YouTubeもアイドルもクラブ事情もピックして軽やかにラップする “サ上とロ吉”ことサイプレス上野とロベルト吉野が ニューアルバム『TIC TAC』引っ提げ初の全国ワンマンツアー! 痛快インタビュー&動画コメントが到着
ジャパニーズ・ヒップホップシーンを飛び越え突き抜け話題を振りまく1MC1DJ、“サ上とロ吉”ことサイプレス上野とロベルト吉野。昨年は『コヤブソニック2012』や『京都大作戦2012』などのフェスにも出演し、エンタテインメント性の溢れる痛快なステージで、新たな層も次々に虜にしている2人組だ。前作『MUSIC EXPRES$』から1年弱でのリリースとなった最新アルバム『TIC TAC』は、“ハマの大怪獣”ことOZROSAURUSや、YOUR SONG IS GOODのサイトウ“JxJx”ジュン(初となるトラックメーカーとしての参加)、スチャダラパーよりSHINCOらをゲストに迎え、SPECIAL OTHERSのコラボアルバムへの参加曲をリミックスVer.として収録するなど、より多くの人にアプローチする引っかかりを作りながら、あくまでもどこまでもヒップホップ。ながらも「今回は、日本語ラップっていうものを意識せずに作った」と語るサイプレス上野に、アルバムについて、ライブについて、話してもらった。
実はこの日カミソリ負けしていたサイプレス上野から動画コメント
――今回は2012年3月にリリースした3rdアルバム『MUSIC EXPRES$』から1年弱でのリリースで。その際に「1年以内に次を出す」とは聞いていましたが、ホントにやりましたね。
「出ましたね~。もう1枚はすぐ出そうって話してたんですけど、実際に作ったのは超短期間で1ヵ月くらいでまとめましたね。ライブをしながらリリックとか曲のフレーズが浮かんだら溜めておいたりと断片はあったんですけど、さすがに締切ヤバいなって感じになってきて、正月返上でしたね。年末にライブを入れ過ぎちゃって制作が出来なかったから、正月にやるしかなくて。もう1月2日から、自分たちのヤサ(=サ上とロ吉たちの溜まり場&プライベート・スタジオ)で。“何やってんだろうな。新年会行きてえよ”“けどやんねえと怒られるしな”みたいな(笑)」
――結果的に短期間での制作になったことで、衝動のまま素直に作れたりと、いい影響はありましたか?
「作りたいものを作る、っていうのはヘンな言い方ですけど、今そのとき思ってることを書いたから、ちょっと昔に書いてて“今さらかよ”っていう曲がなくて」
――しかもリリースもすぐさま、ですもんね。
「作って1ヵ月後には出てるっていう。宣伝チームとしては最悪なパターンなんですけど(笑)、自分たちとしては満足のいくものが出来ました」
――昨年12月に、地元横浜のヒップホップ・シーンのオリジネイターであるOZROSAURUSを迎えた先行シングル『ヨコハマシカ』(M-3)をリリースしました。同じく横浜の2人組、LUVRAW&BTBのトークボックスも入っていて。オジロとやってみて、実際にどうでしたか?
「やっぱスゴいなって。触れ合うことによってさらにスゴさが分かるというか」
――メロウなトラックで、というのは最初からイメージしてたんですか?
「オジロとサ上とロ吉の組み合わせでみんなが期待するのは、ハードな、アゲアゲな曲だろうから、こういうメロウな方がカウンターでおもしろいんじゃないかなって」
――そうですね。この2組だとハードな曲を期待しました。
「しかも、自分たちにとってもメロウ過ぎるトラックだったから。でもMACCHOくんのラップは絶対ハマるだろうなっていうのはあった。オジロの曲ってハードな曲もいいんですけど、メロウな曲が好きだったから。このトラックを聴いてもらって、“これいいじゃん。決定”ってノリですぐ決まりましたね」
ノリで“上野ぉ~↑↑ 吉野ぉ~↑↑”とか言い出して(笑)
でも実際、アイドルと対バンすることもあって
盛り上がり方がハンパじゃないのを目の前で見てるんで
――アルバムに話を戻して順に追っていくと、まずは『ぶっかます』(M-1)なんですが、上野さん発案の造語“ぶっかます”(=ぶっ放す+ぶちかます)について、“「ぶっかませ!」の元祖はオレ”と、今一度表明しています。あと、ももクロのコールをモロパクリしたコールがあったり(笑)。
「あのコールはドリームマンってヤツで、そいつがアイドルがすごい好きで。ヤサでももクロのDVDを流しながら、“夏菜子ぉ~↑↑”とかずっと言ってて。すごい迷惑なんですけど(笑)。AKB48のCDもめちゃくちゃ持ってるんですよ、握手券のために(笑)。そういうガチのヤツで。ノリで“上野ぉ~↑↑ 吉野ぉ~↑↑”とか言い出して(笑)。でも実際、Negiccoとかアイドルと対バンすることもあって、盛り上がり方がハンパじゃないのを目の前で見てるんで。そういうコールはすげえいいなと思ってたのもあって」
――アイドルのライブのあの一体感は、すごいですもんね。
「コール&レスポンスがあって、お決まりの台詞があって。これはオレたちも欲しいと。ちゃんとコールのところはドリームマンの声なんですよ。本物のアイドル好きがやってるから、ギャグではないっていう(笑)。レコーディング、緊張しちゃってたけど(笑)」
――『マイク中毒 pt.3 逆feat. STERUSS』(M-4)は、ZZ PRODUCTION(=ダブル・ゼータ・プロダクション…STERUSSやサ上とロ吉らによる横浜のヒップホップ・クルー)を共にするSTERUSSの名曲『マイク中毒 pt.2 feat. サイプレス上野』に対するオマージュというか。『マイク中毒 pt.2』は日本語ラップから受けた影響についてラップしていて。前作『MUSIC EXPRES$』の最後の曲『日本語ラップKILLA★』でも、同じく日本語ラップからの影響を延々とラップしていました。そこから一歩進めた形として、この曲では“今もなお音楽をしているということ”について、それぞれの立ち位置でラップしています。
「今回のアルバムは、“日本語ラップ”っていうものを意識してないというか、そこへの想いは今言った『日本語ラップKILLA★』で自分の中で終わらせた感じはあって。STERUSSとも昔話(=『マイク中毒 pt.2』)はすでに作ってるから、今の話をしましょうよって。去年のフジロックのSTERUSSのライブで、最後にシークレットで出て『マイク中毒 pt.2』をやったんですよ。それがすげえ盛り上がって映像もバンバン流れたけど、“この曲でずっと盛り上がってんのもおかしくない?”って。あれは心の中の1曲だけど、いまだに高校の頃の話をしてもねって。STERUSSも一時は解散手前までいったけど、そこから盛り返してフジロックに出たりして。じゃあなおさら今の話をした方がおもしろいっしょって」
――なるほど。
「若い頃にZZを組んだとき、STERUSSはすでにCDを出してて評判だったし、“音楽で食っていく”っていう想いがあって。オレたちはその横でヘラヘラして、“STERUSSがしっかりしてるから大丈夫”、みたいな(笑)。何の因果か人には生活ってものがあるから、(STERUSSは)仕事や結婚、家庭を持ったりして。オレたち2人はボウフラみたいなもんなんで(笑)、バイトする気もなくて、“CD売ったら食えるじゃん”ってところから今に至るんで。それが逆におもしろいよねって。STERUSSも“オマエらは音楽だけでメシ食えてていいよな”みたいには言ってこないですから。オレたちもそういうのはないし、ひがみも妬みもないクルーだから、それを歌いましょうよって。この曲のPVでは、STERUSSのCRIME6が仕事帰りの格好のまま撮らせてもらって。電車でマイク持って、みたいな」
VIDEO
――スーツ姿で?
「そう。普段は仕事をちゃんとしてる、しっかりした男なんですよね。撮影の日、CRIME6と待ち合わせした駅で、酒を買って待ってたんですよ。まあ昼間から飲んでたんで結構ベロベロだったんですけど(笑)。そしたらCRIME6もビールを買ってきて。変わんねえなって。飲んでから撮影したから、顔真っ赤すよ。フラフラ(笑)。その後もそのまんま飲みに行って、終電もなくなっちゃって、じゃあクラブ行くかって。遊び方変わってねえよ(笑)。でもそういうのがすげえグッとくるというか」
――クルーの話だと、『WHO'S LEADER!? feat. JAB』(M-9)もそうですよね。大阪から高槻POSSEのJABを迎えて。クルーを率いることの難しさというか。
「いつの間にかリーダーになってしまってたくさい、っていう(笑)。 DJ KAZZ-KがホントはZZのリーダーなんですけど。JABとはすげえ昔に知り合ってて、オレがSPECIAL OTHERSのワンマンにゲストで出たときも、何も言わずに普通に見に来てくれてて。貪欲なんですよね。そういうのは表情にも出さないんですけど、男気っていうか、ガッつかないでそういうことをするヤツだから。今回JABと一緒にやりてえなってなったときに、“オレらのテーマって言ったら、あれしかないよな?”って。しょうもねえヤツらがい過ぎて自分たちが真面目に見られる葛藤みたいな(笑)。やりたくねえな、でもやらなきゃダメなんだ、みたいな。ちゃんとやってくれる人がいたらオレ、何にもやらなくなりますからね(笑)。適当にやってた一員だったはずなのに、なんでオレらが仕切ってんの? って。高槻POSSEも似てるんですよね。今回のワンマンツアーも、JABは札幌と仙台以外全部来てくれるんですよ。“行くんでやっていいすか?”ってさらっと言ってくれて。最近の若いコは何だかんだ、“お願いしまーす”ってすぐ求めるヤツが増えてるから。そうじゃないだろうって」
“YouTubeとかじゃなくて、CD持ってんの?”
――『だろう生活ながら毎日』(M-6)のダラダラ感、すごく分かります。“決め事は決めずに中途採用 何とか形にする最初最後”といったリリックだとか。
「全てそうすね。だいぶマシになったんですけどね。『MUSIC EXPRES$』を作る前はヒドかった。焼酎を1日1瓶とかずっと飲んでたんで、冷や汗が止まんなくなったりして(笑)。30越えたヤツらがほぼ毎日集まって(笑)。今はそれぞれ少しはマトモになったんじゃないかなって」
――この曲は、YOUR SONG IS GOODのサイトウ“JxJx”ジュンが初めてトラックメーカーに挑戦した曲です。
「ジュンくんは元々ラップ・グループをしてた人だし、多分オレたちよりヒップホップに詳しいから。かつ、今の音楽にも貪欲な人で、楽器も弾ける。トラックメーカーとしてももっとやっていって欲しいし、いろんなラッパーに使って欲しい。今はメロディのあるトラックが求められてるし、そういうのを作らせたら最強なんじゃねえかな。ジュンくんのトラックで実はもう1曲録り終わってるんですよ。それは真逆で、ダラダラじゃなく頑張ろう的な内容で」
――『YouTube見てます』(M-10)は何と言うか、こういうこと言われるんだろうなと(笑)。
「しょっちゅう言われますね。“YouTubeとかじゃなくて、CD持ってんの?”って聞くと、“ちょっとまだ持ってないんですけど…”って。ファンじゃねえじゃんそれ! 普通に“レンタルします!”とか(笑)。どんな形でもいいから聴いてくれりゃあいいかなって、今は思うようになったんですけど」
――それを本人に直接言っちゃうんですもんね。
「そういう感覚なんですよね。YouTubeを見ることで、再生回数で応援してる、みたいな。“オレその内50回見ましたよ!”って言うヤツいますから(苦笑)。“ああ、ありがとう…”って」
――もう、そうとしか言えないですよね(笑)。
「怒りと共に、これはおもしれえなって。これを曲にしなきゃなって」
激論とかスピーチじゃなくて、普通の街の会話
友だちと話してることをラップしたい
――そして『特にありません』(M-11)では、クラブを巡るあれこれをラップしています。女の娘のことから風営法問題について。あの女の娘のくだりは実体験を元に?
「実際にありましたね~。ナンパしたって話じゃないんですけど、顔見知りの女がいたから“おっ、久々”って声をかけたら、ぷいっ、とされて。“知り合いだけど知り合いじゃなーい”って言われて、“はあ!?”って(笑)」
――“ダダで来たけど金返せだし”ってパンチライン、最高ですよね。いそう(笑)。
「残酷ですよ。若い女の娘がDJと付き合うと。変わっていっちゃうんで。そんな思い出も織り交ぜて(笑)」
――でも、“特にありません 言いたいことなんて”とラップしていると。
「特にありまくりなんですけどね(笑)」
――言いたいことを、言い過ぎない。それは今回のアルバムに共通して言えることなんじゃないかなって。
「立ち話程度の感じで言いたいっていう想いが最近強くて。激論とかスピーチじゃなくて、普通の街の会話。友だちと話してることをラップしたいなって。去年『コヤブソニック』に出て、ライブ後に小藪さんとRGさんとステージで喋ったときに小咄みたいな話をしたら、小藪さんがすげえ褒めてくれて。“いるんですよね、こういうフリからオチまでナチュラルに出来る人が”って。それでゾクっとして。オレ、小藪さんの前で何話してるんだろうって思いつつ、オレたちの喋りって芸人のプロも笑ってくれるんだって、自信が付いたというか。それは喋りに対してというよりも、話してる内容について。オレたちのダメ過ぎる生活も間違ってなかったな、みたいな」
――ラストは『GIVE ONE'S LIFE 4...』(M-12)。ド直球にラブソングですね。
「そのまま言った方がいいかな、みたいな。この話は…恥ずかしいすね(笑)」
――この曲もそうですが、全体的に今回はメロウなトラックが多いですよね。
「いろんな場所でライブするようになって、全部がアゲアゲじゃなくて、落ち着かせる時間もあっていいんだなって思うようになって。クラブで落ち着かせるとみんなすぐにフロアから出ていってバーカンの方でワイワイやるんで、その不安がデカかったからずっとアゲていく感じだったけど。スチャダラパーのBOSEさんとフェスで一緒になったときにも、“曲を最初から最後まで聴きたいお客さんもいるんだよ”ってアドバイスされたんですよ。今までBOSEさんは“オマエらは好きにやってたらいいよ”みたいな感じだったのが、そう言ってくれた。“おおっ! マジすか、アドバイスしてくれるんすか、後輩に!”みたいな(笑)」
――確かに、クラブ、フェス、ライブハウスとそれぞれ違ってきますもんね。
「BOSEさんはそういう場所でもやってるから、その重みを分かってるっていうか。目から鱗だった。オレたちはアゲたまんまオイシイところを詰めていけばいいんじゃないかって思ってたのが、実は違う。スローダウンさせる時間も必要で。今回のアルバムはそれを思って作ったんですよね」
――5月11日からワンマンツアーも始まっています。関西は5月18日(土)梅田Shangri-La、アルバム収録曲にも“LIFE GOES ON”をもじって『LIVE GOES ON』(M-2)という曲もあるほど、ライブ至上主義のサ上とロ吉です。今回のライブに対する想いを最後に聞かせてください。
「こういったワンマンライブの形でツアーを廻るのは初めてなんで。2時間強のライブを、いろんな場所で見せられるのは、楽しみっすね。BOSEさんのアドバイスにもあったように、ケツまで1曲丸々聴かせるのもやっていきたい。そうやってスローダウンさせた方が、その後の爆発力はデカくなるんじゃないかな。バンドのライブでよく言うじゃないですか、“オマエらここからアガっていくぞー!”みたいなね(笑)」
Text by 中谷琢弥
(2013年5月17日更新)
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