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「音楽は最短距離で感性に訴えかける」
民主制から絶対君主制へ。バンドの解散を経てソロとなった
黒木渚が11人の女を描いた革命の1stフルアルバム『標本箱』から
ルーツと人生観までを語るインタビュー&動画コメント

 “黒木渚”とは何者なのか? 昨年12月に突如バンドの解散を表明し、'14年からソロとしての新たなキャリアがスタート。その第1弾となる1stアルバム『標本箱』が4月2日にリリースされた。今作はソロになった決意と覚悟を、女性革命家ジャンヌ・ダルクに重ね合わせた戦う女の歌『革命』で幕を開け、“女”の多面性を描いた全11曲を通して、黒木渚という存在を立体的に浮かび上がらせるコンセプトアルバムとして堂々完成。文学性や演劇性を感じさせる鋭く濃厚な歌世界、秀逸なメロディセンスと凄腕ミュージシャンによる強力なサポートを得て構築された多彩なサウンドスケープは圧巻だ。そんな今作の制作秘話はもちろん、厳しい進学校で純粋培養されていた10代、音楽活動に目覚めると同時に文学の研究に没頭した大学時代、そして現在のミュージシャンとしての覚悟と情熱と、黒木渚の軌跡と信念をフランクに語ってくれた。

 
 
3人で分け合っていた名前を自分のところにもう1回呼び戻して
頭の中にある楽曲のイメージを細部までちゃんと再現し切るまで
責任を持って自分がやった
 
 
――以前のバンド体制が2013年をもって解散となりました。なぜソロでやっていこうと?
 
「以前は3人で“黒木渚”という1人の人間の名前を立ててやってはいたけど、もっと曲を作った人間がイニシアチブをとって曲作りしないと、だんだんと個性が薄れていくんだなって思い始めて。音楽って民主的に作るもんじゃないなって。それで3人で分け合っていた名前を自分のところにもう1回呼び戻して、頭の中にある楽曲のイメージを細部までちゃんと再現し切るまで、責任を持って自分がやった方がいいなっていう気持ちになったんです。勇気はいりましたけど、解散してソロになりました」
 
――ソロになってから曲作りは変わりましたか?
 
「変わりましたね。バンドの頃から歌詞とメロディはだいたい自分で作っていたんです。それが0から1の作業だとしたら、次の1から10の飾り付けの作業みたいなところ…私自身はそこが音楽の一番楽しいところと思っているんですが、それを今までは民主制で、メンバー全員でやっていたんですけど、ソロになってからは私が描いている方針に基づいて、すごく自由にやれるようになりました」
 
――『標本箱』はコンセプチュアルにきっちりと作り込まれていますね。
 
「元々コンセプトアルバムに興味があっていつか作ってみたいと思っていて、今回は“女”というテーマを立てています。一番身近にあるくせにちょっと不思議で、よく実態が掴めないものが女だったんですよね。優しいかと思えば狂気じみていたり、美しい面や醜い面もあって、女の人ってすごく多面的で。それに解答するためには11曲必要だったんです。それぞれの面を表す女たちを集めて、それをお客さんに聴いてもらうことで、女というものを立体的に感じとってもらえるような作品が作りたいなと。それをやることで黒木渚という存在も分かるから。ソロになったタイミングだし、それを感じてもらえるといいなと思って作りましたね」
 
 
このアルバムがカッコ悪いと全てが終わる気がしていた
 
 
――アルバムの曲作りはいつから?
 
「元々あった曲もあるし、前のシングルに入っていた曲もあるんですけど、割と書き下ろしの曲が多いですね。今年の1~2月が制作期間だったんですけど、このアルバムがカッコ悪いと全てが終わる気がしていたから、自分で戦闘モードに入ってまして(笑)。そのせいかすごく冴えていて、音楽的にも研ぎ澄まされていたように思います。と言うのも、バンド時代にずっと応援してくれていたお客さんには、“ソロになって最初の作品を聴いてから、今後も黒木渚を応援するかどうか正々堂々ジャッジしてください!”と言っていたので。このアルバムは下手なことをしたら終わる分岐点だったんです。今年になって一気に出来た新曲はほとんどこのCDの中に入っていて、それが『革命』(M-1)、『人魚姫』(M-2)、『フラフープ』(M-3)、『窓』(M-9)。『ウェット』(M-6)、『あしかせ』(M-11)は黒木渚になる前、10代で弾き語りをやっていた頃の曲ですね」
 
――実際、ものすごく短期集中で完成したんですね。
 
「曲作りしながらレコーディングしていました。でも、製作期間は実質2ヵ月かかってないのに、どの曲もちゃんと手間暇かかってる気がします。出来上がったものを聴いたときに、“私、このアルバム好きだな”って思ったんですよ。そのときにすべての戦闘モードが解かれて、安堵しました。“これが無理って言われたらもういいや”って思えるぐらいのアルバムが出来たなと思いました」
 
――そんなに短期間で出来たとは思えないぐらい、1曲1曲の歌詞もサウンドもしっかり作り込まれていて驚きです。
 
「歌詞に関して言えば、『革命』は語感にこだわって結構手直ししましたし、『金魚姫』は奇麗な日本語を使いたくてちょっと俳句っぽい世界観で、曲調も文部省唱歌みたいに親しみやすいメロディにしましたね。『フラフープ』は敢えて荒っぽいまま出した作品です。この曲には初期衝動がすごく詰まっていて、パッと弾けるように出来た曲だから、その勢いのまま出したかったので、整えたくなかったんですよね」
 
――黒木さんの中で育まれてきたものが、ここにギュッと濃縮還元されているのかもしれないですね。
 
「今まで生きてきた、その時々の黒木渚分の分身たちがいるので。初恋の女の子のことを歌った『窓』みたいな、まだ慎ましい恋心を歌った曲もあれば、何でも掴み取ってやるぜ!みたいな野心家の私がいたりして…」
 
――少女の密やかな恋を歌った『窓』と、女が告白する後悔の念がホラーのように衝撃的な『ウェット』は、同じ人が書いたとは思えないぐらい(笑)。
 
「ですよね(笑)。『ウェット』なんかは言葉が鋭利な分、音はメジャー調にしています。なぜこの歌を入れたかというと、これが“生きる”曲だったからなんですよね。ちょっと聴いただけでは誤解する人がいるかもしれないけど、何回も聴けば死ぬ歌じゃなくて生きる歌だってことが分かると思うので、絶対に聴いて欲しい!と思い収録しました」
 
 
すっごい醜いものを見て“奇麗!”って思う瞬間もあれば
すっごいアングラなものの中に、誰もが持っているような
一般的な要素を見付けたり
 
 
――今作では時に刺激的なメッセージを投げかけていますが、結構覚悟がいることでは?
 
「奇をてらってやったことであれば周りの評判が気になると思うけど、それが素直に自分の中から沸き上がってきたものであれば、物議を醸すことも怖くないと思います。それをやるために、いろんなものを投げ打って音楽活動してるんだと思うし。私は元々公務員だったんで、人に迎合した作品ばかり書くんだったら、そのまま公務員をやってた方がマシだと思うんですよね。なぜそれを捨ててまで音楽家になったかと言えば、ちゃんと本物の音楽がやりたい!って強く思っていたからで」
 
――最も安定感がある仕事を捨ててまで。
 
「なかなか紆余曲折の人生だった気が(笑)。10代は中高一貫の寮に入っていて、かなり厳しい進学校だったので、外界と接触出来なくて(笑)。いろんな世間のことに触れず、知らないまま…少女である時間が普通の人より長かったかもしれません。ホントにニュースも見なかったし、“9.11”も2ヵ月遅れで知るような。TVも雑誌も新聞も漫画もない生活だったんで」
 
――すごい世界ですね。とにかく勉強漬けの日々だったんですか?
 
「外に出てからゾッとしたんですけど。中にいるときはみんなそうなので気付かなくて。それで純粋な幼い少女のまま、18歳まで育っちゃった。だからいきなり外に出たときに、自由であることに適応していくことにすごく戸惑いがあって。誰にも制御されず、誰にも怒られず、自分のやりたいことがやれる環境があって。そこに一瞬怯んだんですけど、大学で素晴らしい女性教授に会って文学にのめり込んじゃったもので、大学院まで行っちゃったんですよ。ポストモダニズムっていう近代の英米文学で、言語と人間とか歴史の繋がりを研究していて。そのせいで理屈っぽい人間に育ちかけていたんですが(笑)、同時に音楽活動もやっていたので、バランスを取りつつ卒業して、バンドを続けたいがために安定した仕事に就きたいと思って、公務員になったんですよ」
 
――黒木さんは音楽以外の舞台や演劇にも興味がある方なのかなと。
 
「あります! 『あしながおじさん』(M-4)も、バーレスクみたいな、キャバレーみたいな風景が頭にあって、その曲調になってるし。若い頃の美輪明宏さんや『黒蜥蜴』とか、寺山修司的な世界観も好きですね」
 
――どこかアングラ的なものを醸し出していますね。
 
「出ちゃうんでしょうね。自分の中に相反するものがあって、すっごい醜いものを見て“奇麗!”って思う瞬間もあれば、すっごいアングラなものの中に、誰もが持っているような一般的な要素を見付けたり。そういうことを歌にしていることもあるし」
 
――黒木さんにはいろんな人生の選択肢があったように思われますが、なぜ音楽を選んだのですか?
 
「そのことを考えていて、最近やっと答えが出たばっかりなんです。私は本も書くし絵も描くし、いろいろな表現方法を持っていましたが、多分音楽は最短距離でお客さんの感性に訴えかけるからだと思います」
 
――特にライブなんかは、一番ダイレクトかもしれないですね。
 
「そう! 絵画だと抽象的だったり、文学だと深く入ってくるのに結構時間がかかっちゃうから、小難しいことになりそうで。でも音楽だとメロディっていう優しいものと、必要最小限の言葉が付いているので。そのコンビネーションがあるからこそ、感覚に入っていける。私は特に言葉が鋭いので、歌詞カードだけ見たら“大丈夫かこの作品?”みたいに感じるかもしれないけど、音が優しければ入っていけることに気付いたんですよね。だから、自分には音楽っていう手段が一番合ってるなと思います。最初に“曲を書こう!”って思ったきっかけは18歳頃の失恋だったんですけど、もやもやした自分の感情を曲にしてしまえば作品っていう形になるから、怒りが昇華出来ることに気付いたので。そこから多分ずっと続いてるんだと思います」
 
 
自分の肉声を通してでしか、その人に伝えられないことがある
 
 
――黒木さん自身は、今の音楽シーンの中で自分の立ち位置ってどう捉えていますか?
 
「同じ音楽家でもそれぞれ得意分野が違ったりするのかなって。私は言葉が好きなので、曲作りのときは圧倒的に歌詞が主導権を握っています。歌詞とメロディがくっついて同時に出ることが多いんですけど、どちらかが先という時は必ず言葉が先ですね」
 
――それは言葉を通して自分の想いやメッセージを伝えたいから?
 
「何だかんだ言ってそこを信じているんだと思いますね。大学時代に研究してたポストモダニズムっていう文学は、言語を信用しないスタンスなんです。言葉は書いた瞬間に二次的なものになるので、自分の頭の中を100%人に伝えるなんてムダだっていう結論になっちゃう。だけど、やっぱり言葉を追求したくてしょうがないところがあります」
 
――今作はいろんな女性を標本箱に入れて聴き手に提示しているようで。特に同性のリスナーの場合は、そのどれかに自分を重ねてしまうかもしれませんね。
 
「特に女性は見付けやすいというか。その日その日で違ってもいいし、私の歌かなと思ったら、聴いたその人の歌にしてもらったらいいと思います。そこが喜びでもあるし。男性の場合は、“女って、こんな顔が11もあって怖いな~!”みたいに思うかもしれないし(笑)。男からすると“女って不思議だな”って思うところもあるかもしれないけど、例えば付き合うならこの子、みたいにフランクにこのアルバムと接してくれたらいいなと思います(笑)」
 
――サウンド面に関してはどんなこだわりがありますか?
 
「バンド時代はギターサウンドだったけど、今回はバンド以外の楽器も増えてますね。曲はギターで作っているんですけど、『革命』にはファンファーレみたいな音が入っているし、バイオリンの音は繊細で精神状態を描写しやすいので、今回は多用してますね。バンド時代はあまり出来なかったけど、今は自由に打ち込みも使っています。最後の『あしかせ』はリズムは打ち込みで二胡も入ってますし。生きてるものと死んでるものの差を出したかったんですよね。二胡はあたたかい音なので生きている感じ、他の音は殺風景だったり無機質な感じを出したくて。打ち込みも窓を叩いた音を録音したり、普通だったらスネアを入れるところにつるはしで採掘する音を入れたり(笑)、楽器じゃない音も結構入れてますね。ただ、ワンマンツアーはフルバンドで廻るので、ライブはまたアレンジが変わります」
 
――基本はバンドの生の音が好き?
 
「生演奏が好きですね。レコーディングもビリビリ震えるほどに感動する瞬間がありました。まだいろんな知らない楽器が山ほどあるので、今はそれにすごく興味がありますし、挑戦していきたいですね。ソロになったのでちゃんと1人でステージに立つことが必要だと思って、修行のためにエレキギター1本で弾き語りするミニツアーで全国を廻ったんですけど、その後に今回のアルバムでもお世話になったドラムの柏倉(隆史 from toe、the HIATUS)さんとも一緒にライブを行って。それによって黒木渚を、より上の次元に引っ張り上げてもらおうと思って。5月のワンマンツアーはこの1対1の対決を踏まえて、フルバンドで廻る予定です。生粋の変態たちと集いたいなと(笑)」
 
――バンド時代とはまた違う見せ方になりそうですか?
 
「以前のようなシアトリカルな要素は引き継ぎつつ、もっと演奏がロック寄りになるというか、演奏家としても歌い手としてももっとスキルアップした姿で、音で感動させる力をちゃんと蓄えていかなきゃなと思っています。よりメリハリを付けて、私が大好きな劇場チックな場面と、1人でエレキを持って廻った期間の積み重ねを活かして、1人で弾き語りをやってみたり。ゴージャスであれひとりぼっちであれ、カッコいいライブにしたいです」
 
――ライブではオーディエンスにどんな体験をしてもらいたいですか?
 
「製品化されたCDの中には絶対に入っていない音の領域があるので。それが、目の前でライブをする意味じゃないかなと思います。自分の肉声を通してでしか、その人に伝えられないことがあって。それが倍音だと思っているんですけど、その中に全ての感情が込められるときがあるんです。それはどんなにいいマイクを使っても絶対に入らない。そこを観てもらうためのライブだと思っているから。それを全部体感して帰って欲しいですね」
 
――ライブは好きですか?
 
「好きです! 生き甲斐ですね。どんなに疲れていても、ライブをしたいと思います」
 
――ソロとなって今度はどんなステージで圧倒してくれるのか、楽しみです。本日はありがとうございました!
 
 
Text by エイミー野中



(2014年5月 1日更新)


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新作にライブに横尾忠則美術館に(笑)
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Release

恐るべきクオリティと覚悟を注入した
新体制の幕開けを飾る1stアルバム

Album
『標本箱』
発売中 3024円
Lastrum
LACD-0247

<収録曲>
01. 革命
02. 金魚姫
03. フラフープ
04. あしながおじさん
05. はさみ
06. ウエット
07. マトリョーシカ
08. うすはりの少女
09. 窓
10. テーマ
11. あしかせ

Profile

くろき・なぎさ…宮崎県出身。幼少期に日本舞踊をやっていた祖母の影響で漠然とステージに対する憧れを抱く。中高生時代は厳しい進学校に通い、読書や絵画、妄想にふける。高校卒業後、福岡の大学に進学。軽音部でギターを学び、市内のライブハウスで弾き語りを始める。'10年に自らの名前を掲げたバンド“黒木渚”を結成。大学卒業後、福岡県内の市役所に勤めるも1年で退職して音楽活動に専念する。'12年にリリースしたデビューシングル『あたしの心臓あげる』が有線インディーズチャート1位を獲得。翌’13年1月より全国発売され、その後も10週連続でオリコンインディーズチャートTOP20にランクイン。さらにiTunesの『ニューアーティスト2013』に選出され、その名を全国に広め始める。同年3月に1stミニアルバム『黒キ渚』をリリース、8月には『SUMMER SONIC 2013』に出演。その後、12月19日に突如バンドの解散を発表。同月28日の『COUNTDOWN JAPAN 13/14』がラストライブとなり、'14年からソロとしての活動を開始。4月2日に1stフルアルバム『標本箱』をリリースした。

黒木渚 オフィシャルサイト
http://www.kurokinagisa.jp/


Live

アルバムに伴うツアーがいよいよ開幕
大阪公演が間もなく開催へ!

 
『黒木渚 ONEMAN LIVE TOUR
「革命がえし」』

【札幌公演】
チケット発売中 Pコード223-180
▼5月2日(金)19:00
cube garden
オールスタンディング3500円
WESS■011(614)9999
 

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード224-036
▼5月4日(日・祝)17:00
umeda AKASO
オールスタンディング3800円
サウンドクリエーター■06(6357)4400
※3歳以上は有料。

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら


【名古屋公演】
チケット発売中 Pコード223-708
▼5月5日(月・祝)17:30
エレクトリック・レディ・ランド
スタンディング3800円
サンデーフォークプロモーション■052(320)9100
※3歳以上有料。

【福岡公演】
チケット発売中 Pコード223-647
▼5月10日(土)18:00
Zepp Fukuoka
1F全自由5000円
2F指定席5000円
BEA■092(712)4221
※3歳以上チケット必要。1F全自由チケットをお持ちのお客様はチケットに記載された整理番号順での入場となります。

【仙台公演】
チケット発売中 Pコード224-468
▼5月16日(金)19:00
仙台 darwin
スタンディング3500円
G・I・P■022(222)9999
※3歳以上はチケット必要。

【東京公演】
チケット発売中 Pコード218-416
▼6月1日(日)17:00
渋谷公会堂
指定席5000円
ディスクガレージ■050(5533)0888
※3歳以上はチケット必要。

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