ホーム > インタビュー&レポート > デビューから40年超、第一線を走り続ける石川さゆり 新曲『女人荒野』や奥田民生、椎名林檎らとのコラボ 企画『X-Cross-』シリーズについてインタビュー!
■究極の別れを描いた新曲
--新曲『女人荒野』は非常にドラマチックな1曲となっていますが、本作のコンセプト作りはどのようにして行われたのでしょうか?
前作の『あぁ...あんた川』は、皆さんにカラオケで楽しんでいただけるようにという思いで作られ、実際、昨年はたくさんの方に歌っていただけてすごく嬉しかったんですね。で、その次に取り組む作品として今回は、スケール感があって、じっくり聴いていただける、いろいろな余韻が残るようなものにしたいと思い、作詞を喜多條 忠さん、作曲を杉本眞人さんにお願いしました。
--一聴して、まず語りかけるような歌い出しで、心をグッとつかまれるような感覚があります。
いきなり「だって」という言葉で始まるのは私にとってもすごく新鮮でした。この部分にはいったい、どんなメロディーが付くのだろうと思っていたのですが、杉本さんからは、「言葉がストレートに伝わるように、好きに歌ってください」と言われまして。レコーディングでは、歌詞とメロディーの持つ強烈なパワーが自然と声を出させてくれて、全然、苦労はありませんでした。ちょっとバラードっぽいところから始まって徐々に変化していく展開も歌っていて楽しかったですね。
--歌詞には主人公の女性について詳しく触れるようなフレーズは出てきませんが、さゆりさんの歌を通して、彼女のバックグラウンドが自然と想像されます。
大事なのは、細かく設定を描くよりも、聴いてくださる皆さんに「そういうこともあるよね」「わかるわ~」と共感していただくことかと思います。大人であれば、きっと一つや二つ、悲しい恋の終わり、別れなどは経験しているでしょうし、そういった共感を通して『女人荒野』が皆さんの思い出に加われば申し分ないですね。ただ、この曲で歌われているのは「私とは関わりのない人になっちゃった」と言うぐらい究極の別れで、喜多條さん、こんなすごいフレーズをよくぞ書いてくださったなと思います。そして、そんな深い悲しみにも溶けてしまわず、しっかり荒野に立っている主人公からは、また新しい一歩を踏み出そうという気概が感じられて、すごくいいな、歌いたい!と感じました。
--坂本昌之さんによる、アーバンな雰囲気から情熱的に展開するアレンジも、この曲の持つ魅力を増幅させているかと。
最初の一音からして「何が始まるの!?」という雰囲気を漂わせていますよね。演奏もごくごくシンプルで、極限まで削ぎ落とした音の中での歌い出しも心地よいです。坂本さんとは一昨年の末に日本レコード大賞の授賞式で初めてお会いしました。とても素敵な音楽を作られる方なのでいつかご一緒したいと思い、今回、願いが叶って良かったです。アレンジ打ち合わせでも坂本さんならではの斬新なアイデアを持ってきてくださって、すごく刺激的でしたね。
--カップリング曲『ふられ酒』は、対照的にとても楽しいデュエットソングになりましたね。
楽しいですよね~! これはぜひ、カラオケで皆さんに歌っていただきたいです。当初は一人で歌う用に作られていたんですけど、途中から「2人で歌った方が、この曲の素敵さが伝わるのでは?」と思い、レコーディングスタジオで突然、私から喜多條さんに「デュエットにしたいんですけど……」とお願いしました。で、誰が一緒に歌うの?という話になった時に、「そんなの杉本さんに決まってるじゃないですか!」と言ったら驚かれて。「え~、僕、声出ないよ~」なんておっしゃってたんですけど、大丈夫、大丈夫!って言いながらスタジオに入って、そのまま勢いで仕上げました(笑)。
--さゆりさんと杉本さんの組み合わせでは『湯の花KOUTA』や『酔って候』など、楽しい楽曲が多く、この曲でもその雰囲気を感じます。
私がディレクターやスタッフと新曲の相談をして杉本さんに作曲をお願いするのは、良い意味で変化球というか、それまでとはちょっと違ったテイストを求めている時なんです。『ふたり酒』は、まさにそのラインですが、逆に『女人荒野』は私のストライクゾーンともいえる場所で杉本さんや喜多條さん、坂本さんに携わっていただけたのが新鮮で。そういえばさっき杉本さんから電話をいただいて、「また喜多條さんとご飯食べながら新曲のアイデアを練りましょう」なんて話していたところなんですよ(笑)。
--改めまして『女人荒野』にかける意気込みをお願いします。
今まで演歌を愛してこられた方々には、きっと新鮮に聴いていただける1曲に仕上がっていると思います。日本の演歌・歌謡曲の中で培われてきた、心揺さぶる言葉の響きやリズム感もありつつ、インテンポでは取りきれない独特の間合いもあって、そういったもののおもしろさは、これからも追求していきたいと思います。あと、「だって」で始まる歌い出しに、皆さんどう反応してくださるかが楽しみです(笑)。
■重なりあうことで広がる歌世界
--ここからは奥田民生さんや椎名林檎さんなどロック、ポップス系アーティストとのコラボレーションについてお聞きしたいと思います。まず、こういった取り組みを始めようと思われたきっかけは?
今年でデビュー44年、本当に長く歌わせていただき、それはとても幸せに感じているのですが、その中で近年、阿久 悠先生、三木たかし先生、吉岡 治先生と、ずっとお世話になってきた先生方との永遠の別れがあったんですね。これまではその先生方に支えていただいたけど、皆さんこの世を去られ、今後、私はどうやって自分の曲を作っていけばよいのだろうと思い、すごく落ち込みました。でも考えた末、もう私は引っ張ってもらう時期は過ぎた、これからは一緒に作品づくりの相棒は自分で探さなければいけないんだと気づいて。それからは、ご一緒したいと思った方々にはジャンル問わず私の方からアプローチして曲を作っていこうと決めたんです。
--その中で2010年にはロック系のコラボレーション第1弾である奥田さんとの『Baby Baby』が発表され話題となりました。奥田さんを指名されたのは、どのような経緯で?
奥田さんとの出会いは、2009年にくるりが主催する京都音楽博覧会(音博)への出演依頼をいただいたことがきっかけです。最初は、私が出ても場違いだと思いますよとお話していたのですが、リーダーの岸田(繁)さんが「そんなこと絶対にありません! 皆さん楽しんでくれると思うし、ぜひ出ていただきたいです!」と熱心に誘ってくださって。それで、「そんなに楽しいイベントなら行ってみようかしら……」ということで出させていただき、その時に奥田さんも出演されていたんです。音博はステージも楽しかったけど、終わってからの打ち上げでは、皆さんそれぞれ楽器を持ち寄ってセッション大会になり、ものすごく盛り上がったんです。そこでいろいろな方とお話させていただき、奥田さんとも「いつか一緒に音楽を作れたらいいですね」と話したことが後に『Baby Baby』につながります。
--あの音博が始まりだったんですね。ご自身で作品のプロデュースを考え始めた頃に、そういった出会いがあったとは運命的なものを感じます。
あのステージに立っていなければ、皆さんとの出会いも……なかったとは言わないけど、もっと後のことになっていたでしょうね。これもきっと何かのお導きというか、そういうことなんだろうなって。
--『Baby Baby』以降、アルバム『X-Cross-』シリーズやシングル曲でもコラボレーションの機会が増えていきましたが、こういった活動を行うことでご自身の中で変化はありましたか?
もともと『ウイスキーが、お好きでしょ』みたいな曲も歌っていたので、そこまで大きく変わったことはないですね。ただ、演歌と言われている曲では歌う上で言葉の深さや重みが表現の割合を大きく占める一方、ポップス系では、その割合がリズムやメロディーでも同等になってきます。それだけに自分が一つの楽器になっているようなおもしろさは感じますね。今の私の音楽制作では、私がジャンルや作家さんに寄っていくのではなくて、皆さんそれぞれの世界観がしっかりあるほど、重なりあった時におもしろいものができるなと感じています。アルバム『X-Cross-』シリーズもそうやって作ってきて、今、第3弾を制作中なんですけど、来年の45周年に向けてまとめていきたいなと思っています。
--さゆりさんのこういった活動があることで、ロック、ポップス系のリスナーと演歌の距離が近くなったように思います。
ロックもクラシックも演歌も、枠にはまらないで楽しめたほうがいいですよ。先日も交響楽団の皆さんと共演させていただいたんですけど、音楽というのは本当にいろいろなフィールドがあるんだなと思って。今、すごく楽しんでいるんですよね。「○○だからダメ!」なんて頭固くしていたら本当にもったいないです(笑)。ただ、ジャンルの壁を越えたとしても線引きをあいまいにするのではなく、近作での椎名林檎さんや大野雄二さんとのコラボレーションでもそうだったように、ご一緒することで何か新しいジャンルを生み出そうという気持ちで取り組んでいます。
■お客さまとの共有で生まれるステージの空気感
--4月18日のロームシアター京都での公演から新たにコンサートツアーがスタートしますが、今回はセット内容も一新されて?
そうですね。構成は決まっていますが、音のリハーサルはこれからなので、(取材は3月初旬)さらにブラッシュアップされていくと思います。『女人荒野』は、やはり生き物感の強い曲なので、歌うごとに表情が変わると思うし、たとえば会場でしか聴けないロングバージョンでお届けするのもありかな。そういえばルパン(大野雄二氏との共演作「ちゃんと言わなきゃ愛さない」)も、まだ生でお届けしていないから歌ってみたいですね。ステージでは、お客さまと空気を共有することで、同じ曲でも違った作り方ができるのが楽しみです。あと、もちろん目でも楽しんでいただけるようにたくさん工夫を盛り込みますよ。
--大阪・フェスティバルホールでの公演も恒例になってきましたね。
毎年、春にやらせていただいてるんですけど、この時期だといろいろなお客さまが来てくださるんですよ。昔から応援してくださっている方をはじめ、ロック・ポップス系の方、それに母の日が近いので、お母さまへのプレゼントということで親子一緒に来てくださるのが嬉しいですね。
--この機会にぜひ、若い世代にもさゆりさんの歌声に触れてもらいたいですよね。
ね~。ぜひぜひ、感想を聞かせてください!最近のステージでは、皆さんと過ごす時間の中で、いったいなにが起きるでしょう?というスリルも楽しみながら立っているので、その部分も含めてご覧いただきたいですね。
構成・取材・文/伊東孝晃(クエストルーム)
(2016年4月14日更新)
『女人荒野』
発売中 ¥1204(税抜)
テイチク
CD:TECA-13642 / カセット:TESA-13642
<収録曲>
01.女人荒野
02.ふられ酒 / デュエット:すぎもとまさと
03.女人荒野(オリジナル・カラオケ)
04.ふられ酒(オリジナル・カラオケ)
発売中
Pコード:281-210
▼4月18日(月) 14:00/18:00
ロームシアター京都 メインホール
S席-7500円
A席-6500円
※未就学児童は入場不可。
京都中央企画
[TEL]075-251-1788
発売中
Pコード:279-642
▼4月23日(土) 13:00/17:00
フェスティバルホール
S席-7000円
A席-5500円
BOX席-12000円
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション
[TEL]0570-200-888
石川さゆり
いしかわさゆり●1958年1月30日生まれ、熊本県出身。1973年3月25日にシングル『かくれんぼ』でデビュー。その4年後、『津軽海峡・冬景色』が大ヒットし、第19回日本レコード大賞歌唱賞などを受賞。同年、『NHK紅白歌合戦』初出場。『天城越え』『風の盆恋歌』など代表曲多数、受賞数も多く日本を代表する女性演歌歌手として活躍する。2012年からスタートした『X-Cross-』シリーズも好評。椎名林檎とのコラボでも話題となった『暗夜の心中立て』を含む全9曲を収録した『X -Cross II-』は第56回日本レコード大賞 優秀アルバム賞を受賞。ボーカリストとしての真骨頂を惜しげもなく披露している。
ブリリアントな輝き
石川さゆりと聞いて、何を思われるだろうか。暮れの風物詩である『NHK紅白歌合戦』でしかご覧頂けていない方には、その番組でのイメージしか持たれていないのではないでしょうか。
黒子(スタッフ)として関わる前、石川のステージを見る機会を頂いた。
本番前、大スターに会う緊張を持ちながらご挨拶に伺ったのだが、私の目の前に現れたのは、決して大柄ではない女性が、笑顔を絶やさずに「行ってきます!」と、優しく一言残し大きく広がる舞台に向う姿だった。
2時間ちょっとの公演時間、舞台上で強烈なオーラを放ち、1曲ごとに異なる主人公となった石川の姿に、圧倒されたのを鮮明に覚えている。
数々のヒット曲とともに、もちろん初めて聴いた楽曲もあったが、喜怒哀楽、楽曲の世界観など、そのどれもが見事に表現され、見る者は一気に歌の世界に引き込まれるのだ。
音楽には、一般的に「演歌」と呼ばれるもの、「ポップス」と呼ばれるもの、または土地に伝わる「民謡」他、ジャンルという名の枠はいくらでもあるけれど、私が目の当たりにしたものは、そのどれもが輝き、枠を考えることすら無用に思えるほど、「石川さゆり」という極上のエンタテインメントだった。終演後、楽屋に再び伺うと一言、「これが私たちの仕事」と。その1週間後から黒子の一員に加えて頂いた。
石川のステージには、高校生〜かなり以前より映画館で大人料金を払われて
いるだろう年代の皆さんが集って下さる。年代や男女の境なく、笑顔で帰られる皆さんを見ていると、黒子となった喜びを実感する。
ご存知ない方はCDでもステージでも、どうか試してみてほしい。ブリリアントに輝く石川を見つけられるはずですから。食わず嫌いは勿体ないですよ。
黒子