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「カテゴライズされず自分らしくいられる音楽はないか探していた」
日本のジャズギター界をリードする小沼ようすけが
ビルボードライブ大阪にて才人たちと“グオッカ”のリズムに挑む!
『Jam Ka Deux』インタビュー&動画コメント

 ジャズだけにとどまることのない自由なスタンスで独自の活動を続け、’00年代以降の日本のジャズギター界をリードし続けてきた小沼ようすけ。昨年、自身が主宰するレーベルを立ち上げ発表した最新アルバム『Jam Ka Deux(ジャム・カ・ドゥ)』(‘16)では、’10年に発表した『Jam Ka (ジャム・カ)』の続編として、カリブ海に浮かぶフランス海外県のグアドループで奏でられる“グオッカ”とジャズの融合に6年ぶりに取り組み、フレンチ・カリビアン・ジャズの才人たちが集うパリに赴いて録音。世界的にも注目を高めるマルチニーク出身の才人ピアニストであるグレゴリー・プリヴァらの参加も得て、スリリングにしてエレガントな新境地を示している。その録音の主要メンバーを日本に迎えてのライブを4月25日(火)ビルボードライブ大阪にて行う彼に、その魅力や聴きどころを語ってもらった。



ジャズの要素とネイチャーなサウンドが同居している音楽って
僕にとっては初めてだったんですよ
 
 
――まずは、小沼さんがキューバ音楽やカリプソからレゲエまでと多彩なカリブ海の音楽の中でも、グアドループのグオッカに傾倒するようになったきっかけから改めて聞かせてもらえますか。
 
「一番のきっかけは、ジャック・シュワルツバルト(sax)のリーダー作『ソ・ネ・カラ』(‘06)『アビス』(‘08)というアルバムに衝撃を受けたことですね。ジャックはニューヨークを拠点に活動するミュージシャンで、RHファクターやディアンジェロのバックでも活躍していた人だから、そういう作品だろうと思って聴いたら、“何でこんなにカッコいい太鼓が入っているんだろう”と思う音楽で。でも、上モノは洗練されたハーモニーを持ったコンテンポラリーなジャズで、ジャズの要素とネイチャーなサウンドが同居している音楽って、僕にとっては初めてだったんですよ。その前に、’04年にカメルーン出身のリチャード・ボナ(b)と一緒にレコーディングしてから、僕も大地や自然を感じるような音に憧れて、その後、湘南に拠点を移して海や自然のある様々な場所へ旅をするようになりました。音楽的にはアフリカとかキューバとかブラジルとか、いろんな音を聴いたり研究したりして模索していたんですけど」
 
――なるほど、そういうことだったんですね。
 
「ただ、その辺りの音楽にはすでにもう開拓者がいてある程度研究され尽くしていて、ブラジリアンやアフリカンを演奏しても“あぁ、この感じは誰それっぽいね”となってしまうところがあったんです。そこで、もっとカテゴライズされずに、自分らしくいられる音楽はないかと探していたところ、ジャックの音楽には“コレは何なんだ?”という驚きがあって。いろいろ調べてみるとカリブ海のグアドループの出身で、そこのルーツ音楽とニューヨークのスタイルを組み合わせて作ったのを知って。さらに調べてみると、グアドループには海もあるし火山もあって、サーフィンのスポットもあって、グアドループに行きたくなったんですけど、その前にその音楽で自分の作品を作りたいと思ってできたのが、’10年に発表した『Jam Ka』だったんです」
 
――確かに、グオッカには独特の不思議な響きがありますよね。太鼓のアンサンブルはアフリカっぽいのですが、やっぱりどこかフレンチ・カリビアンらしい優美さも感じられて。
 
「上モノがどんな演奏でも共存してくれるというか、吸いついてくれるというか、トラディショナルなグオッカでは補えない部分を、ミュージシャンたちが現代的な四つ打ちのリズムとかを入れてフィットさせてくれるところがあるんですよね。自分が持っていった楽曲に50:50で寄り添ってくれて支配しないんですよ。そのバランス力と音楽的に新しい部分、そしてここ最近、パリのジャズと融合し始めているのも魅力ですね。’00年代の初めには、僕の知ってる中ではデヴィッド・マレイ(※70年代から活躍し続ける米国の実力派サックス奏者)ぐらいしかグオッカと共演するジャズミュージシャンはいなかったし、昔のグアドループの音源を聴いてみても、70年代、80年代には島の外にあるリズムなどに取り組んでいるものが多くて、今のミュージシャンたちの方が逆にトラディショナルな音にフォーカスしていて。やっと最近になって、太鼓のパターンをドラムに置き換えてピアノトリオで演奏するグレゴリー・プリヴァ(※グアドループに隣接するマルチニーク出身の若手ピアニスト)が出てきたリしていると思うんです」
 



大阪は日本でのツアーの初日になるので
ファーストテイクならではのスリルも味わってもらえれば
 
 
――最新作『Jam Ka Deux』は、そのグレゴリー・プリヴァも4曲参加してのパリ録音で、前作以上に多彩なアプローチでグオッカとジャズの融合に取り組んだ作品となっています。
 
「僕も向こうのミュージシャンを知っていたし、“こんな感じだったらカッコいいな”というのを今回は想像しながら曲も書けたので。あとは、前作を作った後に出てきたグレゴリー・プリヴァや、前作では呼びたかったけど共演できなかった“マスター・オブ・グオッカ”と呼ばれる打楽器奏者、ソニー・トルーペにも参加してもらえたし、僕が長年好きだったアフリカ出身のエルヴェ・サム(g)にも1曲弾いてもらえたりしたので、パリでコネクトしているその辺りのミュージシャンの輪を知ることができたのもよかったと思います」
 
――前作はニューヨーク録音でしたが、今回はパリでの録音という違いも様々な面で大きかったようですね。
 
「前作はフレンチ・カリビアンのミュージシャンは太鼓だけで、他はニューヨークだったんですけど、今回はそのときにも参加してくれたレジー・ワシントン(b)がベルギーに移住して、ジャックもキューバ出身のオマール・ソーサ(p)のライブでパリにいたんです。さらにポエトリーで参加してくれたジャックのお母さんが住む実家もパリにあったので、そこでリハーサルをしたりアレンジを詰めたりして、レコーディングは一発録りで3日間で終えるという進め方ができましたね。だから、ニューヨーク、パリと進んできて、第3弾はグアドループで何か出来たらいいなと思っています(笑)。扉をノックしてちょっとずつ中に入れてもらって、というふうに今後も進めていければいいなと」
 
――レコーディングを重ねるごとに、より深くグオッカ~フレンチ・カリビアンによるジャズの核心に迫っていくような感覚があるというか。
 
「今回もグオッカというリズムがベースにありつつも、前作では“Ka(カ)”と呼ばれるパーカッションを叩いていたうちの1人のアーノウ(・ドルメン)が最近はドラマーとしてすごく活躍していて。今回はドラムでも半分入ってもらうことで、前作では打楽器同士のコンビネーションだったところを、ドラムと打楽器の組み合わせで表現している曲もあります。やっぱり向こうのミュージシャンも伝統的な音楽だけではなくていろんな要素を吸収しているから、僕の楽曲に対しても様々な要素をミックスしてくるセンスもカッコいいですね。ピアノのグレゴリーはマルチニーク出身のミュージシャンですけど、彼の作品を聴いてもクラシックっぽい要素もあるけどそこで太鼓もしっかり鳴っていて、対極の要素が同居している世界観がすごくロマンティックだし、日本人の感性とも合うんじゃないかと感じていて。彼と出会えたことで、今回また1つ広がった感じがします」
 
――例えば、アルバムの冒頭を飾る『Moai's Tihai』(M-1)は、パッと聴いた感じはそれほどグオッカ色を出していないようにも思えるジャズファンクチューンなんですけど、やはりよく聴くと他ではあり得ないリズム感覚や変則的なキメなどを含んだ曲に仕上がっていて。アーノウやグレゴリーのプレイヤーとしての個性も際立っています。
 
「この曲のギターのリフを聴くと普通はファンクと捉えるからジャズファンク的な感じになるんですけど、どんなリズムを当ててくるのかなと思っていたら“ドゥンドゥンタカッ、ドゥンドゥンタカッ”みたいな、絶対に想像できないけどちゃんとフィットするものが出てきたりして。予想しないもので最高のものが出てくるから、ホントに宝箱みたいな感じでしたね。向こうのミュージシャンにとっても、僕の作った楽曲は当然カリビアンではないので、ああでもないこうでもないと考えて演奏してくれて、それがうまくキマったときにはゾクゾクしました」
 
――そんな世界的にも注目を高めつつあるフレンチ・カリビアン・ジャズの精鋭たちによるマジックに満ちた新作を携えて、4月25日(火)にはレジー・ワシントン、グレゴリー・プリヴァ、アーノウ・ドルメンといった同作の主要メンバーも迎えての、貴重なライブがビルボードライブ大阪にて行われます。
 
「グレゴリー・プリヴァは今回が初来日になりますし、新しいアルバムからの曲を中心に、昔の楽曲にも“これをグオッカでやったらどうなるんだろう?”と興味のある曲がいくつかあるので、それも交えながらやれればと思っています。しかも、大阪は日本でのツアーの初日になるので、ファーストテイクならではのスリルも味わってもらえればというか。初日というものはアンテナ全開で全部を出すようなところがあるので、作品としてはその後に削がれていったものがよかったりもするんですけど、今回は一度しか来ない1回目というのが、僕はすごく楽しみで。いい意味で予測がつかないし、もしかしたらさまようかもしれないですけど、そこも含めて楽しんでもらえれば嬉しいです」
 
 
Text by 吉本秀純
 




(2017年4月21日更新)


Check

Movie Comment

ギター爪弾きグオッカとライブを解説
小沼ようすけからの動画コメント!

Release

自身のレーベルを立ち上げた第1弾作品
6年ぶりにグオッカに挑んだ意欲作

Album
『Jam Ka Deux』
発売中 2700円
Flyway LABEL
DDCZ-2126

<収録曲>
01. Moai's Tihai
02. Flowing
03. Terre
04. The Elements
05. Ka Interlude
06. Ti' Punch
07. Duo Ka
08. Dlo Pann  
09. Fellows
10. Gradation Part 3 : Heartbeat
11. Pourquoi
12. Beyond The Sea
13. Songe Mwen

Profile

おぬま・ようすけ…’01年にデビュー。’04年にはカメルーン出身のベーシストであるリチャード・ボナとの共演を契機に、独自の方法論による指弾きのギタースタイルを確立。’10年にはグアドループの民族音楽であるグオッカの太鼓(Ka)をフィーチャーし、フレンチ・カリビアンの音楽家たちと共演した『Jam Ka』を発表。’16年には自身が主宰するFlyway LABELを設立、その第1弾作品としてパリに赴き、再びグオッカの打楽器マスターたちや、グアドループに隣接するマルチニーク出身の才人ピアニストであるグレゴリー・プリヴァらと共演した最新作『Jam Ka Deux』を11月23日リリースした。

小沼ようすけ オフィシャルサイト
http://www.yosukeonuma.com/


Live

アルバムに参加したメンバーらと
いよいよビルボードライブ大阪へ!

 
『Yosuke Onuma“Jam Ka Deux”』

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード322-741
▼4月25日(火)18:30/21:30
ビルボードライブ大阪
自由席6900円
[共演]レジー・ワシントン(b)/
グレゴリー・プリヴァ
(p&Fender rhodes)/
アーノウ・ドルメン(Ka&ds)/
オリヴィエ・ジュスト(Ka)
ビルボードライブ大阪■06(6342)7722
※本チケットに整理番号はございません。ご希望の方は発券後、お問合せ先まで要連絡。当日は整理番号順でお席へご案内しておりますが、整理番号をお持ちでないお客様は開場時間の30分後のご案内となります。カジュアルエリアの取り扱いなし。未就学児童及び高校生同士の入場不可。18歳未満は成人の同伴が必要。

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら

 
【愛知公演】
チケット発売中
▼4月26日(水)18:30/21:15
名古屋ブルーノート
ミュージックチャージ6500円
[共演]レジー・ワシントン(b)/
グレゴリー・プリヴァ(p&Fender rhodes)/
アーノウ・ドルメン(Ka&ds)/
オリヴィエ・ジュスト(Ka)
名古屋ブルーノート■052(961)6311

【東京公演】
チケット発売中
▼4月29日(土・祝)17:00/20:00
ブルーノート東京
自由席6500円
[共演]レジー・ワシントン(b)/
グレゴリー・プリヴァ(p&Fender rhodes)/
アーノウ・ドルメン(Ka&ds)/
オリヴィエ・ジュスト(Ka)
ブルーノート東京■03(5485)0088
※18歳未満は入場不可。チケット購入後、手元にチケットを用意の上、問合せ先まで要連絡(入場整理番号決定)。

Comment!!

ライター吉本秀純さんからの
オススメコメントはこちら!

「グアドループのグオッカは、’00年代に入ってから先進的なジャズやワールドミュージック界隈でも注目を高めてきたカリブ海の“新しい伝統音楽”。アフリカ色の強い打楽器アンサンブルとフレンチ・カリビアンらしい優美さを兼ね備えた音が特徴で、サルサやカリプソといった従来から知られてきたカリブ海発祥のラテンミュージックとは異なった、フレッシュな魅力に満ちています。パリのジャズシーンにおいてもフレンチ・カリビアン勢が台頭し改めて注目が高まる中で、今回の小沼さんの公演は実にタイムリーにしてヒップ! マルチニーク出身の若きピアニストで、最近は欧州で大物のグループにも抜擢されて評価を高めているグレゴリー・プリヴァの演奏が日本で初めて聴けるのも、非常に楽しみです」