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世界的バンドネオン奏者・小松亮太がデビュー15周年に挑んだ
鬼才ピアソラが残したタンゴの傑作『ブエノスアイレスのマリア』!
奇しくも40歳の誕生日となるビルボードライブ大阪公演を前に
鬼気迫るライブ録音盤に到る視野と覚悟を語るインタビューをお届け

 日本のアルゼンチン・タンゴ界を牽引するバンドネオン奏者として海外でも高い評価を集めながら、近年は映画やTVドラマなどのサントラも精力的に手掛ける小松亮太。デビュー15周年の節目となる今年8月に発表した2枚組の最新作『ブエノスアイレスのマリア』は、タンゴ界の鬼才=アストル・ピアソラが残した壮大な“タンゴ・オペリータ”の傑作に挑んだライブ録音。震災以降の様々な困難を乗り越えて実現に至った本作、そして10月30日(水)に迫ったビルボードライブ大阪での公演について語ってもらいました。

小松亮太からの動画コメントはコチラ!

――『ブエノスアイレスのマリア』は、数多いピアソラのオリジナル曲の中でもとりわけスケールの大きな大作ですよね。スコア面でも編成面でも。
 
「そうですね。さすがにコレをやってしまったら、それ以上のものはタンゴの世界にもないなというイメージのものですけど。でも、僕も昔からピアソラの曲をかなり演奏してきましたけど、ピアソラだけがすごいというつもりでやってきたわけではなくて。とにかくタンゴが演奏したくて、みんなが振り向いてくれる曲をとなるとピアソラの曲が多くなった、というのが正直なところなんですよね」
 
――ピアソラは“タンゴの革命児”と呼ばれた人ですけれど、今やタンゴ=ピアソラという認識になっている感じはありますよね。
 
「それは日本だけじゃなく、アメリカもヨーロッパもアジアも顕著にそうなっているという大問題で。ただ、ピアソラの曲は効き目が絶大なので、ピアソラに頼らずに自分のオリジナル曲やもっとオーソドックスなタンゴを一生懸命にやったとしても、果たして有意義な音楽人生を送れるのかどうかという問題もあって。だから、この作品が、ある意味1つの区切りになるかもしれないですね。僕は多くの人が取り上げる80年代のピアソラだけでなく、それ以前の40年代から70年代にかけての有名無名のレパートリーも取り上げて、多分世界で一番多くのピアソラの曲を演奏してきましたけど、ピアソラのタンゴでこれ以上にデカい曲はおそらくない気がします。それを、デビュー15周年で40歳になる年に、ちょうど20枚目のアルバムとして出せたことは大きいですね。大きな区切りになったと思います」
 
――本来は東日本大震災の直後に予定されていたコンサートが延期となり、2年越しでオリジナル録音(’68)にも参加していたアメリータ・バルタール(※ピアソラの元妻でもある)をマリア役に迎えて実現したという点もまた、演奏の凄みを倍増させています。
 
「お客さんの震災での延期を経て2年半待ったんだという期待の高まりに加え、尚かつアメリータさんも一緒ということで、とにかく半端な演奏は絶対に出来なかったですね。その間にも改めて、この曲をアメリカやヨーロッパで演奏した録音や動画もすいぶんと見聴きしたんですけど、コレは勝ち目があるなと思ったんですよ。例えば、ブラジル音楽のエグベルト・ジスモンチやボサノバなどが好きだったとしても、その背景にあるサンバやショーロといった音楽について何も知らなければ、やはり本格的というか辛口の演奏にはならないですよね。同じようにピアソラもタンゴの世界から出てきた人なのだから、第一義的にタンゴの人がタンゴらしく演奏するピアソラが、ちゃんと世の中に存在しないといけない、と僕は思っていて。しかも、アルゼンチン人ではないタンゴ・ミュージシャンがピアソラを演奏して、こういう結果が出せるということを世界中に示したかったのもありました」
 
――ピアソラが’68年に録音したオリジナル盤と聴き比べてみても、全体のストーリー性や、随所に様々なタンゴのエッセンスが盛り込まれていることなど、改めて理解出来た点がとても多かったですね。
 
「こちらの方が普遍性のある演奏になっているとは思います。その理由の1つはライブ録音だからで、お客さんの熱気を受けながらアップダウンの激しい演奏をしているから、ある意味で分かりやすい演奏になっているんですよ。僕も改めてオリジナル録音を聴いてみましたけど、自分たちが演奏し終えた後だとものすごくアッサリとしたものに聴こえたんですよね。なぜかと言うと、1つはスタジオ録音なのと、もう1つはものすごく巧い人たちが演奏しているから。そこは強みでも弱みでもあるんですけど、ぜひ聴き比べてみて欲しいですね。あとは28歳のマリアと72歳のマリアの、違う部分もあるけれど全然変わっていない部分にも(笑)」
 
――デビュー15周年の節目に相応しい作品にして、この作品以降の小松さんにも期待が高まります。
 
「もちろんピアソラの曲もたくさん演奏していきますけど、さっきも少し話したピアソラに頼らずに前に進んでいくというのが何のことかと言うと、具体的には作曲のことなんですよね。僕の場合は日本人としてバンドネオンを弾いているということもあって、本場のバンドネオン奏者では歩けないような道をこれまでにも随分と歩かせてもらってきたので。例えば、映画『グスコーブドリの伝記』のサントラやTVで『THE 世界遺産』の音楽をやらせてもらうというチャンスは、他のアルゼンチン・タンゴのミュージシャンでは得られないものなので。そんな状況の中から、僕じゃないと出来ないことがうまく合致して生まれてくるんじゃないかと思っています」
 
――10月30日(水)のビルボードライブ大阪でのラスト・タンゴ・センセーションズを率いての公演も、ゲストに山本達彦さんを迎えての特別な内容になりそうですね。
 
「しかも、偶然にもこの日は僕の40歳の誕生日になるんですよね(笑)。もちろんピアソラの有名な曲も取り上げようと思っていますし、山本さんとは僕が35周年記念ベストアルバムに提供させてもらった新曲を、ライブで初めてやろうと思っています」
 
 
Text by 吉本秀純
 



(2013年10月28日更新)


Check

Release

震災で延期となった2年越しのライブを
完全録音した音の世界遺産!

Album
『ブエノスアイレスのマリア』
発売中 3570円
ソニーレコーズ インターナショナル
SICC-1644

<DISC1収録曲>
01. アレバ―レ
02. マリアのテーマ
03. 狂ったストリートオルガンのバラード
04. (少女マリアに捧げる)
カリエーゴのミロンガ
05. フーガと神秘(インストルメンタル)
06. ワルツになった詩
(フルート、チェロと女声のために)
07. 罪深きトッカータ(バンドネオン、
語り手とパーカッションのために)
08. 盗賊たちのミゼレーレ
(下水道にいる古代の盗賊たちの)

<DISC2収録曲>
01. 葬儀に捧げるコントラミロンガ
(マリアの最初の死のために)
02. 夜明けのタンガータ(インストルメンタル)
03. 街路樹と煙突への手紙
04. 精神分析医のアリア
05. 小悪魔のロマンサ
06. アレグロ・タンガービレ
(インストルメンタル)
07. 受胎告知のミロンガ
08. タングス・デイ(神のタンゴ)

演奏曲
[作曲]アストル・ピアソラ
[作詞]オラシオ・フェレール
タンゴ・オペリータ
《ブエノスアイレスのマリア》全曲
(コンサート形式/スペイン語上演/
歌詞対訳付き)

[演奏]小松亮太(バンドネオン)/アメリータ・バルタール(vo)/レオナルド・グラナドス(vo)/ギジェルモ・フェルナンデス(語り)/Tokyo Tango Dectet
[録音]2013年6月29日 東京オペラシティ
コンサートホール:タケミツ メモリアル

Profile

こまつ・りょうた…東京生まれ。14歳からバンドネオンを独習し、98年にアストル・ピアソラのバックを務めた面々を共演に迎えたアルバムで衝撃的なデビューを飾った。海外でも高い評価を集めながら、国内でもコンスタントにアルバムを発表しつつ宮沢和史、葉加瀬太郎、大貫妙子らとジャンルを超えた共演も多数。今年は映画『体脂肪計タニタの社員食堂』のサウンドトラックも手掛けている。

小松亮太 オフィシャルサイト
http://www.ryotakomatsu.com/


Live

ビルボードでのライブは山本達彦との
コラボ&自身の誕生日とスペシャル!

Pick Up!!

『小松亮太 with
ラスト・タンゴ・センセーションズ
featuring 山本達彦』

チケット発売中 Pコード209-673
▼10月30日(水)18:30/21:30
ビルボードライブ大阪
自由席7800円
ビルボードライブ大阪■06(6342)7722
※カジュアル エリアは取り扱いなし。
未就学児童は入場不可。
18歳未満は成人の同伴が必要。

『Happy Tango Hour!!』
Thank you, Sold Out!!
〈Music Stage/いずみホール
クリスマス・コンサート2013〉
▼12月19日(木)19:00
いずみホール
一般4000円(指定)
[出演]須川展也(sax)/小松亮太(バンドネオン)/奥村愛(vl)/田中伸司(cb)/松永裕平(p)
[曲]ガーデ(タンゴ「ジェラシー」、他)
いずみホールチケットセンター■06(6944)1188
※学生券は取り扱いなし。
未就学児童は入場不可。