今こそ向かい風に立ち向かう美学を――
孤高のロックボーカリスト、吉川晃司がカオスな現代を斬る
渾身のニューアルバム『SAMURAI ROCK』!
撮り下ろしインタビュー&動画コメントが到着
キーワードは『SAMURAI ROCK』。孤高のロックボーカリスト、吉川晃司。3.11の震災後、被災地でのボランティア活動を行うなど、東日本大震災以降の日本を憂いていきた彼が、遂に社会への痛烈なメッセージを込めた新作をリリースした。新たに自身が設立したレーベル名、シングルタイトル、そしてアルバムに至るまで『SAMURAI ROCK』という言葉に集約させ、あくまでエンタテインメントにこだわって完成させた意欲作だ。最近では俳優としても話題作に出演し、アイスクリームのCMで意外なほどのコミカルな一面を見せるなど、精力的に活動を続ける吉川晃司。この新作を携えた全国ツアー中の彼に、熱い想いの丈を存分に語ってもらった。
シビレます! 吉川晃司からの動画コメント!!
より摩擦係数が高い言葉を選びたかった
――今回リリースしたシングル、アルバム、さらにご自身が新たに設立したレーベル名に至るまで、『SAMURAI ROCK』という言葉をお使いですが、これはどういう想いで、そしてどんなキッカケからなんですか?
「一番最初のキッカケは黄桜さんのCMに出演したときで、ライムを絞って氷を入れるという“サムライロック”というカクテルを知って…この言葉はいいなって。東日本大震災以降、僕の中ではいろんなものが変わって、それまで使っていた物差しはもう使えないなぁと、腹を据えていこうと思ったというか、ブレずにいきたいなと。おそらく向かい風を突っ切るようなことになるなって。追い風を受けるとブレるじゃないですか? ただ、向かい風を受けるのはしんどいけど、逆にブレない」
――そういう想いは以前にはなかったものなんですか?
「それほどまでに考えたことはなかったです。それはやっぱり震災の悲劇と、人災とも言える原発事故を目の当たりにして、やっぱりこの先の我々の行き先を憂う気持ちというか。自分たちの未来をねじ曲げちゃったのは、他人事として見過ごしてきた自分たちにも責任がある。自分たちでひん曲げた未来は自分たちで戻さなきゃって。子供たちに曲がったまま押し付けて、どのツラ下げて死にゃあいいんだと。そういうことはものすごく考えました。そういったときに、“サムライ”と“ロック”っていう強烈な言葉をくっつけるくらいの厚かましさを持って物を言うぐらいが、ちょうどいいのかなって。“ロック”という言葉には、マイノリティな立ち位置で体制に噛み付くとかそういうイメージがあって、“サムライ”という言葉にも、何かドロドロとした闇を切り裂いて、希望の光を導いてくれるような匂いが同じようにあるなと思ったんですよ。その“切っ先”みたいなもの…これまでもカブくことを良しとするというか、見得を切るというか、そうやって生きてきた自分がここで見得を切らないでどうするんだ?っていう想いですね。より摩擦係数が高い言葉を選びたかったんですよね」
エンタテインメントとして
楽しんでもらえるものに落とし込めないと負けだと思っている
――今回リリースしたアルバム『SAMURAI ROCK』の制作は震災以後で?
「震災が起きる前にも曲は作ってたんですけど、この『SAMURAI ROCK』というシングル曲とそのカップリング曲以外は、結局使いませんでしたね。何かね、リセットしたかったっていうのもあるかもしれない」
――震災から2年経ってのリリースですが、それだけじっくり制作していたということですか?
「いや、この間に復興支援のためにCOMPLEXの東京ドーム公演と、続けて『日本一心』というタイトルで全国ツアーもやってたんで、それでだいぶ時間は使いました。その後も、幕末を描いた『陽だまりの樹』という手塚治虫さん原作の舞台に出て。時代の流れに巻き込まれ滅びていく侍の役だったんですが、これはぜひ演らせて欲しいと。何かね、今の日本にも維新が起きて欲しいという想いがあります。いろいろ誤魔化されながら、いつも追いやられるのが庶民で、何か大事件が起きたときほど、庶民が苦しめられるわけですよ。あの震災を火種に、日本の政治というものに幻想を抱くのはやめた方がいいって、政治の裏にいる人間の方がもっと厄介だぞというのをよく教わりましたね。そんな中で、庶民はもういい加減騙されちゃいかんという想いになるべきだと思って」
――そういったメッセージを音楽で伝えようと、そういう想いが今回の作品には込められていると?
「直接的な言葉を羅列するのはそれはそれで潔いとは思いますけど、自分が作る作品においては、やはりエンタテインメントとして、楽しんでもらえるものに落とし込めないと僕の中では負けだと思っているので。メッセージをいかに別のストーリーを作って埋め込めるか? 歌詞の部分ではそこが一番のテーマでしたね」
――作詞の部分では、吉川さんだけでなくいろんな方が関わっていますね。
「レコーディングのスケジュールと同時進行で大河ドラマ(『八重の桜』)をやってまして、どうしても作詞に関われる時間が削られていっちゃったんで、いつもやって下さってる作詞家さんに協力して頂いて。今まで話してきたようなことを彼らにも話して、作詞家陣がうんざりするくらい詰めましたね(笑)。その方の価値観が違えば、それは書けないわけですから。まずはそこの確認ですよね? 例えばオレは原発はいらないと思ってますよと。でもその人がいると思っていればそれは歌詞として成立しないわけですから、そこのやり取りから全てですよね。そういう意味では時間はかかりましたね」
いくら小さかろうが、風穴をぽつぽつ開けていけば、いつかは破れる
まずオレたちが一番大事なことは五感を研ぎ澄ませること、気配を感じること
――アルバム収録曲は、プロローグ的な楽曲も含めて全11タイトル。曲順も大事なポイントだったのでは?
吉川「おおよそ作ってるときにこの曲順でっていうのは考えてましたね。まず1曲目のインストゥルメンタル『覚醒』は霧が晴れるような…“便利”というモノに首まで浸かっちゃったオレたちが、もう1回目覚めるようなイメージで作ったんです。2曲目の『DA DA DA』はメジャーなロックンロールで、まずオレたちが一番大事なことは五感を研ぎ澄ませること、気配を感じること。それって便利な世の中にいると置き去りにされているものですから、人間は進化しているのか退化しているのか…おそらく退化だと思うんですよ。だから、敏感になりましょうよっていう。なぜかと言うと、自分がどうしたいか、何をしたいかを決めるにあたって、参考に出来る情報を入手しようとするでしょ? ところが今は、正しい情報を入手することが最も難しいんです。強烈にねじ曲がっている。それはいろんなものの立ち位置によって、何か尾ひれが付いたり、ヒン曲がったり、時には全く別のものになったり。だから正しい情報をまず手に入れることに敏感にならないと、何も決められない。皆さん、敏感になりましょう!って曲です(笑)」
――それはまさしくご自身の経験から培った教訓なんでしょうね。
「17歳からこの世界に入ってますからね。こんな感じでやってきたから、摩擦係数の高い人生ですね。周りの人は大変でしょうね(笑)」
――でも、こうして活動を続けてこられたのは、身近にいるスタッフだったり、何よりファンの存在も大きかったということでしょうね。
「捨てる神あれば拾う神もあって、窮地に追い込まれたときに助けてくれる人が、場面場面で出てくるんですよね。“オレもそうだったんだよ。しょうがねえな、青いなお前は”って。だって、とっくに潰されてもしょうがないようなこと、いっぱいしてますもん(笑)。数えれば切りがないですね。若い頃は本当に無知でしたし、“僕の価値観はこうなんだ”って伝えたいんだけど方法も知恵もないもんだから、やってる間にヘンな方向に飛び火しちゃって(笑)。歳を取ってくると失敗しない程度にはなりましたけど、でもまあ毒は吐きますね」
――でも、やはり誰かが毒というか、正しいことを言わなきゃいけない…。
「だから、“切っ先”ですよ。いくら小さかろうが、風穴をぽつぽつ開けていけば、いつかはバリッと破れるじゃないですか。平成は維新が必要だというか、やっぱりその明治維新があって、敗戦終戦があって…そういう規模で今、日本は岐路に立たされていると思うんです。昔から日本人は一番つらい結果は見ないようにしたがる傾向がある。とうにヤバいのに神風が起きるんじゃないかとか、どこかでいい風に考える。今も同じだと思いますね。今の政策にしたって何とかなるんじゃないかっていう夢物語に騙されてるけど、今のままじゃどうにもならない。気が付いたときにはもう大変なことになっているかもしれない」
――そういう時代の中で、今回のアルバムというのは、ご自身が言ったように“切っ先”を持って精神を開拓したいという気持ちが強いと。
「己が己に対して居場所がないというか、居心地がよくないんでやってるだけですけど。しかもヒステリックな物言いとか、押し付けがましい方法を取るとマスターベーションになっちゃうし、不快感ばかりを残して迷惑なだけなので、作品としてはやっぱり楽しいものにしたいのはありましたね。例えば一見、“あれ? あいつエロい歌を歌ってるぞ”と思ったものが、何度か聴いていく内に、“これってもしかして…!?”みたいな、そういう表現でね。たかが歌、されど歌みたいな」
これほど熱い想いを持って作ったアルバムはないかもしれない
――今回のレコーディング自体はスムーズに?
「スムーズでしたね。大河ドラマ『八重の桜』で西郷(隆盛)さんを演りながらで、物理的には苦労しましたけど、精神的には相乗効果というか、よい効果をもたらしてくれたと思います。曲を書いているときも、ギターを弾いているときもそうだけど、次の日には西郷さんを演じて、まさに“国を変える”っていうセリフがいっぱい出てきて。このとき桂(小五郎)とどういう交渉をしたんだろう? 岩倉具視とどういう話をしたんだろう?って。そのときの想いを少しでも共有したいから、歴史書もいっぱい読むわけです。シミュレーション出来るというか、仮に演じるだけでも、ものすごく刺激を受けるわけですよ。ここで彼が何か決断したことによって、何万もの人の命を左右したわけで。そういうことを思いながら、またスタジオに戻ってレコーディングに入ると、何かリンクしてくるわけですよね」
――そういう経験談をお聞きすると、俳優としての活動にも大きな意義があるというか。
「いやいや、そんなことを初めから狙ってやれるほど頭もあんまり回ってなくて。ただ、前ほど芝居をすることと音楽をやることの区別がなくなってきたというか、今はね、小さいことはもうどうでもいいんです。ファンや周りの友だちなんかも、“お前、アイスクリームのCM(チョコモナカジャンボ)で子供を泣かしちゃって、笑かして、どうなってるんだ!?”って(笑)。まあ、いかに皆さんを笑顔に出来るかって、そういうことですよ」
――それはまさにエンタテイナーということですね。
「ええ。以前だったら、やらなかったかもしれないですね」
――改めて、いろんな想いが詰まった今作は、どんな作品になったと思いますか?
「自分でもこれほど熱い想いを持って作ったアルバムはないかもしれないですね」
自分が何かを纏っていくというのはあると思いますよ
人の“気”みたいなものをね
――このアルバムを引っ提げての全国ツアーもあります。
「ツアータイトルが『KIKKAWA KOJI 2013 SAMURAI ROCK BEGINNING』。“BEGINNING”とあるのも、今回の想いを持って長くやっていくことになりそうだなって思ったからで。でもまあ、ライブ自体はゴージャスに、エネルギッシュにいきますよ。根幹はもちろん今回のアルバムですけど、あとはサービス曲というかも、たくさんやります。新作をやるっていうのはある意味アーティストのエゴですが、今回はやらざるを得ないというか…この流れでやらなかったらおかしいでしょって(笑)。ライブの魅力って、直接的にお客さんといろんなやり取りがありながら到達していくというか、形成されていく。生のコミュニケーションで、ライブの内容はものすごく変わってきますよね。何千もの視線を瞬時に浴びると、それをはね返そうとするというか。その経験を積んでいくことは、自分が何かを纏っていくというのはあると思いますよ。人の“気”みたいなものをね。そうやってみんなに強くしてもらってきたんでしょうね。そんな風に応援されちゃ、へこたれられないよって」
――そうやって活動を続けてこられて、来年はデビュー30周年を迎えるんですね。
「そうなんですよ。でも、30周年、何にも考えてないです(笑)。30周年だからお祝いで1年休ませて…って、そういうのではないだろうし(笑)。何かやりたいですね」
――では最後に、ぴあ関西版WEB読者にメッセージをお願いします!
「みんなで大騒ぎしようよ!ってことですね(笑)」
――ありがとうございました!
Text by 金本真一
Photo by 渡邉一生(SLOT PHOTOGRAPHIC)
(2013年7月13日更新)
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