恋愛の高揚感溢れるトリップソング『ファンタジックレディオ』
前代未聞の無観客ライブDVD『キミがいないLIVE』
アンバランスな注目新人・石崎ひゅーいを解剖する
インタビュー&動画コメントが到着!
昨年7月、ミニアルバム『第三惑星交響曲』でメジャーデビュー。『風とロック』や高橋優を手掛けたクリエイティブ・ディレクターの箭内道彦がアートディレクションを施した世界観の中で、美しき旋律と高揚感昂ぶるポップソングを舞うように歌い、一躍注目を浴びたシンガーソングライター、石崎ひゅーい。デヴィット・ボウイのファンだった母親が、その息子がゾーイからもじってひゅーいと名付けたという、一度聞いたら忘れられないこの名前。忘れられないのは名前だけではない。続いて11月にリリースされた1stシングル『ファンタジックレディオ』では、恋愛初期のハッピーな想いを無邪気に爆発させるロマンティックでトリップ感溢れるラブソングを披露。一転、カップリングの『エンドロール』では、同じラブソングながらアーティスティックでスペーシーな世界観を提示。その予感を確信に変えるに十分なポテンシャルを感じさせてくれている。さらに、シングルと同時発売されたライブDVD『キミがいないLIVE』には無観客ライブを収録(!)と、様々なベクトルでシーンに発信し続ける注目新人、石崎ひゅーい。インタビュー中もくるくると表情を変え、危なっかしくも愛らしいエピソードを屈託なく話してくれた。
石崎ひゅーいからの白シャツ動画コメント!
――『ファンタジックレディオ』の取材自体は、結構やってきた感じですよね。こういうインタビューとかラジオのキャンペーンでいろんな人と話すことで、自分を知ることもイッパイあったんじゃないですか?
「そうなんですよ! 最初の方は何も話せない(笑)。結構自分で自分の音楽を説明するのが苦手で、こうやってインタビューを受けさせてもらって、そこから言葉が見付かるというか。こういう風に話したら分かりやすいんだとか、言葉を引き出してくれるから、そこでやっと気付くみたいな。だからありがたいですね」
――そもそも今回の曲が生まれたいきさつを聞かせてもらえたらなと。
「去年の夏ぐらいに出来た曲で、その頃に『インディ・ジョーンズ』とか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか『スター・ウォーズ』とか大作映画をスゴい観てて、何かそういう現実逃避させてくれる作品を僕も作りたいなぁと思ったのがキッカケで。あと“baby”ってあんまり歌詞に使ったことがなくて、日本で言ったら(忌野)清志郎さんとかが、スゴい使ってるじゃないですか。俺も使いたいなぁと思ったのも、キッカケの1つですね」
――さっき挙げた映画の3作品とかはもう、超大作で、超王道の。
「そうそう。めっちゃ王道で、めっちゃ金かかってるみたいな」
――このタイミングで改めて何で観たんですかね?
「何でだろう? まあそもそも…自分自身現実逃避したい願望があって…」
――それもまたなぜ(笑)。
「寂しかったんじゃないんですかね。僕が今住んでる家って3LDKぐらいあって、姉ちゃんが去年の2~3月ぐらいまで住んでて、その前には弟も住んでたし、最初は5~6人いたんですよ。それが1人になって、生活すること自体が結構大変になって。まぁ舐めた話なんですけど、掃除とか洗濯とかが出来ないんですよ(笑)。結構そういう孤独感から、映画をスゴい観るようになって」
――映画とかもそうですけど、音楽以外のインプットって結構する方? 本を読むとか。
「いや、全然しないです。酒を飲みに行くぐらいで」
――曲はいつもどうやって書いてるんですか?
「頭の中に言葉とメロディが一緒にバッと出てきて、それをiPhoneに録っておいて…それをヒントにピアノでコードを合わせて広げていく、みたいな感じですね」
――なのにiPhoneがしょっちゅう壊れるらしいですけど、ヤバいですよね(笑)。
「ヤバい(笑)。もうiPhoneがなかったら俺、曲作り出来ないんで。録らないとよく忘れちゃうんですよ。出てきたモノを虫かごみたいなものに捕まえとくような感覚ですね」
――そんな中、そういった大作映画を観たのをキッカケに、曲が生まれていったと。
「そうです。何かポンポーン!って弾けるキッカケになった。あと何か今、ファンタジーモードに突入しちゃってて。それに気付いたときに、漠然と“ファンタジー”と“愛”みたいなテーマがバッと出てきて。それに肉付けしていくみたいな感じだったんですけど」
――ひゅーいさんの曲を聴いていて思うのは、街の風景を喚起させるというか。街という言葉も多く出てくるし、今回の『ファンタジックレディオ』なんかは恋愛の高揚感を表している曲ですけど、僕がそこから見える風景って、電車に乗って家に帰るときに窓から見える街の夜景に、明かりがイッパイ灯ってるみたいな。自分が真っ只中にいるというよりはちょっと引いたところから観る世界というか…街の風景をスゴく感じるんですよね。
「なるほど。それは僕がよく電車に乗ってるからかもしれない。例えば新宿から町田とかって30分くらいかかって、スゴく遠いんですよ。それが関係あるかも、うん」
――街にはイッパイ明かりが灯ってて、その明かりの先には家族とか、1人暮らししてる人とかが、何人も住んでるわけじゃないですか。でも、その人たちのことを全然知らないし、恐らく一生会うこともないけど、同じ時間軸でこうやっていろんな人のいろんな人生あるんだなぁとか、ふと思うというか。
「素敵!」
――(笑)。『ファンタジックレディオ』はハッピーな歌なんだけど、どこか物哀しかったり、ちょっと引いてたり、夜っぽかったりするなぁって。
「そういう言葉が出てくるのって、自分が実際に電車から見てるのもあるんだけど、多分1番デカいのが母親の影響で。母親が星とか月とか夜のモチーフとかがスゴく好きで。デビット・ボウイの『ジギー・スターダスト』('72)とか、小説家の稲垣足穂っていう人とか、あとは普通に星のグッズとか天体望遠鏡も家にあったり。それに影響をめっちゃ受けてて、アイデンティティみたいなものが埋め込まれてる。そこから出てくるんですよね、言葉が」
――お母さんは音楽をやっていたとかじゃないんですか?
「舞台の世界にいた人だったらしいんですけど、音楽は別に聴いてるだけでしたね。家でデヴィッド・ボウイとかトム・ウェイツが流れてたとか、そういうことももちろんあるんだけど、何かこう、スゲェ不思議な人だった」
――どういう風に不思議だったんですか?
「何だろう? 家で肉まんとか作ったり」
――家で手作りの肉まん作るん!? 関西では絶対作んないね。買ってきますね、肉まんは(笑)。しかし、不思議な人の例で出てくる答えが、“肉まんを作る”(笑)。
「スゴく美味しいんですよ!(笑)」
安定してる幸せみたいなものって、俺にはもったいないんですよ
――お母さんもそうですけど、結構周りの影響を受けやすいみたいですね。
「スゴい受けやすいです。大学の頃付き合ってた彼女がレディオヘッドとかU2が好きで。俺はあんまり聴いてなかったんですけど、当時やってたバンドの曲がいつの間にか全部そういう感じになっちゃったりとか」
――めちゃめちゃ引っ張られてるやん!(笑)
「めっちゃ引っ張られちゃいますね(笑)」
――彼女がいたら幸せで恋愛の曲が書けなくなるみたいなことも、どこかで話してましたよね。
「彼女が出来たら、歌自体あんま歌いたくなくなるというか、めんどくさくなっちゃうんですよね。“ま、いいや、彼女と遊んでたいなぁ”って(笑)。どうでもよくなっちゃいますもん、他のこと。それはちょっとマズいなって」
――マズいなって思う自分もいるんですね(笑)。
「いますいます! ちゃんと音楽をやりたいし、やんなくゃいけないのもあるんで。ちょうど最近もずーっと酒飲みながらみんなで恋愛の話をしてたんだけど、“いや、でも彼女作ったらライブが…”みたいな(笑)」
――アハハハハ!(笑) 俗に言う“NO MUSIC,NO LIFE”的な感覚ではないと。
「全然全然! でも、生活の一部ではあるんですよ。歌を歌ってないと、身体の調子がスッゴい悪くなるんで。下痢になっちゃったり、お肌の調子が悪くなっちゃったりとか」
――お肌(笑)。
「ホントに! で、ライブとかやると、そこから身体の調子がバーン!っていきなり良くなる。何でだろう? 生活になってるんですよね、音楽が」
――言ったら、ライブがないってこと=生活のリズムが崩れてるってことなんでしょうね。
「そうそう! そういうことなんだと思う」
――音楽をやらないならやらないで身体に出ちゃうし、影響受けたら音楽に出ちゃうし、スゲえ敏感ですよね。
「敏感肌…」
――アハハハハ!(笑) ホンマや。音楽敏感肌(笑)。だから生活が荒むと、音楽も荒むと。
「多分そうなのかも。気を付けよう(笑)」
――音楽に影響があるのを自覚してるとなると、なかなか怖いモンですね。
「そうそう。自覚がホントにあるんで。何か安定してる幸せみたいなものって、俺にはもったいないんですよね。恋愛の始まりとか終わりって心がグジャグジャっとしてるから曲が出来るけど、付き合って安定してると穏やかになっていく。でもこのときに俺、全然曲作らないし、作ろうともしないし。出来ないんですよね、多分」
――人間・石崎ひゅーいがミュージシャン・石崎ひゅーいの音楽にアウトプットされるけど、ミュージシャンというフィルターの役割があんまりないぐらい人間が音楽に出てるね(笑)。
「アハハハハ!(笑) そうかも」
80年代後半とか90年代のJ-POPがスゴい好きで
ああいう雰囲気がちょっと出たなぁと
――あと、C/Wの『エンドロール』(M-2)が個人的にはスゴく好きで。洋楽的というか、それこそさっき言ってたレディオヘッドとか、コールドプレイ的な匂いというか。ジェイソン・フォークナーって知ってます?
「知らないです」
――ジェリー・フィッシュのギタリストなんですけど、その人の1stアルバム『詠み人知らず』('96)が名盤で、その浮遊感とかスペーシーな感じにも近い空気を感じたというか。J-POPで、日本語で歌ってる中でも、こういう洋楽的な要素をサウンドにウマく咀嚼してるなぁと。
「まさにそこを狙ったんですよ。レディオヘッドの『ザ・ベンズ』('95)をプロデューサーのTomi Yoと一緒に聴いていて。自分の歌詞とかメロディはスゴく分かりやすいモノだと思っていて、そういう意味でライトな曲にそういうサウンドを足したらどうなるんだろう?みたいな。80年代後半とか90年代のJ-POPがスゴい好きなんで、ああいう雰囲気がちょっと出たなぁと。何か“実験成功!”みたいな感じだったんですけど」
――ちなみに『ファンタジックレディオ』のタイトルの“レディオ”に特に意味はないとのことで。ラジオ局がすごく喜びそうなタイトルだけど(笑)。
「(笑)。ラジオって蓄音機みたいな、そういうイメージなんですよね」
――ある種のノスタルジーを表す言葉かもしれないですね。この作品が出来上がったときはどう思いました?
「『ファンタスティックレディオ』は、超ポップに昇華したと思うんですけど、最初はホントにベターッとした曲だったんですよ。でも、歌詞を付けてTomi Yoに渡すとああいう音になる」
――マジックですね。
「マジで。僕とTomi Yoさんって、こういう風にしようとかあんまり話さないんですよ。その代わり、歌詞をほとんど書いた状態で渡すんです。そうするとイメージがドカーン!と広がって返ってくる。もうハンパないです。槇原敬之さんとか、トータス(松本)さん、JUJUさんとかを手掛けてたりする方なんですけど、ホント才能のある方ですよ」
内容的には、自分自身に対しての宣戦布告みたいなモノ
――あと、今回は同時発売で無観客ライブDVD『君がいないLIVE』もリリースされましたが、これも試みとしてはスゴくオモシロいですね。特典映像ならつゆしらず、こんなDVD出した人、他にいないんじゃないですか?
「これは実はデビュー前にやったライブで。デッカいとこでライブをやりたい願望がスゴくあって、もう先にやらせろと。でもやらせろって言っても、人が入んないと(笑)」
――そらそうだ(笑)。
「でもまあ内容的には、自分自身に対しての宣戦布告みたいなモノだし、あとはDVDを観てくれるお客さんが現在だとしたら、僕は未来にいて、先にこのステージに立ってるよと。だからDVDを観てよかったらここに来てくださいっていうメッセージみたいな感じなんですけどね」
――ちなみに会場はどこなんですか?
「…サンプラザ中野?」
(一同爆笑)
――おーい!(笑)
「そうだ! サンプラザホール!(笑) サンプラザホール!」
――それこそドラマとしては、その仙台のサンプラザホールで(笑)いずれワンマンをして、人でイッパイになってるときのライブDVDを出せたらめっちゃオモシロいですよね。
「うんうん。そうだと思う!」
――このシングル&DVDが出て、間もなくワンマンライブもあります。そこに向けては何かあります?
「今までで1番長い尺のライブで1時間だったんですけど、今回はワンマンだし2時間ぐらいはやるんじゃないかなぁと。でも俺、最近ペース配分がマジ分かんなくて。ちょっと怖いですね」
――僕も以前ひゅーいさんのライブを観たことがあるですけど、あのときの印象としては、ライブはワチャワチャしてるなぁ…って正直思いましたもん(笑)。
「だからマズいなって(笑)。ペースを考えないと」
――ハーフマラソンとフルマラソンで同じ走り方をしてたらダメ、みたいなところはありますからね。
「ホントそれ! そんな感じっす。マラソンの練習するみたいな感じ」
――ペース配分をウマく調整出来ない可能性に自覚があるのが、オモシロいですね(笑)。
「最近それが分かったんですよ。何回かライブやって、調整しようと何度も試みてるんですけど、いざ始まるともう…。で、終わった後にすみません…っていつも言うっていう(笑)」
――アハハハハ!(笑) でもそれだったらもう、ムチャクチャやっても最後までいける体力を付けるしかないね。
「そう! そうなんですよ! もうそれを受け入れちゃうしかなくて」
――あと、“100万枚売りたい”とか“売れたい”気持ちがスゴくあるということですけど、今の時代、なかなか難しいじゃないですか。これは今後どう戦っていきますか?っていう感じですよね。
「何かその…100万枚とかになってくると、ムーブメントみたいなものを起こさないといけないじゃないですか」
――俗に言う“社会現象”的なね。
「そうそう、尋常じゃないぐらいの。だから誰かと同じようにとか、こうしたら売れるとか、そういうことじゃないと思うんですよね。ホントにオリジナルな自分の歌を探す作業というか。音楽をずっとやってると器用になってくるから、レコード会社や事務所に言われなくとも、こっち方が絶対にウケがいいとか、何かそういう柵というか檻を自分で勝手に作っちゃうんですよ。それはなしにして、純度の高いモノを作っていくってことだと思うんですよね」
――まずはその足掛かりとしてのワンマンですね。ライブも楽しみにしていますので、またそのときに!
「お願いします! ありがとうございました!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2013年1月18日更新)
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