痛みと叫びの先にある景色を誠実なロックミュージックに装填する
それでも世界が続くならの驚異のメジャー1stアルバム
『僕は君に武器を渡したい』。現実主義者が見た最後の夢を語る
インタビュー&動画コメントが到着
篠塚将行(vo&g)がライブハウスで働いていたときにふと見かけた、何気ない言葉。“それでも世界が続くなら”自分は何をするだろう? ‘00年より前身となるドイツオレンジとしてキャリアを積むものの、メンバーの病気等様々な要因により事実上の解散。そんな彼が選んだ、最後のバンド。それでも世界が続くならが、メジャー1stアルバム『僕は君に武器を渡したい』をリリースした。インディー時代の代表曲も含む13曲は、少年のようにあどけないハイトーンボイスでもない、サビで四つ打つこともない、ライブでステップを踏むことも、サークルモッシュすることもないだろう。だが、再生ボタンを押したその瞬間から、一音一音に込められたすさまじい感情の情報量が、問答無用に胸を貫く全67分を駆け抜ける。諦めの感情をデフォルトに、常に一歩先の終末を見据える。誤解という名のバイアスを覚悟するからこそ、自分の思う真実を歌う。彼らが痛みと叫びの先にある景色を誠実なロックミュージックに装填して手渡す『僕は君に武器を渡したい』に、ぜひ耳を傾けて欲しい。高校時代クラスになじめなず、ずっと音楽室にいたという彼に、“バンドをやらないか”と声をかけた君、ありがとう。その先の未来に、こんなアルバムが生まれたよ。
篠塚(vo&g)と琢磨(b)からの動画コメントはコチラ!
――今回はデビュータイミングということで、そもそも音楽を始めたきっかけから聞いていきたいなと。
篠塚(vo&g)「親が教師なんですよ。だから気合が入ったんでしょうね、長男ですから。英才教育でいろんな習い事をしてたんです。その中の1つがピアノで、幼稚園くらいから始めたので、音楽は気付いたらやってたんです」
――やりたいとか、やりたくないじゃなくて、やってたんですね。
篠塚「自主的にっていう感じは全くないですし、音楽は憧れというよりも、泣きながら練習するものっていうイメージだったんですよね。勉強と同じで、やらなきゃいけないもの。だから最初は心から音楽が嫌いでしたね(笑)」
――アハハハハ!(笑)
篠塚「ゲームとかしたいこととか遊びたいことがあるのに、我慢してやるイメージだったから。あと、僕は小学校からイジメられてたんですけど、イジメられてると、悔しいというよりは、うまく出来ない自分がいけないんだっていう発想がどこかに出てくるんですよ。言えない自分が悪いんだっていう、漠然とした感覚が」
――相手が悪いじゃなくて、自分に向かっちゃうんですね。例えば学校に行かないっていう選択肢もありますよね。
篠塚「そこで“行かない”を選択出来たらよかった。行かないべきだったんです。でも僕、皆勤賞だったんです」
――アハハハハ!(笑) すげぇやん!
篠塚「イジメられてるのに皆勤賞って半端じゃないですよ(笑)。今思えば根性だけはつきましたけど(笑)。でも、母親が女手1つで育ててくれたのに、イジメられてるなんて言えない。何とか跳ね除けたいけど出来ない。だから耐えるしかない。ケガして帰ってきても全部自分でこけたって言って。結局そういう気持ちを繰り返してたときにブルーハーツを聴いて。こんな人もいるんだなと思ったんですね」
――どういうきっかけで聴いたんですか?
篠塚「テレビで『リンダリンダ』とかが流れてたんです。こういう風に言えたらよかったのかなとか、なれたらいいのになとか…それはミュージシャンになりたいというよりも、1つの生き方としていいなって思ったんです。こういう風な在り方でいられたらいいのになみたいなものが、ロックにはあった。ブルーハーツって、クラシックをやってた僕から見たら、コードとか信じられないくらい簡単なんですよ。それまでは、技術さえあればいいみたいに振り切ってたんですよ。生き方に正解があったんです=それ以外の生き方はアウト。それが、イジメられたことをきっかけにどうしたらいいか分からなくなって、ブルーハーツと出会った。こんなに簡単で、こんなに誰にでも出来そうなことをやってるのに感動するってことは、もしかしたら俺が信じてきた正解は間違ってたんじゃないかって。それはすごく大きかったと思いますね。それからギターを持って。今も昔もギターを持ったことだけが、自分からやろうと思った唯一のことだと思うんですけど」
――ピアノでもいいですもんね、弾けるから。
篠塚「弾けないギターを持つことに意義があったんですよ。出来ないことをやることにすごく意義があったんです。例えば、努力は報われないかもしれないってこの歳になるとさすがに分かるし、願ったところで叶わないかもしれない、思い通りにもならないかもしれない。そんなの当たり前だよねって思えるようになっちゃった。じゃあ願わないし、努力もしないし、思い通りにいかないなら思うこともしない。っていう話になっちゃうと、じゃあ死のうってなりますよね(笑)。真剣に考えれば考えるほど、何もなくなっちゃう。でも、結局俺は、本当はよりよく生きたいのに、全部思い通りにならなかったから、全部いらないって言ってるだけかもしれない。全部欲しいから、全部いらないって言い出しただけだなって気付いて。じゃあ、手に入らないかもしれないけど、1つだけでも、1つずつでも欲しいものを、まぁまぁのものじゃなくて、本当に欲しいものを少しずつもらえるように努力しようって。だから、ギターを買ったんです。ギターが上手く弾けるようになるかは分からない。努力しても報われないかもしれないけど、それはやらない理由にはならない。それが僕がロックから教わったことなんです」
――“始める”ってことですよね。自分が今までやってなかったことを。そう考えると、音楽が嫌いだったのに、もうちょっと関わり方が変わってきる。目線もすごく大人というか。
篠塚「そうかもしれないですね。“売れるぞ!”みたいな若い子と話してるとちょっと疲れる。その先を僕は考えちゃうから。売れることが目的になってしまったら音楽をやることが手段になるから、目的を果たした後の、手段になってしまった音楽とどうやって向き合うのか。そこからもう1回夢を探す、やりたいことを探すってすごく難しいし大変だと思うんですよね。なぁなぁになって、休止という名目を使わず休んでしまうバンドもいるし」
――めっちゃ考えてる(笑)。あと、他のインタビューを読んでいても思ったのは、“誠実さ”が1つのキーワードかと。
篠塚「そうですね。それはメンバーにもずっと思ってるし、スタッフにも思ってる。あんまり言わないけど(笑)。俺はそこしかないと思っていますね」
――こういうぐちゃぐちゃの世界で、誠実であることとか素直であることって、めっちゃ大事というか、唯一信頼出来ることというか。
篠塚「そうなんですよ! 例えば僕は怖がりだから、想像し得る最悪の事態を想定しておくんですよ。例えば、奥さん(=筆者)が今インタビューしてくれているけど全部口だけで、他のインタビューも実は全然読んでなくて、めっちゃ俺のことが嫌いだけど仕事だしお金のためにやってる。で、取材が終わって僕たちが出て行った瞬間に、ふーって溜息ついて疲れた~って言ってるのを想像するのが、僕にとっての一番最悪のパターンです(笑)」
――アハハハハ!(笑) “信じ損”みたいになりますもんね。
篠塚「でも、疑い続けると人にネガティブな弾丸を打っちゃうわけですよ。例えば今のお話で、僕が“誠実さ”を伝えようとしていることを知ってくださってるっていうことは、本当に他のインタビューを調べて読んでいるんだな、やっぱり信じられる人なんだって、だんだんマイナスからプラスに上げていくんですよね。ただ、最悪の想像も、最高の想像も、思い通りにならないという点では一緒で。今みたいに最悪の想像をしたところで…」
――大抵はそんな悪い結果にはならない。
篠塚「最高の想像なんて叶わないのと同じように、最悪の想像も叶わない。最悪の弾丸を浴びせたときに、生き残る希望みたいなものがあるんですよね。この弾丸でお前の化けの皮が剥がれるんだって思うけど、剥がれないことも確かにあるんですよ。それが本物ってことだし。でも、ぶっちゃけどんな風に脚色されようが、どんな風に書かれようがいいんです。その人が書いた通りでいい。誤解されてもいいんです。なぜなら本当のことしか言ってないから。どんな弾丸を浴びせられても、僕らは変わらない。どう見せたいかじゃなくて、どう在りたいかだから」
売れたところで、売れなかったところで
たった1曲のたった3分で人生が変わったっていう事実に比べたら
どうでもいいことなんですよ
――あと、“僕らは2年契約なんですけど、多分2年で終わると思います”って他のインタビューでぶっちゃけて話してて、おもしろいなって思ったんですけど(笑)。
篠塚「言わない方がきっと楽なんですよ。でも、言ったからには手を抜いたら許されないじゃないですか。2年で終わるからこそ、2年で全力を出して本気でぶつかる。音楽は聴いてくれる人がいて初めて成り立つものだと思うから、そこに対する誠実さというか。あとは僕らみたいなバンドがいるのを知って欲しいというのが大きいですね。自分たちが生き残るために他を蹴落とす人もけなす人もいますよね。でも、売れたところで、売れなかったところで、たった1曲のたった3分で人生が変わったっていう事実に比べたら、どうでもいいことなんですよ。レコード会社の人だって家族がいて、僕らのことが一番じゃない。家族が一番で、その次に友達がいて、彼女がいるかもしれない。僕らなんてその次の次の次くらいですよ(笑)。だからと言って適当じゃないし、僕らもそれを全部分かってるからこそ、関わってくれてるレコード会社の方も事務所の方も含めて、本質のところでやりたいんですよね」
――とても新人のインタビューとは思えない(笑)。
篠塚「アハハハハ!(笑) ホントっすか(笑)」
――メジャーデビューだワーイ感全然ない(笑)。でもさっきの“僕らみたいなバンドがいるのを知って欲しい”っていうことで言うと、こういうバンドがメジャーに来たことがすごく面白いというか、意義があることだと思っていて。音楽的にそこまで大衆向けではなくても、志があって、筋を通してインディーズで活動する。それも全然大好きやし、分かる。でもだからこそ、そういう人たちがメジャーでやってる世の中だったらもっとおもしろいなって。
篠塚「奥さんのその言葉、絶対そのまま使って欲しいです(笑)。僕がずっと思ってた、だったらいいなと思ってた未来って、そういうものだったんですよね。それは自分たちがどうこうじゃなくて。何でこんなに本当のことを歌ってるバンドを誰も知らなくて、明らかに商業的なアーティストのことをみんなが好きなんだろう? 宣伝力なのか? 何なの?って。これが僕がメジャーに偏見を持ってしまったところでもあるんですけど」
――最初は不信感があったんですよね。
篠塚「今はもうなくなりましたけどね。結局“人”なんだって。インディーズもメジャーもそんなに変わらないのが現実。場合によってはインディーズでもっとコスいことを考えてる人もいっぱいいるし。ただ売るための音楽もアリだと思うんです。それが文化でもあるし。でも、僕らが想像した嬉しい未来って、それとは違ういい音楽をみんなで届けていこう、そういうシーンもあったらいいのにってずっと思ってたんですよ。僕らなんかがメジャーデビューさせてもらう話になって、最初はもう絶対にあり得ないと思ったんですよ。僕らってものすごくライブハウスのバンドで、僕自身ブッキングのバイトをしてたんで」
――裏方目線もあるというか。
篠塚「むしろ裏方希望だったんです(笑)。僕、ライブハウスのおじさんになっていくのが夢で。若いバンドをどんどん育てていけるような。それが、音楽に対する、ロックに対する恩返しだったんですね。“お前らすぐ売れたい売れたいって言うけど、じゃあ最初何でギター買ったんだよ? どんな音楽が好きだったんだよ? それを忘れてんじゃねぇのか?”ってずっと熱弁してたんで(笑)。誰もがメジャーデビュー出来るわけじゃないのはもちろん分かってましたけど、あるときそういう話がきて、この話をもし俺たちが受けたら、音楽の世界がちょっと楽しくなるなと思ったんですよ。もし俺らみたいなバンドがメジャーデビューしたら、売れるためには媚びなきゃいけない、本当のことをやりたいから一生インディーズ、っていうこの二択の世界に、ヒビくらいは入るかなって思ったんですよ。結局みんなそういうバンドを待ってるんですよね。例えば取材する側も、ライブハウスの店員だった僕も、リスナーの人も」
僕は自分の人生って、1つの曲だと思ってるんです
多分今、1番のサビに入ったところなんですけど(笑)
イントロが相当長かった
――最近、何だかんだ言って、がむしゃらであるとかいうことに人って動かされるんだなと思うんですよね。小細工が通用しなくなったというか、小細工したところで結果が変わらなくなってきたから、そういうまっすぐな熱が力を持つようになったというか。
篠塚「綺麗事は通用しなくなったけど、本当に綺麗なものは通用するというか。でも、僕らもいつか解散する(笑)」
――それよく言ってるよね(笑)。
篠塚「終わるまでに何を残せるかだと思うんですよ。いつまでも続けられる気でいるから、ダラダラ音楽をやってしまう。ライブハウスで働いているとよく分かるんです。目先のことを頑張るのは大事なんですけど、その原動力はいつまでもバンドが出来ると漠然と思ってるからなんですよ。いつまでも続くわけがないのは、知識では分かってるけど感覚的には分からないから。解散するはずじゃなかったのに誰かが辞めるって言い出して、急にグシャグシャになる。でも、それが最後だって気付いてたら、ある人は無理してでもワンマンしたかもしれない。無理してでもCDを出したかもしれない、ツアーを回ったかもしれない。きっとそのバンドでやりたいことがあったはずなんです。それが出来ないまま、一瞬の出来事で終わっていくんです。それは、終わりをちゃんと考えてないから。想像出来てないから、立ち向かえないんです。じゃあどうせ終わるなら何するよ?って話で。僕はおばあちゃんが昔やってたマンガみたいなトタン屋根のボロボロの借家に住んでるんですけど、こいつ(b・琢磨)も住んでて」
――ついに出てきたよ~! 琢磨くんが。ここまで読んできた人も、まさかもう1人取材に同行していたとはって思ったかも(笑)。琢磨くんは北海道から遊びに来たまま居候してるんよね(笑)。
篠塚「彼女にフラれたんですよ。傷心旅行です(笑)」
琢磨(b)「ハハハハ(笑)。引き篭もりだったんですけど、そのとき付き合ってた女の子がいて」
――引き篭もりなのに付き合えてるのはどうして(笑)。
篠塚「引き篭もりって言うとおかしな目で見られたりするんですけど、半引き篭もりです(笑)。お兄ちゃんがバンドマンなんで、弟を引っ張り出そうと札幌のライブハウスに連れて行って。そこで出来た仲間が“章(悟)ちゃん来いよ”って誘ってくれるんで、居場所はあったんですよ。その中の子が彼を好きになって」
琢磨「で、結局その子にフラれたときに(笑)俺が篠さんに電話して、日本一周の旅に出ようと思うって相談したら、うちに来いって言ってくれたんで泊りに行ったんですけど。そこでまだ止まってるんですよ(笑)」
――日本一周のまだ1ヵ所目(笑)。
篠塚「その頃、僕のバンドは解散して、音楽をやるかやらないか毎日悩んで。それもあってブッキングの勉強をしたり、ライブハウスで真剣に働いてたんです。元々裏方志望なのに誘われるがままバンドに入って、そのままボーカルがいなくなって代理でボーカルやって、メンバーが好きだからそのままずっと続けてきて、そのバンドがなくなった。もうやる理由がないんです。ただ、音楽のそばにいたいとは思ってたから。俺が一番カッコいいと思うロックバンドって、上手いからとか音楽的造詣が深いとかじゃなくて、“俺はお前が好きだから一緒にやりたい”っていうバンドなんですよ。全員がそれで構成されている。友達とやるのが自分にとって一番カッコいいロックバンドの在り方だったんですよね。そのときに、最後にもう一度“バンドをやろう”って思った。そういうバンドを最後に組んでみようって。こいつは楽器が弾けなかったんですけど、泊まりに来たと。僕、一応前のバンドを10年くらいやってるんですよ。そのボーカルが、“彼女にフラれて悔しいから日本一周してんだろ? バンドやろうよ、俺と”って誘って」
琢磨「俺は“無理です!”って(笑)」
――ハハハハハ!(笑) マジで!?
篠塚「あの“無理です!”は忘れもしない(笑)」
――本当はやりたいけど無理だっていう感じだったの?
琢磨「それですね。自分がたいしたことないヤツだと思い込んでたんで」
篠塚「今の言い方だと今はたいしたことあるヤツみたいになるけどね(笑)」
琢磨「アイスも買っちゃいけないヤツなんだって」
篠塚「もちろん旅費もあるんでアイスを買うお金は持ってるんですよ。でも“いや、無理っす”って。自分はガリガリ君を買ってはいけない人間だと思ってるんですよ(笑)。それは娯楽だから。仕事を辞め、働きもせず、旅行に来てる自分がガリガリ君を買って食べるなんてもってのほかだと。ストイックですよね(笑)」
――ガリガリ君って60円くらいでしょ(笑)。
琢磨「60円のアイスを買うことで、また繰り返しちゃうかもしれない。ということは、これが10回続けば600円、100回で6000円。それって…って思うと一歩が踏み出せない」
――その一歩を踏み出すってことは、この後転げ落ちますよって、1つ1つがたいそう過ぎるわ!(笑)
篠塚「僕らのバンドは大げさなんですよ(笑)」
――でも、真逆の人間というよりむしろ同系統の人間だよね、2人は。
篠塚「僕と章吾は近いですね。僕の方がリアリストなんですけど、章悟は夢想的なんです。それは出会ったときからそうで。根本的な捉え方とかは一番近いですね」
――結局アイス買ったん?
琢磨「買って、篠さんに見せに行きました」
――アハハハハ!(笑)
篠塚「絶対に買った方がいいって熱弁したんです」
――その悩んだり苦しむ時間の長さより、60円を稼ぐ方法を考えろっていうね。楽しいことをするためにね。
篠塚「あと、僕がバンドに誘ったのは好きだからなんですけど、ただ好きなだけだと誘えないんですよ。何となくベース持ったらこいつが変わる気がしたんですよ。ライブをして、いい演奏をして、その音楽を好きになってもらって、それでもしお金をもらえることになったら、それでアイスを買えってことなんですよ。ベースを死ぬほど練習して、頑張って買えばいい。そしたらそのアイスはめっちゃおいしいと思うんですよ」
――俺、今回他誌のインタビューをいっぱい読んでるから思うけど、そこから感じた鬱屈した印象より、すごいしっかりしてるよね。もっとダークなイメージを受けてたわ。
篠塚「逆に、インタビューする人も僕らの音楽を聴いて最初からダークな人前提で聞いてくるから、こっちもダークにしてる気はないんだけど、自ずと会話の内容が暗くなりますよね?(笑) あと、バンド名のこと、結成のこと、楽曲のこと、絶対に聞かれます。でも、いいんです。インタビューに来てくれた人の誠実さに応えたいのもありますし、真摯に全部答えます。ただ、次に会ったときあなたはどんなことを聞いてくれるんですかって。それがめっちゃ擬似的に起こってるのが今日のインタビューなんですよ(笑)」
――俺も今回その段階を踏むはずだったのに、もう飛ばしてもうてるからね(笑)。
篠塚「僕は自分の人生って、1つの曲だと思ってるんです。多分今、1番のサビに入ったところなんですけど(笑)。イントロが相当長かった。これからどうなっていくかは分かんないけど、人生っていうのは自分で作るんだよって。曲と同じでね。お前がAメロでやたら落ち込んでいるのは、お前がそういう曲を作ってるってことにどこかで気付く。確かに自分の思い通りにならないことはいっぱいあるけど、誰の思い通りにもならないからおもしろいんです」
結局、僕は人が好きなんですよ
――しかしまぁよくここまでやって来れましたな。
篠塚「本当は誰かにやって欲しかったんですよ。こういうバンドがいて欲しい、でもいない。こういう風に言って欲しい、言ってくれない。結局、他人に期待して、自分で勝手に傷付くんですよ。人に任せて、勝手にガッカリする。違うんですよ、他人に期待してやってもらえなくて嘆くんじゃなくて、自分に期待すればいいんですよ。今日もお店回りに行ったんですけど、前のバンドのときから好きだったって言ってくれる店員さんがいて、わざわざポップにも書いてくれて。この十数年間、歌ってることは変わんないんですよね。石の上にも三年じゃないですけど、散々地元のライブハウスにバカにされてたけど、ずっと変わらずにやってきたら、こういうことも起こるんだなって。メジャーデビュー出来たことが嬉しい嬉しくないは1回置いといて、やってきた結果の1つだと思ってます。耐えてきた結果の1つだと思ってます。十数年やってれば、こうやって好きだと言ってくれる人もいるんだって」
――前のバンドがほぼ解散状態になったときに、よくもう1回バンドをやろうと思えたよね。何で辞めなかったんだろう、何でまたバンドなんだろうって思ったんですよ。
篠塚「これは今も変わらず思ってることなんですけど、信じられないくらい恥ずかしい話をしますけど、結局、僕は人が好きなんですよ。イジメっ子って楽しいときは殴らないんです。だから、相手が楽しいと安心してしまう癖がついてしまったのもあると思うんですけど、自分だけが笑えるよりは、相手が笑ってくれた方が、僕も楽しい。誰かを出し抜くとか、僕だけが得する方法はいくらでもあると思うんですけど、楽しくないんですよね。僕にとっては今回のアルバムがどうこう以前に、メジャーデビューすること自体にものすごく意味があった。イジメられてた頃の僕があのときブルーハーツを見たように、誰かが今の僕らを見て、こんなバンドがいてくれてよかったなって思ってくれたら…。あいつらみたいにイジメられてたヤツがメジャーデビュー出来るんだったら、今は悔しいけど、ギターを買って弾いてみようって。殴られたボロボロの手でギターを死ぬ気でかき鳴らしたらいい。今はイジメられてるかもしれないけど、メジャーデビュー出来るかもしれないじゃないですか。例えば、映画監督は巨匠になってからの話だし、スポーツ選手は本当に極めないと難しい。でも、僕らロックバンドは、演奏をちゃんとする気持ちと、言いたいことをちゃんと言えるかどうかで。売れないかもしれない、評価されないかもしれないけど、本当のロックバンドになれますよ。僕らが信じてた音楽って、そういうもんじゃないですか。僕にとってのいい音楽の“いい”って何?って聞かれたら、純度なんです。人に聴かせていいものって誠実なものだと思うんですよ。100人いたら100人答えが違って当然よくて、本当に思ったことなら“お金が稼ぎたい”でもいい。ただ、それが=音楽の在り方として足並み揃うことが問題なんです。みんながマラソン大会でショートカットしてるみたいなもんですよ。あいつがショートカットしてるから、次から俺もショートカットしようって。そうしたらみんな、本気で走ることの意味をなくすじゃないですか。僕らは、ズルしないんです。でも悔しいんですよ。悔しいから一生懸命やるし、僕らなりの答え=純度はちゃんと出す。本当に純度の高さだけは負けないバンドになりたい。だって結成も楽器が出来るじゃなくて、友達で選んでるぐらいですからね。技術どころか弾けないですから(笑)」
――例えば、高校時代からのバンドとか幼馴染のバンドの何がいいかって、損得勘定とかどういう出自だとかじゃなくて、友達みんなで集まってやることが=バンドだったみたいなところで。そういうヤツらにしか出せない音みたいなものはやっぱりあるなって、長いバンドを見てたらすごく思うんですよね。
篠塚「そうですね。いや~奥さんは音楽を信じていますね。信じていきましょうよ! 俺たちが音楽を信じなかったら誰が信じるんですか! 今この時代、音楽は疑われてますよ。音楽がかわいそうですよ。俺たちが好きだった音楽って、もうちょっとカッコいいもんでしたよね」
――だからこそ、これからどうなっていくのか楽しみやね。本日はありがとうございました!
篠塚&琢磨「ありがとうございました!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2013年10月24日更新)
Check