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今年で結成から12年を迎えるQomolangma Tomatoが
3年ぶりのニューアルバム『かなしみ射抜こう』をリリース
彼に影響を与えてきた音楽なども振り返りつつ改めて
バンドの魅力を探る、石井ナルト(vo)インタビュー&動画コメント

 今年で結成から12年を迎えるQomolangma Tomato(チョモランマトマト)が3年ぶりのニューアルバム『かなしみ射抜こう』をリリースした。振り返れば、結成直後にドラマーが脱退したのを皮切りにこれまで幾度かのメンバーチェンジも経験し昨年、現在の4人がそろった。2006年、2007年には連続して『SUMMER SONIC』に出演。パンクやハードコアにフォークやブルースもミクスチャーした破壊力のあるサウンドや、ライブパフォーマンスは音楽リスナーの耳目を惹きつけ、ミュージシャンやバンドマンの中にも彼らを慕う人々は多い。結成12年目の今年、自身のレーベルを設立。久々の新作においても、過剰な説明を必要としない詞はシンプルゆえに力がみなぎり、同じく、余計なものは最初からないソリッドなサウンドのキレ味もすさまじい。7月のリリースツアーに続き、8月21日(金)には心斎橋Pangeaで開催される『TONE FLAKES Vol.85』への出演と、翌22日(土)の『ONE Music Camp2015』への出演も決定。絶叫のような声で歌ったかと思えば、空(くう)を見る少年のような無垢な歌声も聴かせる石井ナルト(vo)に、これまで彼に影響を与えてきた音楽なども振り返りつつ、改めてQomolangma Tomatoの魅力を探った。


バンドが活動していってる感じが、すごくこう
“ぶち抜いてやろう!”みたいな感じだった



――新作『かなしみ射抜こう』は現メンバーでの第1弾アルバムですね。今のQomolangma Tomatoはどんな感じですか?

「すごくストレートな、いい感じです。前作『カジツ』(2012年)の時はバンド全体のグルーブが今よりちょっと薄かったんだけど、その分コンセプトのあるアルバムを作ることに主眼を置いて。今回は、隙間があってうねりのあるミドルテンポのファンク、ミクスチャー寄りのものにしようと思っていて、結果的にバンドのノリが良く出ているものになったなと思います」

――タイトル曲は去年からライブでやられていたんですよね。本当に、タイトルそのままのド真ん中を射ぬいてくる歌で。

「今回の5曲の中では一番早く完成した曲ですね。どうしてもこれを1曲目にしたくて、メンバーにも伝えてそれがそのままアルバムタイトルになりました。あの曲は自分で最初に作った時からベースラインも考えていて、16ビートで刻んで、ちょっとファンクっぽいノリとフレーズに、“かなしみ射抜こう!”みたいな感じで、語感のいい言葉が隙間のあるグルーブに力強く乗っかってる感じを大事にした曲を作ろうと。…“かなしみ射抜こうって、何かいいな” と思って、バーッと思ってることを書いていっただけなんですけどね。何か、“かなしみ射抜こう”って思うことがいろいろあったんですよ。それとともに、バンドが活動していってる感じが、すごくこう“ぶち抜いてやろう!”みたいな感じだったんで、そのまんまの単純なことを言うぐらいでいいかなって」

――言葉がまっすぐに、寄り道しないでこっちに向かってきます。余計なものは何もなくて必要なものだけで出来ている曲だなって。

「ですよね。そういうのでいいんじゃないかなって思っちゃいました。“これがパワーだ おれのパワーだ”って、ものすごくわかりやすいサビですよね」

――どの曲の詞も、歌詞であると同時に読み物の詩としても楽しめるものになっているように思います。自分は特に『レンタカー』(M-5)の詞が好きで、ナルトさんの詩人の側面を強く感じました。こういう歌詞は一行目から書いていくんですか?

「最初のかたまりの部分は一気にバーッて書いていったんじゃないかな。もともと最初は違うメロディーがあったんですけど、そのメロディーも解体して、言葉とメロディーラインを同時に考えて作っていきました。一緒に作ったほうが、メロディーも言葉も強いとは思ってます」

――“不安な夜にはおれ1人 レンタカーに乗り海へ”とありますが、海に行きたくなる時の絶望的な感じと、実際に海へ行って気持ちが救われる感じの両方が、この曲にはあるように感じました。

「俺も聴く度にそう思いますね。海って、つつみ込まれるような感じもあるし、自分の存在とか悩んでることがすごく小さなことなんだって確認できる場所でもある。その感じを得るためだけに、よく海に行きます(笑)。ボーッと海を眺めていたいなと思いながら行くんだけど、実際に海を見てるのは一瞬だったりもして。で、満足して帰る。この曲はナマで聴くと本当にいいですよ。よくそう言われることが多いんで(笑)。特にギターがカッコいいですよね」

――ですね。ストーン・ローゼスあたりの90年代のUKギターバンドを思わせる節もあって。

「今日も来る時に新幹線でローゼスを聴いてきました(笑)。よくイアン・ブラウンは歌が下手だって言われるけど、彼の歌に親近感があるんですよ。ラップのように歌っている曲もあるけど、ラップじゃなくグルーブと呼応している感じがして」

――Qomolangma Tomatoもラップのような歌い方をされている曲もありますね。

「特に意識はしてないしヒップホップからの影響というよりも、もともと言葉や歌詞をたくさん書いていたのとバンドの当初のリズム隊が結構、隙間があって、グルービーで言葉がたくさん入れられたからかな、とは思っていて。あとはINU(現・町田康がかつて在籍したパンクバンド)みたいなバンドの影響で、言いたいことを全部言ってやろうみたいな感じです。尾崎豊と一緒です(笑)。たまたま1コードとか2コードでセッションで作った長い曲があって、それをまとめるのにそういうラップみたいな歌い方になっていったんじゃないかな。言いたいことがありすぎると、メロディーがあるとまとまらなくなるから」


リズムとかフレーズに言葉が気持ちよく絡まっていることにカタルシスを感じる


――詞は、昔から書いていたんですよね。

「そうですね。バンドをやる前から結構、詞を書く人でした。自分が書いた文章にタイトルを付けるのが好きで、最初に描写を書いていって自分の言いたいことを2~3回書いて、歌のサビっぽいものを書いて、それに『ナントカ』ってタイトルを付けると腑に落ちる。梶井基次郎の『檸檬』の最後のくだりみたいなもんで、散らかっているものを山積みにして最後に檸檬を置いたらすっきりした、みたいなのに近い感じですかね。歌詞は大事だと思ってるんですけど、語感というかメロディーに乗っかる感じを大事にしてるんですね。リズムとかフレーズに言葉が気持ちよく絡まっていることにカタルシスを感じるんですよ。それはずっと前からあって、例えばJAGATARAとか、オルタナ方面だとfOULとかが好きだったし、初期パンクだとINUやあぶらだこも今でも好きですし、bloodthirsty butchersも好きだから、そういう影響なのかなと思います」

――ナルトさんが特に好きな詩人や作詞家というと誰が挙がります?

「最近詞を読んでよかったなと思ったのが早川義男や谷川俊太郎。ブッチャーズの『kokorono』(1996年)は、聴くのももちろんですけど吉村(秀樹)さんの詞が好きで、夏目漱石や太宰治を読むような感覚で聴いています。イースタンユースも大好きで高校生の時にめっちゃ聴いてましたけど、イースタンの場合は歌詞とかよりもバンドの熱量に惹かれていた気がする。あとは、江戸アケミ(JAGATARA)ですね。『でも・デモ・DEMO』(1982年)の“~くらいね、くらいね、…日本人てくらいね”とか、英語の“cry”と日本語の“暗い”がかかっていたりする面白さとか、言葉の語感がすごく好きですね。最近、自分が書く詞の語感が、JAGATARA色が強くなってきたかなって思うところがあるんですけど、今の時代にああいうバンドがいたらいいなとは思うんですね。僕らはJAGATARAみたいな大所帯じゃないし同じことはできないけど、4人でやるファンクミュージックに言葉が乗っかればいいなぁって。90年代はレッチリとかレイジとかいたけど、最近あまりそういうバンドがいませんよね。ファンクみたいなことをやっている人はいるし、最近はシティポップス+ファンクというか、初期の山下達郎みたいな音楽性のアーティストも出て来ているけど、そういうオシャレな感じじゃなくて、もっと汚くてうねっているような感覚のものを4人でやりたい。そういうことがこのバンドでできたらいいなっていうイメージはありました」

――ナルトさんにとってファンクは大きな要素になっていますか?

「ファンクって、グルーブに言葉が乗っかって心までボンと入って来る感覚があるんですね。ソウルやゴスペルもそうかな。昔、つのだ☆ひろがNHKの番組で“ゴスペルっていうのは、神様に日々の感謝を捧げる音楽なんだ”っていう話をしていて。それに近いものがソウルやファンクにもあるような気がしていて、自分の日常とか自分の中の何かが集約されていっているような感じがします。だから力強いし、エレクトリックミュージックやシティポップに言葉(詞)が乗っかっているだけのものとは違うと思う」

――過去をさかのぼってみて、ナルトさんが一番最初に聴いて“いいな”と思った歌やアーティストというと?

「Mr.Childrenの『innocent world』(1994年)が好きでしたね。それが小5の時で、中学の時はBLANKEY JET CITYをすごく聴いてました。並行してビートルズとサイモン&ガーファンクルはほとんどのアルバムを聴いてるんですけど、ストーンズは中学の時は分かんなかった。ピストルズやパンク方面、ロックのくくりでいえばDragon Ash、GRAPEVINEも聴いてました。ブランキーは、たぶんロックのカッコよさ以前に映画っぽい感覚に惹かれていて、それとともにベンジーの詞とかフレーズの分かりやすさとかも好きで聴いていたように思います。その前に、中1ぐらいの時はオリジナルラヴやコーネリアス周辺のトラットリアレーベルのものをよく聴いてましたね。L←→Rが好きで、その辺は結構詳しいですよ(笑)」

――ちょっと意外です(笑)。

「高校時代はハイスタンダード、イースタンユース、その後GOING STEADYを聴いたり。BUMP OF CHICKENがまだハイラインレコードから出していた時も、“俺だけが知ってるぞ!”とか思って聴いてました(笑)。友部正人や森田童子とか、フォークミュージックも一通り聴いて、浪人生の頃にはblood thirsty butchersとかINUにたどり着いてましたね。洋楽だとアット・ザ・ドライブインとかフガジとか今に近い感じです」




――なるほど。アルバムの話に戻りますが、『マジカルエンジン』(M-2)で“先を急ごう”と歌われていますが、急き立てられる感じはしなくて、“おれは行く。お前はどうする?”と投げかけられているような適度な距離が感じられたんですね。

「説教臭くない感じですか?(笑)。それだったらよかったです。『マジカルエンジン』は最初のところの、“タマシイを出せ”“顔に出せ”ってところが好きで、この辺は谷川俊太郎の影響が強いと思います。あの人がよく“魂”って言葉を使っていて、自分の中で魂を出すような詞を書きたいなって思いましたね。個展を見に行ったら、写真に対して詩を書くようなことをやっていて、力強い詩だなぁと思って」

――タイトル曲でも“憎しみじゃない何かを伝えよう”って一節がとても印象的で、言葉は強いけれど攻撃的に放ってはいないから、聴き手に対して開かれていて来る者を拒んでいない。チョモをまったく知らないリスナーでもこのアルバムから入って行けるなぁというのを冒頭の2曲で感じたんです。

「それは良かったです。そういうものを狙って作っているわけじゃないんですけど、風通しを良くして書いた言葉をちゃんと乗っければ、そういう感じになるのかもしれないですね」

――ナルトさん自身は開放的な人ですか?

「開放的な人ですよ、そうは見えないかもしれないけど(苦笑)。頭で考えて作ってきたものもこれまでたくさんあったし、でも考えないで作ったものでも作品として良いものになっていたりもするし。自分の中にあるものをそのまま出せば力強いものになるんでしょうね。そうなるまでに12年かかったのかもしれないですね」

――今年、自分たちでレーベルを作られたんですよね

「はい。今は早く次の作品を出したくて。ミュージックビデオも2009年から作ってなかったんで、これはさすがにまずいと思って今回『マジカルエンジン』のMVを作ったんですけど、いろいろ良い反響も頂いたんでやってよかったなと思いました。でもライブのお客さんも前より減ってきているし(笑)、ここからはガッガッと行こうと思います」

――『白昼』(M-4)に“歌を歌おう”という一節がありますが、ナルトさんにとって歌うことは、詞を書いたり言葉を書くこととは違うスペシャルなことですか?

「歌う方がスペシャルなことでしょうね。ライブだと、その場で何か反応があったりして、自分も楽しくなって来るし。詞を書く時は、覚醒している時もありますけど、絞り出さなきゃいけない感じもあって。だから歌のほうが楽しい。プレイしている感じが楽しいですね」

――19歳の時にバンドを結成して今年で12年。ちょっと気が早いですがあと3年で15周年、もう少し経つと20周年ですね。これからも歌い続けていきますか?

「いきそうな気がします。20年はあんまり想像できないけど、あと3年ぐらいはすぐに経っちゃうと思いますね。今月は8月21日(金)のPangea、22日(土)の「ONE Music Camp2015」と関西のライブが2本あるんですが、ずいぶん久しぶりに来てくれるお客さんも多いと思いますけど、今のQomolangma Tomatoは是非観てほしいですね。バンドもすごくいい感じで、自分もフロントマンとして自由にやらせてもらいつつ、みんなの演奏が呼応している感じもすごくあって、“音楽をやろう”っていう感じでやれてる。前はもっと各々が独りよがりだったような気がするんですけどね。だからいろんな人に観てほしいですね。…何か面白いことを言えないかなぁ。みんな、ライブに来たかったら来ればいい……じゃダメですかね(笑)」


Text by 梶原有紀子

 

 

 




(2015年8月14日更新)


Check

Movie Comment

石井ナルト(vo)からの動画コメント!

Release

3年振りのリリースは自主レーベル
しがらみプロダクションよりリリース

mini Album
『かなしみ射抜こう』
発売中 ¥1500(税抜)
QTGU-2001

<収録曲>
01.かなしみ射抜こう
02.マジカルエンジン
03.晴天を駆ける
04.白昼
05.レンタカー

Profile

ちょもらんまとまと...(写真 左から)小倉直也(Gt)、大工原幹雄(Dr)、石井ナルト(Vo)、松下順二(Ba)の4人から成る。2003年に横浜にて結成。2007年に1stアルバムをリリースし、衝撃のライブを繰り広げる。結成直後にドラマーが脱退したのを皮切りにこれまで幾度かのメンバーチェンジも経験し昨年、現在の4人がそろった。シンプルな日本語とソリッドなギターサウンドで「静」と「動」を体現する、日本が誇るオルタナロックバンド。

Qomolangma Tomato オフィシャルサイト
http://qomolangmatomato.com/
 

Live

【大阪公演】

TONE FLAKES Vol.85 Two Million Thanks Japan Tour 2015

チケット発売中 Pコード266-988
▼8月21日(金)18:30
心斎橋Pangea
前売2500円
[出演]Two Million Thanks/
Roth Bart Baron
Pangea■06(4708)0061

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【兵庫公演】

『One Music Camp 2015』

▼8月22日(土)12:30
兵庫県三田アスレチック野外ステージ
前売入場券5000円
[出演]モーモールルギャバン/neco眠る/
鎮座DOPENESS/fox capture plan/
ROTH BART BARON/吉田ヨウヘイgroup/
TAMTAM/Keishi Tanaka/
TWO MILLION THANKS(from Thailand)/
dry river string/moja/
Special Favorite Music/Rei/箱庭/
Tatsuki Agena/LITTLE BITCH/
Kidori Kidori/マッカーサーアコンチ/
トレモノ/AFRICA
One Music Camp運営事務局■info@onemusiccamp.com

オフィシャルHP
http://onemusiccamp.com/

11月にも大阪でのライブが決定
SuiseiNoboAz との2マン!

『PUBLIC NOISE FADE OUT Vol.21』

8月15日(土)一般発売 Pコード274-279
▼11月23日(月)19:00
心斎橋Pangea
前売2500円
[出演]SuiseiNoboAz
Pangea■06(4708)0061

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Comment!!

この取材も担当した音楽ライター
梶原有紀子からのオススメ!

 2006年頃にたまたまQomolangma Tomatoのライブを観る機会があり、その時の彼らは、演奏も歌もフロントマンの表情も、近寄ったら無傷でいられないような破天荒っぷり。ちょっとコワそうだけれど妙に惹きつけるものがあって、10年近くたってもその光景を忘れていない。新作で久々に再会したQomolangma Tomatoは、現状を突き破る力にあふれていた。ふさぎ込んだ自分の扉を強くノックしてくる曲。ノートに書き写して、何かあったら眺めたくなるような歌詞。『マジカルエンジン』の「いつもスペシャルな気持ちでいく」の1行が放つ光を胸に、バンドの15周年、20周年をライブ会場の片隅で見守りたい。