「10代の頃に自分は、音楽によって人生も変えられた だから、それを今もやってる」 ひとりぼっちの君に届くまでART-SCHOOLが鳴らし続ける切なき 『Hello darkness, my dear friend』インタビュー&動画コメント
音楽シーンの構造が、大きな音を立て変わっていく。アーティストがレーベルやマネジメントから独立し、その作品やライブはもちろん、マーチャンタイズまで自ら舵を取り発信していくそんな時代に、プロフェッショナルなクリエイティブチームを設立するという明確な意思の元、活動休止期間に突入。約1年の潜伏を経て、ART-SCHOOLが “Warszawa-Label”という看板と、『Hello darkness, my dear friend』という美しき傑作を手に完全復活! 音楽、ライブ制作、デザイン、写真、アパレルなど、多方面で信頼とリスペクトを貫く仲間たちと、夢に向かうリスクと純度という心地いい荷物を背負って、16年目にして新たな道を歩み始めた。現在はツアー真っ只中のバンドの首謀者・木下理樹(vo&g)が、独立への過程と音楽家としての使命を語ったインタビューでは、幾度となく“伝える”ことへの執着を口にしている。音楽に救われたあの日の自分に、ひとりぼっちの君に、この音楽が届きますようにと――。
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成功しても失敗してもそれが跳ね返ってくるのは自分
――今回は『Hello darkness, my dear friend』についての発言を各メディアで見る機会が多かったですが、これは意図的だったと。
「そうですね。この先の流れを考えたら…今回のアルバムが人の目に触れないと、ちょっと厳しいと判断して。ヌルッと始まってしまっても、巻き返しはほぼ難しいから、その後の動きがどんどん無駄になってしまう。露出を多くすることがどうなのかというのはあると思うんですよ。敢えて取材を受けない人もいますしね。ただ、それだと“え、もうART-SCHOOLの新譜出てるの?”っていう話にもなりかねないなと思ったんで(笑)。自分たちにはバックに大きな組織がいるわけでもなく、かと言ってフレッシュな新人でもない。だからこそ、今のタイミングではやっぱり表に出た方がいいと。伝えられることは全部伝えなければって」
――これは売れ行きの云々の話じゃなく、スタートアップの時点で自分たちの意思を明確に話していかないと、ということですよね。そう考えたら、今回のリリースに懸ける想いはやっぱり特別ですね。決死の想いがあるというか。
「本当はそれをね、飄々と見せるのがカッコいいなとは思いますけど…“僕自身の考えはこうだよ”って、ここで改めて提示しておきたかったのはあります。それは僕だけの力では絶対に無理だったし、その機会がある/なしなら、もちろんある方を選ぶし、本当に必要だった。ダメなお前を見たかったっていう人もいるかもしれないけど(笑)」
――自分たちでクリエイティブチームを作って、“今回はメディアに多く露出したいんだけど、どうしたらいい?”とか、そういうことも含めて音楽の出口まで設計していくのは、今までとは全然違いますよね。
「全然違う。あと、何が違うかと言ったら、成功しても失敗してもそれが跳ね返ってくるのは自分だから。そういう意味では、単純に責任感が生まれましたね。ツアーから借金まみれで帰ってきたくない!みたいな(笑)。だったら、興味を持ってくれてる、話を聞いてくれるメディアがあるなら、復活後第一弾というのもあるし、ちゃんと発言していかなきゃいけないなって、強く思ったな」
――そうやってチームを作ってやっていく中で、この1年で何が変わったと思います?
「変わらない部分、変われない部分はあって。でも…それがどういうメッセージにせよ、やっぱり伝えていかなきゃなと思いましたね。要は僕らが最終的にやりたいのは、“生き方の提示”なんです。価値観を押し付けずに、バンドをやってる子たちに“こういうやり方もあるよ”って伝えたかった。だからこそ、アパレルも含めた“カルチャー”という形なんです。でも、Warszawa-Labelは大企業じゃないんで僕自身が出て行くしかない状況もありましたし、どうせ出るのであれば、そういう風に多角的に物事を考えていることを、ちゃんと言わなきゃダメだなと思うんですよね」
――ART-SCHOOLというか、木下理樹という存在自体が、音楽だけで全てを伝える人間のような気がするのに、それが活動休止までしてこういうクリエイティブチームをよく立ち上げられたなと、最初は思いました。そういう理想を持ってるけど、実行するには一番遠い人のような気もしたんです。そんなに器用なイメージがなかった。
「それにはやっぱり、いろんな人の手助けがあったから。今でも器用にできてるとは思ってないんですよ。器用な人が“手伝ってあげるよ”って思ってくれてるから、すごく奇妙な成り立ち方でこのチームはあると思うんですよね」
――とは言え、ちゃんと自分の人選でアプローチもして。
「そうですね。例えば、それがショップの仕事なら、金銭関係もちゃんとしてるし。その辺をきちっとやらないとやっぱり信頼は生まれないんで、そこをまずクリアにして。あとは、人に恵まれましたよね。“いいよ、もうやるよ!”ってみんながやってくれてる(笑)。それはメンバーもそうですし。でもね、“最後は僕が責任を持つから”っていろんな人に伝えてるんで。一概に“この1年、楽しかったですよ”とは言えないですけど…こういう動きをしなきゃ多分、僕らはこのアルバムを作れなかったと思うなぁ」
自分で自分のポンコツ具合に驚きましたね(笑)
――結果、出来上がった作品に関しては、本当に素晴らしいアルバムだなぁと思いました。ART-SCHOOLのフォロワーはもちろん、何となく知ってる人、初見の人にもちゃんと入口があって、自分たちの思うことをやれてるアルバムは、なかなかないんじゃないかなと。
「いやぁ~もうホントに嬉しいですね。前作の『YOU』(‘14)で集大成を作った感覚がありましたから、どうしたってそれとは違う視点で考えていかないと、バンドとしての先はない。だから、あらかじめアルバムの方向性を作り込んでメンバーには提示しましたよね」
――ART-SCHOOLの“静”と“動”で言うところの“静”を、このメンバーで見せたらどうなるのかと。FLAKE RECORDSのインストアライブでも話してましたけど、ほぼほぼ自分でプログラミングして土台を作ったということで、1人で構築する時間が長かったんですね。
「スタジオでメンバーと合わせてるわけではなくて、家でずーっと1人で打ち込んでるから、終わりがないんですよね。ちょっと半狂乱状態になってたかも(笑)。去年の夏ぐらいに何となく最終型のフォルムが見えてきて、それを具現化していったのが9~10月ぐらいで。その段階でメンバーに渡しました」
――1人きりの制作期間も長いし、その間にバンドでライブをすることもなかったら、発散の場というか、スイッチを切り替えることがない。弾き語りとかDJをやっても、満たされないことに気付く、みたいな。
「久しぶりにスタジオでメンバーと合わせたらもう、全然違う。“めちゃめちゃ上手いなぁ~何だこりゃ”って(笑)。今までは自然についていけてたんですよ。月に1~2回はライブをしてたし、リハーサルも週に1回は入ってたんで。これはリハビリが必要だとすごく思いました…ちょっと自分で自分のポンコツ具合に驚きましたね(笑)。“1、2、3、4!”がもう入れない。“速い速い! 何これ!?”みたいな(笑)。改めてすごいメンバーとやってるんだなって感じましたね。じゃあもう自分が返せるのは世界観や詞、ミュージックセンス、ソングライティングだから、より曲をよくしなければと思って見直したのはありましたね」
――あと、メンバーのトディ(=戸高賢史・g)も、この間に如実にパワーアップしていたと。
「そうですそうです! MONOEYESでツアーむちゃくちゃ廻ってたんで、もっと大きな景色を細美(武士)(ELLEGARDEN、The HIATUS)くんが観せてくれて、大きくなって帰ってきてるから、うん」
最終的にみんなで笑えればいいな
――今作の曲作りにあたってよく聴いていたのがクラシックとビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』(‘66)だったと。『FUJI ROCK FESTIVAL ‘13』で観たキュアーだってそうですけど、今でもそうやって訴えかけるものがある、自分を救ってくれた音楽の光の長さを感じますね。
「単純にそれを観たり聴いたりして“カッコいい!”っていうのもあるんですけど、将来の日本を背負っていく子供たちに対して、それを伝えていかなきゃいけないなと思ったんですよね。そうじゃないともうどうしようもない。自分のバンドのことだけを考えるなら、ART-SCHOOLはもうとっくに辞めてる」
――そういったある種の危機感みたいなものが、音楽を鳴らし続けなければと思わせている。自分が音楽に救われた瞬間を明確に覚えてるからこそ。
「明確に覚えてますね。僕は当時、大学に行こうと思って行って勉強してたんだけど、ヘヴンリーっていうバンドを聴いたときに、号泣してしまって。図書館で1人で(笑)。めちゃめちゃ下手なんですよ。でも、“これは下手だ、誰にでもできるよ、だから俺にもできるんだ”って思えた。例えば、マニックス(=マニック・ストリート・プリーチャーズ)とかナイン・インチ・ネイルズとか、ブラーもちろん好きだったし、ニルヴァーナだって“とりあえずギターを持てばいいんだよ”みたいなことを言ってたけど、実際カート(・コバーン)はギターがめちゃめちゃ上手いし、あんな声は出せない。だから、俺をプロに導いてくれたのはヘヴンリーとか、いわゆるUSインディーに触れたときで」
――あのとき図書館で号泣した少年が、ここまで音楽をやり続けて、チームを作って。
「実際に、それで通ってた予備校を辞めましたからね。両親に“お前辞めて何すんの?”言われて、“ミュージシャンになろうと思ってる”って。そこから僕はおばあちゃん家に住むようになったんですけど(笑)」
――アハハハハ!(笑) ちゃんとこじれてるやん(笑)。
「ちゃんとこじれてます(笑)。はぁ~!?みたいな」
――『Supernova』(M-10)の“心配ないよ 僕と君は/運命のなか 此処を逃げ出すんだ”の2行とかは、そういう鬱屈とした気持ちで自分の居場所がなくてっていう子が、もしこのアルバムを何かの拍子で手に取ってこう言われたら、すごく勇気付けられるだろうなと。
「やっぱり…そういうためだけに音楽を、って言っちゃうとちょっと強い言い方になってしまうんですけど、本来ロックっていうものは、悩み多き少年少女が、10代の人が聴く音楽だと僕は思ってるから。10代の頃に自分は、音楽によって自分の人生も変えられたんですよ。だから、それを今もやってるだけですよね」
――自分はどんどん年齢を重ねていって、良くも悪くもいろんなことを理解した上で、そこ目がけて音楽を投げ続けられる純度はすごいというか、執念というか。
「それはもう普通にネットニュースでも、あるいはライブの現場に行ったときでも、今の若い子たちから、何だか異常な虚無感を感じるんですよ。そういう風に悩んでる人たちが、通勤でも通学でもヘッドフォンで聴いたその3分間で、景色が変わってくれればいいなって。それだけです。もしかしたらそれは、僕のエゴかもしれないですけど」
――そこを諦めない不屈の精神は頼もしいなと思いますけどね。それぐらい音楽からもらったものがあるんだなと。
「ホントですか? やっぱり音楽を含めたカルチャーというものが、確実に僕の生き方や考え方を変えてくれたんで」
――そう考えると、チームを作ったのは必然というか、時が来たという感じがしますね。
「そうですねぇ。だから、僕も早くストーン・ローゼズみたいなバンドを発見しなきゃいけない。おっさんが作るカルチャーには全く興味がないから(笑)。それは“仕掛けてる”構図が見えてしまうから。そうじゃなくて純粋に、“いいバンドだなぁ”って思うものが形になっていけばいいなと。それが一番美しい形かなと思いますね」
――Warszawa-Labelとしてはいずれそういう出会いがあればいいし、ART-SCHOOLという自分の人生に関しては、音楽から感じ取った使命感を全うしていけばいい。
「ただ、責任は当然のように伴ってくるから…今アパレルラインを始めてるんで、大人買いして欲しいですね(笑)」
――アハハハハ!(笑) そこ!?
「子供からはお金を取ろうと思えないんで、大人は大人買いしてくれと(笑)。でも、気を付けなきゃいけないのは、レーベルをやってる友達がいるから分かるんですけど、どうしても自己完結になっていきがちなので。そうじゃなくて、もっと広い世界を観たいんです。最終的にみんなで笑えればいいな。もう借金でさえも笑えれば。“こんなに借金出ちゃったよ! 笑っちゃうよ〜”ってね(笑)」
いいところだけを見つめようとしても
いいところだけを持ってる人間なんていないから
――ツアーも始まっていますが、ライブに関してはどうですか?
「ダイレクトにお客さんの反響が聴こえてくるのはやっぱり現場だけだと思ってるんで、それは楽しみでしかないですよね。だからこそ、自分たちはそれに応えるべくして応えたいなと思ってます」
――噂に聞くダメ人間ぶりと、今みたいなプロ意識が共存してるのがおもしろいですね(笑)。
「人間ってそういうものじゃないですか?(笑) 例えば、ジョン・レノンも家ではオノ・ヨーコをボコボコにする、みたいな(笑)。まずそこが平和じゃないじゃん、って思いますけど(笑)。でも、ジョン・レノンだったら“それが人間なんだよ”って言いそうな気がする」
――人はそういうアンバランスさというか、相反するものを抱えてる。
「うん。それをちゃんと抱えて、それを許すというか。甘えではなく、自分の中のアンバランスな部分をある程度許容してあげないと。人間はそういう無意識の残酷さを孕んでるものだから。いい部分もダメな部分も、ちゃんと受け止めてあげなきゃいけない。いいところだけを見つめようとしても、いいところだけを持ってる人間なんていないから。その部分も愛でてあげないとね」
――うんうん。アートにとっても、改めて自分たちの立ち位置を再認識するタームになりましたね。
「そうですね。僕もそれはすごく思いました」
――それを完遂するツアーを終えて、レーベルオーナーとして考えることもまたあるかもしれないし、もしくはもっと違うものを、会場のみんなからもらうかもしれないし。
「うん。だから是非ね、本当にライブに来てほしいですね」
(2016年6月30日更新)
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