ジャンルを縦横無尽にクロスオーバーする
UNCHAINの強烈ニューアルバム『Orange』!
驚異の新作から17年目の独立宣言を問う
谷川正憲(vo&g)&谷浩彰(b)インタビュー&動画コメント
世界中の人がUNCHAINのボーカル、谷川正憲のように歌えたら、きっと世界はソウルフルでスウィートな音楽に満ち溢れていることだろう。月曜の朝の憂鬱を爽快に吹き飛ばすポップでソウルなナンバーから、ジャズ、ヒップホップ、レゲエ、ゴスペル、AORなど、あらゆるエッセンスが自在に交錯&融合するサウンド・テクスチャーに自分たちのウソのない思いを綴ったニューアルバム『Orange』が素晴らしい。旧知の仲のようなリスナーも、今作でこの小粋な4人組を初めて知ることになる人も、みんなまとめてWelcome! この春より事務所を独立し、現在はプロモーションもD.I.Yで行っているUNCHAINのボーカル、谷川正憲とベースの谷浩彰に話を聞いた。
谷口(vo&g)&谷(b)の幼馴染動画コメント!
――’11年に自身の レーベル、STYLE_MISSILE recordsを立ち上げて、今年の春には事務所から独立されたと。
谷(b)「ハイ。今までだったら取材とかラジオのプロモーションも全部スタッフに任せっきりだったけど、今回は僕らがメインでガッツリ動いてますね。と言っても僕らは4年前までは大阪で活動していて、その頃はインディーズでそれこそ4人だけでやっていたわけで。その頃に戻った感じですね」
谷川(vo&g)「アルバム制作中は、この先どうなるのか分からない不安や苦しさもあったんですけど、その分4人で手を取り合っていかないと、という気持ちも強くなって。時代的にもメジャーもインディーも関係なくなってきてるし、自分たちの想いがどれだけ熱くて、どうやってそれを届けるかっていう熱量があれば、メジャーだろうがインディーだろうが関係ないと思っていて。マネジメントも付けることは出来たけど、敢えて自分たちでやっていった方が、プロモーション的にも直接熱が届けられるかなというのもあって」
――敢えていばらの道を選んだと。
谷川「そこで改めて4人の足並みを揃えることで見えるものがあると思いますしね。次の作品では…」
谷「もう次に行っちゃう?(笑) その足並みを揃えた作品が今回の『Orange』でもあるので。そういう統一感というか、自分たちの想いが詰まった作品になったと思いますね」
――そんな宙ぶらりんなときに作られたとは思えないぐらい豊かな音楽が『Orange』には満載で、ロック、ポップス、ソウル、ヒップホップ、レゲエ、AORまで、あらゆるジャンルが見事に融合して共存していますね。
谷川「独立したことで、サポートしてもらったり宣伝してもらったりとかの部分は削られていったけど、その分自分たちだけで出来るようになったんで、ルールみたいなものがなくなって、どんどん自由になってきてるんですよね。バンド結成からもう17年ぐらいになるんですけどやっと…(笑)」
――長いですよね、17年って。
谷川「17年もやってると、例えば“俺がボーカルだから、歌詞も全部書いて歌う”みたいな暗黙のルールが結構あって、でも、そうじゃなくてもいいよねって話になって。僕の曲と、ギターの佐藤(将文)が作ってきた曲をごちゃまぜにして出来た曲もあるし、谷や佐藤がメインボーカルをとっちゃう曲もあって。今までだったら“俺がボーカルなんだから俺が歌う”って感じだったけど、そこにこだわらなくてもいいかなと。“これはやっちゃいけない”ってことはないんだなって最近特に思いますね」
――17年やってきてその新鮮な感覚があるというのは、バンドの風通しがいい証拠でしょうか。1曲目の『Makin’ Pleasure Cake』はマーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイン・オン』を思い出す瞬間もあったりして、いわゆる“ロックバンド”という枠に収まりきらない、幅広く奥深い今作を象徴するオープニングだと思いました。
谷川「ジャケットのオレンジ色ってオランダのイメージカラーなんですけど、僕自身が最近オランダとかスウェーデン辺りの北欧の音楽が好きで、あそこらへんの音楽っていろんなジャンルの音楽からいいものを取り入れるっていうスタイルが多くて。僕らもメンバーそれぞれ好きな音楽がバラバラなんですね。僕がソウルやゴスペルが大好きで」
谷「僕はロックやヒップホップが好きですね」
谷川「そういうみんなの中にあるごちゃごちゃな要素やいいものを集めて、すごく爽やかなポップに仕上げることを目指しました。もともとそういう気質のバンドなんですけどね」
谷「“UNCHAINって昔はロックだったけど、今はポップだね”ってよく言われるんですけど、メンバー4人が日々生きてる中で思うことも、好きな音楽も好きな食べ物も変わってくるし、それが自然の流れなんですよね。だからいろんな要素がごちゃまぜでもいいと思うし、“僕らはロックバンドだからポップな音楽はやらない”ってことにこだわっていてもつまんないですし」
谷川「STYLE_MISSILE recordsを自分たちで立ち上げたときに、“スタイルを壊し続ける”“スタイルを決めないっていうスタイル”を掲げていこうって話したんです。最近になってその土台がようやく固まってきた感じがあって、土台が固まれば上に乗るものがどんな形のものでも簡単には崩れませんからね」
――“スタイルを壊し続ける”というのは、1つの場所やスタイルに安住することを求めない?
谷川「そうですね。“これでいいでしょ”っていうのはないですね。満足しない性格なのかもしれないけど、それが楽しいですし挑戦していきたいんですよね」
――同時に、ここだけは譲れないっていうものもありますよね。
谷「僕個人の意見なんですけど、“バンドマン”でありたいんですね。もし僕がバンドやってなかったら何をしていたか? ベーシストでスタジオミュージシャンをやってたかっていうとそうじゃないと思うし、UNCHAINがあるからバンドをやってるし、ベースを弾いてる。そのバンドのメンバー4人全員が今同じ方向を向いて進んでる。それだけで幸せだし、バンドをやってる意味があるなと思ってるんですね」
谷川「中学のとき、一番最初に“バンド組もうぜ”って言ったのは谷くんなんで、そういう谷くんの想いがUNCHAINの土台になってるのかもしれないですね。あとは、どんなジャンルであれどんなアレンジであれ、僕が歌ったらUNCHAINになっちゃうってところとか、谷が弾いたら、ドラムの吉田(昇吾)もギターの佐藤も、ジャズであろうがロックであろうが、自分たちがプレイして歌ったらUNCHAINになるんだってところですかね」
――3月に出たカバーアルバム『Love&Groove Delivery』を聴かせてもらったんですが、椎名林檎や少女時代から岡村靖幸、スティーヴィー・ワンダーまで、まさに愛とグルーヴにまみれた見事なUNCHAINナンバーになっていましたもんね。
谷「メンバーが好きだった曲を出しあって選んだんですけど、全部が大ヒット曲だったんで注目度も上がるしハードルも上がるんですけど、僕らの色をどう出せるか…それはアレンジや歌唱力だったりするわけで、そこで多少のハードルは越えれたかなって気はしてますね」
谷川「それに、この『Orange』がどんな風になっていくのかを、あのカバーアルバムで先にちょっとだけ見せたかったのもありましたね」
まだまだ夢を追っているということですね(笑)
――『Smile Again』(M-2)を聴いたとき、懐の深い曲というか、どんな精神状態で聴いても受け入れてくれるだけの器がある曲のように感じました。UNCHAINの曲を聴く人、ライブに集まってくるリスナーみんなに、4人からの“Welcome!”という気持ちがダイレクトに響く曲だと思います。
谷川「その曲は僕と佐藤で詞を書いたんですけど、そこには衝突ももちろんあって、削らないといけない部分も、否定される部分もあって。それでも妥協じゃなく、2つの要素が共存するところまでもっていかないと成り立たなくなるんですよね」
谷「でもそれが共存出来たアルバムになりましたね。ジャケットを見てもらっても分かる通り、オレンジの皮をめくったら地球がある。普通だったらそこにはオレンジの実があるはずで、“なんで地球が?”となるところですが、今回の裏テーマに“地球”っていうのもあって、ジャケットに関してもうまく共存出来ていると思いますね」
谷川「日頃当たり前に思ってることを当たり前で済ませて欲しくないというか。今、日本も隠ぺい体質が蔓延してますし、ネットでもちょっと検索すればすぐにいろんな情報が手に入るけど、それを鵜呑みにするんじゃなくて、一歩踏み込んでみたいんですね。ライブもそうですよね。ライブ盤ももちろんいいと思うんですけど、会場に行かないと得られないものって絶対にあるので」
――谷さんがボーカルをとる『Time Machine Blues』(M-9)は、歌詞に“‘95”と出てきますが、ちょうどバンド結成の頃とも重なるんでしょうか?
谷「正式には結成は’96年なんですけど’95年ぐらいに音楽に目覚めて。小中学生の頃に、10年後20年後、自分が30歳ぐらいになったら何をしてるんだろう?って将来を思い描いてワクワクしてたんですよね。で、今そのことを思い返してみて、改めてワクワクしたんですよ。今30歳なんですけど、今から10年後、自分が何をしてるんだろう?って。そういうワクワク感って音楽でしか得られないなって思うんですよね」
谷川「まぁ普通、30歳の人が40歳の自分を思い描いてワクワクすることはあまりないと思うんですけど(笑)」
谷「まだまだ夢を追ってるということですね(笑)。音楽をやってないと書けない詞だよね」
谷川「この人めっちゃロマンチックなんですよ。幼稚園の頃から」
谷「ふふふ。この顔でロマンチックって言われてもねぇ?(笑)」
――ところで谷川さんは昔からこんなに歌がうまかったんですか?
谷「僕は中学校ぐらいのときから思ってましたね。ある種の衝撃はありました」
――自分は歌が天職であると?
谷川「歌は本当に大好きでしたね。中学校のときは、毎日部屋で声が枯れるまで歌わないと気が済まないぐらいで。1時間後には英会話教室に行かなきゃいけないのに、その寸前まで大声で歌って、ガラガラ声になって行く、みたいな(笑)。一番古い記憶では、小学校に入ったばかりの頃に校歌を歌ったとき、僕だけめっちゃ真剣に歌ってたっていう(笑)。声が講堂にばぁーっと響き渡ったのは覚えてますね。歌うときだけすげぇイキイキしてたみたいです」
――それで中学になってUNCHAINが結成されると。
谷川「でも中学校になると逆に恥ずかしくなって、人前で歌えなくて。今もバンドをやってなかったら歌ってなかったと思いますね」
谷「歌う楽しさよりも、小心者の性格の方が勝っちゃう、っていうね(笑)」
――『Time Machine Blues』はレゲエもありラップもあり歌詞にも遊び心ありですが、もともとは谷川さんが歌うはずだった?
谷川「というか、谷くんって僕らが作れない曲を作ってくるというか、もっと言うと、作ろうとしないものを惜しげもなく作ってくる(笑)。それがド真ん中にドンとくるときがあるんですね。この曲は谷くんが歌うともっと面白くなるなと思って。でも最初はノリで“歌えば~?”って感じだったんですけどね」
谷「正直な話、賛否両論もありましたが(笑)、17年もやってるんだからここで1つの新しい形を出すのもいいし、僕は本当に自分の出来ることをやろうと(キッパリ)」
――あと、『Hossana』(M-10)って言葉を今回、初めて知りました。
谷川「“ハレルヤ”みたいな意味なんですけど、僕本当にゴスペルが大好きで、ジャケットを見てもらっても分かるように、オレンジの中から地球が覗いていて。地球って全ての命を作った“母なる地球”じゃないですか? その命への賛美を書きたかったんですけど、あまりにスケールが大き過ぎると実感出来ないなっていうのもあって、より身近なもの=僕のオカンから母なる地球まで、全ての命をはぐくむものへの賛美になりましたね。ゴスペルにするとスケール感も出ますしね」
――ゴスペルって敷居が高いイメージがあるんですが、すごくカジュアルでポップに聴けましたね。
谷川「日本でゴスペルっていうとそんな感じがありますけど、アメリカのゴスペルって本当にメチャクチャで、ヒップホップやR&Bやロックや何もかもごちゃまぜで神様に向けて歌う、みたいな。自由なんですよね」
谷「今までの僕らだったら“全世界に向けて曲を作ろう”とか、“より多くの人に聴いて欲しい”っていうスタンスだったんですけど、最近それはちょっと違うんじゃないかって。音楽って、好きな人とか家族とか友人、先輩、そういうより身近な人に伝えて、そこで共感を得られなければそれ以上の広がりはないよなって思ったんです。そういう点で今回は、言葉選びにしても身近な言葉を意識したし、意味1つとってもそういう試行錯誤はしましたね」
――世界を視野に入れるのももちろん大事だし、どれだけ身近な人の心を揺さぶれるかも大事ですよね。
谷「そう。こいつ(=谷川)が友達の結婚式とかに呼ばれて歌う機会があったりすると、やっぱりめちゃめちゃいいんですよ。歌に感動して新郎新婦も号泣するし、酒飲みながら見てるオヤジやオカン、友達にも伝わってみんなが涙する。そういうところだったりもするでしょって思うんですよね」
谷川「うん、それを目指したところもありますね」
『Orange』の完成形を見に来て欲しい
――そう言えばCDの帯に、“青くて少し甘酸っぱい、母なるインディゴ・オレンジ完成”という素敵なフレーズが躍ってましたね。
谷川「当初はタイトルを『Indigo Orange』にしようかっていう話もあったんですね。ただの『Orange』だと味気なさ過ぎだろって。でも、ジャケットとのギャップがあった方が面白いという意見もあり、この場合のインディゴ(=地球)とオレンジも似たような形だけど全く相反するものの共存っていう意味にもとれるかなって」
――オレンジをめくった中に見える地球=インディゴ・ブルーですよね。私はもうちょっと狭い意味に捉えていて、夕方の沈みかけた夕日のオレンジ色と、空にまだ青色が残っている景色や時間帯を思い浮かべていました。今日と明日の間、朝と夜の間、そのときに思うことや感じること、ちょっと切ない時間帯なんですけど、そういうときにすごく力をもらえるアルバムでもあると思います。
谷「でもね、裏テーマには“夕暮れどき”っていうのもあったんですよ。前々作『SUNDOGS』(‘11)は太陽がテーマで、前作『Eat The Moon』(‘12)は深夜がテーマだったんですけど、太陽、月ときて、今回は夕方だろうと(笑)。ただ僕らは昼夜逆転の生活をしてることが多いんで、朝焼けを見ても夕焼けかと思っちゃったりすることもあるんですけどね(笑)」
――今作に伴うツアー、大阪は6月28日(金)心斎橋JANUSですね。関西のファンにひと言お願いします。
谷川「リリースツアーをやって初めて、アルバムが完成する感覚があるんです。レコーディングではやり尽くせてなかった部分を、ライブで曲としてやり切った、みたいに、ツアーをやって初めて思うことがある。『Orange』の完成形を見に来て欲しいですね」
谷「ただねぇ、僕らMCがすごいヘタで有名なバンドなんですよ(笑)。やっぱり関西はホームタウンなんであったかいんですけど、お客さんは特に手ごわいんですよねぇ…(笑)」
Text by 梶原有紀子
(2013年6月26日更新)
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