昨年、アルバム『Magic Number』でメジャー進出以降、さらに勢いを増しているgo!go!vanillas。この春リリースされた1stシングル『バイリンガール』は、初めて女子目線で綴った失恋物語にポジティヴなメッセージが込められた軽快なナンバー。また、カップリングには、WEB上で事前公開され、“マジックトラック”と呼ばれていたデモトラックを元に公開レコーディングイベント『Rock! On! バニラズ』で録音された東京・大阪のファン約500人の手拍子や掛け声なども加えたパーティーチューン『トロピカリア』や、泉谷しげるの名曲『春夏秋冬』のカバーも収録され、新たな一面を見せている。ロックンロールを核に多彩なジャンルを昇華していくバンドの司令塔・牧達弥(vo&g)が、今作の意図を解き明かしつつ、バンドの姿勢を熱く語ってくれた。
――メジャー1stシングルとしてリリースされた『バイリンガール』は、とてもチャレンジングな内容ですね。
「今回は『Magic Number』(‘14)ではやっていないことをやるのが1つのテーマとしてありました。それと、僕たちはライブバンドとしてやっていきたい想いがあるので、お客さんが心躍るものじゃないと意味がないなと。そうあるためにリズムを重視して、“こうやった方が盛り上がるよね”というところを僕が(ジェット)セイヤ(ds)とプリティ(b)に話して細かく決めていきました。メロディや歌詞、ギターなんかは、例えば家で1人で聴いたときに元気をもらえるように、ライブ以外でも聴けるようなものがいいかなと。僕はそのどちらも両立させたいんです。それを自分流にミックスさせることが僕たちの武器であり、良いところだと思ってるので」
――表題曲の『バイリンガール』(M-1)は女の子を主人公とした失恋ソングのようですが。
「歌詞の内容はライブとかで聴いた人はそこまで分かんないと思うんですけど、CDの歌詞カードを見たりしたとき、“こんなことを歌ってたんだ”っていうギャップに気付くと思うんですよ。そこが面白いなっていうのが狙いでもあって。内容的には失恋の話を本筋として進んでいくんですけど、最終的に言いたいことはラストのサビで歌ってるように、“とりあえず次に進むんだ”っていうこと。今までの習慣としてあったものって、自分で断ち切るのにすごい勇気がいるし、大変じゃないですか。でもそれを振り切って前に出てみたら、意外と今まで当たり前にやってたことが実はマイナスなことだったりするし、断ち切ったことで気持ちが軽くなったり、自分の視野が変わっていくこともある。僕らがまさにそういう感覚で生きてきた人間なので」
――ちなみにどういった背景があって?
「僕は大学に行ったものの、就活もせずにバンドをやっていたんですよね。でも、“本気でバンドをやっていく!”と決断してから、すごい厳しさを感じたわけです。バンドで食っていくのって、めちゃくちゃ不安なわけですよ。恥ずかしながら、僕はそこで初めて大人になったのかも。そこから、俺らに足りないものは何か、お客さんは何を求めてるのか、よりシビアに考えるようになりました。そういう自分自身の経験から、勇気を出して一歩進んでみろよという気持ちを込めていて。そこで変わるものが絶対にあって、それがきっと自分の人生の中で大きいものになるから」
――失恋ソングという体裁ではありながら、牧さん自身のこれまでの経験を踏まえての人生訓のようなメッセージも含まれているんですね。
「そうなんです。今まで恋愛をテーマにした曲って、あんまり作ってなかったんですよ。僕は天邪鬼な部分が強くて、単純に恋愛の話を書いて、それに共感されるっていうのも…。だから、僕なりの恋愛をテーマにしつつ、敢えて視点が僕じゃないものにしたんです」
――『バイリンガール』は女性の視点から歌ってますね。
「女性からの視点で物語を進めていくことに面白味を感じて。でも、僕の妄想ストーリーじゃ誰にも響かないから、女性が実際に思うリアルをこの歌詞の中に入れたかったんです。これも初めて試みたんですけど、僕がいろいろ頭の中で考えて書いたものを、周りの女性スタッフに見せてストレートな意見を言ってもらいました。そこであんまり共感出来ないというときは理由を聞いて、“あぁなるほど”って思いながら自分の言葉に直して書いたこともあったから。今回そういう客観的な視点もかなり入っているので、自分の作品というよりは、僕から1つ離れた歌詞という感じ。女性の方にもすごい共感してもらっているので、ホッとしましたね」
――この曲には牧さんの作家的な資質が感じられます。
「ありがとうございます。『Magic Number』を作り終わったとき、出し切った感じで何もなくなっちゃって…。また何か吸収していかなきゃなと思って聴いていたのが80年代後半に出てきたネオアコというジャンルで。イギリスのレーベル・ラフトレードのモノクローム・セットやザ・スミスなんかもすごい好きで、その辺のアーティストをもう1回聴き直してましたね。邦楽では渋谷系なんかも聴いていて、その中ではフリッパーズ(・ギター)とか。あの人たちってサウンドや歌詞もそうだけど、日本人の感覚じゃないところを突いてくるじゃないですか。歌詞もセリフっぽくてちょっとシャレていて、気の利いた言葉で愛を囁くような感じがおもしろいなと思ったし、あの当時の曲ってコードワーク1つとってもすごく細かくて、作り込まれているから。今回はそういうことまで意識出来るようになった曲かなぁっていうのはありますね」
――この曲を完成させて、バンドとして新たな段階に進むことが出来たのでは?
「より深く曲を考えるようになったし、ドラムとベースもすごく意識が変わったと思います。今までは単独プレイみたいな部分も強かったし、そこがバンドとしてのウィークポイントでもあったので。人間はループすることを好むから、ダンスビートのような反復するリズムの強さとか、それ故に際立ってくるものが絶対にあると思っていて。いろいろと気をてらったりするよりも、敢えて同じことを繰り返したりする方が実はグッとくるんだぜって僕が説得しまくって(笑)。今回はモータウンとか、R&Bやファンクもそうですけど、リズムにはそういうダンスビートの良さを取り入れたかったので、彼らもそこをすごく勉強してやってくれましたね」
本当に音楽が好きだから、いろんな音楽をやりたいだけなんです(笑)
――カップリング曲の『トロピカリア』(M-2)はWEB上でデモ音源として公開されていました。それを正式な音源として完成させたんですね。
「これは“みんなで今までやったことのないことをやってみたい”という実験的な試みで。お客さんとの関わりがある曲が出来ると面白いなぁと思って」
――お客さんの掛け声やクラップが収録されていますね。
「これは、東京と大阪でそれぞれ250人に一斉にやってもらったんですよ。250人が合わせるって相当大変じゃないですか。でも、事前に練習方法とかをTwitterやホームページで伝えておいて、いざ当日やってみたら、すごく上手くいったんです。それは、昔以上にみんながライブというものに親しんでるからだと思うんですよね。それは発見だったし、嬉しかったです。プラス、かなり練習してくれたと思うんですよ。みんながそれだけ一生懸命やってくれたからには、僕たちもめちゃくちゃ良いものを作らなきゃなって、気も引き締まって」
――デモ音源とはかなり変わったようですね。
「結構違うんですよ。デモ音源から聴いていた人が、今回収録されている『トロピカリア』を聴いたら、多分めっちゃ驚くと思うんですよ。ただ、それも意図ではあって。『トロピカリア』は当初“マジックトラック”っていう名前だったんです。『Magic Number』からの連動企画だったから、魔法をかけましょうという意味でね。バンドの曲ってまずデモ音源があって、そこから肉付けしていって正式な音源が出来るじゃないですか。でも、お客さんは完成形しか聴けないから、お客さんにも曲作りの最初から完成まで携わった感覚を持たせてあげたいなって。それを比べてみたら、ホントに魔法がかかったように聴こえると思うから」
――この曲はそういうバニラズの“ロックの魔法”が体現されたナンバーで、3曲目の『マジック』(※初回限定盤のみ収録)はバニラズならではの高揚感が伝わってくるライブ音源で。そして、4曲目に収録されているのは、何と泉谷しさんのカバーで『春夏秋冬』。
「まず今回は、全曲違う顔を持っているものにしたかったからなんです。go!go!vanillasの武器は1つじゃない。要はその時々の状況において、いろんな武器を持てるバンドでありたいというか。ロックンロールは僕の中で核としてずっとあるけれども、それだけしか聴いてないと言ったら嘘だし、好きなジャンルも音楽もたくさんあるんです。バンドのカラーがガチっと決まっちゃってるのも良いと思うんですけど、僕はそこにあんまり面白味を感じず。まぁ本当に音楽が好きだから、いろんな音楽をやりたいだけなんです(笑)。だから、ジャンルもいつかは網羅したいというか…それには技術も必要だし、これから学んでいくこともたくさんあるし、まだまだ追いついてないんですけど。その想いがあるからこそ、今回はこうやって全部違う色のものを入れたという」
――いろんな曲がある中で、『春夏秋冬』をカバーしようと思った理由は?
「やっぱり若い子に聴いて欲しいのが一番ですね。『春夏秋冬』はジャンルで言えばフォークになると思うけど、僕はフォーク=語りだと思うんですよ。その人の主張というか、演説みたいな感覚がある。アコースティックギターと自分の歌が基本セットじゃないですか。その“人力感”が人間味を帯びていて、僕はすごい好きで。そういうものっていくら技術が発達しても、埋められない何かを持っているんです。それが多分アナログの良さだと思うんですよ。でも、若い子ってなかなか出会う機会がないじゃないですか。だから、日本の文化遺産として僕はちゃんと引き継ぎたいという想いもあって。今後もシングル出す上で、こういうカバーはやっていきたいなと思ってます」
――牧さんのボーカルもしめっぽくなく、乾いてるんだけど情感があって、いい感じでマッチしています。ちなみに、カバーする上で意識したことは?
「サウンド的な部分では時代(70年代)を彷彿とさせない方向に持っていきたくて。それより、今の“インディー・フォーク”みたいな感じというか…僕の好きなマムフォード&サンズとか、リアル・エステートみたいな感じにしたくて。彼らに共通するところはあたたかみなんだけど、今っぽさをちゃんと表現しているんですよね。僕もそういう感じにしたいなって思いましたね」
――レコーディングはどのように?
「全部一発録りなんですよ、歌もベースもドラムも。それも初で。やっぱりその緊張感がよかったんですよね。バラで録ればミスってもやり直せるんで完璧なものは出来るんですけど、余裕があるとどうしても気持ちが薄まると思うんですよね。メンバーはめちゃくちゃ緊張したらしいですけど(笑)。この曲って僕の弾き語りから始まって、途中からドラムが入って、その後、ベースとギターがみんなでバーンと入ってくる。そこまでの緊張感がヤバかったですね。プリティとか、手汗がすごくて(笑)。やっぱり一発で録ることへのプレッシャーがあるから、さっき言った人力感ならではのピリピリとした感じがあって、他の曲とはちょっと違いますね」
――新たな可能性を提示していますよね。次はまたどんな作品を届けてくれるのか、今からすごく楽しみです!
「ホントにいろいろやりたいなぁと思いますね。でも、ちゃんと血が通っている音楽でありたい。“こんなところ誰も聴いていないよ”っていうところでも、ちゃんと魂を込めて作っているから。その姿勢はずっと大事にしつつ」
――今後やってみたいことや挑戦していきたいことは?
「例えば僕らが企画して、音楽をより楽しめるようなイベントとか、いっぱいあるけど…1つの夢としては、全県でワンマンをやりたいですね。今までに行ったことのない場所もあるので、go!go!vanillasのライブを日本列島に知らしめたい!」
――全国8ヵ所で開催される全国ツアー『バイリンガールとマザーアイランドツアー』も、各地ソールドアウトになりそうなぐらいの勢いを感じます。
「前回のツアーも、自分たちの予想以上にみんなの想いの強さを感じられて嬉しかったし、今回もより多くの人に見て欲しいですね。音源とライブは絶対に違うし、『バイリンガール』も音源で聴くものとはまた違う側面が感じられると思うから。ライブでしっかり今の僕たちを観て欲しいので、ツアーも全力で臨みたいと思います!」
Text by エイミー野中