ソロアルバム『豊穣なる闇のバラッド』をリリース
新作や新ドラマーを迎えたソウル・フラワー・ユニオンについて語る
中川敬インタビュー
ソウル・フラワー・ユニオンとしての活動と並行しながら、近年はソロ名義でのアコースティック・アルバムをコンスタントに発表し、10月には4枚目となるアルバム『豊穣なる闇のバラッド』を発表した中川敬。ゲストの藤井一彦、佐藤タイジ、小暮晋也らによる演奏を交えながらも、弦楽器のみで統一してこれまでで最もシンプルな音に仕上がった本作は、シリア難民やシングルマザーといった具体的な題材に基づいて書かれた新曲のストーリー性やリアリティがこれまで以上に増している点が聴きもの。まさに現代のバラッド=叙事詩と呼ぶべき歌の数々で、シンガーソングライターとして新たな高まりと深まりを示した中川に、新作や新ドラマーを迎えたSFUについて語ってもらった。
――ソロとしては4枚目となる『豊穣なる闇のバラッド』ですが、今回はゲストの演奏も含めて伴奏がギター系の弦楽器のみで、これまでで最もフォーク色の強い印象を受けました。
「今作ではまず、鍵盤楽器が一切入らないサウンドの中で自分の声がどう響くのか?ということが当初自分の好奇心としてあって。そうなってくると、フィドルやホイッスル、クラリネットといったオレの好きな楽器群(管楽器など)も入れずに作るのはどうやろ?と考えが広がってきてね。今回はとりあえずオレが弾くアコースティック・ギターがあって、ゲストにはマンドリンやペダル・スティ―ル、スライド・ギターといった、オレが普段弾き慣れない竿系の楽器を演奏してもらおうと」
――やっぱり弦モノの伴奏だけの中で歌うと、響きは変わってくるものなんですか?
「変わるね。やっぱり、キーボードという楽器は441Hzや440Hzといった具合にある種チューニングが決定されてる楽器やから、今回のレコーディングの中で、30年以上の長い間、キーボードの決定されたチューニングの中で歌ってきたんやな~ということを実感したね。歌録りの最初の頃はピッチを取るのに若干の戸惑いがあって、続けているうちにだんだんと慣れていった感じ。だから、鍵盤が入る音楽とそうでない音楽の違いは着実にあるな、ということを実感しながらのレコーディングになった。そんなマニアックなところで楽しんでたね」
――キーボードが入らない録音というのは、バンドでのキャリアを含めても初ですか?
「MCで冗談っぽく言ってるけど、1986年に発表したニューエスト・モデルのファースト・ソノシート以来やね(笑)。その次に出した4曲入りEPの『ニュー・ファンデーション』(1987)では奥野真哉が加入して弾いてたから。作品単位で言うと31年ぶり(笑)」
――それはもうかなり初期の初期以来ですね(笑)。
「今までの3枚のアコースティック・ソロ・アルバムでも数曲はアコーディオンやオルガンが入ってたからね。フォークというよりもトラッド・ミュージックが好きやから、架空のトラッド・バンドのアルバムを作る、みたいな方向にどうしてもなってしまうところがあって。まあ、今回も2本のアコギの絡みとかはかなりアイリッシュやブリティッシュのトラッドっぽいけどね」
――そんなサウンド面での特徴とともに、今回のアルバムは楽曲自体もカバーは野坂昭如『黒の舟唄』とオリジナル・ラブ『接吻』の2曲のみで、新たに書き下ろされたオリジナル曲の比率が高いですよね(セルフ・カバーも3曲収録)。
「もしリリースがあと3カ月遅かったら、たぶん全部新曲になったよね。今回はそれくらいの勢いがあった。去年後半ぐらいから『曲を書きたいモード』に入って。というのも去年一年間は、自分でブッキングしてんけど、とにかくライブを入れ過ぎた(笑)。だから、忙しくて全然曲が書けなくて、去年は夏に『あばよ青春の光』(M-1)ぐらいしか書いてない。そうなると、秋ぐらいから曲を書きたいという欲求がムクムクと出てきて、今年の1月に入ってやっと曲が書けるようになって、そこからは量産体制に入った」
――その新曲群は、ヨーロッパを移動するシリア難民のことを描いた『バルカンルートの星屑』(M-5)やシングルマザーの友人たちに捧げた『ハクモクレンが空を撃つ』(M-3)など、具体的な対象があって生まれた曲が多いのも特徴的かなと思いましたが。
「具体的な物語を書こうとしたね、今回は。一番大きい要因は、3年前から弾き語りで2~3時間のライブを頻繁にやるようになったことじゃないかなと。バンドの場合、曲を書く時、他にキーボードやベースやドラムがいて、そのことを想定して書くようなところがあるから、必ずしも歌詞で全部を説明してしまわなくてもいいというか。聴く人の想像力に委ねながら、あとの様々な楽器の響きをもってして表現するようなところがあったけど、独りでアコースティックでやるようになってから、歌詞の比重がどうもオレの中で上がってきているなという感じがあって。前作の『にじむ残響、バザールの夢』(’15年)の時も、『十字路の詩』とか『地下道の底で夢を見てる』とか、自分の中ではニューエスト・モデルやソウル・フラワー・ユニオンにはなかった歌世界を書き始めているなという新たな手応えを得た曲があってね。事象に対する距離感みたいなものが、より近くなったというか。遡ればニューエスト・モデルの頃とか、抽象概念的な語彙が多かったタイプやから、それがどんどん具体的になってきてて、前作を作り終えた後にもっとそんな曲を書きたいなと思ってた。だから、そこにコンセプトを置いたわけでもなく、自分の欲求のままに今回はこういう方向性になったという感じかな」
――なるほど。1曲1曲のストーリー性が明らかに高まっていますよね。
「ちょっと形骸化された言葉かなとか思いながらも、アルバムのタイトルに"バラッド”(物語)という言葉を使おうと。弾き語りでライブで歌ってても、MCで1曲1曲その背景を解説できるような曲ばかりになってるし。今までっぽいのは、あえて言うとラストに入っている『真空の路地で人が詩になる』(M-14)くらいかな」
――この曲は、後期ニューエストのメロウな曲っぽい雰囲気ですね。
「そうやね。これは『蒼白の祈祷師』とか『もぐらと祭り』あたりの続編っぽい曲で、“祈祷師”や“詩人”という語彙が歌詞に出てきてる」
――しかし、アルバムの前半を占めている新曲群のような、歌詞の題材が具体的でストーリー性の高い歌詞に向かうようになった理由みたいなものはあったんでしょうか?
「だいぶ前から思ってたことはあってね。元来歌いたいことは沢山あるタイプの歌手やから、例えば、この事件やニュースを歌にすればいいんじゃないか、とか思うことはよくあるけれど、オレはソングライターとしてはメロディをかなり重視するタイプで、友部(正人)さんや(中川)五郎さんの世代がすでにやってきてる”字余りフォーク”的な歌い方はやらないでいこうと若い時に決めたようなところがあって。だから、ヒップホップ/ラップが羨ましかったりするわけやけど、オレは歌手やし、なかなかバラッド/物語というのはずっと難しいと思ってたんやけど、それが今回は技量的にできるようになってきたんじゃないかという気がしてきた。これまでも、『満月の夕』『松葉杖の男』『そら(この空はあの空につながっている)』あたりはそういう感じがあるけど、アルバムの中で2、3曲くらいでね。世界中で生きるいろんな市井の人たちのひとりひとりの人生を、もっと物語で歌っていきたいという欲求はずっとあったけど、なかなか難しいという中で、今回の『バルカンルートの星屑』は実は全編30分くらいでパッと出来た曲で。この早さは1995年の『満月の夕』とか2000年の『荒れ地にて』とか、そんなにしょっちゅうあることではない珍しいことで。この曲が書けた時に、ちょっと次のステージに立てたな、という感覚が自分の中にあった」
――『バルカンルートの星屑』は、新曲の中でも特に歌のストーリー性が際立った曲ですね。
「この数年の日本語になってる難民の配信記事は、ほぼ全部読んでるから、たぶん言葉が溢れてこぼれる寸前まで来てたんやろうな。『満月の夕』や『荒れ地にて』もそうやけど、パッと書けた曲というのは自分自身で長い付き合いになるし、この曲もそうなるんじゃないかな」
――そんなシンガーソングライターとしての充実ぶりを示したソロ作を完成させて、年末年始には各所でライブが続きますが、12月16日(土)にはまず新ドラマーにJah-Rahを迎えてのソウル・フラワー・ユニオンの年末恒例のワンマン公演がumeda TRADで行われます。
「新ドラマーとして加入したJah-Rahは、この10年ほど麗蘭のドラマーを務めながら、その前は甲斐バンド、90年代にはEASY WALKERSのドラマーとして活躍してた、いわばロックンロール界では知られた存在でね。安定感のあるJah-Rahが入ったことで、ニューエスト末期のファンクな曲とか、あまりリハーサルを重ねなくてもポンッと出来たりするし、やってて楽しいよ。まじイイ感じ。そして、来年はソウルフラワーが25周年ということで、そろそろレコーディングも始めようかなと」
――そして、12月22日(金)には京都の磔磔でソロとしての弾き語りワンマン公演が行われ、年明けには"ソウルフラワー中川敬・2018新春謡初めライブ”と題してこちらも弾き語りでのワンマン公演が東名阪の3カ所で行われます(大阪は1月13日(土)にmarthaにて)。
「12月22日がオレの今年の歌い納めになるかな。年明けも新年会とか言いながらオレが1人で歌うだけやけど(笑)。さっき話したようなMCも挟みながらたっぷりとやるので、10月に発売したアルバムと併せて、ぜひよろしく!」
Text by 吉本秀純
(2017年12月18日更新)
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