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2年の歳月かけて初のアルバム『あたえられたもの』を
完成させたオオルタイチとYTAMOによるユニットゆうき
シンプルでフォーキーな歌世界が作られた過程を聞いた

あらゆる音楽をブラック・ボックス的に呑み込んだ独自のサウンドによって国内外で高い評価を集めてきたオオルタイチと、彼とともにウリチパン郡の中心メンバーとして活躍しながらキーボード奏者として多彩な活動を展開してきたYTAMO(ウタモ)が、これまでになくシンプルでフォーキーな歌モノに取り組んできたゆうき。数年前からのマイペースな活動を経て完成させた初のアルバム『あたえられたもの』は、アナログ録音で必要最小限なアレンジを施しただけのバンド・サウンドで、時代性やトレンドなどを超越して普遍的に聴く者の心に届く“うた”をピュアに紡いでいる。特にソロではエレクトロニクスを多用してブッ飛んだ音世界を示しながらも、キセル、テニスコーツ、トクマルシューゴといった才人たちと親交を持ってきた両者のもうひとつの資質が結実したともいえる美しく叙情性豊かなアルバムの完成に至るまでを、オオルタイチに語ってもらった。

――まずは、ゆうきがどういった流れから始まったのかを改めて聞かせてもらえますか。

もともとはウリチパン郡からの流れが大きいですね。ウリチパン郡で『ジャイアント・クラブ』(2008年)というアルバムを出してから、結構ライブのオファーをもらうようになって。ちょうどその頃はカフェとかでライブをするのが流行り出した時期で、そういう依頼も受けてみようかという話になったんですけど、4人だとちょっと難しいということもあったりして、もう少しコンパクトにと2人でやり始めたのがキッカケやったと思います。で、オオルタイチ+YTAMOでツアーをしたり、テニスコーツやキセルのお兄ちゃん(辻村豪文)と一緒にやったりし始めたんですけど、最初は臨時的な感じで。そこからガッツリと活動を続けていこうというイメージはなかったですね。

――僕も最初は、一時的な感じのデュオ編成なのかなと思ってました。

でも、その後にウリチパン郡が活動休止になって、僕的にも歌詞があって唄があるという曲をもっとやりたいなという気持ちが強くあったので、それをちゃんとカタチにしながら活動をしていきたいなとなりました。(今回に1枚のアルバムとして)カタチになるまで、すごいスローペースでしたけど(笑)。

――結果的には、活動開始から今回のアルバム完成まで6年もかかってますし(笑)。でも、これまでのエレクトロニクスを多用したオオルタイチの音と比較するとある意味で真逆なサウンドだし、ウリチパン郡と比べても格段にシンプルなので、驚く人も少なくないでしょうね。

そうですよね。今回は作る上で、今までにやってきた手法と違うというか、やってこうへんかったことに挑戦したいなというのはあって。僕はこれまで打ち込みがメインで音楽を作ってきたし、どんどんと構築していくような作業は自分の中で完結するからできるんですけど。今回は最初に曲があって、それを素直に録音物として定着させたいという意識があったんです。だから、録音にもあまりコンピューターを使わなかったし、自分が演奏して歌うことに重点を置きたいと思いながらやっていった感じですね。

――ずっとこういうシンプルな歌モノをやりたいという音楽的欲求はあったんですか?

“いい曲”を書きたいという意識はずっとあったんですけど、最初はホントに『ihati EP』(2011年発表)に入れた曲くらいしかなかったですね。でも、2~3年くらい前に意識せずとも自然に曲が出来てくる時期があって、やっぱりこういうのを続けた方がいいと思えました。

――オオルタイチ+YTAMOでやり始めた初期には加藤和彦の曲をカバーで取り上げたりしていて、こういう音楽も好きなんやなという意外性もありました。

僕はもともとフォークというか、高校生の頃に山塚アイ(ボアダムス)さんと大竹伸朗さんのパズル・パンクスとかを聴いて影響を受けて即興録音みたいなことを始めたんですけど、それと並行して“ひとり四畳半フォーク”みたいなこともやっていたんで(笑)。だから、根っこにはアコースティック・ギターを弾きながら歌う、というのがあったりしますね。その頃は長渕剛とかもよく聴いていたし…、と言っても今回のアルバムにはその影響はあまりないと思いますけど(笑)。

――長渕剛からの影響まではさすがに聴き取れなかったけど(笑)。でも、ある意味で長い時間をかけて音楽的な原点に立ち返ったモノでもあるというか。

今までだとコンピューターを使って緻密にコントロールできるところまで全部したいみたいな意識があったんですけど、今回は逆に生音とか自分の声の面白さをどう活かしていくかというか。あとは、僕のソロの曲をバンド編成で演奏するOorutaichi Loves The Acustico Paz Nova Bandもやりましたけど、その時に歌だけに徹することで気付かされたことも、たぶんココに引き継がれていると思います。

――Oorutaichi Loves The Acustico Paz Nova Bandでのライブは、エキセントリックな音のインパクトが強いオオルタイチの楽曲が持っていたメロディの良さをボサノバ~アコースティック・ポップ的なアレンジで浮き彫りにしたもので、実はこんなに“いい曲”だったのかという驚きがありました。2014年にオオルタイチ名義で発表した『Flower Of Life』も、そのムードを引き継いだメロウネスがあったし。でも、ゆうきで展開しているのは、よりシンプルで、これまでと比べると表現としてかなり裸な感じの音楽だと思うんですが。

そうですね。たいぶ裸ですね。今までだと、例えば曲が出来てもどんどんと装飾的なアレンジを加えていっていたと思うんですけど、今回はポロッと出来た曲をそのまま出すというか。収録曲の中にはすごく古いモノもあって、6曲目の『シャンシャン』とかはウリチパン郡で出す予定でライブでもやっていた曲なんですけど。(そのままの状態を録音物にしていく作業は)難しかったですね。今回は録音もオープン・リールのテープで録ったので、あまりやり直しが利かないし、自分の歌を録音する時にも一本筋が通った感じにしたいという意識が強かったので、曲を練習したりとかレコーディングするまでにかかる時間が長かったです。

――音のアナログっぽさも、単に60~70年代っぽい雰囲気を出そうとしたみたいなレベルじゃなくて、もっと根源的なところでアナログらしい音の質感が宿ってるよね。この盤には。

なんか僕もここまでとは思ってなかったですね(笑)。生活感とかがめっちゃ滲み出ているというか。録音エンジニアをやってくれた西川文章さんの手法とかもすごく入っていると思いますけど、僕らも生活の延長で、自宅で録った部分がほとんどやし。もうちょっとハイファイになる予定やったんですけど(笑)、かなりザラザラとした感じの音になりましたね。機材はリボン・マイクを中心に西川さんのいくつかの機材を使わせてもらったぐらいで、、そんなにこだわりはなかったんですけど。あとは楽器のチューニングを少し低くしていて、普通は440khz(キロヘルツ)に合わせるんですけど、今回の録音では全部の楽器を432khzに下げて合わせていて。クラシックとかではそのチューニングで合わせることもあるらしんですけど(注:ヒーリング音楽などでも432khzに合わせた作品が多い)、ちょっと下げるとギターやピアノの音や倍音が淀みなく綺麗に出るんですよね。そこはなぜかこだわりました。

――特に理想形としてモデルにしていた作品などはあったんですか?

具体的にモデルにしていた作品はなかったですけど、周りの知り合いのミュージシャンから日々いいものをもらってきたのが大きかったというか。例えばキセルとか、最近に住んでいる場所が近くてよく遊んでもらっている奈良のLOSTAGEの五味さんとか。みんなの音楽をやる姿勢に感化されたところは、大きかったかもしれないですね。

――なるほど。歌詞も他にありそうでない独自の叙情性を帯びていて、聴き手の日常とふとシンクロするようなリアリティやストーリー性を孕んでいます。

歌詞はふとした瞬間に出てきたものとか、1曲目の『虹色シャワー』はリアルにおじいちゃんが亡くなった時の歌だったりするんですけど。歌詞に関しては、震災以降とかに特に考えることが多くなったし、いろいろなことが体験としてすごくリアルなものになってきたので、曲もそこにリンクしてポロッと出てきたものが多かったですね。他にも、旅先で不意にすごくいい景色に出会って出てきたものもあったし。

――でも、話を聞いていると日常の中でポロッと出てきたような曲が多いんですね。考えに考え抜いて、時間をかけて作り込んだというものではなくて。

今回はホントにそうですね。悩みそうになったら、それはもう終わりの合図かなみたいな感じで。インスピレーションがバッと来て、出ている状態の時はいいんですけど、その時間が終わったらそれ以上に追い求めないようにしようとは意識していました。今までだともっともっとそこから掘り下げるという感じだったんですけど、今回はパッと曲が出来た時の状態と、その後に自分で構築していったものを比べると、後者にはすごく違和感があって。なので曲によってはすごくシンプルな形になったんですけど、それはそれでいいかなと。

――しかし、ゆうきで展開している音楽は、これまでのメタ・ポップ的なアプローチとは違ってホントにまっすぐに普遍的な歌モノですけど、これまでと違うタイプの聴き手に届けたいというのもあったのかな?

それはありましたし、作る上でも意識していました。例えば、おじいちゃんとかおばあちゃんとかにも、聴いてもらえる人には分け隔てなく聴いてもらいたかったというか。やっぱり4年前の2012年から奈良との県境の京都の木津川市の山寄りの集落というちょっと田舎に住むようになって、地元の人に呼ばれて演奏しに行くような機会もあって、そういう場所でも届くような曲を作りたい…と言うと違うんですけど、どこか窓は開いているような気持ちは持ちたいな、というのはありましたね。

――なるほど。そういう環境の変化から、より普遍的な音楽へ向かっていった面も大きかったというか。

大きかったですね。ホントに地元の町おこし的なイベントとかに呼ばれて演奏したりするんですけど、やっぱりめっちゃハードルが高いですね(笑)。同じステージに演歌の人とかも出るんですけど、めっちゃ(お客さんを)持っていきますし(笑)、市が運営している文化サークルで琴を演奏している人や合唱団の人たちもものすごく上手で、観る度に感動するんです。その中でも分け隔てなく届けられる音楽を作りたいという欲求は、最近になって出てきたものかもしれないですね。閉じた感じにはしたくなかったというか。

――そして、アルバムの発売を経て、来年の1月14日(土)には京都府庁旧本館・正庁でレコ発のワンマン・ライブが行われます。

アルバムに収録された曲はもちろんですけど、新しい曲もすでにライブでやったりしているので。半分ずつくらいの選曲でやれればなと思っています。アルバムと同じように、いろんな方に聴いてもらえれば。



 
 
取材・文/吉本秀純
写真/飯川雄大



(2016年12月19日更新)


Check

Release

ALBUM
ゆうき
『あたえられたもの』

発売中 2484円(税込)
OKIMI-016

<収録曲>
01. 虹色シャワー
02. 月のビタミン
03. 忘れたい気持ち
04. 夢の山
05. おはよう
06. シャンシャン
07. 金箔の波の泡
08. 夜明けの獅子
09. plant
10. あたえられたもの

『あたえられたものリリースツアー』

▼2017年1月14日(土)
開場17:00/開演18:00
京都府 京都府庁旧本館 正庁
前売-2800円 当日-3000円
[出演]ゆうき(dr 濱本大輔)

▼2017年1月20日(金)
開場18:30/開演19:30
広島 4.14
前売-2800円 当日-3000円(別途要ドリンク代)
[出演]ゆうき
[ゲストライブ]嶺川貴子&Dustin Wong

▼2017年1月22日(日)
開場18:00/開演19:00
東京 代官山 晴れたら空に豆まいて
前売-3300円 当日-3800円(別途要ドリンク代)
[出演]ゆうき (dr 濱本大輔)
[ゲストライブ]キセル

チケット予約・お問い合わせ
http://www.yuuki-music.jp/

プロフィール

ゆうき●それぞれにソロとしても活動しながら、ともに4人組ユニットのウリチパン郡(現在は活動休止)としても多彩なサウンドを生み出してきたオオルタイチ(vo,g)、YTAMO(key,vo)が、2010年ごろからデュオ形式でスタート。国内外の様々なアーティストとの共演から、東日本大震災後の被災地でのライブ、地域に根差した自治体のイベントまでと様々な場所でライブを展開しながら、4曲入りの自主制作CD-R「ihati EP」(11年)「ihati EP/2」(16年)を発表。レコーディングに2年の歳月をかけて完成した初のアルバム『あたえられたもの』には、元SAKEROCKの伊藤大地(ds)と田中馨(b)、数々のサポートで知られる波多野敦子(vln)、シャンソンシゲル(ds)、MaNHATTANの濱本大輔(ds)らがゲスト参加している。

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ぴあ関西版WEB 演劇・演芸担当
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すっと耳に馴染むゆうきのアルバム『あたえられたもの』。これまではスピーカーで聴いていたのですが、ヘッドフォンで聴いてみたらまた異なるサウンドが聴こえてきて、おお!っとなりました。1枚で2度楽しんでいます。どこかざらざらした感触に安心感もありとても心地よいです。インタビューにもあるとおり、まさに間口の広いアルバムになっていると思います。ぜひYoutubeの動画で表題曲を聴いていただいて、CDをお手にとってみてください。音楽が流れただけでその場が浄化されるような、すごく澄んだ気持ちになります。もちろんライブにもぜひ、足を運んでもらいたいと思います。ゆうきのライブの心地よさに、この音を持って帰りたいと思っていました。それだけにこのアルバムの完成は本当に嬉しいです。そして、関西におふたりがいてくれてとても嬉しいです。これからも奈良や木津川から生まれてくる音楽を楽しみにしています。