「皆さんを戦友だと思っています。どうしたら楽しんでもらえるか
1分1秒を惜しんで考えていきたいし、それが楽しい」
クラムボンの新たなる試みと決意表明、『モメント e.p.』を携えた
会場限定販売ツアー、梅田クラブクアトロ公演をレポート!
結成20周年を記念して、昨年11月初の日本武道館公演を開催したクラムボン。大阪での単独公演は昨年6月の大阪オリックス劇場、ライブとしては昨年9月の野外イベント『OTODAMA’15~音泉魂~』以来。会場限定リリースのミニアルバム『モメント e.p.』を携え巡る、その名も『clammbon 2016 mini album 会場限定販売ツアー』、ライブハウスキャパでクラムボンを観られるということもあり、観客の緊張と興奮が開演前から伝わってきた、梅田クラブクアトロ公演をレポート!
場内満員の中、ミト(b&g&key)の「心を込めて演奏します」という言葉を皮切りに、『GOOD TIME MUSIC』で幕を開けたこの日のライブ。始まった瞬間に観客からは自然と手拍子が起き、原田郁子(vo&key)とミトが滑らかに歌う。’99年のデビューアルバムにも収録されている代表曲『パンと蜜をめしあがれ』の伸びやかさを体感した後は、伊藤大助(ds)が「久しぶりの曲を!」と紹介した『Adolescence』へ。ミトのアコースティックギターの優しい音色も心地よい。3曲終わったところでMCへ。そして、このMCによって今回の『clammbon 2016 mini album 会場限定販売ツアー』の意味が、意図が、全て分かることになる。
原田の「いきさつを長く喋るから!」という宣言の通り、「ぶっちゃけていいですか?」とミトを中心に語っていく。つまりは、今年1月26日にオフィシャルHPにもアップされていたように、メジャーレーベルを離れ自主的活動を行なうようになった、その理由である。自分たちを“特殊”だと捉え、事務所と山梨の小淵沢にスタジオを所有していることを改めて話す。そして、メジャーの利点であるテレビや映画という大きなマーケットに参入できることと、大規模な全国プロモーションについても丁寧に説明した上で、もはや自分たち独自のつながりと規模で、それが出来てしまう実情を明かした。そこで全てを自主的活動で行なうことを決意し、昨年11月の日本武道館公演限定シングル『Slight Slight』をメジャーではなく自らのレーベルでリリースしたことについても触れていく。
個人的には、ここからが3人の覚悟をより感じたトピックになるのだが、例えメジャーレーベルからリリースするときに比べ何分の1という少ないセールスであっても、どれだけ自分たちへの利益が多いかということまで語り出したのだ。原田は「収支も全部話しちゃう!」と笑っていたが、ミトは「それによって機材を新調できて、皆さんにいい音楽を届けるということで恩返しができる」と、ステージ上にある機材を1つ1つ指差しながら、「全て、その利益で買いました」と続ける。とは言え彼らは、過去に所属したメジャーレーベルへの感謝は全く忘れてはいないし、むしろ暴露話をしたいわけでなく、自分たちで実現でき、その上でいい音楽を届けるために合理的なら、それを実行した方がいいと思っただけのことなのだ。
「例えるなら農家が畑の前で野菜を直接売っている、あれなんだよね! そこからいろいろなところへ配送されてスーパーに着く頃には、どうしても時間がかかるし高くなってしまう。それなら、お金と時間を短縮する直売ツアーを行なおうと! 出来るだけ各会場でサイン会をして、直接新しいCDを手渡したいから」という原田の説明は見事であり、極めて分かりやすく、誠意しか伝わらない。結成20年、メジャーで約15年のキャリアと経験がある3人だからこそたどり着いた回答とも言える。
「鮮度命は事実だし、産地直送の出来たてを御提供したい。今回のミニアルバムも実際に演奏して、生で聴いてもらって、もしよかったと思ってもらえるなら、帰りに買ってもらおうと!」とミトは最後に付け足したが、ここまで筋道を立てて、それもライブのMCで語るミュージシャンを観たことがない。ハッキリ言うと、ここまでの話は雑誌やネットのインタビューで(時に内密に)話されるような内容だ。それさえも3人は直接ライブで生で観客に伝えようとしたのだから、驚愕してしまう。
「では、そのミニアルバム『モメントe.p.』から御賞味あれ! 実食!!」と、静かで穏やかな『希節』、一転して不穏な打ち込みサウンドが心を掻き立てる『フィラメント』を経て、同じく収録曲の『Flight!』へ。真っ赤なライトに照らされ、ミトがPCなどの機材を一心不乱に操っていく姿には、気迫しか感じなかった。
ロングMCからの『モメントe.p.』収録曲3連発で火照りきった心を癒されたと思えば…あのトラックが聴こえてくる。原田が両手で煽り、一斉に観客全員で“ウェイバー ウェイバー ウェイバー ララ はじけてく♪”と合唱が始まり、ミトのポエトリーリーデングもたまらなく沁みる。「梅田クラブクアトロをビッグエコーにしてみましょう!(笑) まだまだ出るっしょ!!」(ミト)と呼びかけたこの『波よせて』で、会場にいる全ての人が完全に一体となった。その衝動を受けて、昨年リリースのアルバム『triology』から『yet』へ。あまりの激しい演奏に伊藤のドラムスティックが手から離れ飛んでいくのもご愛嬌。ステージのボルテージが上がっていることがひしひしと伝わってくる。
そして、「ぶっちゃけ言うと、みんながいるから活動できるんです! みんなに心を込めて音楽を作ります。だからお願い、皆さんついてきて!」というエモーショナル過ぎるミトのMCから、『KANADE Dance』へ。この日一番の轟音がまるで聴く者全てを包み込むように降りかかってくる。ミトが何かを叫び、その何かが分からないままに響き渡るような…。クラムボンは音楽だけでなく、“本気”を届けようとする。音楽のジャンルではなく、精神のジャンルとして、クラムボンは“パンク”であることに、改めて気付かせてもらえた。ラストナンバーは、『シカゴ』。ミトの「叫べ―!」という叫びと共に、本編は終了。
アンコールで登場するも、再度ミト主導で長いMCへと入る。それは今年リリースされたアルバム13タイトルのリマスター盤について。紙ジャケながら1500円というリーズナブルな値段がかつて所属していたメジャー2社からの提案であったこと、リマスター代は両社が折半して出してくれたことなど、赤裸々に語られていく。ミトは、「話してるだけで泣けてくる…ワーナーとコロムビアに感謝の気持ちを込めて買ってください」と観客へ訴えかけた。
そして、テレビアニメ『彼女と彼女の猫 -Everything Flows-』のエンディングテーマを書き下ろし新曲にて担当することも発表。オープニングテーマとBGMは、ミトから所属する音楽ユニット“TO-MAS SOUNDSIGHT FLUORESCENT FOREST”が携わることも併せて告げられた。「小津安二郎のような朴訥とした世界のアニメなので、アニメをあまり観たことがない人も、拒否反応のない形で観られると思います」というミトの説明には、この人たちはどこまで丁寧で誠実で真っ直ぐなんだろうと感心し切ってしまった。
『モメントe.p.』から『結のうた』を披露した後、同作の紙ジャケ製作のために原田自身が紙を選びに行った話や、日本武道館公演限定シングル『Slight Slight』の利益によってアナログテープの良質なサウンドで録音できたことへの御礼が述べられる。なかなかライブをしに行けない街に届けるために、音源を置いてくれるあらゆる店の募集も行われた(会場には実際に募集用紙が置いてある)。「皆さんを戦友だと思っています。どうしたら、楽しんでもらえるか、1分1秒を惜しんで考えていきたいし、それが楽しいです」と、ミトは長い長い、だが意義しかないMCを〆て、ラストナンバーの『Slight Slight』へ。まるで歌詞とリンクするかのように、3人が少しずつ少しずつ何かを変えようとしていることが心に響いてくる。全ての感謝を込め、手を合わせて舞台を去るメンバーの姿が印象的だった。
ライブからの帰り道、会場にいた全ての人(観客だけでなくスタッフも含めて)が、クラムボンを支えたい、守りたい…そして、まだ本当の魅力に気付いていない多くの人にクラムボンを届けたい、広げたい、伝えたいと…間違いなく思ったはずだ。それだけではなく、「今のクラムボンは本当にすごいから!!」と早く誰かに言いたくて、たまらなかっただろう。クラムボンの新たなる決意表明を感じられた夜だった。
Text by 鈴木敦史
Photo by 田浦ボン
(2016年3月11日更新)
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