菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール
結成11年、待望の大阪初公演が決定!
ジャズ・サックス奏者として80年代よりジャンルを越境するさまざまな活動を行いつつ、著述家としても音楽、映画、ファッション、食文化、格闘技…と幅広く著書のある菊地成孔。さらに大学教授として、ラジオのパーソナリティとして、その饒舌で明晰な語り口にも多数のファンがいる。そんな彼のリーダーバンドのひとつである、“菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール”。スペイン語で、ペペ=“伊達男/女たらし”、トルメント=“拷問”、アスカラール=“砂糖漬け/甘ったるい”を意味する12人編成のオルケスタは、南米ラテン音楽や現代音楽、ジャズやアフロに昭和歌謡といった要素までを内包する大所帯音楽団だ。その魅力を最大限に堪能できるライブが、2月25日(土)ビルボードライブ大阪にて開催される。しかも結成11年にして、菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラールとしては大阪初となる公演。このライブに向けて、リーダーである菊地成孔(vo,sax,指揮)に話をうかがった。
セックスは危険だけど官能的であること
難しいことは気持ちいいってこと
そういう価値観をずっと守ってる (菊地成孔)
――ペペ・トルメント・アスカラール(以下ペペ)としては、結成11年にして、意外にも初となる大阪公演です。
菊地成孔(以下、菊地)「大阪ではずっと演奏したかったんですが、なにせハープやパーカッションもいる大所帯なもんで、なかなか機会がなくて。まあ、そもそもペペ自体、半年くらい活動しないこともザラなのですが(笑)。僕は新宿の歓楽街にずっと住んでいたくらいで、北新地とかミナミのああいう雰囲気は大好きなんですよ。プライベートで遊びに来るのは大阪くらいだし。そんな大阪で、ようやくライブができるので本当に楽しみにしています」
――ペペは昨年12月に、ディナーショー形式での『晩餐会 裸体の森へ』をモーション・ブルー・ヨコハマで開催し話題になりました。
菊地「元々は自分が言いだしっぺで、青山のブルーノートから始まってるんですけど、あそこってせっかくソムリエバッヂをつけてる人が6人も7人もいていいワインもたくさんあるのに、注文されてるのはビールとカーリーフライばっかりなんですよ!(笑) それでソムリエのリーダーの方にメールして、厨房とコラボレーションしませんかって持ちかけたんです。ワインリストを見せてもらって僕の音楽に合う料理とワインをセッティングして、そんなちょっとした遊びをやりましょうって。そしたら、普段ビールばっかり運んでる欲求不満からか、レアなワインの載ってるリストをホイホイ見せてくれて(笑)。ジャズ・ミュージシャンがそんなことをやるのって世界的に見ても類例がなく、その企画はなかなか好評だったんですよ。そしたら横浜店(モーション・ブルー・ヨコハマ)の店長からウチでやりたいって声かけてもらって。彼自身、元々飲食の人でソムリエの資格も持ってるし料理にもすごい詳しい食い道楽なんです。それで大掛かりにやろう、ということで開催したのが『晩餐会 裸体の森へ』だったんです」
――ある意味、料理にインスパイアされた菊地さんのソロ一作目『デギュスタシオン・ア・ジャズ』の逆のアプローチですね。
菊地「そう、バンドリーダーである僕がコース料理からワインまで全面プロデュースするという、前代未聞のディナーショーです。で、その夜の演奏をペペが務めたわけなんですが、去年ペぺは5月にライブをやって以来稼動していなかったので、これを機に活動再開という感じですね。今回の大阪のライブは純粋にツアーなので、さすがにそういった形式ではないのですが、もしお声がけいただけるならもう、いくらでも。大阪だったら何月ごろにどんなソースで鱧を焼いたら旨いだろうかとか、それに合う音楽は何だろうとか、いくらでも頭に浮かんじゃうんで(笑)。で、それもこれも今回のライブの動員並びに興行成績にかかってるかも知れないっていうことで、ぜひともよろしくお願いします(笑)」
――昨年は大西順子さんとのライブでも大阪に来られてますし、菊地さんの別ユニットであるdCprG(デートコース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデン)や客演など大阪での演奏は多数ありますね。そんな中で改めて、ペペがどういうグループなのか、菊地さんの言葉で紹介してください。
菊地「今、日本はセックスレス社会になりつつあると言われてますよね。若い人も恋愛やセックスで傷つくのが嫌だから避けている、楽しく趣味に生きればいい、そんなライフスタイルが定着しているとかいないとか(笑)。確かに、大学で授業をしていると自分の生徒にもいわゆる草食系男子が多いことを感じるんです。そんな中でセックスと音楽をどう捉えるか。まあ、私自身セックスをしているかしていないかと言われればしまくっておりますが、自分がセクシャルであると言いたいのではなく、音楽がそうした失われつつある性愛とダイレクトにつながっているということ。現代の日本においては、卑猥さや淫靡さというのは、ポルノメディアとして独立しちゃってると思うんです。直接的すぎるというかね。ひと昔前だったらブラコン聴いてカクテル飲んで、女とヤる、みたいな(笑)。そういうのって僕の世代なら必ずあったわけです。僕がやっていることは、そういったかつての音楽と性愛の関係性に対するパロディというか。音楽を通して性愛について感じたり考えたりしてみよう、そんな活動をしてる人ってあんまりいないと思うんですけど、ペペはそういった部分とより密接であるといえます。もっと言うと、昭和の官能的な音楽だったり、ねっとりとしたラテン的な要素と現代音楽の悪夢的なサウンド、それを通して性愛を問いかけていく(笑)、 言わばそういったことをやっているわけです」
――ダンスミュージックの中でも特にローテンポなラテン音楽は、性的興奮につながる要素があるかもしれません。
菊地「EDMとか、とにかくリズムをアゲてアゲてっていう狂騒のとは逆のダンス音楽の魅力ですよね。そこにはすごく官能的な要素がある。ペペは11年やってますけど、年々活動の目的が純化されてきているように思いますね。ただ、もし僕らがポルノ・ムーヴィーのBGM的なバンドだったらこんなに続いてはいないと思うんですよ。ペペは、南米ラテン音楽のほか、映画音楽に代表される悪夢的な現代音楽、難しいリズムなどの混血なんです。エロティックだけどグロテスクでもある。そこがこのオルケスタのアイデンティティなわけです。エロいけど難しい…そう、難しいことも快楽なんですよ。難解なものは避けられがちだったり、気取りやがって、なんて思われがちですけど、難解さはすなわち快楽でもあるんですよね。セックスは危険だけど官能的であること、難しいことは気持ちいいってこと、そういう価値観をずっと守ってるんです」
――正直、当初はまさか11年もずっと続くとは思いませんでした。
菊地「それはやってる当人が一番思ってます(笑)。そもそも自分のアルバムを再現するために一回きりのつもりで集まったオルケスタですからね。音源は言ってみれば試作品のプラモデルなんです。楽曲の難易度が非常に高いので、録音はオーバーダブで編集しているんですよ。だからアルバムだけを聴くとどこか人工的な感じもします。それがライブを重ねることで生々しく変わっていく。ずっとやってるとはいえ、そんなに頻繁にはライブもできていないんですけど、それは自分の他の活動や、単にメンバーの人数が多いということだけでなく、コスパを無視してるからなんです。弦楽四重奏団にベース、ピアノ、パーカッション2人にバンドネオンにハープまでいるっていう、この景気が悪くてコスパ重視の時代に、敢えてこうしたゴージャスな感じを味わっていただければと思いますね」
――ペペは客層もゴージャスなイメージがありますが、どんなお客さんに来てほしいですか。
菊地「確かに年齢層もやや高くお金持ってそうな方は多いんですけど、もっと若い人に聴いてもらいたい気持ちはありますね。ロバート・グラスパーが好きだとか、ディエゴ・スキッシのようなニュー・タンゴや、アントニオ・ロウレイロのようなミナスの新世代とか、そういった音楽に注目していたり、雑誌の『ラティーノ』を読んでいるような若者もいると思いますので(笑)、ぜひ観に来ていただきたいです。まあ11年もやってると歌舞伎でいう大向こう的な重鎮の常連の方も多いのですが(笑)、ペペはターゲットとしては広いと思うんですよ。dCprGなんかだとダンスミュージックなので、初期からのファンの方はもう50代とかで踊るのがキツイと(笑)。その点ペペは踊れる音楽でもありますが、着席して楽しめますし。音楽好きの若い方から、ワインを飲みながら隣に女性を連れていい気分に浸りたい方まで、幅広く満足できる演奏をいたしますので。できれば来年にはペペの新作もリリースしたいですし、もっと関西にも演奏しに来れるようにしたいです。そのためにも今回のライブ、ぜひとも、よろしくお願いします」
ビルボードライブ大阪・堀川菊雄さんからのオススメ!
「まるで麝香のような甘い香りをまとった南米系オルタナティブ・ジャズ・パーティへ誘うは、エロティックでインテリジェント、結成11年にして初の大阪公演を催す、“菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール”。紳士淑女が一堂に会すその宴は、愉悦の頂点か、背徳の絶頂か、音楽という快楽の先に何があるのか、その答えはこの時間にあるかもしれない。皆様のご来店を心よりお待ち申し上げます」
(2017年1月19日更新)
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