フジファブリックは、歩き続ける
より自由に、より新しいアプローチで魅せたニューアルバム
『VOYAGER』が誘う初のホールツアーもクライマックス!
山内総一郎(vo&g)インタビュー&動画コメント
フジファブリックならではの魅力が、一聴した瞬間から溢れ出して止まらない。3月にリリースされた1年半ぶりのニューアルバム『VOYAGER』では、アニメ『宇宙兄弟』オープニング曲『Small World』(M-8)などのシングルをはじめ、クラクラするほどスペイシーなキーボードがいつの間にか祭り囃子にも聴こえる『Fire』(M-9)などのトリッキーな側面も、『若者のすべて』をうっすら想起させる『Time』(M-4)に代表されるバンドの叙情的な側面をも余すところなく放出。バンドの中心であった志村正彦亡き後、3人体制でスタートを切ってからのフジファブリックの勢いには目を見張るものがあり、インタビューでも語られているように、全国ツアーは徐々に会場の規模を拡大。現在展開中のツアーでは、堂々の初のホール会場へと進出している。淡々と、けれど丁寧に、気持ちを込めて山内総一郎(vo&g)は語ってくれた。力強い一歩を刻みつけた素晴らしいアルバムを届けてくれた3人に、深い敬意を表したい。
山内総一郎(vo&g)からの動画コメント!
――『VOYAGER』はフジファブリックならではのアルバムになりましたね。
「今作は現体制で2作目なんですけど、バンドの再スタートで『STAR』(’11)を出し、その後ツアーを3本やって1本1本実りのあるライブが出来て。バンドが常に変化してる状況で制作していたので、自分たちの中にあるものが色濃く出てるんじゃないかと」
――振り返れば2012年はライブが多かったですね。
「ずっと走り続けてる感じですね。『STAR』を出した後、僕らも本当に不安な中でのツアーだったんですけど、ステージに出て行ったときのお客さんの反応や温かい声援に “フジファブリックとしてやり続けていいんだ”という勇気をもらったというか、“自分たちのやりたいようにやっていいんだ”って思ったんですね。それからもっと自分たちのことを間近で感じてもらいたくてライブハウスツアーをやり、次の『Light Flight』(M-12)のツアーでは、曲を作るときとか歌詞をイメージしたときに自分たちの頭の中に思い描く映像をライブで再現したくて、映像と音の融合にチャレンジして。そうやって1つ1つツアーをやるごとにテーマを設けてやっていきましたね」
――今回のアルバム『VOYAGER』の中に、ツアー中に出来た曲もあるんですか?
「『徒然モノクローム』(M-1)『流線形』(M-10)『Small World』『Light Flight』は、『STAR』を出した後のツアー中に同時期にデモが出来ていて。 “早く次を作りたい!”という気持ちが溢れ出た4曲かなと」
――どれもキャラの立った曲ですね。
「そうですよねぇ。僕らは3人とも作詞作曲しますし、それぞれのキャラが曲に出てるんじゃないかなっていうのは何となく思ってるんですけど、“バンドを続ける”ということへのモチベーション、音楽に対するモチベーションを3人で共有出来ているので、最初にデモを出してバンドで合わせるところまでは早いんですよ。まぁどの曲も後半はだいたい苦戦するんですけどね(笑)。悩むときはとことん悩むし煮詰まる」
――打開策は何かあるんですか?
「サポートドラマーのBOBOさんと、ずっと一緒にやって頂いてるエンジニアの高山徹さん、その方たちからのアドバイスも大きく影響してると思います。自分たちが悩んで煮詰まってても、“いーじゃん。これ、かっこいいじゃん!”って言ってもらえたら、一瞬で“あ、そうですか”ってなったりして(笑)」
――アルバムは、オープニングの『徒然モノクローム』から『自分勝手エモーション』(M-2)『Magic』(M-3)までの勢いがとにかくすごくて、CDが鳴り始めた瞬間から一気に持っていかれるようです。
「『徒然モノクローム』はアニメ『つり球』のオープニング曲で、’11年の暮れにお話を頂いたんですが、オープニング曲をやらせてもらうのは自分としても初めてのことだったんで、“始まり感”みたいなものは意識しましたね。それと共に、今回のアルバムで最初に手をつけた曲だったので、アルバムのとっかかりにもなったんで1曲目にしました。僕らはギターや鍵盤のリフが好きなバンドなんですけど、『自分勝手エモーション』はまさにリフをきっかけに広がった曲ですね。夜な夜なスタジオで1人で踊りながら作ってました(笑)」
――ギラッとしたキャッチーな曲ですよね。
「ちょっと80sぽいけど、よく分かんない曲ですよね(笑)」
――その“何だろう!? これ”みたいに、言葉で形容しづらいところがフジファブリックならではの持ち味な気が。
「そう言ってもらえるとありがたいですね。自分たちでもそこを目指すというか、“何だろう!? これ”っていうものに1番興味を惹かれるんですよ。例えば“本当にドキドキするジャズだね”とか“パワフルなブルースだね”とか“激しいロックだね”とか思う音楽をめちゃめちゃ好きで聴いてるんですけど、作り手としては簡単にジャンル分けが出来ないような、“何だろう!? これ”っていう音楽を作ってるときが1番ドキドキする。バンドで合わせたときにそういう曲が出来ると、ものすごく喜びを感じますね」
30歳を超えた男3人のバンドが
“近い”っていうのも気持ち悪いんですけど(笑)
――冒頭の3曲は加藤さんの作詞ですが、今回は特に加藤さんの詞のセンスがものすごく炸裂してるように感じます。『Magic』でも韻とダジャレとの狭間で、ギリギリの感じがあって(笑)。
「炸裂してますよねぇ(笑)。加藤さんは、おもしろい言い回しとかボキャブラリーを持ってる人なんですよね。あと、これまでもそうだったんですけど、クレジットに1人の名前しか載ってなくても、ほとんどの場合はみんなで作ってることが多いんです。作詞でも曲とテーマを決めて、提出日にそれぞれが1コーラス分書いて持ち寄ったり」
――へぇ~おもしろいですね。
「そうすると不思議なことに、3人とも割と近いものを書いてきてるんですよね。30歳を超えた男3人のバンドが、“近い”っていうのも気持ち悪いんですけど(笑)、そうやって持ち寄ったものを深いところでまとめるのが加藤さんだったりもして」
――そういった曲と共に、『Time』や『春の雪』(M-11)辺りの情景が喚起される叙情的な曲も、フジファブリックの大きな魅力で。
「『透明』(M-6)もそうなんですけど、自分が曲を書く場合、映像を思い描いてることが多いので必然的にそういう言葉を選びがちというか、自分の中にある物悲しさだとか、希望だとかを想起させる言葉を選ぶことが多いかな。『春の雪』は、中間に入ってるコーラスを聴いてるときにちらちら雪が舞ってる印象を受けて、でもその雪は豪雪じゃなくてしんしんと街に降っている雪…。その雪が降る中を列車が走っていて、その窓から見えるものが浮かび…それだったら夜だなとか、関ヶ原あたりを走ってるかなとか思いながら(笑)、書いていった感じですかね」
――すごく具体的なんですね。『春の雪』のコーラスは雪と桜が一緒に舞っているようで、本当にグッと響く曲だなぁと。あと、曲順もかなりのクセ者だと思いました。冒頭からものすごい勢いで引っ張りこんだと思ったらグッと胸に響く曲で唸らせ、最後まで山あり谷ありどころじゃないグシャグシャ感(笑)。これはシャッフルしないで曲順通りに聴いて楽しんでもらいたいですね。
「アルバムを聴いてもらう環境や聴いてくれる時間帯はバラバラだと思うんですけど、自分たちが責任を持てるのは、作品として1曲目から聴いてもらったときで。ハッとしたり何かが耳に残ったりしてもらえるような曲順に出来たら=1曲1曲が活かされるんじゃないかなと。例えば冒頭で『徒然モノクローム』の後に『自分勝手エモーション』を聴いたらより高揚感が出るんじゃないかとか、曲が曲を活かす曲順みたいな感じで考えましたね」
――あと、曲中で“ガラス製の靴を履いて”と聴こえる部分が、歌詞を見ると“ガラス製の苦痛を吐いて”とあって。加藤さんのセンスのすごさの一端を見た気がしました。
「これはのけぞりましたね。すごいと思いましたし、大好きなフレーズです」
――加藤さんはこういう詞を、しれっと書いてこられるんですか?(笑)
「歌詞を見せるときはしれっとしてますけど、悩んで書いてるんじゃないですかね。と言うか、歌詞で悩まない人っていないんじゃないかと思うんですけど、どうなんでしょう? サラッと書ける人がうらやましい(笑)」
――そうやって歌詞を書いて歌うことは、山内さんの中ではしっくりとなじんでいますか?
「もちろんめっちゃ楽しいんですけど歯がゆいときもあるし、出来なくて煮詰まることもあるんですけど、壁にブチ当たる度に“打ち破ってやる!”という感じで。充実してます」
――歌詞を書いたり、気持ちを言葉にする作業は、自分自身を掘っていく作業でもありますよね。
「それと共にリズムとか言葉のスピード感も大事だと思いますし、歌になったときにどう響くかも大切で。歌詞が出来ても歌ってみたら“あれ?”っていうこともあったり、酔っぱらってガーッと書いたものを、翌日見たら“こりゃダメだ”っていうこともある(笑)。僕自身は詞を書いたら、少し日を置きたいなって思うこともあって。実は『透明』は11パターンぐらい詞を書いたんですよ。でも11パターン目を見てみると、言い方をひねり過ぎてたり、分かりにくくなっちゃってて(苦笑)。結局1番最初に書いたものが曲に対してストレートだったり、自分の気持ちが最も出ていたりして。レコーディングでも1テイク目がいいとかよく言われますけど、1テイク目にしか出ないものがきっとあるんでしょうね。歌詞にも通じるところがあるのかもしれない」
ライブって毎回、本当にお客さんの顔に感動するんですよ
――『Fire』もかなり驚きに満ちた曲ですが、これもエレクトロと呼んでいいのか…(笑)。
「本当に何なんですかねぇ(笑)。エレクトロでもないし、テクノでもないし、ましてはレゲエでもないし、ユーロビートでもない。最初に(金澤)ダイちゃんが曲を持ってきたときも、“こんなの出来ちゃった!”みたいな、出会いがしらの事故みたいな感じで言ってきて(笑)。そのデモを一聴したとき、まさに“何だろう!? これ”と思ったんですね。どのジャンルにも当てはまらないわ、言葉で説明とか形容出来ないわ、でもこの中に彼のやりたい“何か”が詰まってるんだろうなと思ったんで。ダイちゃんは曲を持ってきといて“これをやんのぉ!?”みたいな感じでしたけど (笑)」
――アハハハハ!
「ドラムパターンだけ取り上げたらメタリカの1stかって感じですし(笑)、何かおもしろいなって。バンドでやってみたいなって思ったんですよね。曲を完成させるまでにはやっぱり相当悩みましたけど(笑)」
――“何だろう!? これ”をポップに昇華させていくのもフジファブリックならでは?
「ポップにも幅広い意味がありますけど、自分が思うポップは、印象的なフレーズだったり、リフだったり、つい口ずさんでしまいたくなるメロディとか、つい弾き真似をしてしまうギターとか…そういうポップさがある楽曲をフジファブリック的には目指してるんじゃないかな、と思いますね。ポップじゃないとダメっていうわけじゃないけど、どの曲にもそういうメロディやリフが欲しいなって自ずと考えて作ってるんじゃないかな」
――それと共に、小さい頃から親しんできた童謡や唱歌に触れたときに感じる懐かしさ、親しみやすさに近いものがフジファブリックの音楽にはあるような気がしますね。
「僕自身そういう童謡は大好きなんですね。『ちょうちょ』でも『赤とんぼ』でも、“夕焼け小焼けの赤とんぼ”って聴いた瞬間に映像がパッと浮かぶじゃないですか? 繰り返し聴いていたそのときの映像も浮かびますし。『ちょうちょ』はドイツ民謡で、『蛍の光』も確かスコットランド民謡だったと思うんですけど、外国の民謡に日本の歌詞を付ける、そういうポップ感みたいなものは大事にしたいなと思うんですよね。自分の中にも削ぎ落としたい部分はまだまだあるんですけど」
――10曲目の『流線形』あたりにくると、オープニングのドカドカした勢いから、随分遠くまで旅に出てきたもんだというぐらい、景色も色合いも全く違う世界が広がっています。
「そうなっちゃいましたね(笑)。オープニングからここまでの山あり谷ありがあって、最後は『Light Flight』でアルバムをちゃんと終わらせたい気持ちもありましたし」
――『Light Flight』を聴いているときに4曲目の『Time』をふと思い出して、思い出やいつか見た景色が曲と共に蘇ってついつい感傷的になりそうなところで、“感傷には浸れず”っていうフレーズが耳に飛び込んでくる。『Light Flight』も感動的な曲で、そこに前を見つめて力強い一歩を踏み出す3人の姿が重なって、またここから始まるんだなぁという気がしました。
「ゆっくりですけどね。3人で歌詞を作る作業って、学校のテスト勉強みたいに“ねぇねぇここはさ…”とか言いながらやるんじゃなくて、お互いが書いてきた歌詞に“そうだったんだ!”っていう発見があるんですよね。そんな3人に共通してるのが“歩き続ける”っていうワードだったりもするんですよ。そこから察するに、まだ止まれないって3人ともが思っていて、そういう歩き続けたい気持ちも含めて、『VOYAGER』っていうタイトルになったんだと思います」
――なるほど。
「前作『STAR』は“自分たちの気持ちを、意思を伝えたい!”っていう衝動で作ったところもあってストレートなアルバムになったと思うんですけど、今作はそれを経てツアーをやって、3人ともが自分の好きな音楽やこのバンドをより深く捉えることが出来た上で作ったアルバムだと思うし、自分の中から出てくるものを、構えることなくすんなり出せるようにどんどんなってると思います。と言うか、歌ってても演奏してても、抑えようがないんですよね(笑)。キーボーディストのダイちゃん、ベーシストの加藤さん含めこのアルバムを作る中で、自分の中を掘る、探す旅に出ることが出来たので、出来たときの充実感は格別でしたね。本当に、みんなで作ったアルバムだなぁと思います」
――最後の一言に重みを感じます。4月から初のホールツアーも始まっていますが、大阪はオリックス劇場ですね。
「大阪はホールでのライブは初めてですね。歌うようになってから特に思うんですけど、ライブって毎回、本当にお客さんの顔に感動するんですよ。わーって喜んでくれてる表情だったり、一緒に歌ってくれてる顔だったり。『VOYAGER』には航海士とか旅人っていう意味があるんですけど、これまでのツアーも含めいろいろな音楽活動の中でインプットしてきたものや、芽生えた音楽的な欲求、そういうものを感じながら、旅をしながら作ってきたようなアルバムになりました。改めてこれからも歩き続けていきたいし、バンドを続けていきたいって感じてるので、今回の大阪でのライブも皆さんに楽しんで頂けたらと思います!」
Text by 梶原有紀子
(2013年5月14日更新)
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