目くるめく世界観で聴く者を魅了or翻弄!?
特撮の7年ぶりのオリジナルアルバム『パナギアの恩恵』
制作秘話を見も蓋もなく惜しみなく語る(笑)
大槻ケンヂ(vo)インタビュー&動画コメント!
‘11年にセルフカバーアルバム『5年後の世界』を発表し、5年ぶりに突如再始動した特撮。そして昨年12月、遂にリリースされた7年ぶりのフルアルバム『パナギアの恩恵』について、筋肉少女帯としても活動するフロントマンの大槻ケンヂ(vo)にインタビューを行なったのだが、「音楽的な話は楽器隊にしか分からない!」ということで(笑)、作品の話から気付けばインタビュー論にまで…。演者の胸の内が分かる大槻独自の理論は愉快であり、だが真を突いたものであった。それは自ずと、長年歌っていく中で大槻にしか歌えないテーマの話にもつながっていた――。
独特のムードで送る大槻ケンヂ(vo)からの動画コメント!
――’11年に約5年ぶりに再始動されて、セルフカバーアルバムもリリースされましたが、今回の7年ぶりのフルアルバムに向けては、どのような流れで辿りついたのですか?
「タイミングが合ったということですよね。メンバー各自、いろいろなバンドを並行してやってますから。こういう時代でありながら、割と制作時間はかけさせてもらいました。ただ、ボーカルはレコーディングって、基本やることないですから(笑)。歌録りも下手したら、1曲1時間で終わるしね。だって、それ以上やったら声が潰れるし。だから、言うほど音的には作品に携われないよね。がんばってやってるのは楽器隊だよ」
――いや、でも大槻さんがフロントマンですから!(笑)
「まあ、アルバムの音楽的なことを聞かれても、楽器弾かないからよく分からないんだよ(笑)。最近のプロトゥールズとか機材もね。でも『ミルクと毛布』(M-10)は生まれて初めてアコースティックギターで作った曲です。簡単なコードですけど」
――前作は『5年後の世界』というタイトルもそうですけど、何か一昨年の3.11を彷彿させるような空気感を感じたんですね。でも、今作はまたいい意味で全然違う世界観だなと。
「『GO GO! マリア』(M-4)は瓦礫という歌詞も出てくるけど、あれは東北の大震災の瓦礫かもね。詞を書く者として3.11について、触れるのが震災直後だけかよというのもね」
――確かにそうですね。あと、『鬼墓村の毛毬歌』(M-7)の物語になっている歌詞は、本当に壮大でした。
「歌詞が1つの物語になっているストーリー性のある歌は、(レコード)メーカーさんに嫌がられるんだよ!(笑) テレビやラジオって、なかなかフルでかからないからね。でも、最近はそういうことも注意されなくなったかな。こういう芸風だと思われているんだな(笑)。『鬼墓村の毛毬歌』は、ちゃんとミステリーになってるんですよ。金田一耕助シリーズを書いた横溝正史の疎開先である岡山に行ってね、いろいろカルチャーショックを受けてさ。横溝さんは実際にあった津山三十人殺し(※30名が死亡した日本の犯罪史上稀に見る殺戮事件)を元にして、あの『八つ墓村』を書いたりしててね。帝銀事件を元にした『悪魔が来りて笛を吹く』とかさ。あんまりそういうのを調べ過ぎると闇に入り過ぎて、自分も暗くなるんで楽しいことを調べるんだけどね(笑)。昔、ユーミンさんがファミレスでカップルの話を聞いて曲を作ったという伝説がありますけど、僕は怪奇現象や不条理な事件から曲を作るんですよ。マンドラゴラとか、いわゆるJ-POPやJ-ROCKに出てこない妙な言葉を拾っていくので」
――それこそ今の時代、J-ROCKよりもアイドルの方が元気があるという話も、以前されていましたよね。
「今のアイドルは、90年代半ばのプロレスブームにそっくりですよね。群雄割拠で、マイナーな人のライブ会場でも、みんなおもしろがって結集するというか。でも、ロックも元気ですよ。ロック高齢化現象は、進んでますけどね。大人になると破壊衝動や怒りがなくなるんですよ。逆に、あっても困るし(笑)。例えば尾崎豊の“盗んだバイクで走り出す♪”を大人の言葉にすると、“まったく野田(元首相)さんもね…”とかになるけど(笑)、それは歌っちゃいけない。形を変えて、いい方向をキープしつつはなかなか難しい。主張がなくなっちゃうしね」
――そうですよね。だからこそ、津山三十人殺しからでも歌を表現出来るオーケンさんはスゴいなって思うんです。誰にでも出来ないですから。だって、例えばミスチルだったらそれは歌わないじゃないですか?
「アハハハハ! ミスチルの『津山三十人殺し』、スゴ過ぎる!! 出たら必ず買うよ!! 絶対に出さないでしょうけど(笑)」
――(笑)。とにかく誰にも出来ない形で、やり続けているのはスゴいなと思います。
「でね…やっぱり僕がこうやって代表でインタビューを受けてるのは悪いよ。若い頃は“俺が! 俺が!”だから、そんなこと考えなかったけど。それに昔はインタビューを受けてても、自分で作品のアラを見付けて、自己批判する癖があったんだよな。それはそれで、メンバーに悪いことしてたよね。あのね、欧米の人はプロモーションでも自己批判をしないんです。プロですよ。だけどミュージシャンは基本自分のアルバムの話をするのはうんざりしているんです。毎日何本も何本も受けるわけですから。ついつい関係ない話をしたくなるんです。女優さんだって1日7本のインタビューをこなしたりしますからね。僕もインタビューするときがあるんだけど、アーノルド・シュワルツネッガーに会ったときに、“大変じゃないですか?”って聞いたら、“それはそれで楽しいよ”って。ちゃんとしてるなって思いましたよ」
――人それぞれのインタビューでのキャラもありますもんね。
「そうそう。矢沢永吉さんには“今度のプロトゥールズ、バッチリよ!”っていう話より、生き様が聞きたいしね(笑)。音にこだわる細野春臣さんが生き様だけを語っても違うしね(笑)。まぁ、僕は音楽的なことは分からないですよ。僕が音楽で叶えたいのは、リア充なんですよ。充実感が欲しくて音楽をやってる。それを得られるのはライブのときですよね」
――『パナギアの恩恵』のリリースツアーが尚更楽しみですね。本日はありがとうございました!
Text by 鈴木淳史
Photo by 渡邉一生(SLOT PHOTOGRAPHIC)
(2013年1月21日更新)
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