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金子ノブアキが4年半ぶりのソロアルバム『Historia』
制作秘話にルーツにドラムに表現にと語り尽くす!
フルボリュームでお届けする撮り下ろしインタビュー&
初のトークイベントレポート&動画コメント (1/2)

 “瓦礫(ガレキ)”という言葉を聞いたとき、日本に住む私たちが真っ先に思い描くのは2011年の東日本大震災ではないだろうか。金子ノブアキの4年半ぶりのニューアルバム『Historia』の幕開けを飾るのは、この“瓦礫”という言葉。天から燦々と降り注ぐ陽のようにまぶしく柔らかな声で彼は“瓦礫を越え 君を迎えに行こう”と高らかに歌いかける。ドラム、ギターが発する生の音とプログラミングされた機械的な音の粒がぶつかり合って、はじける。音楽は目に見えないけれど、まるでスローモーションの映像を見ているように、生命を宿した音がほとばしる瞬間に出会えたことに鼓動が高鳴る。自身が詞曲を手掛け、ドラムを叩き、ギターを奏で、歌う。金子ノブアキが『Historia』に刻み付けた音楽は、時に穏やかに、時に激しく、肉体はもちろん心と魂までも揺さぶるダンスミュージックだ。RIZEのドラマーであり、俳優としてもNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』をはじめテレビや映画に大活躍中の彼。新作を交えて行った今回のインタビューは、音楽家としての彼を探求(=Historia)するひとときとなった。ソロでのライブも現実味を帯びてきている様子で、ますます目が離せない。

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このループ感って、俺の中では四季が巡る感覚とか
昼と夜を繰り返す感覚、死生観にも繋がるんですよ
 
 
――’12年に行ったRIZEとしての前回のインタビューの際に“ソロアルバムの準備もしている”と言われていましたが、金子さんのソロとRIZEの新作と、どちらが先に聴けるのかなと思っていたら(笑)。
 
「こっちが先だったね(笑)」
 
――タイトル曲でもある『Historia』(M-1)の出だしの“瓦礫を越え”という一節は、最初に聴いたときには英語詞のようにすら聴こえて。インパクトの強い言葉を柔らかく聴かせる歌い方や、世界がパァーッと明るく開けていくような解放感に満ちたサウンドに、一気に引きこまれます。
 
「でしょ?(笑) 歌い方はちょっと狙ったところもあるし、音に関して言えば、緩急と伸縮を繰り返して脈打って進んでいく感じがうまく出せたんじゃないかなぁ。あの曲はアルバム全体の軸になっている曲だし、今回はアルバムの前半はハーモニーとかメロディとか、バンドではやらないコード感を大事にした世界観を作っていって、後半では楽器の音色を大事にした曲や8分ぐらいの長尺もあれば、グッと深く潜る瞬間もある。そういう二面性+最後の『The Chair』(M-9)だけは、ちょっと快楽的に酔いどれて終わりたくて、その曲だけ(プログラミングとホーンを)権藤知彦さんにお願いしました。最初はもっと静謐で、荒涼とした曲だったんですけど、すごくいい空気を作ってくれましたね。あのラッパの音は“酔っぱらいのおっさん”的な音でしょ?(笑) 『Sad Horses』(M-8)の緊張から解放される感じが必要だったし、いい意味でいい加減に終わっていく。そうして1曲目に戻って繰り返し聴ける流れにしたかったんですね。このループ感って、俺の中では四季が巡る感覚とか昼と夜を繰り返す感覚、死生観にも繋がるんですよ」

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音楽でも絵でも映像でも
あらゆる芸術表現にネガティブなものは一切ないと思う
 
 
――『Weather and Seasons』(M-3)の詞に“僕は季節を諦めない”とありますが、これはどういう意味でしょう?
 
「俺が子供の頃から知ってる春夏秋冬の四季は、今はもうなくなってると思う。奪われちゃったんだと思う。ただ、なくなったから終わりというわけじゃなく、諦めてはいないんですね。最近思うんだけど、音楽でも絵でも映像でもあらゆる芸術表現にネガティブなものは一切ないと思うんです。どんなに暗くて暴力的で救いがないと思えるような作品でも、作った本人はそれを吐き出すことによって救われてると思うし、全てに理由があって、全てが前に進んでいくためのものだと思う。RIZEでもそういう表現をしてるし、このアルバムもそう。諦めてないし、2枚目だけど自分にとってはここからが新しい出発だなっていう気もしてる。ただ、バンドは運命共同体みたいなものなんで“みんなで一緒に行こうぜ!”ってなるけど、このアルバムは聴いてくれる人と俺の1対1の距離感を大事にしたい想いが強かったですね」
 
――その曲と、次の『Call My Name』(M-4)は金子さんの歌も含めてフォーキーな印象を受けました。日本の古き良き歌謡曲に近いニュアンスともいえるような。
 
「フォークは好きですね。岡林信康さんとか森田童子さん、吉田拓郎さんも好きだし、自分の親の世代が好きだったフォークも好きでずっと聴いてる。日頃バンドでラウドな音楽をやってる反動なのか(笑)、普段は歌に寄り添ったものを聴くことが多いですね。日本語の響きや文字の見た目の絵画的なところもすごく好きで、歌詞を書く上ではその辺りも意識しましたね。それと共に今回のアルバムって、アナログ盤でいうと5曲目ぐらいでA面とB面に別れる感じがあって、B面にあたる『Ranhansha』(M-6)と『Sad Horses』の2曲は、俺の中にあるギターバンドの要素ですね。『Ranhansha』はシューゲイザーの要素が強いかな。何気なくギターを弾くとああいう感じになるんですよ。ギターを何本も重ねて透明にしていく感じが、俺の本当に得意なやり方なんだと思いますね」
 
――確かに6曲目以降はそれまでと空気が変わりますね。『Ranhansha』はポエトリーリーディングのようなモノローグが聞こえてきますが。
 
「あれはDef TechのShenの声なんですけど、彼らがツアーファイナルで沖縄にいるときに、俺の留守電に入れてもらった声を使ってる(笑)。これがまたミラクルでね、彼が歩きながら喋ってるんですけど、近くを走ってる車の音が一緒に入ってて、それが曲と同じDマイナーだったの! “うわ、これバッチリじゃん!”って、フィールドレコーディングの奇跡ですね(笑)」
 
――『Sad Horses』の“Horses”にニール・ヤングと彼のバンド、クレイジー・ホースを連想しました。曲も荒涼とした雰囲気とロードムービーを観るような感覚があり、ニール・ヤングの楽曲が持っている世界にも通じる。Shenさんのモノローグもウィリアム・バロウズあたりのビートニクの世界を彷彿とさせます。
 
「『裸のランチ』とか?(笑) いいですねぇ。グランジやオルタナティブ、ミクスチャーって、ビートニクとものすごく関連があって、俺たちはすごく影響を受けてるんですよね。バロウズ、アレン・ギンズバーグとか、彼らに影響を与えたウィリアム・ブレイクもそうだし、アメリカ文学の詩の世界観や散文詩。映画だとゴダールの『勝手にしやがれ』とか『気狂いピエロ』、あとジム・ジャームッシュの『デッドマン』はまさにニール・ヤングが音楽を担当してましたね。その辺りは大好きですね。それと共に僕はジェフ・バックリィも好きで、自分の中のギター像は彼の影響が強いんだと思う。彼のお父さんがティム・バックリィで彼は二世で…要は気合が入った人なんですよね(笑)」
 
――二世という点も含め、自分と相通じるものを感じますか?
 
「おこがましいけど、共鳴してますね。単純に彼の音楽が好きだし、自分の中に(二世という)彼と同じ要素があるなと思うし、そういうものは自然に出てきちゃう。目の前にいたら“気が合うね”って言いあえるんじゃないかな?(笑) さっきのフォークの話もそうだけど、自分の中に蓄積されてきたものは、“オマージュ”っていう形で作品に現れてくるんだと思います。音楽の歴史はそうやって進んできたと思うしね」

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俺とかJESSEとか、ロック第二世代と言われている我々は(笑)
周りのミュージシャンの闇も見て育ってきてるんですよ
 
 
――あと、金子さんを形作る重要な要素の1つにブルースがありますよね。それはJESSE(vo&g・RIZE)にも通じるのかもしれませんが。
 
「それは確かに。ギターは基本的にマイナーペンタトニック(・スケール。ブルースギターの音階)だし、それって要するにブルースギターの影響なんですよね。俺とJESSEが一緒に演奏してるとすごくブルースっぽくなる瞬間があるんですけど、それはずっとあいつと俺が共有してきたものなんだと思う。RIZEは弟(KenKen(b))も一緒にやってるけど、バンドの精神は俺とJESSEが中学から20年間やってきてる中にあるわけで、そのスピリットの根幹はどこにあるんだろう?って考えると、やっぱりブルースなんですよね。特に父親同士(Charとジョニー吉長)がものすごくブルースに影響を受けつつ、日本におけるその第一人者だったりもして。ブルースは元々抑圧から生まれた音楽だし、そこにある感情的なものとか刹那とか闇とか、ブルースという音楽がはらんでいるものがマグマのように沸々と自分の中にはありますね。もしかしたら、ニール・ヤングもジェフ・バックリィもフォークも、俺の中では“ブルース”という言葉に集約されちゃうのかもしれない」
 
――とは言え、『Historia』は決してブルースのアルバムじゃないですよね。
 
「ブルースって、生き方とか気持ちの問題なんじゃないかな。ロックもそうだし、パンクもそうだと思う。俺とかJESSEとか、ロック第二世代と言われている我々は(笑)、周りのミュージシャンの闇も見て育ってきてるんですよ。最高の瞬間もあれば、音楽によって人生が破たんしちゃった人も見てる。それでも、自分が音楽をやってるってことは、素晴らしさが勝ってるってことなんですよね」

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自分の本質の部分を突き詰めていくと何があるのか?
全てを削ぎ落としたときに何が残るのか?
それはドラムで、それを再認識したんです
 
 
――あと、今回のタイトル曲『Historia』のミュージックビデオで、ドラムを叩いてる足元が裸足!
 
「中学ぐらいからドラムを叩くときはずっと同じ靴を履いてて、何度も何度も修理しながら使ってたんだけど、とうとうダメになっちゃって。“じゃ、裸足でいいか”って(笑)。こういう言い方は縁起でもないけど、今回の映像に関しては、もしも自分がいなくなっちゃったら“金子ノブアキはこういう人間でした”って分かるもの、自分の存在証明と言えるものにしたかった。自分の本質の部分を突き詰めていくと何があるのか? 全てを削ぎ落としたときに何が残るのか? と問うたら、それはドラムで、それを再認識したんです。だから映像も俺とドラムだけで、あとは照明のみ。10時間叩きっぱなしでマジでムチ打ちになりました(笑)」
 
――しかも、正面からじゃなく横から撮られているのも斬新で。ただ、CDを手にしてから、ブックレットの写真も全て映像とリンクしているのが分かりました。
 
「ブックレットの写真もかなりこだわったから、写真集に劣らないぐらいのクオリティになったんじゃないかな。ただ、これだけシンプルでいいものを作っちゃうと、次が困るよね(笑)」
 
――もう次作のアイディアが!?
 
「音の断片はありますね。出し惜しみ出来ない人間なのか、いいリフとかが出来たときに“これは次のメインになるね”ってスタッフに言われても、“いやいや、次じゃなくて今出さなきゃ”って思うんですよ。今回もマジで自分の中にあるもの出し尽くしましたね。最近はドラマーとしての哲学も洗い直していて、最近思うのは、海外も含めて誰かのサポートをやりたい。バンドじゃないところで誰かのために徹して叩くことをしたくて、今すごくいい感じで出来そうな気がしてるんですよ。ドラマ『東京バンドワゴン~下町大家族物語』で玉置浩二さんと共演させてもらって、打ち上げで“安全地帯+俺”っていう謎のユニットで演奏する機会に恵まれて(笑)。その場に俺が加わることで、どんなポンプになれるかな?って考えたときに“ブレイクビーツだ!”と思って、俺だけDJ シャドウみたいなドラムを叩いてたんですけど、ものすごい化学反応がありましたね。玉置さんはブルースを感じる世代ですし、共鳴するものがありました。ああいった大先輩と一緒にやって、自分自身が吸収したい時期でもありますね。ドラマとか出てる場合じゃないかも…って言ったら怒られちゃうけど(笑)」
 
――そう言いつつも、絶賛放映中のNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』に続き、映画も『東京難民』『白ゆき姫殺人事件』と続々公開されています。
 
「結構出てますね(笑)。役者の現場に行ってるときって、ドラムのサポートで行ってる現場に近い感覚があるんですよね。監督さんや音声さん、照明さんっていう職人さんたちとの共鳴もすごくあるし、音楽も役者もものづくりに共通する感動があるんですよね。自分としては“俺で良かったら使ってください”っていう気持ちだし、いただいた話には全てベストを尽くす。それだけですね。最初は音楽のためにと思って役者の世界に飛び込んだけど、それから6~7年経って自分自身も変わってきているのを感じますね。自分もいい意味で慣れてきてるし、どんな現場に行っても“あぁお前ね!”って迎えてもらうように、周りが慣れてくれるのもすごく重要で。今、少しずつそうなれてるのも感じるし、俺はどこに行ってもやっぱり音楽の人で、酒を飲めば音楽の話になるし、音楽に夢を見てロマンを見てる。元々両親が音楽の人だし、抵抗出来ない血が流れてるんですよね。その血に抗わない方が自分を押し広げていくことが出来るのも分かってるから、いろんな方面に広がっていけたらいいなと思いますね」

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RIZEはメンバーの誰かが死ぬまでずっと続くバンドなので
 
 
――今回のアルバムはライブで聴きたいと思う楽曲ばかりですが、ソロでライブをやる予定などは?
 
「あります! 実はすでにいろいろアイディアも練っていて、前作のリリース時にも“2枚目を出したらライブをやろう”って話してたんですよ。これは初めて人に話すけど、このやり方は吉井和哉さんの影響が強くて、YOSHII LOVINSONの最初のツアー(‘05)でドラムを叩かせてもらったんですけど、吉井さんも2枚目を出してからツアーをやってるんですよ。そのときに“このやり方は素晴らしいですね!”って言ったら、吉井さんが“だってアルバム1枚じゃ曲が足りねーんだもん!”って言ってて(笑)。元々YOSHII LOVINSONの1stが好きでよく聴いてて、ツアーの話をいただいたときはまだ23歳だったから生意気盛りでね(笑)。吉井さんは大人だから“うんうん、わかったわかった”って全部包み込んでくれて、スゲー人だなって思いました。吉井さんは俺の1stアルバムの『オルカ』を気に入ってくれて、嬉しかったですね。吉井さんには本当に感謝してます。足を向けて寝られない恩人です(笑)」
 
――このアルバムの曲を生で聴ける日を楽しみにしています!
 
「俺はドラムを叩くから、弾き語りじゃなくて叩き語り?(笑) 曲を追体験してもらうという意味でも、バンドとは違ったものになるでしょうね。それと共にRIZEもやりますから! オフィシャルでは’97年結成になってるけど、俺とJESSEが始めてからは今年で20年目に入ったから、気持ち的にはもう50周年が見えてきた気分です(笑)。RIZEはメンバーの誰かが死ぬまでずっと続くバンドなので、今後もソロもバンドも欲張ってやっていこうと思います!」

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(2014年4月11日更新)


Check

Movie Comment

とにかくカッコよすぎます!
金子ノブアキからの動画コメント

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Release

エレクトロ/人力ビートがせめぎ合う
ソロとしての立ち位置を明示した新作

Album
『Historia』
発売中 2700円(税抜)
ワーナーミュージック・ジャパン
WPCL-11715

<収録曲>
01. Historia
02. Postman
03. Weather and Seasons
04. Call My Name
05. Signals
06. Ranhansha
07. Curtain
08. Sad Horses
09. The Chair

Profile

かねこ・のぶあき…‘81年生まれ。‘97年RIZEを結成。‘00年シングル『カミナリ』でデビューし、全米、アジア(韓国・北京・台湾)などの海外ツアーも成功させる。以降、RIZEとして現在までに7枚のオリジナルアルバムを発表。現在は、AA=にもドラマーとして参加している。金子ノブアキとして‘09年に1stソロアルバム『オルカ』発売。パワーのあるドラミングとは対極とも言える繊細で無垢なボーカルも話題を呼んだ。また同年に出演した映画『クローズZEROⅡ』での演技が好評を博し、現在放送中のNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』や公開中の映画『白ゆき姫殺人事件』など、数々の映画やドラマ、CMにも出演し活動の場を広げている。

金子ノブアキ オフィシャルサイト
http://www.kanekonobuaki.com/


Live

Coming Soon…!!!!


Column

RIZEの2年半ぶりにして会心の
シングル『LOCAL DEFFENCE
ORGANIZATION』!
ドラマーとして、俳優として
自身とRIZEの現在地を語る
前回の撮り下ろしインタビュー