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音楽的実験を繰り返す飽くなき探求心
妄想を具現化する五感のファンタジー
新津由衣によるソロプロジェクト・Neat’sロングインタビュー
ポップでアートな2ndアルバム『MODERN TIMES』に迫る!

 作詞作曲、アレンジ、アートワークからYouTubeの配信、CDの梱包から発送まで(!)、アーティスト活動の全てをDIYで手掛ける新津由衣によるソロプロジェクト、Neat’s。1月26日にリリースされた2ndアルバム『MODERN TIMES』では戸高賢史(ART-SCHOOL)らをレコーディングサポートに迎え、USインディ/UKオルタナシーンのエッセンスをジャストなさじ加減で昇華した楽曲とバンドサウンドの幸福な出会いにより、その瑞々しいポップセンスが爆発! “Bedroom Orchestra”という完全自演スタイルで、ギターや鍵盤、サンプラーにiPhoneと、ありとあらゆる楽器を巧みに操っていた彼女が、ドアを開いて新たな一歩を踏み出した新作を紐解くインタビューは、自ずとNeat’sの根幹にあるクリエイターとしてのビジョンとルーツ、同時にその根底に流れる新津由衣としてのコンプレックスや反骨心までを浮かび上がらせることとなった。音楽的実験を繰り返す飽くなき探求心、妄想を具現化する五感のファンタジー。1つ1つ欠片を集めるように自らのサウンドスケープを拡大する、新たなポップマイスターに成り得る才を秘めたNeat’sに迫る。

Neat'sからのキュートな動画コメントはコチラ!

――アルバムは基本はオフィシャルHPでの販売と、音楽業界のリリース形態としては特殊ですけど、それによる手応えとか、もしくは難しさってあります?

 
「さまざま。いろんな面でプラスマイナスはありますね。いつもだったら作品を作るまでがクリエイティブで、その後はベルトコンベアの作業というか、大量生産の流れの一部としか考えてなかったんですけど、そこもクリエイティブな作業なんだなって気付けたんですよね。どうやったらお客さんに早く届けられるのかな、どうやったらもっと喜んでもらえるのかなとか、作品作りとはちょっと違う視点で、人とどうやったら繋がれるか。幅広い意味でクリエイティブなんだなって気付けて」
 
――それはやってみないと気付けないですよね。下手したらそれに気付かずアーティスト人生を終える人もいるでしょうし。逆に大変なことってあります?
 
「人力だから、すべてが(笑)」
 
――1000枚申し込みがきたら、1000枚発送しなきゃいけない(笑)。
 
「まさにそうですね(笑)。手が足りないし、時間も足りないし、睡眠が足りないっていう、実質的な面で」
 
――音源を作るだけがクリエイティブじゃなくて、どういう形態でみんなの元に届けるかを含めて、音楽業界が行き詰ってると言うけど、こういうチャレンジがまだまだ出来る。
 
「自分のアイデアだったり工夫が本当はあるはずなのに、それを先入観によってないがしろにも出来ちゃうじゃないですか。それをしたくなくて、敢えて自分を崖っぷちに落としてる感はありますね。このままベルトコンベアに乗っても先が厳しいのが分かっちゃったから、逆にそこからどうしようとやってることなので、初めからあんまり楽な方法は選んでないですね」
 
――音源もジャケットも、映像も全部自分でやるわけじゃないですか。そもそもそのスキルはあったんですか? 元々何が出来て、何が出来なかったのか?
 
「何も出来なかったです(笑)。何も出来ないし、本当は機械オンチなんですよ。見よう見まねで勉強したって言うほどではないですけど、元々凝り性ではあるんで。すごい完璧主義だし。その性格が自分を苦しめて(笑)」
 
――自分で隅々までこだわってやれる楽しさもあるけど、っていう話ですよね。
 
「元々モノ作りが好きなんです。音楽に限らず図工とかも大好きだったし、元々は映画監督になりたかったので、音楽より先に映像とか絵を好きになったのもあるから。今まであきらめてきた夢を、今さらながらやってる感じもあって楽しいです。とは言え、やってることは“ごっこ遊び”なんです。技術はないけどそれを補うアイデアとして、逆に素人だからこそプロの人とは違う発想が出来る。それを最大限に活かせる方法はないかなって」
 
――そっち方面の上達も2作目では感じました?
 
「前は分からなくて行き詰まって、ネットで同じような問題になってる人がどう解決したのかブログを追っていくのに3時間くらい費やしてたのは短縮されたかな(笑)」
 
――“映像 編集 バグ”とかで検索してたどり着くみたいな(笑)。
 
「そうそうそう(笑)。今回は映像がものスゴく大変だったんですけど、アップルの人に毎日電話して、“最終段階まできたんですけど書き出せないんです”、“容量が重過ぎちゃって、それ飛んでますね”みたいな。“飛んでますね”って言われても明日締切で~みたいな(笑)」
 
――ちなみにそれはどうやって解決したんですか?
 
「急遽ファイナルカット・プロっていう3万円ぐらいのソフトを買って、それに全部取り込み直して寝ないでやりました(笑)。もう吐き気がしました(笑)」
 
 
お家でずーっと地味に1人でサーカスしてるのも好きなんですけど
やっぱりサーカスの団員がいた方が人間らしいなって
 
 
――前作からちょうど1年、新プロジェクトとしてスタートしてDIYで丸2年くらいやってきて、今作にはどういう段取りで向かっていったんですか?
 
「基本的なスタイルは変わってないですね。ずーっと実験を続けてるような感じです。前作は自宅のパソコンの中にある秘密だけを探っていって作ったような形で。今作はバンドでサウンドを作るっていうのが自分にとって冒険だったんです。全部自分で出来きないし、全部は見えない。でも、人の家に行って、“こんなおもちゃあるんだ、教えてよ”って鳴らしてもらったら新しい発見があったというか。“ちょっとそのおもちゃ貸してくんない?”って作っていったのが2枚目なんですよね」
 
――さっき言った“秘密”って例えではあると思うんですけど、具体的な言葉を挙げるとすると何かありますか?
 
「自分の知らないこと。自分の分からないこととか未知なことを、何となくボタンを押してみる感じというか。そういう偶然のワクワク感とか、うわって感動するときの鮮度って、一番高いと思うんですよ。それにいろんな気持ち=フィルターが重なっていくと、その鮮度が落ちちゃうと私は思っていて。それを出来るだけ鮮度の高い状態で、どうにかみんなに届けられないかなっていう実験をギュッと詰めたのが1枚目で。でもやっぱり一周りしてしまうと鮮度が落ちちゃうから、2枚目は違う形でそれを鮮度に変えられないかなって」
 
――何か作り方が変わったりするもんでした?
 
「前作でツアーを回ったとき、バンドの中で歌う経験も初めてだったからすごく衝撃的で。“人間が音を出している”衝撃というか。例えば“ポーン”という音が鳴って、その音が気に食わないと思ったら、その“ポーン”に対して7時間くらい時間をかけるんですよ。もうちょっと“ポ”を削ってみようとか、逆に“ポ”だけにフィルターをかけようとか。でも生っていうのは、“ポーン”でも“ボーン”でも偶然に鳴っちゃうじゃないですか」
 
――二度と同じ“ポーン”が出せるか分かんないですからね。
 
「そういう生の音の偶然の産物。私は結構運動音痴で、パッと音を出すのが逆に苦手なんですよね」
 
――考えて考えて練って準備をすると作れるけど、反射神経的にやり取りするのが苦手。
 
「元々運動がすごく苦手で、パッと考えたことを口に出せないんです。感情としても。怒ったり出来ないし。“うわっ!”ってなったら1回自分の中で止めて、“これを何て言ったらこの人に伝えられるかな”とか思っちゃうから。それが曲作りと一緒なんですよ」
 
――でも時に後で“やっぱりムカつくわ”ってなりますよね。あのとき言っておけばよかったとか。
 
「思います。それは悲しくてしょうがない(笑)。あのとき何で言えなかったんだろうっていうのを繰り返して、嫌なのにまた同じことをやっちゃう」
 
――自分の中で1回咀嚼してどうアウトプットするかって、工場を通って出てくるわけですね。でもバンドとか生の音は、それとはまた違う良さがある。
 
「ポンって押したらバンって出るからそれは面白かったですね。こういう風に生きていきたいって思いました(笑)」
 
――ハハハハハ!(笑)
 
「うらやましかったな~。お家でずーっと地味に1人でサーカスしてるのもすごく好きなんですけど、やっぱりサーカスの団員がいた方が人間らしいなって」
 
――Neat’sさんの音楽は“ベッドルーム・オーケストラ”と言われてますけど、今回はベッドルームを出て、団員を連れて、旅に出てみたと。
 
 
私にとって一番大事なのはメロディでそこがみんなと繋がるためのツールで
それがしっかりあれば、後は自由にやっていいよっていうスタイルなんです
 
 
――取材のために前作のインタビューを方々で読んだんですけど、時折気が重くなるような内容が出てきて(笑)。
 
「でしょ(笑)。前のインタビュー、毎回泣いてたから(笑)」
 
――そんなに深く考えないで!って(笑)。
 
「ホント、私もそう思う(笑)。自分に言ってあげたいんだけど、そのときは真剣なんですよね」
 
――あの頃とは変われたんですか?
 
「いや、同じだと思う。変わりたいけどね」
 
――同じだけど、“変われないもんね”って思える。
 
「うん。そこは変わったかも。でもね、自分でもいつも思う。またインタビューで嘘ついたな、とか。そのときは一生懸命その人に向かって話してるんだけど。今も本当のこと言ってるか自分でも分かんない(笑)」
 
――おーい!(笑) 後で、嘘だったって思う?
 
「そう、ちょっとカッコつけようとしたなとか」
 
――嘘って今日はこう嘘をつこうというより、反射的にパッと出てきてその場をふわっとさせて、あのとき何か濁したなとか(笑)。でもそんなのみんなそうだと思うし。
 
「ねー。“みんなそうなんだ”って気付けたところが大きいかもしれないです。1枚アルバムを出して、“私もそうです”みたいなメッセージをもらって、そうなんだ~!って。意外と女の娘に多くて…女の娘の集団って独特なんですよ。“そうだよね”って口を合わせないと、仲間外れにされる学生の習慣があったり。私も少なからずそういうところにいたから、八方美人に合わせちゃったりして、後々家で落ち込んだりして」
 
――望む望まざるに関係なく培われちゃうのかもしれないですね。でもそういうドロッとしたところが1stには入ったから、みんなが“私もそうです”って共感してくれたわけで。自分の作品でも嘘をついてたら、そういう意見は返ってこないですよね。そういう歌詞が出たことはすごく良かったですね。
 
「良かった。私もすごく救われました。そっか、嘘つきは私だけじゃないんだって思ったし、やっぱり人間って生きてれば嘘をつかなきゃいけないこともある。そういうのをうまく乗りこなしていきたいなって思いましたね」
 
――シンプルに、気持ちよく生きていければいいのにと思いますね。
 
「ね。普通でいるって難しいから。元々子供の頃からファンタジーの世界がすごく好きなんですよ。それがコンプレックスでもあって、みんなと同じように現実のことを見られないんですよ。大人になる境目で、みんな“どうせそんなのあるはずないし”ってファンタジーを嫌っていく瞬間があるんですけど、私はその“どうせ”グループに行けなかった。“いや待ってよ、信じることを何で諦めるのさ”って意固地になり過ぎちゃって、それが捻じ曲がっちゃって今に至るんですけど(笑)。スッと現実を受け入れられる人の方がよっぽど大人になるのが早かったし、私は逆にすごく生き辛くなっちゃって。でも、1枚目を出して自分の性格の何がいけなかったのかに気付いたら、一周してそこを受け入れられるようになったんです。だから信じてるものは変わらないし、現実と夢の間に素敵な世界があるって今でも信じちゃう。でもそれが自分の生きがいでもあるって受け入れられたから、少しずつ変われてきたのかなって。マイナスなことはずっと溜まってるんですけど、それをポップな方法で出す方法がちょっと分かってきたというか。それこそ“ごっこ遊び”が一番言葉にしやすいんですけど、大人になってそんなことしちゃダメだって言われるけど、今は大人だからこそした方がいいと思ってるから、そのやり方を実験中。みんなもいいねって思えるような」
 
――それで言うと今回は開かれたというか、作ってて楽しかったんじゃないですか。
 
「楽しかった! 今回は生みの苦しみがなかったんです。私にとって一番大事なのはメロディなんですよ。そこがみんなと繋がるためのツールで。元々すごくポップスが好きで、日本人のメロディが好きで。そこにグッときて自分が泣きそうになる感覚を何度も覚えたから。久石譲さんのストリングスとか、ああいう何だか分かんないけど切なくなるメロディラインを、Neat’sでは大事にしたくて。その代わりそれがしっかりあれば、後は何でも自由にやってもいいよっていうスタイルなんです」
 
 
出口はポップでプロじゃないといけない
 
 
――アレンジも全部自分でということでしたけど、すごい引き出しだなって思いましたよ。
 
「私0か100しかないんですよ(笑)。バランスがうまく取れない。同じ人が作ったとは思えないって言われる(笑)」
 
――音楽的な懐の深さを感じるアレンジだったり音だなと。もはや“ごっこ遊び”ではない感じもしましたけどね。すごいポテンシャルのアルバムだなと思います。
 
「あ~でも、もっとプロの“ごっこ遊び”をしたい(笑)。私がなかなか自分を自由に出来ない性格だから、音だけは自由であって欲しい。やっぱり出口はポップでプロじゃないといけないから」
 
――『テープレコーダー』(M-4)のアレンジも独特ですばらしいなと思いました。
 
「あれは私も気に入ってる。偶然の産物から出来たもので、仮歌を録ってたらマイクが床に落ちちゃったんですよ。いつもはそこをキレイにカットしてるんですけど、カットした部分を再生してみたら、“ボッボボボッボ”って面白いリズムが出来てて。それをちょっと加工したりを繰り返してビートを作ったんです」
 
――洋楽的なサウンドの要素もすごく多いですよね。
 
「やっぱり私も向こうのインディーズのバンドの曲とかをよくチェックして聴いてるんけど、面白いんですよ。すごい遊んでる。その感じに負けたくないんですよね(笑)」
 
――日本にも面白い音楽をやってる人はいますけど、“インディーズで面白いことをやってる音楽っぽい音楽”が結構ありますからね。
 
「分かる~! そう思われるのがしゃくなんですよね(笑)。好きなことをやってていいよねとか言われたり、1人で自宅で作ってるって言うと暗そうに見える。実際暗いけど(笑)。独りよがりになるのはもったいないなって。みんなの先入観を捻じ曲げたいんです。そのためには、出口がポップである必要があるんですよね」
 
――聴かれないと勝負は始まらない。でも、Neat’sさんはタフになった感じがしますね。初めて会いましたけど、前作のインタビューを読んでるから他人事じゃない気がする(笑)。
 
「本当ですね、すごい成長を見てもらってる感じがします(笑)。私も昔のインタビューを読んで、“この娘大丈夫かな~”ってよく思ってました(笑)」
 
――“やりたいことが何か分からなくなる”って、そんなのみんな分かんないから! 死ぬまで分かんないパターンすらあるから!って(笑)。
 
「そう言ってあげたい(笑)。同じようにみんな悩んでるんだなって。私は悩むけど曲にする吐け口があるし、それを届けて共感してもらえるゴールまでもらえてる。そう思うとやっぱりすごい感謝に繋がって、ポップでありたい気持ちが高まりますよね」
 
 
“私は歌う人なんだ”って感じられた
 
 
――今回のレコーディング自体は合宿形式で行われて。それもまた楽しいですよね、家で作るのとは違って。
 
「私のデモは基本的に全部打ち込みなので、こういう音を生で出すにはどうしたらいいのかな? 象さんの叫びだよ”ってってみんなに相談して。“は!?”みたいな(笑)。“象さんの叫び声どうぞ! あ~近い近い! それもうちょっとこうして…はい、今の録音使ってください!”みたいな(笑)。そういうワクワクした瞬間とか衝動的な瞬間をパッケージしたくて。私はそういう言い方でしかメンバーに話してないです(笑)」
 
――すごく練るけど、実際の委ね方はすごく感覚的(笑)。
 
「自分に対してはものすごく厳しいくせに、人にはちょっと可能性を感じたいんですよね(笑)。期待したい」
 
――決め込んだらその音の再現は出来るけど、求めるはハプニングですよね。
 
「そうそう。私を壊して欲しくて(笑)」
 
――ハハハハハ!(笑) 自分で壊れないものも、周りから叩けばあっさり壊れたりしますからね。
 
「そうなんですよね! 本当はやって欲しい、誰かに」
 
――今回は外部の人が前より関わってるから、それによって気付くこともあるでしょうね。
 
「ありましたね~歌を入れてるときが一番感じたかな~。自分が作ったサウンドだと、歌も音みたいになっちゃうんですよ。だから自分と離れてる感覚なんですけど、今回はずっと吟味してきた音じゃないから、すごい新鮮だった。歌入れのときに改めて大音量で聴いたとき、“私は歌う人なんだ”って感じられたし、1つ1つが生で温度のある音だったからドキドキしました」
 
――ドキドキするのは大事ですよね。どうしても、しなくなっていってしまうものなので。まだそういう風にドキドキ出来る余白が自分にあるっていいですよね。“ハイハイこういう感じね”じゃなくてね。
 
「良かった~! 私もそうなりかねないなと思ったから。」
 
――そう考えたら委ねることも大事ですね。自分を発見させてくれるし、成長させてくれる。自分と戦って作らなきゃいけないときも、もちろんあると思いますけど。
 
 
五感をみんなにプレゼントしたいんです
 
 
――物を作るのが好きだとは思うんですけど、最終的に何で音楽を選んだんでしょうね?
 
「実は映画を選びたかったんですよ(笑)。今でも映画監督になりたい夢はありますけど、高校生のときに受けたオーディションでメジャーデビューしてしまったので、結構偶然というか…受かるはずないよなって思ってたことから始まった瞬間だったので、音楽はサブでやりたかったんです(笑)」
 
――“私は将来歌手になる!”みたいなわけじゃなかったんですね。
 
「音楽は大好きだけど、一番好きなことは仕事にするなって両親から教えを受けてたこともあって。感情的に揺さぶられるから、音楽は。それが仕事になると苦しそうだなって。映画の方を仕事にして、自由に音楽をやりたいなって思ってたんですよね」
 
――じゃあ好きなのはやっぱり音楽。でも仕事にすると苦しいから、映画がやりたいと。
 
「好きなのは音楽。でも、映画の方が社会と繋がってる感覚がある。音楽はもうちょっと個人的で、心って感じが」
 
――そのときからすでに一番楽しいことは職業にしない方がいいから=映画みたいな感覚があったんですね(笑)。
 
「真面目なんです(笑)」
 
――好きを仕事にした方が楽しいでしょって思っちゃうけどな。ていうか、しんどくないと楽しくないと思うから。
 
「父がデザイナーなんですよ。その背中をずっと見てきた影響がものすごくあって」
 
――お父さんはデザインが一番やりたいことじゃない?
 
「そう。父は車のプラモデルが一番好き(笑)」
 
――それを仕事するのは逆に難しい(笑)。相当すごいの作らないと無理(笑)。
 
「ヘンな車のおもちゃとかをコレクションするのが大好きで。それが父の休憩になってたんですよね。そういう姿を見ていると、胃が痛いときの抜け穴が必要なんだなって。私はその抜け穴を音楽にしたかったから、映画で苦しもうと思ってたんだけど」
 
――それが抜け穴じゃなくなって、音楽で苦しまなきゃいけなくなった。
 
「そうそう」
 
――でもそれだけ音楽が好きなのは何なんですかね? 他の仕事と違って、自ら選ばないと職業にはなかなかならない仕事じゃないですか。
 
「何ですかね~。固執してたわけではないし、苦しかったこともあったけど、結局助けられたのは音楽ですからね。今はそういう感謝もすごくあるから、一番は音楽っていうのはもう変わらない」
 
――今でこそ、Neat'sさんみたいなやり方でCDを発送したりとか、Webで全てを配信出来たりする時代になりましたけど、これが10年前だったら、メジャーのレールに乗っからないとやっぱりクオリティ的に難しいということもあったと思いますけど、そういう意味ではいい時代ではありますよね。メガヒットが生まれる時代じゃないかもしれないけど、みんなに可能性はあるというか。
 
「だからこそ、根本のアナログな発想を忘れたくなくて。不器用だけど自由で何でも出来る、子どものごっこ遊びのアナログさをデジタルの速度で届けるっていうバランスが取れたらいいなと思ってて」
 
――そういう時代になって発信するのって、女の人が増えましたよね。
 
「私もすっごく思う。宅録女子みたいなのが海外ではものすごく話題だし。女の娘って自分の世界で遊ぶのが好きだから、元々気質がある人は多そうだなって思いますけど。話しててもどんどん話が飛ぶじゃないですか。そういう女子の感じは嫌いじゃなくて。女子はそういった面では強いよ~覚悟決めたら早いから(笑)」
 
――出来上がったときの達成感はありました?
 
「ありました! いつもマスタリングを終えたその日に1枚だけ白盤をもらえるんですけど、その裏側が鏡みたいになってるから、そこに自分の顔を映すっていうのをユーミンがやってるらしいので、真似してます(笑)。でも、いろいろ妄想があって、もう次のアルバムを作ろうと思ってるんです。どんどん自分に次を与えないと生きていけない。生き急いでるねって言われる(笑)。1回1回実験してるんですけど、全部は成功しないんですよ。何か次のものが見えちゃう。ただ、追い求めたいものはずっと一緒で、“こんなのあったら楽しいのにな~”って妄想出来る力と、ワクワクするもの。私が音楽を作るとき、映像が必ず見えるんです。それを絵にして言葉にして、サウンドにして、最終系の音楽しかいつもみんなにあげられないから、その過程を共有したいなっていうのが次の作戦です。今まではそれをいちいち形にはしなかったけど、次からは形にして、1コ1コ妄想していく順序を伝えていきたいなって」
 
――今回で言うと、10曲全部に絵があるってこと?
 
「あるある。今回は映像を作れなかったんですけど、全部あります。本当は匂いもあるんですよ(笑)」
 
――マジで(笑)。
 
「匂いはどうやって届ければいいんだ?っていつも思うんですけど(笑)」
 
――映像は全曲PVみたいな形に、もしくは絵だけど、匂いはムズイな~(笑)。
 
「夜の匂いを嗅いでワクワクすることとかないですか?」
 
――それは何となく分かるけど、10曲にそれぞれ匂いがあるっていうこと?
 
「あるある(笑)。いや~そういうのって本当に曲だけじゃ伝わらないじゃないですか。それを体験してもらいたい。五感をみんなにプレゼントしたいんです。私が好きな音楽を聴くときそうなんですけど、聴くというよりはその曲に考えさせてもらうし、景色を見させてもらうし、その曲から匂いも感じる。五感をフル活用する感じがすごく気持ちがいいから。そういう丸ごと五感の世界をパサってみんなに被せてあげたいんですよね」
 
――もうNeat’sの音楽を体験するアトラクションみたいな(笑)。中に入って、曲が鳴ったら匂いも流れてきて(笑)。
 
「そうそう(笑)。楽しい~そういう感じ。ディズニーランドみたいな感覚で。お菓子の匂いがあったり、次のフィールドに行ったら前の音は聴こえなくなったり。人間に与えられた一番特別なものって五感だと思うから、それをとにかく死なせないで欲しくて」
 
――壮大なプロジェクトやけど面白いですね。どこかの一角に出来たら面白いな(笑)。
 
「ここの扉開けたらこの匂いしますよって(笑)」
 
――リリースします、渋谷区何丁目のどこどこでって(笑)。
 
「面白いな~移動サーカスみたいな感じもいいですね」
 
――匂いを言葉にすることもあんまりないですもんね。パンみたいな匂いとか? お父さんの枕の匂いとか?(笑)
 
「ハハハハ!」
 
――人によって違うでしょうね。使うトニックの匂いの違いとか、誰々くんの家の匂いとか。匂いってかなり個人的な思い出が多いというか、問答無用で嗅がないと分からない。他のものに変換しにくい、例えにくいですね。
 
「それで思ったのが『Hello, Alone』(M-2)なんですけど、この曲の匂いは海なんです。曇ってて、雨が上がった後だから湿ってて、潮の匂いもする。ちょっと臭くて嫌な感じもして、濡れて乾き切ってないタオルが遠くにあるみたいな(笑)。この匂いが体験出来るところをこの間発見して。ディズニーランドにカリブの海賊っていうアトラクションがあるんですけど、その一番最初に川に落ちるところがあって、そこの匂いが全く一緒だったんです(笑)」
 
――マジで!(笑) 現実世界にアトラクションがあった(笑)。
 
「これこれこれ!って思ったけど」
 
――降りるときにこの曲を聴きながらいくと(笑)。
 
「最高ですね! すごい切ない匂いなんですよ(笑)」
 
――遠くに乾き切ってないタオルがある匂いが切ない(笑)。
 
「それ言い方ちょっと悪かったね(笑)。涙の匂いなんですよ」
 
――それロマンチックですね。匂いって感覚的ですね、すごく。
 
 
この妄想は絶えないし、絶えて欲しくない
 
 
――今回の『MODERN TIMES』というタイトルはどこからきたんですか?
 
「チャップリンにもらっちゃった(笑)」
 
――いろいろ練ってるけどそこは直球で映画(笑)。
 
「今回のアルバムは1曲1曲が本当にそのときの景色という感覚で作っちゃったから、コンセプトアルバムじゃないんでタイトルにすごく悩んだんですよ。そのとき、チャップリンの『MODERN TIMES』の中で、資本主義社会で便利にはなったけど、どんどん人間が歯車の一部になって機械っぽくなっちゃった、想像する力が忘れられていってしまったという序文みたいなものを読んで、これは私の活動の軸にしていることと近いなと思って。そういう歯車の中じゃなくて、もっと自分の五感の歯車を動かしてよって。想像を力に変えていくアルバムだなと思ってもらいました」
 
――それにしても独特の雰囲気があるアルバムで、『Hello, Alone』『テープレコーダー』『side-b』(M-5)『サイレント・サーカス』(M-8)『空中公園』(M-9)辺りが個人的には好きですね。タフになった部分が歌詞にも出てる。
 
「『side-b』とかはまさにそうで」
 
――ちゃんと“欲しがってた”と言えるようになった素直さというかね。
 
「いつも暗闇を光に変えたくてしょうがなくて。どうやったら光に近付けるんだろうって思ってたんだけど、光にならないものもある。そのままにしておこうと思えたのが、自分の中では変われたところかな」
 
――それはバチン!という経験があったから? 徐々に変わった?
 
「バチン!があって、徐々に変わったんです。バチン!は前作のインタビューですね。まだドロドロの最中で、私はそれを隠すために常に笑顔っていう武器を持って人と接していて。そのインタビューが一通り終わったときに、“何かものすごく不自然ですね”って言われたんですよ。それで崩壊しちゃったんです。“バレた!”って。全てが嘘だと思われてるぞと。自分の中では本当だと信じてたことだけど、本当じゃないかもしれない、信じてきたものが全部嘘だったのかもしれない。全部の壁が剥がされていくような感じがして、もう涙しか出なくなっちゃったんです。そんな感じで1回崩壊してしまったら、それを光に変えることを辞めてしまって、この状態を、このままを見ようって思えた。それが逆に前に進めるきっかけだったんです」
 
――そう思えたのは何なんでしょうね。
 
「Neat’sのおかげはすごく大きいと思いますね。自分のちょっと子供っぽいところとか、大人になりきれない、同世代の友達と分かり合えないとか、私のそういうコンプレックスが、全部創作の“ごっこ遊び”に変わっていくと、それがものすごくポジティブな意見に繋がって、Neat’sの活動が面白くなる。今もそれは同じで、自分の性格にはものすごくコンプレックスがあるし、嫌いなところもいっぱいあるし、人間の性格としては多少問題はあるけど(笑)」
 
――ブログを見ていても、出来ない悔しさ、でも信じてやるしかないみたいな強い想いもあるなって。言ってしまえば、音楽に懸けているというか。人生最後の大勝負じゃないですけど、やってやるぜ!みたいな風にも感じる。
 
「あるある。書かないだけで本当は毎日あるし、でもやりたいんですよ。そっちの方が上回ってるの。妄想が自分の身体能力を上回っちゃってて、こうなったら素敵って思ってるのに、まだそういう身体つきじゃないからライブとかでもすごく失敗する。今は1人でライブをやったりもするんですけど、楽器と機材をものすごい使うんです。それを1人で操るなんて不可能に近いと思うんだけど、やりたいからやるんです(笑)」
 
――まだアイデアは山ほどありそうですから、これ無理だわって思うまではだいぶ時間がかかるでしょうし(笑)。
 
「そうなんです(笑)。この妄想は絶えないし、絶えて欲しくない。だから妄想が絶えそうになる瞬間が一番怖い」
 
――ドキドキし続ける自分でありたいと思いながら、しなくなり始めてる自分も感じてるみたいな。自分はごまかせないから、怖いですよね。
 
「ふふふ(笑)。怖い怖い。だからワクワクさせるところに自分を置いておきたいんです」
 
――そして、リリースツアーはアルバムに参加してくれたバンドメンバーと一緒に廻ると。音源しかり、ライブしかり、Neat'sの世界を表現出来るようになっていけば面白いですね。Neat’sは知られ待ちですから。
 
「知って欲しいですね~次も面白いことが出来ると思うんで」
 
――また次の作品をどういう形態で、どういう出し方をするのか。リリース形態、パッケージもどうなるか楽しみですよ。本日はありがとうございました!
 
「ありがとうございました~!」
 
 
Text by 奥“ボウイ”昌史
 



(2013年3月29日更新)


Check

Release

ベッドルーム・オーケストラが
旅に出る! 夢幻のサウンドスケープ

Album
『MODERN TIMES』
【CD+DVD】発売中 3000円 dada-5/6
【CD】発売中 2000円 dada-7
※紙ジャケ仕様
※オフィシャルHPでのweb販売のみ。

<収録曲>
01. モダンタイムス
02. Hello,Alone
03. PARACHUTE
04. テープレコーダー
05. side-b
06. 宙返りパラソル
07. sigh
08.サイレント・サーカス
09. 空中光園
10. fog

<DVD収録内容>
『-Studio Live & Recording Documentary-』
01. ナイト・イン・サイダー
02. Hello,Alone
03. ミス・クラウディの場合
04. 首飾り
05. モダンタイムス
06. fog
07. 0

Profile

ニーツ…85年8月17日生まれ、神奈川県出身。'03年にRYTHEMのピアノ&ボーカルとしてデビュー。'11年に解散。以降、新津由衣によるソロプロジェクトとしてNeat'sを始動。作詞作曲編曲の全てを自ら手掛け、Web販売なども自らで行うD.I.Y.スタイルで活動中。ライブでは、ART-SCHOOL/Ropesの戸高賢史らを迎え、よりラウドなパフォーマンスを披露。単独ライブ『Bedroom Orchestra』も並行して行っており、ループマシーンやサンプラーを駆使した独自の独奏ライブのスタイルも展開している。’11年6月より毎日更新中のYouTube“Neat’s TV”も650回を越え、トータルビューも63万回以上をマーク。’12年には1stアルバム『Wonders』を、今年の1月26日には2ndアルバム『MODERN TIMES』をリリース。なお、音源はオフィシャルHPとライブ会場のみで販売。

Neat's オフィシャルサイト
http://www.neatsyui.com/


Live

バンドスタイルで臨むレコ発ツアー
を現在展開中! 大阪公演も間もなく

 
『MODERN TIMES TOUR』
【名古屋公演】
チケット発売中 Pコード188-750
▼3月30日(土)18:00
池下CLUB UPSET
前売3000円
ジェイルハウス■052(936)6041

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら

Pick Up!!

【大阪公演】
チケット発売中 Pコード189-660
▼3月31日(日)17:30
心斎橋LIVE HOUSE Pangea
オールスタンディング3000円
清水音泉■06(6357)3666
※インターネット販売はなし。小学生以上は有料、未就学児童は入場不可。

 
【東京公演】
チケット発売中 Pコード189-450
▼4月5日(金)19:00
代官山UNIT
立見3000円
ホットスタッフ・プロモーション■03(5720)9999

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【仙台公演】
チケット発売中 Pコード189-557
▼4月7日(日)18:00
仙台PARK SQUARE
オールスタンディング3000円
G・I・P■022(222)9999

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