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くるりにしか実現不可能な“未知の音楽”たちとの出会いを演出
晴天の『京都音楽博覧会2014 in 梅小路公園』
ドラマチックにして至福の1日をプレイバックレポート!

 少し汗ばむほどの晴天に恵まれ京都・梅小路公園にて開催された、今年のくるり主催の『京都音楽博覧会』。小田和正と東欧ジプシー楽団のタラフ・ドゥ・ハイドゥークスが同居した’07年の第1回から末広がりの8回目を迎えた今回は、“音楽の万国博覧会”という初期の理念に今一度ピュアに立ち返ったような国際色豊かなラインナップで、アットホームな雰囲気の中、まさにくるりにしか実現不可能な“未知の音楽”たちとの出会いを現実のものにしてくれた。そんなドラマチックにして至福の1日をレポート!

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 開演前からステージ上にはサラーム海上とくるりの岸田繁(vo&g)が現れ、これから始まる多国籍なプログラムへの耳慣らしをするようにアルメニア、イスラエル、インド、トルコの最新の音楽家たちを公開ラジオ形式で紹介。その流れで最初に登場したのは、地球の裏側・アルゼンチンからやってきた、トミ・レブレロだ。バイオリン奏者とのデュオ形態で、バンドネオンを弾きながらのタンゴ調から、かの地の草原(パンパ)を想起させる叙情的なフォルクローレへ。かと思えば、唐突にリズムマシンからブレイクビーツを鳴らし松尾芭蕉の名を連呼する(!)ラップ・チューンへと流れ込み、彼のことを知らぬ観客をも微笑み混じりに巻き込んでいく。続いてバンドネオンにエフェクトを加えてのシンセポップ調から、ラストは上半身裸になってチャランゴの弾き語りを熱く響かせるなど、たった2人で序盤から場内を沸かせた。
 

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 中東のレバノン発のヤスミン・ハムダンは、レッド・ツェッぺリンやカサビアン好きも即悩殺の先鋭的なアラビック・オルタナロックを白昼の京都の青空の下に展開。ライブは、エレキギターの弓弾きからモロッコ音楽のグナワで多用されるメタリックな打楽器のカルカベも伴って高ぶりを見せる、ジム・ジャームッシュ監督映画『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』で起用された『ハル』からスタート。よりアラブ的な歌声が際立つ『デニー』、へヴィエレクトロな『ネディヤ』、そして、幻想的なシンセやヒップ・スカーフにチェーンまでも鳴り物に使ったバッキングと、メロディの良さが際立つ名曲『ベイルート』へ。アラブ音楽のパブリック・イメージを覆すロッキンでセクシーなステージは、約25分の短いセットだったが痛快の一言だった。
 

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 一転して、休日の昼下がりにふさわしいリラックスしたアコースティック・セッション風に幕を開けた英国のサム・リーは、英国のトラッドをベースにした音ながらも、アンサンブルの中に日本の琴や三味線、西アフリカの打楽器のカラバッシュなどを用いて、国境をゆるやかにかく乱した。「僕は800年以上前の古い英国の音楽もやっている。もちろん僕は若いんだけどね(笑)」「次の曲も英国の古い曲。でも、三味線入りでやるのは今からが初めてだよ」などとMCも挟みながら、ピアノ、フィドル、カホン、口琴、ハルモニウムなども交えて多彩な音を展開するサムは、飄々とした天才肌。最後は「これも古い時代に英国に渡ってきたジプシーのお別れの曲」と説明し、『グッバイ・マイ・ダーリン』で英国トラッド古層の多様性を示すようにシメ。12月の再来日公演も実に楽しみだ。
 

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 前半から南米、中東、欧州の3組がそれぞれに個性溢れたステージを繰り広げたところで、後半への橋渡し的に登場したのが、10月2日(木)=トーフの日にメジャー初アルバム『FirSt Album』の発売も控える神戸発のtofubeatsだ。『Don’t Stop The Music』や『朝が来るまで終わる事の無いダンスを』といった代表曲に、自身が手掛けたくるりの『ロックンロール・ハネムーン』のリミックスもスムースに交えてメロウかつダンサブルに盛り上げ、続けざまにスペシャルな編成とステージングで海外組に負けぬ存在感を発揮したのは椎名林檎だ。
 

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 斉藤ネコを中心とする弦楽カルテットに、ピアノとアコーディオンが加わった楽団を従え浴衣姿で登場すると、タンゴ調の伴奏をバックに『いろはにほへと』を。「真ッ昼間からお目にかかれて光栄です」と彼女らしい挨拶を挟み、「ここでゲストシンガーを」と登場したのは、何と過去に2度出演して音博ではおなじみの石川さゆり! NHKの朝の連続テレビ小説の主題歌となった『カーネーション』が石川のリードで歌われ、続いては石川の最新アルバム『X-CrossⅡ-』に椎名が楽曲提供した『名うての泥棒猫』をデュオで、そして同じく提供曲の『最果てが見たい』を再び石川のソロで聴かせるまさかのサプライズで場内を沸かせ、後半はこのタンゴ~クラシカルな編成で『丸の内サディスティック』『歌舞伎町の女王』と初期のキラーチューンを連発し、最新シングルの『NIPPON』へ。そして、圧巻だったのはラストに歌われた『ありあまる富』だ。現代社会へのメッセージとアイロニーを含んだ歌詞が、どことなく振り絞るように歌われるボーカルと共に生々しく浮き立ち、尋常ではない凄みをもって響いているように感じたのは、私だけではないだろう。
 

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 ここで、夕刻が近付き涼しい風も吹いてきた絶好のタイミングで登場したのが、英国が誇る無国籍ミニマル・チェンバー楽団のペンギン・カフェだ。ポストパンク~アンビエント黎明期に活躍した先代のペンギン・カフェ・オーケストラの代表曲である『テレフォン・アンド・ラバー・バンド』に印象的に使用された電話の信号音に乗せ登場すると、レゲエのリズムを忍ばせた優雅なストリングス・バンド的演奏でゆったりとダンスムードを誘い、最新作『ザ・レッド・ブック』収録の無国籍な『カターニア』、同じくタイトル通りに宇宙的なスケール感を持った『ソラリス』へ。MCではリーダーのアーサーが「ペンギン・カフェ~は父親が京都に住んでいたときに着想されたものだから、家に帰ってきたようなもの」と語って観客との距離も縮めつつ、ダンサブルなアイリッシュ調の『スウィング・ザ・キャット』、クラシックのショパンの夜想曲とメキシコの伝統的な8分3拍子のダンス音楽が交錯する楽曲など、彼らのレパートリーの中でもダンサブルな楽曲を連発。ミニマル音楽が基調とは言え、実は彼らはスウェードのメンバーやゴリラズ、デーモン・アルバーンのサポートなどで活躍する才人集団だけに、若いロック寄りのファンを踊らせるツボを心得ているのは当然か。世界の音楽のエッセンスが溶け込んだ優雅なチェンバー・ミュージックで、1万人以上の観衆が集う京都の夕刻に幸福なダンスタイムをもたらしてくれた。
 

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 そして、トリを飾るくるりは、ドラム、パーカッションに2人のコーラス隊、高田漣のペダルスティールやキーボード、ユーフォニウムを含む10人編成の大所帯で登場。序盤は、今回の音博のラインナップと同様に、中東やヨーロッパ周縁の音楽の要素も自由に盛り込んで新境地を示した最新アルバム『THE PIER』からの楽曲を次々とシンフォニックに再現し、エレキシタールのリフからめくるめく曲展開で、聴く者をダンサブルに高揚させる新たなアンセム『Liberty&Gravity』へ。中盤はマンドリンも交えたスウィンギーかつサイケな『time』、ブルージーな『三日月』を経て、クラシカルなアレンジとメロディメイカーとしての非凡さが凝縮された名曲『Jubiliee』、ホーンなどが加わり今の彼ららしい響きを獲得した『グッドモーニング』と、暮れゆく時間に沿うようにバンドの歴史をさかのぼる。そして本編のラストには、昨年末に再び東京へと移住したことなどを報告しつつ、「音博ではあまりやらない曲を」とメジャーデビュー曲である『東京』を披露。
 

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 アンコールでは、故・佐久間正英とレイハラカミの両者に捧げられた『There is (always light)』、そして最後の最後はメンバー3人だけでステージに再登場し、「旅を続けて、またここに戻ってこれたらと思います」と語り、アイリッシュ・トラッド的な叙情性も強く出た初期の名曲『宿はなし』を。欧州や中東の音楽などをカラフルに咀嚼しつつも、その根底にはしっかり日本~アジア的情緒も忍ばせ、日本海からユーラシア大陸をも臨むビジョンで制作されたニューアルバムは彼らでしか成しえないクリエイションが全開の会心作だったが、それをライブという場でもしっかりと血肉化してみせた素晴らしいセットで、今年の『京都音楽博覧会』は幕を閉じた。
 
 
Text by 吉本秀純
Photo by 久保憲司

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(2014年10月16日更新)


Check

Set List

くるりセレクトの世界各国の才人が
アコースティックで魅せる京の祭典!

 
『京都音楽博覧会2014 in 梅小路公園』
 9月21日(日) at 梅小路公園 芝生広場

トミ・レブレロ
01. Negro Jefe
02. Noche en la pampa
03. Siete Dias
04. Matsuo Basho
05. Doctorado en Santiago de estero
06. Familia Equina
07. Cuando a Caballo

ヤスミン・ハムダン
01. HAL
02. Deny
03. Ne diya
04. Beirut
05. Aziza

サム・リー
01. Wild Wood Amber
02. Airdog
03. The Ballad of George Collins
04. Jews Garden
05. Goodbye My Darling

tofubeats
01. No.1
02. No.1(remix)
03. Don't Stop The Music
04. 朝が来るまで終わる事の無いダンスを
05. ロックンロール・ハネムーン
(tofubeats remix)
06. 水星

椎名林檎
01. いろはにほへと
02. カーネーション(石川さゆり)
03. 名うての泥棒猫(w/石川さゆり)
04. 最果てが見たい(石川さゆり)
05. 丸の内サディスティック
06. 歌舞伎町の女王
07. NIPPON
08. ありあまる富

ペンギン・カフェ
01. Telephone and rubber band
02. Catania
03. Solaris
04. Swing the cat
05. Perpetuum Mobile
06. Found Harmonium
07. Black Hibiscus
08. Beanfields
09. Salty Bean Fumble

くるり
01. 2034
02. 日本海
03. Brose&butter
04. Liberty&Gravity
05. time
06. 三日月
07. Jubiliee
08. グッドモーニング
09. loveless
10. 東京

EN1. There is (always light)
EN2. 宿はなし

Release

最新型の無国籍サウンドに絶賛の声!
くるりが贈る音楽アトラクション53分

Album
『THE PIER』
発売中 2900円(税別)
SPEEDSTAR RECORDS
VICL-64167

<収録曲>
01. 2034
02. 日本海
03. 浜辺にて
04. ロックンロール・ハネムーン
<album edit>
05. Liberty&Gravity
06. しゃぼんがぼんぼん
07. loveless
08. Remember me
09. 遥かなるリスボン
10. Brose&Butter
11. Amamoyo
12. 最後のメリークリスマス<album edit>
13. メェメェ
14. There is (always light)

Live

音博出演者の今後の関西ライブ
も続々決定。以下をチェック! 

 
サム・リー
【京都公演】
『サム・リー&フレンズ 来日公演2014』
チケット発売中 Pコード241-785
▼12月8日(月)19:00
磔磔
自由3800円
磔磔■075(351)1321

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tofubeats
【大阪公演】
『tofubeats “First Album” Release Party』
チケット発売中 Pコード243-563
▼10月19日(日)16:00
サンホール
オールスタンディング3000円
[出演]tofubeats/他
[DJ]Matsumoto Hisataakaa/okadada/他
[ゲスト]藤井隆/他 [司会]心斎橋てるお
SUN HALL■06(6213)7077

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チケット情報はこちら

 
【神戸公演】
『“PHASE 2” Release Tour』
Thank you, Sold Out!!
▼11月24日(月・休)18:00
神戸VARIT.
オールスタンディング3300円
[出演]Fear,and Loathing in Las Vegas
[ゲスト]tofubeats
キョードーインフォメーション■06(7732)8888
※未就学児童は入場不可。

椎名林檎
【大阪公演】
『林檎博'14 -年女の逆襲-』
一般発売10月18日(土)
※発売初日は店頭での直接販売および特別電話■0570(02)9530(10:00~18:00)、通常電話■0570(02)9999にて予約受付。
Pコード237-684
▼12月9日(火)・10日(水)19:00
大阪城ホール
指定席8888円 立見8888円
夢番地■06(6341)3525
※未就学児童は入場不可。

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くるり
【大阪公演】
『「THE PIER」リリース記念
 くるりワンマンライブツアー2014
「金の玉、ふたつ」』
Thank you, Sold Out!!
▼12月2日(火)19:00
オリックス劇場
全席指定5940円
夢番地■06(6341)3525
※4歳以上は有料。公演当日、高校生以下の方は学生証提示で1000円返金。


Link

くるり オフィシャルサイト
http://www.quruli.net/

『京都音楽博覧会2014 in 梅小路公園』
 オフィシャルサイト

http://kyotoonpaku.net/2014/