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スペシャルバンドを携えてブルースを歌った
『八代亜紀 2016 AIUTA』ライブレポート

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八代亜紀が昨年10月に発売したブルースアルバム「哀歌 -aiuta-」を携えてツアー「AIUTA」を行うことを発表し、それに伴って日本ロック界の精鋭を集めたツアーバンドを結成。伊東ミキオ(key)、藤井一彦(g/THE GROOVERS)、中條 卓(b/THEATRE BROOK)、サンコンJr.(dr/ウルフルズ)、梅津和時(sax)という、そうそうたる楽器陣の中心に八代が佇むツアー用のアーティスト写真も発表されたが、その画はさながら八代をボーカルに据えた新バンド結成!?というワクワク感を演出し、否が応でも公演への期待を高めさせた。

演歌・歌謡曲からロック系まで、さまざまなファンからの期待が高まる中で始まった「AIUTA」ツアー。今回は初日である6月20日、大阪・サンケイホールブリーゼでの公演(本来の初日であった6月18日・熊本・八代座公演は熊本地震の影響により延期)の模様をお届けしよう。ブルース、ロックのフィーリングで奏でられる八代演歌のスペシャルな一夜が今、幕を開ける。

開演定時、ダークスーツに身を包んだバンドメンバーたちが現れ、イントロダクションとなるジャムセッションでステージの始まりを告げる。まだ主役の登場前ではあるが、ここではまず、ロックの最前線でキャリアを積んできたこのバンドのメンバーたちについて触れておきたい。バンドマスターである伊東は1990年にGROUND NUTSのメンバーとしてデビュー後、ウルフルズや佐野元春、ゆずなどのサポートメンバーとして活動。日本屈指のキーボーディストとして多くのアーティストのツアーやレコーディングに参加している。


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ギターの藤井は自身のバンドであるTHE GROOVERS以外にも、SION&THE MOGAMI、頭脳警察などでも、そのソリッドなギターサウンドを響かせる。

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ベースの中條は、佐藤タイジ率いるTHEATRE BROOKに籍を置きつつ、さまざまなセッションに活躍の場を広げ、ドラムのサンコンJrは言うに及ばず、ウルフルズのメンバーとして長年にわたってバンドサウンドの屋台骨を支えてきた。


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サックスの梅津はフリージャズからキャリアをスタートさせ、RCサクセションや忌野清志郎ソロなどでお馴染みの名プレイヤーだ。


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このような個性派が集まれば、サウンドにも他者が付け入る隙がないほどの緊張感が生みだされるのは必至だが、そこは彼ら以上に場数を踏んできた八代。1曲目、「St.Louis Blues」の一節を歌っただけで完全に空気を変え、視線を歌い手に一点集中させてしまう。「演歌歌手の八代亜紀です。でも、今日はブルース歌手です!」と、まずは客席へ挨拶。続けて、昨年、ブルースのルーツを求めてメンフィスを訪れた際、B.B.キングの墓を参ったことを報告し、彼のナンバー「The Thrill Is Gone」を。間奏では楽器陣のソロが繰り広げられ、白熱するプレイに八代も「うまいね~、カッコいい!」と絶賛。


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「日本にも、いい歌がたくさんあるんですよ!」と、3曲目に披露したのは、八代がアルバムへの収録を熱望したという「フランチェスカの鐘」。アルバム以上にドライブ感のある演奏に八代の歌もスイングする。「別れのブルース」では一転、ムーディーな歌声で会場を包み、「次はお友だち、圭子ちゃんの歌」と始まったのは、藤 圭子の代表曲「夢は夜ひらく」。演奏がアップテンポに加速する中、八代も「やさぐれ感を意識した」という歌唱で聴かせ、この日、最初の山場を迎える。クラブ歌手時代、歌うたびにホステスたちが涙したという「あなたのブルース」では梅津のサックスがアーバンな雰囲気を演出し、そこに乗るアンニュイな歌声が心地よく響く。

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「哀歌 -aiuta-」に収録されたオリジナル曲から、横山 剣が手がけた「ネオンテトラ」では、恋人を亡くし、ホステスとして身を立てる女性の姿を切なくも温かい歌声で表現。「関東は水不足で大変なんだけど、関西はどうかしら? ちゃんと雨が溜まるように歌うね」と始まったのは、大ヒット曲「雨の慕情」。重めのリズムでグルーヴを形成するアレンジは、このメンバーならでは。中盤からのテンポアップを「ジャンジャカ降りって感じ?(笑)」と例える八代の表情が愛らしい。前半戦は、元メガデスのギタリストで八代を敬愛するマーティー・フリードマン作曲による「MU-JO」を情熱的に歌い上げて終了。

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後半、新しいドレスに衣装を替え、軽快なステップで再登場した八代は「Bensonhurst Blues」で後半戦をスタート。切なさとアイロニーを内包したようなこの曲は、フィギュアスケートの大会でフランスの選手が使用していたのを見て気に入ったのだとか。梅津が楽器をサックスからクラリネットに持ち替えて柔らかな音色を紡ぎ、八代の歌声も前半以上に説得力をもって観客に語りかける。

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MCでは、歌手デビュー前に就いていたバスガイド時代の思い出を披露。初仕事では大学生の団体を前に緊張してしまい、説明すべき名所を飛ばしてしまったというエピソードが微笑ましく、「その頃、熊本平野に登る朝日を見ながら歌いたいなと思ったのが、この歌です」と、「The House of the Rising sun」へ突入。アニマルズのバージョンを彷彿させるように伊東のキーボードも八代の歌唱とともに唸りを上げる。

「とにかく悲しい、どん底に暗い曲を」と中村中に楽曲制作を依頼した「命のブルース」では、悲惨な境遇をなんとか生き抜こうとする主人公を振り絞るような歌声で描き出す。「テレビでは毎日、辛いニュースが流れているけど、人間にとって罪を犯す、犯さないというのは背中合わせの感情。そんな時、理性を持って考えることが大事だね」という言葉が歌詞と相まって、中村×八代のブルースをずっしりと客席に伝える。続くTHE BAWDIES提供の「Give You What You Want」ではエネルギッシュな演奏でヒートアップし、ステージは一気にクライマックスへ。

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本公演前、熊本地震のチャリティーで現地を訪れた際の様子や復興への思いを語り、本編最後に歌われたのは、郷土への愛をふんだんに盛り込んだ「Sweet Home Kumamoto」。「みなさん、一緒にカモン!って言ってくれる?」と呼びかけ、軽快な曲調にあわせて客席からも合いの手が飛ぶ。エネルギッシュに歌い上げ、最後は「Sweet Home Osaka、みんなの愛が伝わりました!」と感謝の言葉を述べてステージを後にした。

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止まらないアンコールに応え、まずは一人で現れた八代。「普段のステージだとエンディング曲をバーンと派手にやって、緞帳が下りて完全に終わるから、こういうアンコールって新鮮(笑)」と微笑む。再びバンドメンバーが集結し、ジャジーなピアノに乗せて歌われるのは、どこかで聴いたことがあるメロディー……やがて紡がれる「セキス~イハウス~」というフレーズに、あのCM曲だ!と客席からざわめきが起こる。このような選曲も、特別な夜ならではのお楽しみだろう。「もう一度逢いたい」はオリジナルバージョンよりもレイドバックしてブルージーに。そして、「これで本当に最後!」とラスト曲「舟唄」では、エッジの効いた演奏が名曲にさらなる説得力を与え、中盤のダンチョネ節ではアカペラの歌唱で、静寂の中に力強い歌声が響いた。

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こうして幕を閉じた全16曲のステージだが、八代は熊本地震被災者への募金を募るためにバックステージで一息つく間もなく、会場のエントランスへ直行。募金に協力する観客一人ひとりと握手をかわし、彼らが会場を後にするまでを見送るところに八代の人柄や八代演歌が長年、愛され続ける所以を垣間見たように感じられた。


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熊本の一日も早い復興、そして、待ち望んでいるファンのためにも八千代座での振替公演が開催されることを願ってやまない。

取材・文/伊東孝晃(クエストルーム)
撮影/河上良(bit Direction)

 
 
 
 



(2016年7月19日更新)


Check

●SET LIST

1.St.Louis Blues
2.The Thrill Is Gone
3.フランチェスカの鐘
4.別れのブルース
5.夢は夜ひらく
6.あなたのブルース
7.ネオンテトラ
8.雨の慕情
9.MU-JO
instrumental/衣装替え
10.Bensonhurst Blues
11.The House of the Rising sun
12.命のブルース
13.Give You What You Want
14.Sweet Home Kumamoto

-encore-
15.もう一度逢いたい
16.舟唄

バンドメンバー

伊東ミキオ(key)
藤井一彦(g)
中條卓(b)
サンコンJr.(ds)
梅津和時(sax)

●LIVE

八代亜紀 コンサート

発売中

Pコード:289-356

▼8月27日(土) 12:30/16:30
新歌舞伎座

1階席-9000円
2階席-5000円
3階席-3000円

[出演]八代亜紀

※特別席は取り扱いなし。未就学児童は入場不可。

[問]新歌舞伎座
[TEL]06-7730-2121

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五木ひろし/八代亜紀

発売中

Pコード:292-373

▼9月3日(土) 14:00/17:30
神戸国際会館こくさいホール

S席-8300円
A席-6500円

※未就学児童は入場不可。

[問]神戸国際会館こくさいホール
[TEL]078-231-8162

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