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大西ユカリインタビューは最新アルバム制作秘話と
御本人による全曲解説をお届け!
10月20日(木)にはBIG CATでワンマンライブも!

“大阪のゴッドねぇちゃん”の異名を持つ大西ユカリがテイチクに移籍し、7月にシングル「大阪に雨が降れば」、8月にアルバム「EXPLOSION」をリリース。演歌・歌謡曲の大ヒット曲を多数生み出したヒットメーカーと日本のロック・ポップスシーンの最前線で活躍してきたミュージシャンたちが一堂に会したアルバムは、新しい時代の流行歌としてたくさんのリスナーの耳を刺激するだろう。今回はソウルフルな歌声と親しみやすいキャラクターで愛される彼女によるアルバム制作秘話と全曲解説をお届け!

■演歌とロックの架け橋に?~テイチクでの再出発

--今回のアルバム「EXPLOSION」とシングル「大阪に雨が降れば」からテイチクの演歌・歌謡曲セクションに移籍されました。この移籍はどのような経緯で行われたのでしょうか?

今回は、とりあえず曲、アルバムを作ろうということから先に始まったプロジェクトで、いくつか曲が集まった時点でいろいろなレコード会社にアプローチをして、テイチクさんが「ウチでやりませんか」と言ってくださったと聞いています。天下のテイチクさん相手にとんとん話が進んでいったものですから、最初に聞いた時はホンマに驚きました(笑)。

--移籍されてから活動状況に変化などはありますか?

前のレコード会社はインディーズだったこともあって、好きな時に好きな仲間とやるという、すべてが自分ルールだったんです。でも、今回からは関わる人も多いし責任重大やなというのと、もっと歌を練習してうまくならなあかんなと思っています。

--これまでに演歌・歌謡曲のジャンルの方々とお仕事をされる機会などはありましたか?

ずいぶん前ですけど、天童よしみさんや川中美幸さん、都はるみさん、氷川きよしさんとかとご一緒させてもらったことがありました。五木ひろしさんとはデュエットもさせてもらって。私、もしかしたらバンド文化と演歌の中間におるんかな?となんとなく思っていたのですが、テイチクに移籍して、それが実感に変わりましたね。

■“大西ユカリ”から広がる物語~アルバム全曲解説

--アルバムについてのお話を。一見して、作家陣の豪華さに驚きますが、製作はどの曲から始まったんですか?

浜 圭介先生の「夜桜銀子」が最初に上がってきたので、まずはそれを録音しようとなって。ギターの弾き語りをラジカセかなんかで録音されたものを譜面と一緒に送ってくださったんですけど、この曲が上がったことで「テーマは大西ユカリ」という指針が明確になって、いろいろな作品が集まってきました。

--一発目に浜先生をチョイスするのが渋いですよね。

「この先、聴けるものなら聴いてみぃ!」という気迫に満ちてますよね(笑)。憂歌兄弟(憂歌団の木村充揮・内田勘太郎に寄るユニット)が演奏を担当してくださって、みなさんスタジオでジャカジャンとやっているところに営業やラジオ終わりでクタクタの私が行くんですけど、そうなると何度も歌うのは無理で。これ、ワンテイクで録ったんですよ。修正したら前後の風情がおかしくなるし、一発目はあえて振り切ろうがどうなっていようが、このままでいこうと。結果的にすごくインパクトのある仕上がりになって、この後、どんな曲が来ても「夜桜銀子」を1曲目にせざるをえないようになりました。

--再生したらいちばん濃い曲から始まるという。

そうそう(笑)。

--浜先生とは曲についてお話などはされました?

電話でごあいさつ程度ですけど、「よく頑張ってくれたね。いい歌になったね!」とお言葉をいただきました。

--2曲目の「ユカリ☆EXPLOSION」はシングルのカップリングにも収録されていますが、ユカリさんの出身地である富田林推しの歌詞がユニークですね。

この曲は今までなかったパターンですね。私にかぎらず大阪や新世界を舞台にした曲は結構あるけど、富田林にまで及ぶ曲はなかったんちゃうかな(笑)。クドカン(作詞を担当した宮藤官九郎)マジックというのか、とても楽しい歌絵巻になっております。

--作曲を担当した横山 剣さんの合いの手も曲を盛り上げています。

平成のドドンパともいえるようなリズムですよね。なかなか取り上げられないジャンルなので私としては嬉しかったですね。最初は、歌詞を見て「更年期な~」と思ったけど(笑)。私と同年代の人とかがこの曲を聴いたら、「今日、もうちょっと掃除がんばろう」「洗濯物きれいにたたもう」って思えるんちゃうかな。聴くことで生きる力がみなぎってくれたら、すごく嬉しいです。そんなグローバルな曲やなって思うんですけど(笑)。

--続く「大阪レイニィナイトⅡ」は憂歌兄弟のメンバーである内田勘太郎さんの楽曲です。

「ユカリちゃんのことを思ったら、こういう歌詞とメロディーが出てきた」ということで作っていただいて。谷町筋とか、もろに大阪な道路の名前が出てきて、東京で歌ってもわからへんかもしれんけど(笑)。そこはかとない主人公がいて、それが複数やったり、男性か女性かはわからない感じで、いろいろ想像を巡らせながら聴いてもらえると思います。

--4曲目の「スナックユカリ」も軽快で楽しい曲ですね。スナックあるあるのような。

そうそう、まさにあるある(笑)。

--作曲は宇崎竜童さんです。以前にもビッグバンドとのジョイントライブで共演されていましたが、一緒にお仕事されるのは久しぶりでは?

そうなんですよ。宇崎さんからは以前、書き溜めた曲をごそっといただいて、それを私が仮の曲名とか付けて管理していたんです。スナックをモチーフにした歌詞は私も書いたことがあったけど、今回は歌詞もバッキングも怒髪天が作ってくれて、より男目線になっています。聴いていると40代のスーツ着たお兄ちゃんの画が浮かびますね(笑)。

--増子さん(怒髪天・増子直純)とユカリさんの組み合わせも強烈ですよね。

ははは(笑)。以前に一度、イベントでご一緒したんですけど、あの人もええ感じなんですよね。タテノリの感じだけど、揺らぎない昭和の感じも持ってらっしゃって、めっちゃおもろい方です。怒髪天の演奏もこのアルバムの中で頭ひとつ突き抜けてる感がありますね。

--続く「花の生き方」は、荒木とよひさ先生の作詞で。

先行シングルである「大阪に雨が降れば」も書いてくださったんですけど、同じ頃にこの曲の歌詞をいただいて。誰に曲を書いてもらおうかと思っていたらプロデューサーが、「これは三宅伸治やな!」と。この歌詞で伸ちゃんの曲ってどうなるんやろって思ったけど、まさかのハイサウンドですよね(笑)。アル・グリーンみたいな感じで上がってきて驚きました。で、伸ちゃんはずっと忌野清志郎さんをサポートしていたこともあり、レコーディングでは、「清志郎さんならこう歌うかな?」と思って「ガッタガッタ!」ってシャウトも交えながら機嫌よう歌ってたんです。そしたらプロデューサーに「ガッタはいらん、普通に歌詞を解釈して女性らしく歌いなさい」って言われて(笑)。

--全体を通して感じるのは、演歌・歌謡曲の作家の先生方とロック畑のミュージシャンが一つの曲の中で共同作業をすることが珍しく、これはユカリさんのアルバムだからこそ実現したものなのかなと思います。

それやったらすごいよね。そういう解釈で聴いてくださる方がきっと多いと思うけど、私たちの年代というか、歌謡曲に傾倒されている方には、「こういうのが聴きたかった!」と思ってもらえるように仕上がった気がします。後は曲を育てるだけですよね。

--6曲目の「くず、ようほかさん」は、近藤房之助さんによるブルージーかつテンポ感のあるナンバーで。

房さんにも面影ラッキーホールのaCKyにも書いて欲しかったし、両極端な世界観を持つ大好きな2人やけど、なんでくっついたんやろう?って(笑)。これは房さんのハミングで曲が上がってきて、私は、どっかでaCKyに歌詞を書いて欲しいとリクエストしていたんですけど、まさかここに来るか!って。房さんのアルバムに若手アーティストとR&Bをカバーする「黒くなれ」っていうのがあるんですけど、それが本当に素晴らしくて。房さんには、あんな感じで’60年代モータウンの裏の世界みたいなのを書いて欲しいとリクエストしたんです。そしたら「黒くなれ」をプロデュースしたキーボーディストのSWING-Oもアレンジに関わってくれて、ブルースと歌謡曲テイストがミックスされた渋い1曲になりました。

--先行シングルになった「大阪に雨が降れば」も渋い歌謡ブルースですが、サビで爆発させず、抑え気味に歌われているのが印象的です。

最初はわりと爆発させた歌い方にしていたんですよ。そしたら、また「それはいらん」って(笑)。ぐっとこらえて女性の切なさを出してということで何回もやり直して、この感じに落ち着きました。ミックスもアルバム用に新しくなって、アレンジの寺岡呼人さんが勘太郎さんから送ってもらったエレキシタールを弾いてくれています。荒木先生の歌詞もすごくいいですよね。

--若い人にももちろん聴いて欲しいけど、この曲に込められたさまざまな要素を噛み締められるのは大人の特権かなと感じます。

ほんまですね。それを噛みしめて歌うと歌詞の世界観が自分の中で変わってきて。自己満足かもしれないけど、歌っていると作ってきた過程なんかも思い出されます。

--浜先生や荒木先生のような演歌・歌謡曲の一線で活躍されてきた先生の歌詞とポップスやロックのそれで違いを感じる部分などはありますか?

演歌・歌謡曲の先生方が書かれる歌詞は私小説ではないということですね。作家の先生方は歌い手さんにあてたりテーマがあったり、いろいろな書き方がありますけど、決して私小説ではなくて、行間のイメージや出てくる人をちゃんと思わせるような物語を書かれます。それを歌うことで歌手側も虚構の世界に入っていける楽しさがあるような気がしますね。

--演じる楽しさのような。

歌謡曲のおもしろさというのは虚構の部分にあると思います。今回は、みなさん私にあてて書いてくださっている感じなので、どこかに大西ユカリがいるけど、虚構の世界でもあるという。そこが歌謡曲とポップスの違い、線を引くところかなと思います。

--8曲目は「SUKATAN」ですが、もず唱平先生と三宅さんという、この曲の組み合わせこそ本当に意外ですよね。

これもえげつない(笑)。あの「花街の母」を書かれた先生ですからね。もず先生には何度かお会いして、お食事をご一緒したり、お話もさせてもらって。おもしろい方ですよね。

--さっぱりした主人公の女性像や相手男性とのいじらしくも微笑ましいやり取りが、もず先生っぽいなと感じます。

そうですねー。あと、もず先生の特徴として、言葉遣いが古風で、その古さの種類がオシャレなんですよ。単なるレトロや大阪っぽいということではなく、考えさせるような古さといいますか。キレイな関西弁ってありますやん。柔らかくて品があるんですよね。「相惚れ」なんて今日びなかなか言わないですから(笑)。なんと良い関西弁なのかと思いますわ。自分のことを「うち」って言うのも、昔の関西を舞台にしたドラマならあるけど、今はなかなかないですから。そういう言葉の中で、怒っているけど柔らかい女性像というのが出てきた気がして。

--「SUKATANに祝儀(はな)つけたげる」というフレーズなんかは、その最たるものですよね。

「祝儀」と書いて「はな」と読ませるんですもんね。小遣いあげるっていうのを、こんな言葉にするってええよね。頼りない男の人への言葉なのに(笑)。もともと私、歌詞を見なくても伝わる歌唱法というのを目指していたんですけど、このアルバムに関しては、歌詞カードにしっかり目を通してほしいです。

--三宅さんの楽曲もアルバム中でいちばんロック色が強くて。

そうなんですよ。私の声も振り切ってますでしょ(笑)。サビでもメーター振り切ったけど、そのまま収録して。キーもいっぱいいっぱいなんですよ。

--「ハルカロジ」は甲本ヒロトさんが作詞作曲ということで、こちらも古きよきR&Bやソウルにのっとったような楽曲ですね。

でしょ。ヒロトさんからはギター一本で歌ったデモテープをもらったんですけど、いろいろ解釈ができる感じだったので、アレンジもたくさん考えました。ヒロトさん、あまり人に作品提供しないみたいなんですけど、今回、書いていただけて本当に良かったです。メロディーや歌詞が本当にヒロト節ですよね。

--温かい感じのメロディーで。

でも、どうやら歌詞では私、犯罪者の役らしくて(笑)。主人公のパターンもいくつか考えて、その作業もおもしろかったです。

--アルバムを締めくくるのは、唯一のカバー曲であるさだまさしさんの「秋桜」ですが、これは、どのような経緯で収録されることになったのでしょうか。

9曲あがった時点で、「これで完成かな」って言うてたんですけど、そこにプロデューサーが「あれ、俺には10曲目に『秋桜』が聴こえるねんけど」って言い出して(笑)。アルバムが8月終わりに出るので、すぐに季節は秋になる。そこに向かう、そこはかとない感じを出したいなと。これも勘太郎さんと一発録りしたんですけど。究極のモノラルミックスですよ。普通なら歌をギターで包み込むようなミックスにするのが、ズドーンって聴こえてくるという(笑)。

■「全曲歌いたい!」~ステージへの想い

--アルバム制作を振り返って苦労したことなどは?

プロデューサーが想定している歌のキーや演奏家の方々が美しいと感じるコード進行だったり、そういうものが製作中に変わっていくということはありました。今回、私は意見を出さず歌に徹することで、今までとは180度違う作り方をしていて。その影響は作品に現れていると思いますね。曲によって全部、演奏家も作家も違うので、シングル盤の羅列といってもいいぐらい曲がそれぞれの顔を持っていて。そこに対応していくのが苦労といえばそうだけど、楽しくて自分から向かっていったところでもあります。

--ユカリさんがクリエイティブな部分に関わらないことで、見えてきたことなどもありましたか?

あります。締め切りや納品に向かっていくことは大事なんですけど、それ以外に、曲を仕上げるには、スパッと切るところは切るという潔さや決断力が大事なんやなって。作家は作家、演奏家は演奏家、私は歌という役割分担での作業が出来たのは、テイチクに移籍していちばん大きく変わったことかもしれない。もう30年ぐらい歌っているけど、こんなこと出来るんや!って、改めて思いました(笑)。

--このアルバムでユカリさんに初めて触れる方も多いと思います。そんな方々には、どんな風にユカリさんの世界に入ってきてもらいたいですか?

いや、もう普通にまっさらな耳で聴いてもらえたらススッと入ってくると思います。「新しい大西ユカリ!」とは言うても、初めての人からしたら知らないわけで。そういう人たちにも「へ~、この子、歌うまいやん」って思ってもらえたらええなって(笑)。

--このアルバムではロック、ポップスはもちろん、歌謡曲なども含めた、いわゆる流行歌の要素が満ち溢れています。最近ではジャンルが細分化されて、知らないジャンルは一切、触れないという人もいるので、そういった人にこそ、ぜひ聴いてもらいたいなと思います。

今日びは細かく分ける傾向やけど、私はもっと自由な感じでいたいなという気持ちはありますね。「このジャンルじゃないとアカン」なんて決まりはないし、シャウトもすれば泣きも入れるみたいなイメージで。そういう意味で、このアルバムは自分で聴いていてもホンマにおもろいです(笑)。

--ライブのアプローチにも変化が出そうですか?

そこはあんまり変えようがないというか。自分の持ち味みたいなものは残しながら新しいこともやっていこうかなと。ただ、このアルバム、全曲ステージで歌いたくて、そういうのは久し振りですね。アルバムでしか表現できないもの…「夜桜銀子」なんて憂歌兄弟でしか出せない音なので、それがライブでどうなるか、みたいな。そのへんは、ものすごく変わると思うから楽しみですね。

--今後、挑戦したいことなどは?

基本的に大人数でJBショーみたいなライブをやるのが好きなんですけど、ピアノ、ギターだけの小編成でやることもあって、そういうステージでは自分の歌がむき出しになるんですよね。これまでにもそういうのはやっていますけど、さらに回数を重ねて、もっと歌を丸裸にして鍛えていけたらいいなと思います。

--最後に読者の皆さんへのメッセージを。

みなさま、健康にはくれぐれも留意し、どうぞ、ご自愛なさってお元気に。それぞれの胸に夢を持って、しぶとくやってください(笑)。私もしぶとくやることが大事やと思っていますし、そうしていたら必ず良いことがあります。また、どこぞでお会いしましょう!
 

取材・文・構成/伊東孝晃(クエストルーム)




(2016年9月28日更新)


Check

●Release

『大阪に雨が降れば』

発売中

<シングルCD>
定価:¥1,204+税
TEICHIKU RECORDS
TECA-13692

<収録曲>
1.大阪に雨が降れば
2.ユカリ☆EXPLOSION
3.大阪に雨が降れば(オリジナル・カラオケ)
4.ユカリ☆EXPLOSION(オリジナル・カラオケ)

『EXPLOSION』

通常盤

発売中

<アルバムCD>
定価:¥2,778+税
TEICHIKU RECORDS
TECE-3382

<収録曲>
01.夜桜銀子
02.ユカリ☆EXPLOSION(ALBUM MIX)
03.大阪レイニイナイトⅡ
04.スナックゆかり
05.花の生き方
06.くず、ようほかさん
07.大阪に雨が降れば(ALBUM MIX)
08.SUKATAN
09.ハルカロジ
10.秋桜(MONO MIX)

※DVD『大阪に雨が降れば』ミュージックビデオ、初回限定盤のみ収録。
定価:¥2,963+税
TEICHIKU RECORDS
ECE-3381

●Live

大西ユカリ

発売中 Pコード:303-324

▼10月20日(木) 19:00
BIGCAT
自由席-4000円
(整理番号付、ドリンク代別途要)

※未就学児童は入場不可。小学生以上は有料。

[問]GREENS
[TEL]06-6882-1224

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●Profile

大西ゆかり●1964年4月6日生まれ、大阪府富田林市出身。大阪を拠点にR&Bから歌謡曲までを独自のアプローチで歌い続け、活動歴は30年近くに。2001年デビューアルバム『大西ユカリと新世界』発売。以降、シングル6枚アルバム15枚をリリース。FM大阪『GOOD MORNING OSAKA』水・木担当。