSAについてTAISEIに語ってもらった。アルバムを携え4月からスタートし、全国を駆け巡ったツアーの大阪公演は6月1日(金)Shangri-Laにて。
“やっぱSAだろ!”
そういう強いアルバムを作りたかった
――ツアーやイベントなどSAは常にライブをやっている印象があって、その中で今回のアルバムはいつ頃から着手されましたか?
「去年の9月に出たシングル『MY ONLY LONELY WAR』に向けて曲を作りはじめたときに、NAOKI(g)と僕で、次のアルバムを見越してお互いに10曲ずつ作ろうって話したんですね。だからその時点である程度曲はあったんだけど、その後に『MY ONLY LONELY WAR』が出てツアーが終わったらまた曲を書いちゃって(笑)。だから、曲数自体はかなり多くて、その中から選んだ12曲ですね。そのときにNAOKIと話していた中でアルバムのキーワードみたいになっていたのは、“強いものを作ろう”ということだったね」
――強いもの?
「前作『WAO!!!!』は自分たちとしては新しい扉を切り開いた作品で、バンドにとっては実験的な面もあって。それを受け入れてくれた人たちも大勢いたけど、中には“これはSAじゃない”とか“SAは変わっちゃったな”って声も聞こえてきて。ただ、バンドでもソロのミュージシャンでも、新しい扉を開けていかないと同じことの焼き直しみたいな作品ばかりになるし、“SAはこういう音楽をやるバンドだから”って自分たちで決めちゃったらバンドとしての熱量がなくなっちゃう気がして。だからこそ『WAO!!!!』を作ってよかったし、音楽的にも聴いてくれる層も広がった。これまでSAのイメージのひとつになってた“パンクバンドのレジェンド”というのも取っ払えたと思うんですね。だからこそ今回は、それを踏まえた上での強いものにしたかった。前作で俺たちを知ってくれた人も今作の強いSAを気に入ってくれるだろうし、今まで好きだったけど前作で“SAは変わった”と思った人たちに、“やっぱSAだろ!”って言わせるものにしたい。そういう気持ちはありましたね」
――強さとともにSAならではの包容力も感じました。去年TAISEIさんの50歳のアニバーサリーライブがありましたが、若い頃は反抗心もあって何に対しても醒めた態度を取ったり物事を斜めに見ることもありますが、今回のアルバムを聴いていて、本気でぶつかっていくことが何よりもいちばんかっこいいんだとひしひしと感じるところがあって。そういうところからSAというバンドの人間味や温かさがにじみ出ているのかなと。
「50歳の節目は自分にとって大きかったと思うしここから先はもう、本気じゃないとだめでしょ?(笑)。年齢なんてただの年月の数字というとらえ方もあるけど、自分にとって50という数字は、“俺もここまで来たな”と思うところがあって。これが30代の後半だったら、“ああここまで来ちゃったな。まだ引き返せるかな”とか、“音楽は好きだけど、本当に音楽でやっていけるのかな”って怖がる気持ちが正直あったと思う。『runnin’ BUMPY WAY』で“ロックで人生台無しだ”と歌ってるけど、あの曲を作った時は本当にそう思っていて、それが40歳を過ぎたあたりから腹くくったのか、ブレたのかブレてないのか突っ走らなきゃと思ったのか、50歳になった時に“ここまで来れたな”って気持ちになれたのね。その上での本気度というのはやっぱりデカいよね。包容力と言ってもらったのは、SAが始まった頃は周りのバンドに対して“ぜってぇぶっツブす”とか、“負けねぇ”って気持ちだけで突き進んでいて、そのバンドがここへ来て新しい吠え方を覚えたんじゃないかな。落ち着いたということではなく。そんな気がします」
――『KEEP THE FLAG FLYING』(M-1)の“お前だけの旗を上げろ”、“代わりはいないのさ”というフレーズには胸が熱くなります。鼓舞されますし、そうやって自分自身に誇りに持っていいんだなと思える。
「あの曲で歌ってることって、お前が倒れた時に手を差し伸べることはできるけど、そこから歩き出すのはお前自身がお前の足でやらなきゃいけない。俺も俺でそうしなきゃいけない。俺もお前も同じ方に向かって歩いて行ったら、また一緒に良い景色が見れるんじゃないか……、という気持ちなんですよね。僕らが3年前に野音(日比谷野外音楽堂)ワンマンをやった時のあの景色をもう一度見たくないか?という想いもあるしね」
――あれから3年経つんですね。SAは本当に走り続けていますね。
「自分たちではそういうつもりはないんだけど、ハタからはそう見えるんだろうね(笑)。でもこのペースが普通になってきたというか、たまに“よくそんなにたくさん曲が作れますね”って驚かれるんだけど、逆に言えば“曲が出来ない”って言ってるバンドマンの話を聞くたびに思いますよ、“よくそんなに曲が作れないもんだね”って(笑)。僕もいつも曲のことを考えてるわけじゃないけど、やがて曲や歌詞になるようなことは常日頃から自分の中で思っていることばかりなんですよね。たまに家で酒飲んでる時とかに、ふっと想うことがあると書き留めるんだけど、面白いもので、思っていることをそのまま書いておきたいんだけど文章にすると何かが違うんだよね。そう思いながらも、時間を置いて見てみると“これは怒りの感情だったのかな。でもよく見ると悲しみじゃないか?”と思ったりして、最初に書いた時とはまた違う意味を持つようになったりするんだよね」
SAはノスタルジーじゃない。現役でリアル
――私が今作で一番好きな曲は『フォーエバーキッズ』なんですが、曲を聴いている時と歌詞だけを読んだ時の印象が違っていて、歌詞を読むとまるでTAISEIさんが自身のこれまでについて書いたエッセイのようでもあり、手紙のようにも感じられます。
「僕もすごく好きな曲で、特に歌詞が好きなんですね。これはNAOKIの曲で最初にスタジオで彼がギターを弾きながら歌って聴かせてくれたときに、まだ歌詞はない状態だったけどサビで“~フォーエバーキッズ”と歌ってて。けどNAOKIは“『フォーエバーキッズ』ってダサいし仮タイトルだから”と言ってて、俺もそのタイトルはダサいから変えなきゃなって思ったのね。だって『フォーエバーキッズ』だよ?(笑)」
――(笑)。
「ただ、曲はとびきり良かったし、それで歌詞をイメージしていったら、“待てよ、これ『フォーエバーキッズ』のままでいいな”って。“もう一度旅に出ようぜ”って歌ってるんだけど、さっきの年齢の話じゃないけど若い頃に旅に出たいなと思ったり、“まだまだ旅を続けよう”と思うのとはまた違った感覚。旅=旅行というだけじゃなく夢を追いかけることにもつながるわけですよね。この年齢でもう一度何かに挑戦するとか、夢を掴みたいと思うのって、本当の意味で人生最後の時なのかもしれないなと思えたし、これは裏話だけど今年の初めに中学の同窓会があって朝まで一緒に飲んでたヤツらを見てて、“また会おうな”って別れたときにふとこの詞が浮かんだんですね」
――そういう背景もあったんですね。歌詞にあるように、くすぶっているわけでもなく嫌なことばかりでもないけど、何かが足りない。そんな気持ちでこれまでを振り返って、もう一度今の自分で前に向かうことが出来る。ほかの歌詞と大きく違わないかもしれませんが、胸に響きます。それと“言えない悲しみは内ポケットにしまっておく”のところは、アルバムタイトルの「GRACE」に通じる大人ならではの気品も感じます。
「“武士は食わねど高楊枝”が座右の銘だから(笑)。気持ちを張っていたいし、傷ついていたり心がボロボロであっても、“大丈夫だよ”って言っていたいんですね。僕ももう何年も歌詞を書いてるけど、『フォーエバーキッズ』は自分の思っていることがウソ偽りなくスラッと書けた珍しい歌詞のような気がします。このタイトルでよかったと思うし、英語表記じゃなくあえてカタカナの方が気分に合ってるなって。最初はみんなで“ダッセぇなぁ”って言ってたのにね(笑)」
――『hi-lite BLUE』(M-7)に“いつも心は見上げたハイライトブルー”とありますが、普通の青色とは違うんでしょうか?
「タバコのハイライトのパッケージのブルーのことを言うんだけど、子供の頃に父親が喫ってて、完全な真っ青じゃないんですよね。少しくすんだような、昭和のブルーっていう匂いがする。初期の新幹線の青色も真っ青じゃなかったし、そのくすんだような青色が僕の心には合っていて。太陽とか空は大好きだし、真っ青な空を見ると嬉しくなるんだけど、今はまだハイライトなブルーなんでしょうね。スカイブルーじゃなく」
――さっきの、まだ旅の途中であるというところにもつながりますか?
「そういうことなんでしょうね。『赤い光の中へ』(M-5)で“夢は今まだ五分咲き”と歌っているところもリンクするんだと思う。何でもかんでも“まだまだいけるぜ”って言ってるけど、今現在の自分の実際の位置を認識することも大事で。だからって“50歳のおじさんバンドでーす”みたいに自分たちを茶化したりすることは絶対にしないし“GRACE”というタイトルにはそういう意志も込めました。パンクやロックに限らずJ-POPの人でもそうだけど、このぐらいの年齢になると自分たちのことをあからさまに茶化してメディアに出てくる人もいるけど、そこにはいたくないんですよね」
――ライブに行けばMCでは笑わせてもらえるし楽しくもあるんですが、作品や音楽で笑わせることは必要なくて。先日もあるバンドの取材でSAの名前が出ました。20代、30代のバンドにとって目指していくべき存在になっていることを改めて感じました。
「そこは表現していきたいところで、時代によって価値観も変わっていくし今の20代が思うカッコよさは自分たちが思うカッコよさとは違うんだろうなとも思う。ただ、僕らが知っているロックやパンクのカッコよさを茶化すことなくちゃんと見せたいんですよね。そのためには自分たちがカッコよくなきゃいけないし、演奏力や歌のクオリティはもちろん、見た目も言動も全部そうありたい。そこに対する使命感みたいなものは生まれてきてるかな。ロックのカッコよさを“お前、このカッコよさは分かんないだろう?”じゃなくて、“こういうカッコよさもあるぜ”って伝えたい。僕らより先輩のバンドもいるけど、こういう言い方は語弊があるかもしれないけど、それはもうノスタルジーなんですよね。僕らは現役でリアル。だからこそ見せて行かなきゃいけないし、“GRACE”ってタイトルも今の自分たちに合っている気がしたんだよね」
カッコつけていくしかないよね
――『I SAW THE LIGHT』(M-4)は小気味よくてノリがいい曲。トッド・ラングレンの70年代の作品に同タイトルの名曲がありますが、ノスタルジーではなくスタンダード性を受け継いでいると受け取りました。
「ありがたいです。前作の『WOW!!!! 』の流れと言うか、SAなりのカウンターからくるサウンドなんでしょうね。こういう曲はホーンやキーボードがあった方がゴージャスでノーザンソウル的になるんだろうけど、今回はあえてゲストを入れないで、この曲でもいかに4人だけでソウルっぽいパンク、ロックが出来るかということに挑んでいて。いつもだったらキーボードは奥野(真哉)君が入ってくれてるけど、今回はもともと4人で作るイメージがあって。だから『吠えたい雨』(M-12)の最初のキーボードは俺が弾いてるんですよ。両手で弾けないから片手で(笑)。そういう拙さもいいのかなって」
――最初からゲストは入れないと決めていた?
「もともと4人で作るイメージがあったし、そこに立ち返りたかったんでしょうね。メンバーも今回のレコーディングにはすごく意欲を燃やしていたし、ぶっちゃけ悔しかったんじゃないかな。『WAO!!!!』でSAが日和ったみたいに言われたりもしてムカついてたと思う。“やってやる!”みたいな気持ちもあっただろうし、俺はスポークスマンとしてこうして話す機会があるけど、彼らはその闘志を演奏にぶつけるわけだから」
――『吠えたい雨』(M-12)の歌詞には、“夕暮れの甲州街道”や“行かんといて”というフレーズが出てきますが、これはTAISEIさんの実体験から生まれた曲ですか?
「パーソナルなエピソードも入ってますよね。SAを始める前に組んでいたBAD MESSIAHが解散して、それでもしがみついて音楽業界にいたかったけど結局ダメで。その日々のことはいつまで経っても自分の中から消えなくて、それがあるからまだ走れる気もするし、悔しさなのか寂しさなのか、あきらめなのかわからないけど、何かあるとフッとそれが蘇ってくる。“そうじゃねぇだろ”って自分を鼓舞するときもあるし、“あの頃の自分はクソだったな”って思うときもある。そういうのってNAOKIもSHOHEI(ds)も、KEN(b)もそれぞれにあると思うし、メンバーだけじゃなくSAを聴いてくれる人それぞれの中にもあると思うんですね。僕はたまたま甲州街道の夕日を見て“帰ろう”と思ったけど、人によってはそれは御堂筋かもしれないし」
――そういう日々も全部SAの音楽に溶け込んでいて、だからこそ喜怒哀楽にあふれているんだなと思います。ライブのMCでTAISEIさんがお客さんに「うるせー!」「バカヤロー!」と返したりするのも、バンドとコムレイズの血の通ったやり取りに触れるようで微笑ましいし、大阪は特にお客さんがステージに向かってよく話しかけますよね。
「本当にそうだよね。“お前は俺の友達か”って思うよね(笑)。あれはライブの醍醐味なんだよね」
――大阪でのワンマンは6月1日(金)Shangri-Laにて。ツアーも終盤の頃ですね。
「そうね。新曲もライブではアルバムとはまた違った新しい表情をすると思うし、ぜひ楽しみに来てほしいですね」
――今改めてSAが目指す具体的な夢や目標はありますか?
「目標を立てるのも素晴らしいことなんだけど、最近よく思うのは、実際に歌詞でも言ってるけど、続けていきたいっていうことなんですね。この景色とこの空気と、目に見えない人に歌うんじゃなく、目の前にいる人に向けて歌う。それを続けていきたい。とはいえ欲深いところもあるから、デカい場所でライブをやりたいし、CDも売れて欲しい。けどその核にあるのは、続けていきたいという気持ち。終わるときまで続いていきたい。終わるとき=死ぬときなのかもしれないけど、それも分からない。ただこれも最近思うんだけど、その人がカッコいいか、カッコ悪いかは50代で決まりそうな気がする。昔は若いほうが絶対にいいと思ってたし、今の写真を見ると“歳取ったなぁ”とも思うけど(笑)、最近になって歳を取るのはカッコいいことなんだと思えるようになってきました。40代だとまだせめぎ合えるけど、50になると勝ち負けが決まる気がする。だからもう、カッコつけていくしかないね(笑)」
取材・文/梶原有紀子
(2018年5月29日更新)
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