デビュー5周年にして第一幕を堂々完結!
生身のandropが息づく驚異のニューアルバム『period』
初の10000人規模アリーナ単独公演を前にバンドの現在地を語る
内澤崇仁(vo&g)&佐藤拓也(g&key)インタビュー
「これでやっとandropがandropになれる」。インタビュー中に自らもそう語った重要作にして、通算6枚目となるニューアルバム『period』がリリースされた。昨年のツアーと並行してレコーディングされた今作は、聴き手と心をつなぐandropの純粋な楽曲のパワーを実感出来るライブ直結の1枚。さらに初回限定盤には全国ツアーや制作の裏側を追った初のドキュメンタリー映像やスタジオライブ映像が収録されるなど、活動当初は名前も顔写真も公表せず匿名性が強かったメンバー4人の素顔や本音の部分がリアルに伝わってくる。彼らはこれまでストイックに何に悩み、何を追求してきたのか? 結成から6年、CDデビューから5年かけてandropがたどってきたバンドの変遷、そして間近に迫る国立代々木競技場・第一体育館での初のアリーナ単独公演に臨む現在の心境を、内澤(vo&g)と佐藤(g&key)にたっぷりと語ってもらった。
今はネットで調べるとすぐに何でも分かっちゃう。そういう時代だからこそ
まずは自分たちの楽曲だけを聴いて判断して欲しかった
――今回リリースされたアルバム『period』は、andropにとって大きな区切りとなりそうな作品ですね。
内澤(vo&g)「1枚目から今回のアルバムまでの頭文字を1つずつ取っていくと、“androp”になるんです」
佐藤(g&key)「今作で“androp”という文字を完成させる“p”までたどりついたので、初めてドキュメンタリーDVDも付けることにしました。普段メンバーがどういう想いで一音一音を鳴らしているかっていうところまで、全部さらけ出そうと思ったんですよ」
――DVDもメンバーの人間味が伝わってくるとても興味深い内容です。今まで敢えてそういう部分を出さないようにしてきた理由は?
内澤「今はネットで調べるとすぐに何でも分かっちゃうし、そういう時代だからこそ、まずは自分たちの楽曲だけを聴いて判断して欲しいっていう想いがすごく強くて。元々ホームページにも名前や顔写真は出してなかったんですよ。『anew』(‘09)『note』(‘10)という1~2枚目のアルバムには、歌詞カードすら入れなかったんです。歌詞よりも音楽そのものを耳で判断して欲しいと思ったので。そういうこともあって、最初はすごく匿名性の強いバンドだったんですけど、だんだんライブをやっていく内に、聴き手が“どんな人たちがやっているバンドなんだろう?”って思うようになってくれて…」
――それはいつぐらいの時期ですか?
内澤「3rdアルバム『door』(‘11)が出た頃ですね。1500人ぐらいのキャパシティのSHIBUYA-AXでライブしたときに、初めてメンバーの苗字を言って」
佐藤「僕らはあんまりMCもしなかったし、只々曲をやって演奏して帰るっていうスタイルだったんですけど、そのライブのアンコールで、お客さんから“自己紹介して!”って投げかけられたんですよ。別に隠していたわけじゃないので、観に来てくれた人がバンドに対して“どういう人がやっているんだろう?”って興味を持ってくれたなら、ちゃんと答えたかったんですよ」
――もしそのときにお客さんに問いかけられなかったら、今でも名前や顔写真は出してなかったんでしょうか?
佐藤「してなかったでしょうね。でも、いざ名前を言ったときに、内澤くんはいいんですけど、佐藤、伊藤(ds)、前田(b)の3人は案外普通の苗字なので、くだらない冗談を言っているんじゃないかって思われたのか、リアクションがあんまりよくなかったんですけどね(笑)」
“あと数時間遅れたらリリース出来ません”
ってところまで追いつめられました(笑)
――冒頭のアルバムタイトルの話にもつながりますが、andropのアウトプットは1つ1つがすごくコンセプチュアルに考えられていますね。
内澤「“androp”は造語で意味が無いので、僕らが音楽活動していく上で意味をつけていきたいと強く思っていたんです。“p”まで進んだときには、自分が納得出来るバンドになっていたい!と。だからこそ、今回の『period』に懸けた想いはものすごく強くて。作業的には、“あと数時間遅れたらリリース出来ません”ってところまで追いつめられたんですけど(笑)、ギリギリまでこだわって作りましたね」
――先行シングルとして昨年『Voice』(M-2)が発表されましたが、andropにとってかなり重要な曲になったと。
内澤「“この曲があったからこそアルバムが作れたんじゃないか”っていうぐらい、『Voice』は核になっている曲ですね。実はこの曲が出来るまで、曲が一切書けなくなった時期があったんですよ。前作『one and zero』(‘12)を作った時点で、andropの向かう方向が分からなくなっちゃって…。すごく迷っていたんですけど、ちょうど1年前の全国ツアーで初日の名古屋のステージに立ったとき、2階席や3階席からみんなの声が降ってきて…このステージに立てているのは、ライブに来てくれてる人や、僕たちの音楽を聴いてくれる人がいるからこそなんだって、改めて再認識して。今度は聴いてくれる人たちと、一緒に歌える曲を作りたいなと思ったんですよね。僕の中の1つの壁みたいなものをぶっ壊してくれた曲ですね」
――バンドの転換期に出来た曲だったんですね。
内澤「そこからもっともっと聴き手と繋がりたい!と思うようになって、それが反映されたのが、その後にやったライブハウスツアーだったんですよ。もっと心と心の距離も近いライブをしたい!と思って、敢えて映像は使わずに、照明も自分たちの表現ありきのものにしました」
佐藤「その模様が今回のドキュメンタリーとして収録されているものですね」
――確かに、メンバー4人それぞれの顔も見えてきて、本音がリアルに伝わってきました。
内澤「アルバムに収録している曲も今までにも増してリアルというか、裸のまんまの自分たちの音になってるし、そうしようと思って作りましたね」
――だからこそすごく楽曲自体も力強いんだと思います。
内澤「ツアーを廻りながらレコーディングも並行してやっていたので、ライブでお客さんと一緒に歌った光景だとか、1人1人が楽しそうに笑ってる顔だったりが、リアルに焼き付いてる状態だったので、それをそのまま音に反映させることが出来たんですよ。だから、同じ音でも気持ちによってこんなに変わるんだなって。すごく生々しくて、ホントに気持ちのこもった音や演奏が録れたし、ちゃんと目の前にお客さんがいるのを思い浮かべながら歌うことが出来た。今までってツアーとレコーディングを並行してやったことはなかったんですよ」
佐藤「だからこそ、レコーディングでも自分を誤魔化すことが出来ないというか、もうそのまんまの自分が出ちゃうので。それが生々しさに繋がってるんじゃないかなと」
内澤「僕はそのツアーの序盤で風邪をひいちゃって、新潟のライブのリハーサルで声が出なくなってしまったんです。過去最低に声が出なかったし体調も悪かったんですけど、その日のライブが“今まででも上位に入るくらいよかった”ってものすごく評価されて」
佐藤「内澤くんの声が出ないのはメンバー全員が分かってたから、絶対に俺らの演奏でバックアップして、4人でいいライブを作ろう!っていう意志が強かったので。その気持ちはちゃんと音になるんですよね」
内澤「そこで気持ちは絶対に音に反映されるって実際に体験したからこそ、今回のアルバムにはそれが込められたと思います」
ああ僕はこんなにも居心地のいい場所を恐れていたんだなって
聴いてくれる人をものすごく信頼出来るようになりました
――今作の楽曲は、聴き手に呼びかけているように感じますね。
佐藤「内澤くんの書いてくる歌詞は、最近変わったなと思うことが多いですね。内澤くんがだいたいの曲のイメージが固まったデモを最初に送ってくれるんですけど、その時点で歌詞が全部乗ってることはあんまりなかったんです。でも『One』(M-5)は頭から最後まで歌詞があって、俺らが去年1年の活動を通して悩んだことや話し合ったこと、ライブを通してお客さんと繋がりを感じて書いたことだなって、一発で分かりました」
内澤「そういう曲じゃないとダメだと思ったんですよ。ライブって人生において一瞬の出来事なので、すごく尊い時間だと思うんです。そこでもっと繋がりたいし、1人1人をもっと大事にしたい。だからこそ、1人のために歌う曲を作りたいと思ったんですよ。『Voice』は大勢で一緒に歌うイメージだったんですけど、『One』は1人1人のために歌った曲ですね」
――最初からみんなと一緒に歌える曲を作ろうとする人もいますが、andropの場合はそうじゃなかったんですよね?
内澤「実は初めの頃はライブが苦手だったんです。自分が納得する音も出せないし、納得する音響も作れないし、CDより絶対悪い音になっちゃうと思って…。でも、ライブをやっていく内に、CDには絶対入れられないような音や体験があるのがライブなんじゃないかと思うようになって。そこから意識が変わって、お客さんとのキャッチボールが多くなって、ライブを好きになっていったんです。あと、自分が鳴らせる音や、音響、照明の精度を高めることが出来るようになったのも大きかったですね」
佐藤「俺も含めた残りの3人は、ライブをとにかくやってきたバンドを経てandropになっているのでまた感覚が違いましたけど、内澤くんはホントにストイックに一音一音構築して音を鳴らすことをやってきた人で、そういう人に出会うのも初めてだったし」
――内澤さんが変わっていくのは一緒にやっていて分かったんですか?
佐藤「すごく分かりましたよ。ライブ中に笑う瞬間が増えたし、ツアーをやっていく内に、ファイナルのステージ上で“終わりたくない”って心から言ってる場面もあって。最初は苦手だって言ってたのに、ビックリしますよね?(笑) それも、ライブを重ねて聴いてくれるお客さんの顔を見られたからこそ、ちょっとずつ変わってきたんですよね」
――理想的なバンドの進化ですよね。
内澤「僕は聴いてくれる人をものすごく信頼出来るようになりました。以前は、聴いてくれる人にちゃんと受け取ってもらえてるんだろうかと不安だったけど、お客さんが投げかけてくれるようになって、自分からも踏み込めていけたというか…。踏み込んでいったら、その場所は自分にとってすごく居心地のいい場所だった。ああ僕はこんなにも居心地のいい場所を恐れていたんだなって。だったら、もっと伝えれば、もっと分かってくれるかもしれないって、思うようになってきたんですよね」
音楽には正直でいたいし、その気持ちを忘れないためにも歌いたい
――そんなアルバムの中でもちょっとタイプが違うなと思ったのが『Sensei』(M-8)と『Neko』(M-10)なんですが、この曲たちが出来てきたきっかけを教えてください。
内澤「『Sensei』は初期からあった曲なんですけど、当初はandropとしては歌えないなと思っていた曲なんです。でも、今の自分たちだったら、責任を持ってカッコよく鳴らすことが出来る!って、メンバー全員が思った。それって自分たちにとってすごく大きなことでしたね。この曲が歌っているのは、政治家だったり、音楽を商業的にやっている人たちだったり、震災のときに的外れなことを言っていた評論家だったりが、ホントに“先生”と呼ばれるようなことをやっているのか?という疑問というか…。自分もある人から見たらそういう立場なのかもしれないし。そういったときにちゃんと音楽と向き合えるのか。音楽には正直でいたいし、その気持ちを忘れないためにも歌いたいなと」
――これは他の曲と比べて曲調も異質ですね。
内澤「最初から打ち込みの音色で、リズムトラックもほとんど変わってないですね。歌詞で皮肉を言ったりすることは少ないので、今までの鬱憤が全部詰まってるのかもしれません(笑)」
――『Neko』の曲調も異色で興味深いですが、このアイデアはどこから?
内澤「アルバムが完成したのは1月末なんですけど、一番最後まで作業していたのが『Neko』なんです。その頃は家とスタジオの往復で心が荒んで、癒しを欲していたんです(笑)。僕は猫を飼っているんですけど、家に帰ったときにすり寄ってくる猫にすごく癒されていて。だから“にゃー”とか普段では絶対言わないような歌詞になってる(笑)。デモはウッドベースとジャズドラムの音源を元にして作ったんですけど、新しい曲調だと思いますね」
自分たちがステージに立っている意味
鳴らしている意味をちゃんと提示したい
――今年でデビュー5周年を迎え、アルバムタイトルに“ピリオド”と名付けたandropのこれからは、どうなっていくんでしょうか?
内澤「まさかこんなに長く音楽活動が出来るとは思っていませんでしたね。『period』はやっと“andropがandropになれる”アルバムというか。ここからandropというバンドに手足が生えて、いろんな場所に行けるんじゃないかな」
佐藤「考えてみればそんなに経ってたんだっていう感覚が強くて。初めて4人が出会って、初めてライブしたときのことも最近のことのように思い出せるし、一瞬のようだったし、濃い時間だったし、その時間をかけてようやく『period』で自分たちを曝け出すことが出来た。これから楽しみにしててもらいたいなと。ライブでもそういうところを見せられると思うので」
内澤「ライブの精度もさらに高くして、もっといいものを見せなければと思っています。映像を全く使わないライブも出来るし、映像にすごくこだわった見せ方も出来る。感覚をフルに使ったライブをしたいですね。自分たちがステージに立っている意味、鳴らしている意味をちゃんと提示したい。音響、照明、映像、表現、演奏、全部にこだわったものにしたいし、ちゃんと納得出来るものを提示したい。次の代々木のライブ(3月23日(日)に東京・国立代々木競技場第一体育館で行う初のアリーナ単独公演)は10000人規模なので、まずはそのお客さんと一緒に歌うことを目指していて。会場が1つになる瞬間を作りたいなと思っています。それは1人では絶対出来ないことなので、来てくれる人にとってもすごい瞬間になるんじゃないかな。そういう瞬間は、生涯の中でもあんまりないと思うので」
――そういう体験って一生忘れないし、もしかしたらそれまでのライブの価値観が変わるぐらい、すごい体験になるかもしれない。楽しみです。本日はありがとうございました!
Text by エイミー野中
(2014年3月20日更新)
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