「歌うことは私の人生で唯一続いてること」 女性としての人生も、シンガーソングライターとしての生き様も 素晴らしき『It's Me』に刻んだ奇跡の日々を語る 岩崎愛インタビュー&動画コメント
夢を描き上京する全てのミュージシャンがそれを叶えられたなら、何と素敵な物語だろう。だが、その夢は時に残酷に、揺れ動く自信と僅かな希望の中で、人生の選択を幾度となく突きつける。そう、彼女だってそれは変わりない。そんな岩崎愛の運命がゼロ地点から動き出したのは、’11年3月。顔見知りのライブハウスで飛び入りで歌ったその光景を、マシータ(ex. BEAT CRUSADERS)が奇跡的に目撃。ストレイテナーの日向秀和(b)を中心としたミュージシャン有志によるプロジェクト“HINATABOCCO”に参加したことから、その物語は急展開を迎える。’12年にはGotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のレーベルより『東京LIFE』をリリース。どうしようもなく胸を揺さぶる歌声とメロディは、少しずつ世に知られることとなる。そして、その溢れる才能を存分に詰め込んだのが、キャリア初となるフルアルバム『It’s Me』だ。今作には憧れの小谷美紗子をはじめ、ちゃんMARI(ゲスの極み乙女。)、福岡晃子(チャットモンチー)、あらきゆうこ、下村亮介(the chef cooks me)、U-zhaan、啼鵬、ファンファン(くるり)etc…様々なアーティストが参加しているのも話題だが、それもあくまで彼女の素晴らしい楽曲があってこそ。アルバムの冒頭を飾る『knock knock』の最後には、彼女からのメッセージがこう記されている。“We can go to the start line anytime/You can go to the start line anytime”。長い時間をかけて磨かれた岩崎愛という才能が、時代に鳴り響く幸福な未来を願うインタビュー。
初めて全部に納得がいった曲が『哀しい予感』やったんですよ
――『It’s Me』が出てしばらく経ちましたが、出した当初は“これが売れないと死にたくなっちゃうなぁ”とも思ってたらしいけど(笑)、実際世に出せてどう?
「嬉しいし、レコーディングしてたときが自分の中でも“ウォォォ~! いいもんが出来てるぜ!!”っていう気持ちのピークやったんですよね。そのときに、“これが売れやなもう終わりや”、みたいな(笑)。でも、出来上がってから出るまでの時間も長かったので、その中でいろんな気持ちのクールダウンも含め…まぁこれが第一歩になればいいなって、変わっていった感じはしましたね」
――とは言え、『哀しい予感』(’14)(M-12)ぐらいからようやく自分の曲を好きになれたとも言ってたけど、意外と最近やったんやなと。結構長いことやってきたやん、音楽を。
「そうなんですよね。多分ミュージシャンのみんなにあると思うんですけど、自分の曲やのにあんまり好きじゃない曲とかがあるんですよね(笑)。その中で、初めて全部に納得がいった曲が『哀しい予感』やったんですよ。“こういうことが書きたい!”と思ったことが初めて書けた。今まではそう思ったところからスタートしても、逸れて逸れて違う形でまとまって、“まぁ思ってたのとは違うけどいいかな”っていう気に入り方だったんですけど」
――なぜそれが『哀しい予感』では出来たと思う? レーベルオーナーのGotch( ASIAN KUNG-FU GENERATION) さんがプロデュースしてくれたりはあるにせよ、それによって出来ても100%満足はしないと思うから。
「そうですよね。何なら『東京LIFE』(‘12)を作ったときも、“HINATABOCCO”で仲良くなった人たちに参加してもらったけど、うちは正直緊張してて。自分のやりたいこと、出したい音も正直分からなかったんですよね。だから、みんなに自由にプレイしてもらってキレイに収まったみたいなアルバムやったんですけど、今回は自分の曲にどういう色を付けるのか、みたいな気持ちが、やっと少しずつ出てくるようになった。ってかなり遅いんですけどね(笑)」
――要は、愛ちゃん自身にもその曲の細部までのこだわりとか明確なイメージが。
「もう全然なかったんですよ。でも、言える曲も増えてきたし、書けるようになった曲もある、みたいな。それが何でかは分かってないけど、まぁ自分が変わったのはあるかな、その時期前後に…フフフ(笑)」
――それは何で変わったの?
「1人の時間がめっちゃ多くなったんですよね(笑)」
――アハハハハ!(笑) なるほどね。逆に、それまでは1人きりの時間があまりなかったと。
「っていうか、音楽だけをやるようになって、やることがなくなったんですよね、マジで(笑)。うちは曲を書くのが仕事やと思って、一生懸命書いて、でも難しくて。そしたらもう、ネガティブなんでどんどん落ちていくんですよね。“うちみたいなやつがここで死んでも、見つかる頃にはこの夏の暑さで腐乱死体に…”みたいな(笑)。1人で自分と対話する時間が結構長くて、いろんなことを思い返すこともあって、“あのときあの人と接したとき、何であんな顔したんかな?”とか…めっちゃちょっとのことですよ? でも、それはうちの行動が関係してるかもしれない。自分の行動とか発言を、かなり見直すようになりましたね」
――逆に人と接してないからこそ、そうなったんや。働いてたりしたら、“何でこんなことせなアカンねん”と思っても、それには何らかの心の動きにつながるけど。
「そうそう。腹が立ったり、めっちゃ嬉しかったり、そのときに周りから受ける感情の起伏で、だいぶ曲に刺激をもらってたんで。1人やとほとんど何も起こらない。全部、窓の外に観える景色の歌になるんですよ。“はぁ~洗濯物が今日も揺れてるぜ”みたいな(笑)」
――よくそこから抜け出して今作が出来たというか、自分の軸が定まっていく方に転がったね。
「でも、今はまたそれが枯れてきて、バイトでもしようかなって思ってる(笑)」
――アハハハハ!(笑)
何か1つの夢は叶ったな、と思う
――でも、その1人の時間が音楽家としての成長につながったんやね。
「そうですね。だからか、『どっぴんしゃーらー』(M-8)みたいに完全に想像の世界の曲が出来たり」
――この発想はいったいどこから?”っていう曲やもんね。1人になり過ぎてもう…(笑)。
「そう! 妄想の世界に(笑)。わぁ~わぁ~って果てしない空想が」
――小っちゃいときに夢で見たあの風景、とかとはまた違うってことか。『どっぴんしゃーらー』とか『汽笛を鳴らせ』(M-9)でも思ったけど、おとぎ話というか絵本的というか。でも、これが後に『すっぽんぽんぽん』(‘16)につながると。結局、愛ちゃんの中にこういうテイストがあったんや~と思ったら、真相はただ“孤独”だったという(笑)。 妄想し過ぎて、人間じゃないもんが出てきた(笑)。
「アハハ!(笑) 今話してて、うちもつながった。“あ、孤独やったからや~”みたいな(笑)」
――ムカつく相手でも自分にその感情をくれるという意味では、生きるヒントをもらってるというか。=好きな人がどういう人なのかも分かってくるし。昔はジャックナイフやったもんね、愛ちゃん(笑)。
「もう全員敵!っていう(笑) 昔の自分をかなり恥ずかしく思うようになりました。はぁ~ごめんよぉ~じゃないけど。1人の時間が多過ぎたな、マジで。多過ぎる! 今も(笑)」
――ちなみに、『すっぽんぽんぽん』が『NHKみんなのうた』に選ばれた経緯って?
「『みんなのうた』になりたいなりたいってずーっと言いまくってて(笑)、最初に『どっぴんしゃーらー』とか『汽笛を鳴らせ』とかBrother&Sister(=実兄・岩崎慧とのユニット)の特典で付けた『My Only Brother』('15)とかをプレゼンしてもらったら、すっごい感触もよくて。ただ、“音源にもなってなくてライブでもやってない曲はない?”って聞かれて、“今から作ります!”って30分で作ったんですよ。めっちゃ早かった」
――そして、なぜ“すっぽん”なのか(笑)。
「元々すっぽんの曲を書きたかったんですよ。それもおかしいけど(笑)。川沿いでランニングをしてたら、すっぽんがいたんですよ。でも止まれなくて、“今のは絶対にすっぽんに違いない”と思いながらグルグル廻って、“あいつ1人で寂しいやろうなぁ”とか、また勝手に想像を膨らませて(笑)。いつかあいつの曲を書こうと思ってたら、その話が」
――それにしても、『みんなのうた』に流れるようになったって、改めてすごいね。
「何か1つの夢は叶ったな、と思う」
――妄想してた甲斐があったなぁ(笑)。
「フフフフ(笑)」
“『東京ラブストーリー』をイメージして作りました”
――このアルバムに収録されているのは『哀しい予感』以降の曲だけではないと思うけど、『東京LIFE』からこの4年で、今作にはどうやって向かっていったの?
「まず曲は結構あったんで、ライブで毎回やるナンバーも外に出してない曲も、“もったいないから置いとこう”はナシで、出し惜しみせずに自信満々のアルバムを作ろうぜって、うちが好きな曲ばっかりを選んでいったんですよね。ただ、弾き語りの状態なんで、うちが入れたい音を、歌で伝えるんですよ」
――口ベースとかそういう話?(笑)
「そうそう(笑)。でも、丸々弾き語りで渡して全然別のものになったのが『全然ロマンティックじゃない』(M-10)ですね。チャットモンチーのアッコさん(=福岡晃子・b)から遥かに予想を超えたベースラインが届いて」
――この発想はすごいよね。不穏なムードをベースライン一発で伝えて。ちなみに、この曲のモチーフはドラマの『東京ラブストーリー』(’91)って、お前何歳やねん!(笑)
「アハハハハ!(笑) “『東京ラブストーリー』をイメージして作りました”って伝えたら、“え? 分かった。私もそれで考えてみるわ!”って。それを一緒にプレイする人全員に伝えたんですよ。全員が同じヒントだけ。それで“せーの”でスタジオで合わせて、もうバッチリ! みたいな」
――そもそも何で今『東京ラブストーリー』なん? それが知りたい(笑)。
「友達に1年に1回『東京ラブストーリー』を全部見る人がいて(笑)、“見たことある? 見た方がいいよ!”って。で、いざ見たら“何これ!? めっちゃおもろいやん!”ってなって、これで1曲書けへんかなって」
――なるほどね。Aメロの裏のコーラスは何て言ってるん?
「最初は、もっと“カンチ アンチ”みたいなことを言いたかったんですけど、全然言えてないです。あれはもう…岡村ちゃん(=岡村靖幸)の“ヘポタイヤ”みたいなもんやと思ってほしい(笑)」
(※ヘポタイヤ=岡村靖幸の名曲『だいすき』(‘88)に出てくるフレーズ)
――アハハ!(笑) 岡村ちゃんに“ヘポタイヤ”ってどういう意味ですか?って聞いたらあかんやつやもんね(笑)。
「そうです!(笑) そういうやつです」
楽しかったし悔しかった
――あと、レコーディングメンバーは、この人に弾いてほしいという希望が全部叶ったと。なかなかないことです。
「楽しかったですね。楽しかったし悔しかった。何かもう自分が下手過ぎて、自分の曲やのにグルーヴを壊してるのは自分っていう(苦笑)。“あぁ~今うちが一番アカン! うちがおらん方がいいのに!”みたいな。それがすごい悔しくて、ブースで見えへんように泣くっていう(笑)」
――理想のプレイヤーを選んだからこそ、そこに見合う自分であるのかと。もっともっと成長しなければとも思わされる。でも、幸せな時間やね。そんな中でも、印象的な出来事はあった?
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「いっぱいあった! 『嘘』(M-4)を録ったときとかは、うちと小谷(美紗子)さんがせーので一緒に入るんですけど、“あ、もうこのテイクで決まるな”ってやりながら分かったんですよ。後から何回か録ってみたんですけど、やっぱりそのテイクがよくて。ベースの砂パン(=砂山淳一)さんも、“このテイクが始まったとき、鳥肌が立った”と言ってくれたり。それぐらいみんながゾクッとするような音が録れて、それが音源にもなってるんですけど」
――憧れのアーティストと曲を作る、しかも自分の名義のって、どんな気持ちなん?
「いやもう、めっちゃ嬉しい。っていうか、もっと怖い人やと思ってたんですよ。一方的にライブは観てたんですけど、たまたま観たイベントでも、小谷さんがひょいっとステージに出てきたときに、空気がピリッとする。でも、小谷さんはお構いなしに、“この曲を歌えるまでに、辛過ぎて何年もかかった…”って歌い出すんですけど、みんながピキーッ!ってなるような、すごい空気なんですよ。そのときに怖い人やって植え付けられて(笑)」
――ある種の“迫力”というかね。
「もうすごかったです。でも、お会いしたら全然そんなことはなく、知らないヤツのオファーも快く受けてくれて」
――小谷さんって女性のシンガーソングライターのフェイバリットで名前が挙がるね。こじれてる人とか、何か胸に闇を抱えてる人が、小谷さんの名前を出す傾向があるなぁ (笑) 。
「アハハ!(笑) だって、あれだけ失恋とか恋のグチャグチャしたところを、リアルに、辛辣に、書ける人っていなくないですか? 何かもう、張り裂けそうな歌声じゃないですか」
――そんな『嘘』はある種の失恋ソングということやけど、最初に聴いた印象はむしろ振るというか、振っても振られても失うものは失うけど、愛ちゃんから離れていくような。 なのに何で失恋ソングやねんとも、ちょっと思った。
「鋭い! ホンマにそうですね。でも、結局のところ一緒やなって思ったんですよ」
――自分からでも、相手からでも、失うという意味では。
「まぁせこいかもしれないですけどね。誰かがこの曲を聴いて“腹立つわ~”ってつぶやいてたのも見たんで(笑)。“その気持ち分かるでぇ~そら腹立つわ。君の気持ちは正解だ”と思ったけど。でも、どっちから言い出しても、失った質量みたいなものは一緒で。打撃は違うかもしれないけど、その喪失感みたいなものを、そのまんまポーンと歌に」
――自分から切り出しても、何であんなに喰らうんやろうね。
「ね。むしろそっちの方がデカいんちゃうかって思いました」
――そういう意味では、そういう観点の失恋ソングってもしかしたらあんまりないかもね。だってどうしたって振る方が悪者に映るから。ホンマ苦しいな~この曲は(笑)。でも、一緒にいた時間が残してくれたものというか、残るものを描いた曲やなと。
「だから、この曲は弾き語りでしか歌えないと思ってたんですけど、“バンドセットでやった方がいい”って一緒に作ったチームに言われて。“じゃあ誰?”ってなったときに“小谷さんだ~!”って。ただ、一緒に歌う部分に声を入れてもらったとき、“負ける”って思ったんですよね。自分の曲やのに負けると思って音量下げる、みたいな(笑)」
女の人の特有の弱さと強さみたいな、共通して持ってるものにやっと気付いて
――あと、今作では愛ちゃんの作家的な手腕もすごく感じて。女性シンガーソングライター=情念の歌は安易に想像がつくけど、『woman’s Rib』(M-2)のようにミドルテンポの洗練されたポップソングが書けたり、『最大級のラブソング』(M-3)の“いつもは離れた僕らを 繋いでくれる携帯も/今日は憎らしく思うよ 静かにしていてね”という描写も見事で。あと、すごいなと思ったのが、『哀しい予感』の最初と最後の配された1行、“哀しい予感が夜明けとともに/奇麗な色して僕に降りかかる”は、全く同じ1行なのに。
「うわぁ~! 嬉しい~!」
――1曲通して聴いた後、響き方が全然違う1行になる。こういうところは素晴らしいなと。
「嬉しいなぁ! “アルバムがこんな哀しいまま終わっていいの?”じゃないけど、“最後の曲が『哀しい予感』なのが意外やった”と結構言われるんですけど、『哀しい予感』は哀しい曲じゃないからっていう」
――それこそ、最初は哀しいと思って聴き始めたこの1行が、聴き終わる頃には全然違う景色を描く。でもこれって、まさにこのアルバムを聴き終わったときの感触に近い。この曲がそれをすごく端的に表してるなぁと。
「やったぁ!」
(一同笑)
――愛ちゃんの女性としての人生、シンガーソングライターとしての生き様も、こういう作家としての手腕でちゃんと機能してる感じがしました。
「ありがとうございます! 歌詞はホンマにあったことをサッと書くか、空想かの2パターンなのは今も変わらないんですけど、メロディも母音を重視して作るとか、そういうこともいろいろやるようになって。ただ、英語をちょくちょく使うようになってきてるんで、ちゃんと日本語に戻したいなって、今は思ってます。日本語の曲を聴くのがすごいイヤで、外国のヒットチャートみたいなものをラジオとかでずーっと聴いてた時期があったんですよ。それで、言葉の響きがおもしろくて小気味いいミドルテンポの曲があったらいいなと何となく思って、『woman’s Rib』は作りましたね。で、皮肉を歌うみたいな」
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――最初にパッと聴いたときは、女性についての皮肉じゃなくて、自分を差し置いてどんどん有名になりメジャーデビューしていくクソみたいなミュージシャンについて歌ってるんかと思った(笑)。
「アハハハハ!(爆笑) ダーク過ぎる!(笑) これは言葉から入りました。そこから連想ゲームみたいに考えて…ニュースで見た“年収何ぼ以上の人じゃないと”みたいな人を見て、“そんなヤツおるかぁ~!”みたいな」
――じゃあお前はどんだけのタマやねんゴルァ~!って(笑)。
「見合うヤツ探せ~!っていう(笑)。そういう女の人のあざとさというか。うちは全般的に女の人が苦手やと思ってたんですけど、最近はやっと、女の人は全員かわいいって思えるようになったんですよね。女である以上、全員かわいいんやって(笑)」
――ちょっと待って。その感覚、もはやオッサンやろ?(笑)
「アハハハハ!(笑) それぐらい、女の人の特有の弱さと強さみたいな、共通して持ってるものにやっと気付いて」
――この曲は、シンセにゲスの極み乙女。のちゃんMARI、ドラムにあらきゆうこ、ベースにチャットモンチーの福岡晃子と女子メンバーで固められていて。このアルバムは全体的に女性プレイヤーの参加率が高いね。
「あ~確かに。『東京LIFE』のときは全員男の人やったし。ひとえにうちが女性を受け入れられるようになったのが、かなり大きいと思う。『woman’s Rib』を録るのは女の人がいいなとは何となくずっと思ってて。『全然ロマンティックじゃない』もそうで、そっちはトランペットでくるりのファンファンさんが」
“今うちが思ってること、感じてることが、
ここにいる人全員に全部伝わってる!”って感じたことがあったんですよ
――このアルバムは『knock knock』(M-1)から幕を開けますけど、この曲は『東京LIFE』からの4年間をつないでくれる曲やなぁって、すごく思った。内容的にもオープニングはこの曲しかないなって。
「よかった~。曲順はホンマに悩んで。昔は自分が“え~?”って思うことは一切受け付けなかったんですけど(笑)、一緒に作ってきた人たちに“『knock knock』やと思う”って言われたら、“あ、ホンマやな”って思えたんですよね。気付いてなかった自分の先の答えをみんなが知ってたり、端から見ると丸見えだった、みたいなこともあるし」
――『knock knock』の、“あれもこれも欲しがって全部消えてしまった/僕は一体何をしたかったんだろうか/この部屋と同じ空っぽ/また一からやるしかないよ/腐りかけた情熱を持って歩き続ける”のくだりは、このアルバムが出るまでの日々を顕著に表しているように感じるし。
「うん。そういう時期の方が、やっぱり曲は生まれてましたね。負のパワーの方が曲を押し出してくれるというか。『涙のダンス』(M-5)も、結構そういう時期でした」
――『涙のダンス』、めっちゃいい曲やん。取材メモに“感動の名曲”って書いてるもん(笑)。やっぱり誰にもこういう風に泣きたいと思う夜があるよなぁって。
「自分の中でグルグルしてしんどいときって絶対にあるじゃないですか。それを他人に伝えるまでもないぐらいの感じとか、伝える術も持ってないとか、上手く伝わらないとか、自分でも分からへんみたいなときって、結局1人でグルグル考えて、自分の中で光=活路が見えるまで、考えて考えて泣くしかない。で、よいしょって立ち上がる。そういうグルグルは絶対に誰にでもあって。そういうのは多かったなぁ…まぁ今も多いけど(笑)」
――この曲はすごく響いたなぁ。でもこれって、そのグルグルから脱したいがために自分に書いた曲が人を勇気付けるという、まさに音楽の力やなぁと。
「めちゃめちゃ実感してますよ。自分のために書いた曲なのに、本当にみんなが自分を投影して感じてくれるんで。そういう自問自答みたいな曲もそうやし、ラブソングもそう、自分の過去のことでもあっても、みんなが自分の子供の頃と重ねてくれるから。それが嬉しいし、あのときこの曲を書いといてホンマによかったなって思いますよね」
――そして、愛ちゃんは“音楽を辞めないと決めました”と。そう思ったきっかけって何かある?
「小谷さんみたいなギラッとした鋭さとか、ふわっとしたやわらかさとか、全ての感情が歌声に乗る人がシンガーソングライターだと思ってて。その自信があんまり持てなくて、ホンマにここ最近ですね、それがちょっとだけ出来るようになってきた気がする。ライブで、“今うちが思ってること、感じてることが、ここにいる人全員に全部伝わってる!”って感じたことがあったんですよ。そのときに“楽しい。音楽辞めへん”って思った。もうどれだけ細くてもいいから長くやったんねん!って(笑)」
――愛ちゃんはこの4年間で、いっぱしのシンガーソングライターになったんですね。足掛け何年や。
「18歳ぐらいからやから…長! まぁしょっちゅうグルグルはするけど、うちみたいな性格は、“自信満々の悩みなしです!”っていうときなんかないと思うから(笑)」
――そして、タイトルはもはやセルフタイトルで、『It’s Me』とここで言えたという。
「ホンマに自分の名刺が出来たと思いました。この先もずっと恥ずかしくないものが出来たのは感じましたね」
今は“変わりたい”って思ってる
――愛ちゃんの人間的な成長がちゃんと音楽的な進化となって盤になってるけど、その自分の変化によって、ライブは変わりました?
「変わりました。身勝手なライブをしないよう、かなり心がけるようになりましたね。そういう当たり前のことが全然出来てなかったから。お客さんが今どういう顔をして、どういう気持ちで聴いてくれてるのかを、だいぶ感じられるようになった。“緊張してるなぁ。それはうちが緊張してるからや”とか、すっごい集中して聴いてくれてるのも感じるし。イベントライブ後のセッションのMCでそんなことを言ったら、お客さんがTwitterか何かで“(愛ちゃんが)すごく感じてくれてるんやなって思った”ってつぶやいてくれてて。もちろんうちが与える方なんですけど、こっちもその空気を感じられるようにならないと、ライブはちゃんと出来ないなと思うようになりました」
――ライブからもらうものも、すごく多いね。
「めっちゃ多い。っていうかライブが一番おもしろいですね。ただ、ちょっと恥ずかしいことでもあるんですけど、“いいライブが出来た”って思うことがだいぶ減りました。かなりハードルが上がりました」
――愛ちゃんはこれからどういう音楽人生を歩みたいですか?
「今は“変わりたい”って思ってる。そうは思ってもやれることは割と限られてて、自分では思い切って振ったつもりでも、あんまり振れてなかったりするんで、もっといろんなものを吸収して、音楽的に何をやってもおかしくないと思われるような人になりたい。あと、うちは“生きてて何が楽しい?”って聞かれたら、“歌ってるとき”って答える。あとは食べてるとき(笑)」
(一同笑)
――音楽=歌うことっていうのは、らしい答えかもしれないね。
「うん。今まで何も続かなかったんで、小っちゃい頃の習い事も何1つ(笑)。歌うことは私の人生で唯一続いてることですね。やってきたことは歌しかないし、それ以外のことをやるとなったらただのクソ人間になる(笑)」
――アハハ!(笑) 何だか今日は愛ちゃんがもう1つ分かった気がしました。本日はありがとうございました!
「ありがとうございました!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2016年6月22日更新)
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