感情と関係性が降り積もるミニマルなグッドタイム・ミュージック
KARENを経てアチコ(vo)とART-SCHOOLの戸高賢史(g)により
結成されたRopesの絶景1stミニアルバム『usurebi』
結成から制作秘話、そしてキャリアを振り返るアチコインタビュー
ボーカルとエレキギターのみという極めてミニマルでビートレスなサウンドスケープで構成されながら、ひんやりとした音の質感の中に確かに宿る、ぬくもりと陰影のある音楽。明け方のほのかな光のような、夕景の僅かな輝きのような、1つの喧騒を経た家路へのグッドタイム・ミュージック。ART-SCHOOLとdownyのメンバーを中心に結成されたKARENで活動を共にしたアチコ(vo)と戸高賢史(g)2人が、その解散後に新たに結成したユニットRopesが、1stミニアルバム『usurebi』をリリースした。on button down、石橋英子×アチコ、WUJA BIN BIN、(((さらうんど)))やLOSTAGEなど幾多のサポート/ゲストとしてその儚き歌声を聴かせるアチコ、ART-SCHOOLをはじめ、様々な現場でセンシティブ&クリエイティブなギターワークで魅せる戸高の2人が、’11年にアナログ7インチのみでリリースされた『SLOW / LAST DAY』以降、丹念にライブを重ねる中で生み出した『usurebi』は、この2年の間に降り積もった感情と関係性が編み込まれた、実験的でありながらエバーグリーンな1枚に仕上がっている。そこで、10月20日(日)大阪・梅田Shangri-La、11月9日(土)東京・富士見丘教会にて行われるレコ発ライブを前に、アチコにこの類まれなるユニットの成り立ちから2年間にわたる制作秘話をインタビュー。彼女のキャリアをもさかのぼりRopesへと回帰する、ロングエンドな物語を一緒に堪能して欲しい。
――Ropesの初の流通音源としてようやく『usurebi』が出ましたけども、アナログ7インチのみのリリースとなった『SLOW / LAST DAY』からもう2年経ってて。
「出したかったんですよね、ずっと。出したかったんだけど、今じゃないと思って(笑)」
――何やそれ(笑)。出したいのに、今じゃない?
「Ropesを始めて思ったよりも早く7インチを出して、それを持っていろんなところにライブしに行って、いろんな人に会って…またすぐ次もやりたいなっていうのはあったんですけど、トディー(=g・戸高)と2人で音楽を作っていく上で、もうちょっと彼と共有したかったこととか、共感したかったこととか、まだ必要な部分が結構あって、ちょっと時間が掛かってしまったというか」
――『SLOW / LAST DAY』に手応えはありつつも、まだまだ足りないものというか、もっと熟成するものがないとっていうことを、同時に感じてた。
「そう。何か私って、今までバンド活動してきたときも、“気が付いたらやってた”ことがスゴい多かった…(笑)」
――なし崩し(笑)。
「アハハハ!(笑) 最初にドゥーワップ・グループに入ったときも、たまたまその当時の恋人がいた大学に出入りして(笑)、よく遊びに行ってたパーティで歌ってたのがドゥーワップ・グループで。“アタイたちと一緒にやらない?”って言われて“素敵!”と思って入っちゃったら、それがBENTEN LABELのバンドだったとか。自発的に“よし! 何月にCD作って、Tシャツをこれだけ作って、ツアーをこことここでやろうぜ!”みたいなことが、1回もなかったというか。だから、そういうバンドのダイナミズムをまず2人で共感して、体感していくことが、このRopesっていうプロジェクトではスゴく大事なことだったというか」
――この2人で、Ropesをちゃんとやりたかったと。
「別に誰も待ってるわけじゃないし、自分たちでやりたくて始めたし、レーベルにも属してなかったし、ホントに観に来てくれたり応援してくれる人と同じように、自分たちもRopesというプロジェクトを楽しんでいるので。そこにちょっとでも、ん?って思うことがあるまますり抜けていく感じがあったら、もったいない気がしたというか」
――別にレコード契約があって年に何枚出さなきゃいけない、じゃなくて、自分たちがどうするかやもんね。
「そう。もぎりも自分でやるしね(笑)。私もトディーもそれまでの活動で、そうやって一度すり抜けていったものをまた捕まえるまでには時間が掛かることを知っていたし、それをきちんと2人で触りながら音楽が出来たら、スゴく素敵な活動になるんじゃないかなっていうのはあったんで」
――しかも4人とか5人のバンドじゃないし、その2人がキッチリ出来ればいい。
「そう。でも2人だからケンカしたらもう解散しかないんですよ(笑)」
――アハハハ! 一触即発(笑)。普通のバンドだったら誰かが“まぁまぁそう熱くなんなよ”とか間に入ったり出来るけど、2人だと引っ込みがつかないもんね。
「そうそう(笑)。もう2人でやると、ケンカしたときに仲直りしなきゃいけないんで(笑)。そういうところは結構キチンと丁寧に、時間を使ってきたというか。音を鳴らすでも、言葉を共有するでも、全部そういうことを優先してきたところがあって。でもトディーは勘の鋭い人だったりするから、“早く音源出そうよ!”ってずっと私のお尻を叩いてるというか(笑)。私がボンヤリしてるというか、まだ捉えられてない部分があったりして。それは例えばRopesの音楽のことだったり、2人だからこそどうしたら楽しいのか、トディーはどういうことが好きなのか、私は何が好きなのか…そういう当たり前のことを、もっと貪るように楽しみたいというか(笑)。そういうことも楽しめるからこそこういう編成で。そこでまた物語が出来て、意味が出来て、そうしたら音が増えるかもしれないとか、そういうことに全部がつながってく。そういう偶然みたいな、必然みたいな、魔法みたいな、奇跡みたいな、そういうことを楽しんで作っていきたかったっていう」
――だったらそれが生まれる環境、それを捕まえられる余裕とか感覚があるところでやらないといけないもんね。
「最初に時間が掛かっても、一度捕まえてしまえばもっと転がっていくものだと思ってたし、今はそれを捕まえるために時間を使った方がいいなっていうのはスゴくあったんです」
――そう考えたらスゴく大事にしてるプロジェクトですね、Ropes。
「スゴく、大事にしてます」
今までとは違う何かが出来るんじゃないかっていう
期待とか希望みたいなものがKARENを解散したときにあった
――言ったらアチコさんもキャリアがあるわけじゃないですか。今までのいろんな経験を踏まえて、何でRopesがそれだけ大事なものになったんでしょう? 何が違う?
「基本的には全て同じ感覚でやってるんですよ。関わってきたバンドもそうだしサポートもそうだし…でもやっぱり、人数が少なくてシンプルな活動だからこそ、出てしまった欲というか(笑)」
――これは自分でコントロール出来ることと出来ないことがある、じゃなくて、自分さえちゃんとすれば出来る。
「そう! 自分たちさえ、一瞬一瞬に焦点をキチンと当てられて、触っていくことが出来たら、もしかしたらほんのちょっとだけかもしれないけど、今までとは違う何かが出来るんじゃないかっていう期待とか希望みたいなものが、KARENを解散したときにあったんだと思うんですよね。お互いの、2人共の中に」
――それでいうとアチコさんって石橋英子さんともデュオをやってたじゃないですか。それともまたアウトプットが違う。まぁ性別も違うし、周りも違うけど。
「それなんです! やっぱり石橋さんは女性だし、とても即興的というか、人としての感覚に優れている人だと私は思っていて。どっちかって言ったら、私も石橋さんも“パカッ!”ってなってるタイプ(笑)」
――これね、めっちゃ文字にしにくいよ。“パカッ!”てなってる具合(笑)。
「アハハ(笑)」
――より感覚的。
「プラス、アカデミックな部分が彼女にはあると思うんですけど、女性同士だからこそ勝手に起きてしまう奇跡みたいなものがあったというか。彼女は基本的に私が歌うことを想定して曲を作ってきてくれたんだけれども、やっぱり友人でもあるので、そこに至るまでのいろんなことが無意識に音楽に塗り込められてるというか。彼女はそこまで意識してないかもしれないですけど。そういった部分でも、男性と作る音楽とは違っていたと思うし、それに応えたいと思う自分の気持ちもまた、違ってたと思うし」
――おもしろいもんですね、うん。
「あとはもう単純に大好きな友達で、私は彼女になついてたし。だから、もう起こりえない奇跡がアルバム2枚分起こった。もう再上映出来ないような映画。そういうスゴくありがたくて嬉しい体験を私はデュオでしていて、それがなかったら今の自分もないし。そういう中で私が、トディーともそれと近い奇跡を起こしてみたいっていう期待がスゴくあった。どうしたって男と女って、発想する入口も出口も全然違う生き物じゃないですか。尚かつ私と彼は、恋人同士でも何でもない。だけど、KARENをやってるときに一番シンパシーを感じていたのは彼だし、スタジオで2人で曲を作ることが、KARENのときにもあったんですよ。何となく彼ともそういう楽しさを共有してみたい気持ちは、多分どこかにあったと思うんですよね。KARENが解散すると決まったとき、どっちがっていうわけではないんですけど、“もっとやれるな”っていう部分が彼と私に一番あったんだと思うんです。だからスゴく自然に、もうちょっとやっていこうかっていう話になったんだと思いますね。そのときに何で楽しかったのか、そういうことが分かる前に解散になっちゃったというか(笑)」
――とは言え、KARENだって5年やってますからね。
「そう! それがバンドのスゴいところだと思うんだけど。私とトディーっていうのは、解散してから取ったコミュニケーションの方が、ずっと多いんですよね」
――でも、そんな少ないコミュニケーションの中でも、さっき言ったようなことが感じられたわけやね。
「やっぱりバンドって、人が増えれば増えるほど、コミュニケーションの取り方が変わっていくじゃないですか。特にKARENはホントに音楽だけでつながってるバンドだったので。とにかく個性のある5人が集まって、それが何で鳴らされてるのかとか、そういうことではなかったんですよね。もっと音楽の仕組みとか技巧とか、そういうものをぶつけ合ってた。だけど、2人となるとそれだけじゃなくなってくる。請け負うものが、やらなきゃいけないことが増えてきて、“今まで全然コミュニケーション取ってなかったんだ!”って気付く、みたいな(笑)」
相手が何を考えていて、どういう奇跡を起こしたいと思っているのか
――いざRopesを始めるとなって、この2年は地固めじゃないけど、それこそ音楽的な部分以外も含めて、キッチリとつなぎ合わせていく時間というか。それこそさっき、“ケンカ=解散だ!”みたいなことがあったけど(笑)。もちろんぶつかることもあるわけじゃないですか。実際ありました?
「スゴくありましたね。もう、怒鳴り合いの(笑)」
――マジで!?(笑)
「フフフ(笑)。私にとってトディー世代って、弟みたいなものじゃないですか。けど完全に大人げない感じで(笑)」
――何で怒るの?
「もうホントにつまらないことなんだけど、曲順とかそういうことでケンカが始まって(笑)。“私は今日はそういう気分じゃないんだよね…”みたいな(笑)。まともなことを言ってるのは、だいたいトディーなんですけどね」
――でもまぁステージ上の人間の気持ちが乗ってないと伝わんないし。どっちもあるなぁ。
「だからちょうどね、お互いにないところを持ってる。今スゴく普通のことを言ってますけど(笑)。まぁ大ゲンカになって、その直後にライブすることもいっぱいありましたね(笑)」
――2人とも気性が荒くは見えないけど、ちゃんとそういうことするのね(笑)。
「そう、それが出来るってスゴい素敵なことだなぁって。私はそう思います、ホントに」
――言えない相手もいるもんね。“言わせてくれる”というか。友達でも恋人でも、ケンカ出来るって結構大事。
「それがメンバーっていうのが、単純にスゴく嬉しくて。割と私はそういう関係性がクールな活動が多かったので」
――確かにそういう見え方してますよね。情熱とか根性ではないというか(笑)。
「アハハハ!(笑) でも意外とね、本人は逆だったりするんです。だから、コミュニケーションを取ってると自分でもより気付いてくるんです。今までも少なからずメラメラしてたとは思うんですけど、それを声の調子に変えたりしてやってきたんだと思う。だけど編成がシンプルになって、もうダイレクトにその人の今の気分=音色が、録音物にもライブにも反映されるじゃないですか。とは言え私は、結局音になったときには、ちょっとだけひんやりしてるものが好きなんですけど(笑)」
――そうなんや(笑)。ドライアイスみたいに、冷た過ぎて熱いというか。ひんやりとした触感にするためにこそ、燃えるものがあるリアルというか。
「そう! そういう音の中に、日常すれすれのサイケデリック感があったりする。自分が音楽をやってて一番気持ちいいなって思うときも、そういう周波数が出てるとき。人の音楽を聴いてるときもそう。だからそういうことを楽しむRopesには、スゴくコミュニケーションが大事で。相手が何を考えていて、どういう奇跡を起こしたいと思っているのか、どういう希望があってやろうとしてるんだろうとか、そういうことが自分にとってはスゴく大事。彼がどうかは分からないですけど、私は彼が何を考え、何を本気で思っているのかが、一番大事」
私は“そうなるに違いない”とか思えないんですよね、そうなる前に(笑)
――それこそ『SLOW / LAST DAY』のときからそうでしたけど、『usurebi』で鳴らされている音楽は、ホントにRopesでしかないですよね。似かよるものがない。アチコさんの声もそうだけど、人肌でここまでミニマルな音楽ってなかなかない。
「フフフフ(笑)」
――しかもそれがライブの表現法の1つじゃなくて、音源として聴けることは。
「しかも、それを1人じゃなくて、わざわざ2人でやってるという(笑)」
――ギターも基本1本、ダビングしても2本までみたいな。しかも他の楽器はあってもタンバリンとピアノぐらいで。それで曲としてきっちり成立してることもスゴいし。表現法で言えば、もう最初からこの形が見えていた?
「私は漠然とですけど、トディーが絵の具を混ぜるように音を作って、エレキギターを鳴らしているところが一番カッコいいと思っていたというか、それがトディーっていうバンドマンの一番魅力的な部分だった。Ropesは2人で始めたことなんだから、2人でも楽しい、2人でも出来るっていう音源を絶対1枚は作りたいのがあって。例えば音を重ねたり、誰か他のミュージシャンを呼んでダビングしたり、コーラスをいっぱい入れたり…いろんな方法はあったと思うんですけど、普段は基本的に2人で、2つの音だけでライブをしているので、そういう風にバンドが最初に1枚は作るデモテープみたいな、そういう気持ちで音源を作ってみたかった。だから最初は、スゴく古いスタジオのデモパックみたいなプランで録り始めて」
――なるほど。最初に聴いたとき、この質感…どうやって録ったんだろう?って思ったもん。
「今はもう潰れちゃったんですけど、廃墟みたいなスタジオがあって。おとぎ話とかもそこで練習していて、その有馬(vo&g)くんが紹介してくれて。私はデモテープを作るようなバンドをやったことが1回もなかったんで(笑)。(レコーディングの)プリプロがきちんとあるようなバンドしか今までやったことがなくて」
――そうか。リリースが既に決まっている、ちゃんとしたプロジェクトというか。
「そう。だから、誰にも期待されてなくて、自分たちがやらないと何にも始まらないバンドっていうのは、ホントに初めてだったので(笑)」
――今までそれなりに活動してきて、今イチからそれをやるのは楽しいね。
「うん。でも、一番やりたかったことなんですよ」
――実は熱血だからね(笑)。
「誰もCD出してくれないよな…じゃあ俺たちで作るか!みたいな(笑)。ホントにそういうノリで、最初はリリースは考えてなくて、とにかく音にしてみようと。2人のライブでやってる感じがいったいどういう音源になるか、とりあえず録ってみようと。自分たちが今までやってきた曲でパッケージ出来るものを選んで、普通にデモ作りをしようって始めたのが、この録音のスタートなんですよね。何か…聴いてみたかったというか(笑)。そしたら思いのほかよく録れちゃった(笑)。そこからブラッシュアップし始めて、最終的にマスタリングまで仕上がったとき、ずっと音源作れよって言ってくれてた(LOSTAGE)五味(岳久)くんに聴かせたら、“僕、リリース手伝うから一緒にやりませんか?”って言ってくれて、このような運びとなったと。トディーもART-SCHOOLとしてLOSTAGEとツアーしてたり、私なんかよりもずっと親交があるじゃないですか。私もここ数年で五味くん界隈の人たちと仲良くなって、もう今ではホントにかけがえのない、生涯の友達。LOSTAGEの活動にも歌で参加させてもらったり、ボーカリストとしても、ミュージシャンとしても、1人のバンドマンとしての生き方としても、私はLOSTAGEのみんなをスゴく尊敬してる。だから音源が出来てそう言ってもらえたときは、一番いいレーベルから出すことになったなぁって(笑)。ホントにスゴく自然なことに思えて、とても嬉しくて」
――それもやっぱり、ちゃんと時間を掛けたからかもしれないですね。この2年間のアチコさんとトディーの関係性、アチコさんとLOSTAGEの関係性がちゃんと積み重なっているから、今が必然になるのかも。
「そう! 私は“そうなるに違いない”とか思えないんですよね、そうなる前に(笑)。でも、そうは言いながらこれまでの人生の中でやっちゃうことだってあったじゃないですか?(笑) Ropesはそういうことが一切ない活動にしたいっていう想いが、心のどこかにあって。ホントにトディーには迷惑をかけてるけど、そういう漠然とした決め事というか、そこからはもう1ミリも動かない強い意志みたいなものが(笑)。それを言葉にしちゃうとただの熱い話になっちゃうんだけど、大事なことだったんですよね。他のことはいくらでも動くんだけど」
――ホントに全てに理由があるというか、さっき言った“物語”っていうのはまさにそれで。『usurebi』で鳴っている音数はホントに少ないけど、むちゃくちゃ丁寧に積み上げられたものが鳴っている。感覚的だけど、鳴るべくして鳴っている音がこれだったっていう感じがする作品ですよね。
「うん。やっぱりライブも何回も同じ曲をやっていく中で、“何でそんなこと思い付いたの!?”っていう瞬間があったりして、それを喜び合ったり。私は演奏もレコーディングも曲を作るときも、1回目に出てきたフレーズが好きなんですけど、トディーの即興性の美しさっていつ出てくるか分からない。スゴく不思議な人で、そこに火が点く瞬間が、スゴくおもしろいタイミングでやってくる。そういう2人の体温とかタイミングみたいなものに、それ以外の情熱を合わせることが出来るのがスゴく贅沢で。だからこれは、5人編成のバンドから2人で旅立って、何にもないところから始められたからこその発想なんですよね」
信用出来る人たちとパッケージングしていく中で
みんなを感じることが出来たというか
それがホントに音の1つみたいに見えていく
――この楽曲たちは全て、この2年間の間に生まれた曲ということですよね。
「ただ『パノラマ』(M-5)だけは、五味くんがCDを出そうって言ってくれた直後のライブでたまたま出来ちゃって、当初完成した音源の中には入ってなかったんですよね。それをトディーが珍しく“絶対に入れたい!”ってホットになったので、“よし、じゃあやろう!”って無理矢理録って(笑)。その音とか言葉自体に意味はほぼないんです。だけど、確実にその頃何を見てたのかとか、作った時間とか時期が、歌い方、トディーの音の選び方とかにとても反映されてる。やっぱり『パノラマ』は特別な感動だったというか、スゴく自然にやろうっていう気持ちになって、スゴく自然に言葉も乗った。そんな風に、タイトル、みんなが撮ってくれた写真、MV…その全てに今回の5曲がどんどんシンクロしていったのがスゴく楽しかった。五味くんもMVを撮ってくれてるMINORxUくんもかけがえのない友達だし、写真を撮ってくれたアカセ(ユキ)も普段から悩みとかも聞いてもらって(笑)、ホントに信頼してる友達で。ジャケットをデザインしてくれたDaichi(Kambayashi)くんはミュージシャンなんだけど、石橋さんと一緒にやってるときにイベントに呼んでくれたり。そういう信頼出来る人たちとパッケージングしていく中で、みんなを感じることが出来たというか、それがホントに音の1つみたいに見えていく。言葉にしたら誰もがそう思ってるのかもしれないけど、今言葉にしてしまうほど、恥ずかしいぐらいにそう思ったというか」
――この制作の過程で、ちゃんと実感としてそう思えたんやね。
「私はホントにボンヤリしてるから、今まであんまりそう思えることがなくて。自分の制作への関わり方が、“あー悲しい! あー嬉しい!”とかなってる間に出ちゃったものでしか意外となかったというか(笑)。今までの制作とはホントに逆なのかも。でも、このままじゃないかもしれないし、次は超いいドラマーが入ったりとか(笑)」
――プレイヤーとして参加してくれる仲間は周りにいっぱいいるもんね。
「最初っからRopesを何人編成のバンドにしようって決めるのがイヤだったというか、スゴく不自然だなぁと思って。活動していく内にいい人が出てきたら、それでいいじゃんみたいな(笑)。そうしたら音楽も変わってくしおもしろいなって単純に思ったというか。だから今後はバンド編成になるかもしれないし、エヴリシング・バット・ザ・ガールじゃないけどドラムンベースになるかもしれないし(笑)。リミックスのレコードが出るかもしれないし、それでもブレないような根本の色みたいなものを、まずは感じたかった」
――『usurebi』が出来上がったときってどう思いました?
「いや、もうホントにいいものが出来たなって。シンプルにすることを、多分周りの人より楽観的に捉えてたのかもしれないですね。“いいに決まってるじゃん! トディーだよ!?”って(笑)」
――でもそれって多分、トディーも“いいに決まってるじゃん、アチコだよ”っていう発想はあったと思う。Ropesを成立させているのはトディーのギターと、アチコさんのこの声の2つあるからこそ、成立出来た。あと、タイトルの『usurebi』は収録されてる楽曲のタイトルでもあるけど、これはどこから?
「楽曲を作ったときにパッと思い浮かんだ言葉で、それをそのままタイトルにしてしまったんですけど、辞書で調べたらホントにあった(笑)。しかもホントにイメージ通りの意味で、“弱い光”。あと…みんなが思ってるほど私は天真爛漫じゃないから!(笑)」
――みんなは思ってるだろうね(笑)。
「フフフ(笑)。ちょっと胸が苦しいなって思うことがあって、夜遊んで家に帰ってきた明け方にちょっと日差しが入ってくる感じとか、あとはみんなが頑張って働いた後の帰り道に、夜になる直前のちょっとだけ光が残ってる風景とか、そういうときの光の加減がずっと好きで。最近行くようになったラウンジで、友達が明け方に『usurebi』をかけてくれたって聞いて、“超嬉しい! まさにそれ!”って。『意味』(M-2)が自分の中ではそうなんですけど、音楽好きな友達が集まって夜にレコードをかけて笑ってるそのお店や、その近くで見た風景がとても影響しているので」
――なるほど。今の話を聞いてたら、Ropesって“帰り道の音楽”な感じがしますね。1つの喧騒を経て、家に帰るまでの間というか、その光加減というかね。
ジワジワと分かっていくことって、どんなに大人になってもあるんだなぁって
――そして、リリースに伴うライブもあるということで。
「大阪と東京でワンマンをやることになって。大阪はワンマンにするか迷ってたんですけど、五味くんに“ワンマンにしろや”って言われて(笑)。絶対に自分たち2人だったらワンマンはやらなかったなっていうのと、こういうときにそうやって仲間がいて、お尻を叩いてくれるって、スゴい素敵だなって思った。レーベルっていいなって(笑)。そういうことがジワジワと分かっていくことって、どんなに大人になってもあるんだなぁって」
――やっぱり、あれかもね。音楽をやってる人たちは、ちょっと大人になるのが遅いのかも(笑)。
「アハハハ(笑)。大阪の梅田Shangri-Laはライブハウスなので、2人だけじゃなくてもっと大きい音でも楽しめるようなライブにしたくて。東京からトンチさんを連れて行くのと、LOSTAGEの3人にも協力してもらって、Ropesの曲をバンドで演奏したり。いろいろ出来たらいいなと思ってます。東京の富士見丘教会はもうホントに80人ぐらいしか入れないような小さい教会なので、原点っぽい感じのライブをしようかなぁと」
――大阪と東京、どっちも違う楽しみ方がありますね。あと最後に、Ropesっていう名前は、そもそもどこから?
「第一条件として、“意味がない”名前がいいなって。そんな中で単純に辞書を見ながら、ちょっとずつアルファベットをズラしていったりして、“あ、Ropesいいな”って。あとは単純にKARENが解散して、私は音楽を辞めるかもしれないなと思ってたんですよ。そのときに、いろんな人に辞めない方がいいんじゃないかって言われたり、そのタイミングでケイタイモ(ex.BEAT CRUSADERS)くんが、“WUJA BIN BINっていうバンドをやろうと思ってんだけど、コーラスやらない?”って電話をくれて。私が最初にやってた活動ってドゥーワップのコーラスだったから、ホントにふりだしに戻ったのを感じながら、あとは…KAREN解散でもう瀕死の状態じゃないですか(笑)。そういう中でタイトロープ(綱渡りの綱)みたいなイメージと単語が、自虐的な気持ちとつながったというか。最終的にいい言葉になっていったらいいなぁみたいな」
――今の話を聞いてたら、十分意味があるなぁ。まぁまずはワンマン、楽しみにしています!
「ありがとうございました!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2013年10月18日更新)
Check