インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 最新アルバム『The Road...』のこと、ライブのこと、 震災のこと、世界のこと、日本のこと、大阪のこと… 松居慶子に聞いた音楽につながるすべてのこと

最新アルバム『The Road...』のこと、ライブのこと、
震災のこと、世界のこと、日本のこと、大阪のこと…
松居慶子に聞いた音楽につながるすべてのこと

 今年4月から始まったシアターBRAVA!での『シアタージャズ at BARVA!』の第4弾が12月18日(日)、開かれる。プレイヤーは「この惑星でもっとも美しい音楽」と評され、世界中で愛されているKEIKOこと松居慶子だ。
 アメリカでは最も有名なコンテンポラリー・ジャズ・ピアニストとして知られ、アメリカのみならずヨーロッパ、ロシア、南アフリカ、アジアなど世界各国でコンサートを開き、日本でも熱烈なファンが彼女の帰国を今か今かと待ち望んでいる。そんな世界的アーティストKEIKOが、大阪に登場! 大阪での単独ホールコンサートは7年ぶりという彼女に、コンサートにかける意気込みや最新アルバム、近況などについて聞いた。

--大阪での単独公演は実に7年ぶりです。今の心境を聞かせてください。

松居慶子(以下、松居)「7年ぶりに大阪に帰ってくることができて、メンバーともども楽しみにしています。今年2月からニューアルバム『The Road...』を携えてアメリカでツアーをしてきました。それから東ヨーロッパツアーを経て日本に帰ってきます。その頃にはアルバムの曲たちがさらに育っていると思います。ぜひ、多くの方々に新しい、そして今の私たちを観に来ていただきたいと思います」

--2011年12月、この時期に日本に帰って演奏されます。

松居「これまで、違う国、違う民族、違う宗教、そういった人たちの前でコンサートをしてきましたが、音楽はいつも私たちのいろんな違い、いろんな境界線を乗り越えさせてくれます。そして、そのコンサートでみんなで心を一つにできる…。10年前にはアメリカで9.11がありました。今年3月には東日本大震災があって、そんなとても辛い中でこうして音楽を演奏できること自体がとてもありがたいことだと思います。また、こういうときだからこそ、いらして下さった方と音楽を分かち合って、少しでも平和の空気を共有できたらと思います。この時期に日本に帰ることができて、とてもうれしいです」

--今、東日本大震災のお話もありましたが、あの日はどちらにいらしたんですか?

松居「3月11日は東京の自宅にいて、地震発生時は駅ビルにいました。その時、東北で大きな被害が出ているとは知らず、歩いて帰宅して2時間後には家にいました。それから世界中のファン、仕事関係の方々から メッセージが届きまして、慶子は大丈夫か? 家族は大丈夫か? 日本は大丈夫か?と、みんなが日本を心配してくれていることを知りました。親戚が仙台におりますので、そのことも心配でしたが、仙台へ連絡を取りつつ海外から届いたメールにも対応していました。そして、しばらくしてアメリカの人たちが直ちに行動を起こしていることを知りました」

--それはどんなことだったんでしょう?

松居「今年、ワシントンDCで行われる『チェリー・ブロッサム・フェスティバル』で演奏することになっていたのですが、その会場に行く前に、“『ジャズ・フォー・ジャパン~東日本大震災被災者支援CD~』という東日本大震災のための企画が持ち上がっているから、何時でもいいからキャピタルレコードに来てほしい”と言われて空港から駆けつけました。日本人の参加は私一人でしたが、素晴らしいアーティストたち、なかなか出会うことのないミュージシャたちとその場で相談して、5分くらいでリハーサルして、レコーディングして、丸2日間で作りました。その時、ミュージシャンたちが日本をすごく愛していることがわかりましたし、彼らの悲しみも感じました。そういう中で、2日であのアルバムが出来上がったとに、アメリカの人たちの気持ちの強さ、行動力の早さを実感しました」

--なるほど。では、松居さんのアルバムについてお聞きします。日本では12月7日(水)に発売される最新アルバム『The Road...』ですが、日本盤のボーナストラックで『Hikari~旅立った魂と生かされた魂へ~』という曲が収録されています。

松居「あんな大変なときにアルバムやライブで音楽をささげられる機会をいただけてすごくありがたいと思っていたのですが、それと同時に“日本人は素晴らしい”とどこへ行っても褒められたんですね。それは、東北の皆さんが助け合って頑張っている、その姿と気質に世界中のみんなが心を打たれて、そのことを褒められたんです。そんな中でテーマが聴こえてきて『Hikari』を作りました。サブタイトルを『旅立った魂と生かされた魂へ』とさせていただいたのは、大変な犠牲に遭われた方がたくさんいらっしゃる中で、旅立たれた魂への鎮魂の思いとともに、今、命があって生きている私たちがこの日本を支えていかなきゃいけない、がんばらなきゃいけない、そんな思いを込めて 、あのようなサブタイトルをつけました」

--『Hikari~旅立った魂と生かされた魂へ~』も含めアルバムへの思いを聞かせてください。

松居「こうして日本に届けられたことに不思議なものを感じます。『Hikari~旅立った魂と生かされた魂へ~』はすごく祈りを込めた曲ですし、アルバム全体を通してもシークレットコード、魂のルーツ、命を受けてっていう、そういうふうなことを思いながら……それをコンセプトにして作ってはいなかったのですが、結果的に生きている魂、人生、そういうものについてすごく考えさせられた私の気持ちが反映されたアルバムになっています」

--松居さんは1年のうちほとんどを海外で公演されていますが、だからこそ見える日本の良さ、素晴らしさについて聞かせてください。

松居「これまでいろんな国を見てきて、日本がいかに安全で、恵まれているのかということを思いました。それから、日本人の気質、すべてを語らないというような美徳があると思いますが、その良さも悪さも、海外で仕事をしていく上でいろいろと発見しました。でも、そんな日本人の気質がこの国を守ってきたし、安定して安全な国を築いてきたんだなと思います。私はほとんど海外で暮らしていますが、日本が大好きだし、日本語も大好きで、アメリカの家でも納豆とお豆腐という食生活です(笑)。ツアーをしていると、もちろんおいしい食事をいただくのですが、海外は日本食よりもこってりしたものが多くて、そういう意味でも日本食が好きだし、国土も素晴らしいと思います」

--余談になりますが、海外だからこその文化の違いのような体験はありますか?

松居「東ヨーロッパツアーのとき、ウクライナでテレビのドキュメンタリーを作ったんです。そのときにいろんな歴史的な街を歩いたんですが、あるレストランで“慶子にぜひこれを食べてほしい”と言われたのがラードだったんです。“慶子が食事を楽しんでいるところを撮影したい”と言われて、ウォッカとラードを出されました。そのときは美味しそうな顔をして刺身だと思い込んでラードを食べて、ウォッカを飲みましたが、結局7ショット飲んで、その後倒れました(笑)。ただ、一つわかったのは、マイナス14度くらいになる国ではウォッカはとても役に立つんですね。だからこそすごく大事なものでもあって、礼儀としても出されたウォッカは残しちゃいけない。全部、飲まなきゃいけなくて。そういうお国柄も面白いですね」

--では、コンサートのお話に戻しまして、大阪という土地やお客さんに対してどのような印象をお持ちですか?

松居「今までコンサートをしてきた印象では、すごくエネルギッシュな街というイメージがありますし、すごくストレートに表現される土地柄だなと思います。外国では英語での生活をしていますが、英語圏ではない国でコンサートを作る時は、とても強烈に勝負しなくちゃいけないときがあるんです。コンサートが始まれば音に浸っているのですが、リハーサルなどでは通訳の方を挟んで作っていくんですね。そんな中で、言葉が通じなかったり、国民性の違いからいい加減なことになったりするんです。そういうときに英語で喝を入れるんですね。私は元はとてもシャイなんですが、“こんなことはできないの!?”と言って怒る姿を見せたり、“じゃあ違う会社に頼もうか”とか、そんなことまで言ったり。そうしないと動かない部分もあるので。だからバンドメンバーからは、日本でのコンサートでは大人しくて、英語になったら勢いよくしゃべる、そのギャップがおかしいと笑われたりしてます(笑)。そういうことを考えると、大阪ではもしかしたら英語の時の私になるかもしれないです(笑)」

--そして大阪ではほかに期待されていることがあるそうですね。

松居「この『The Road...』というタイトルには、私たちそれぞれが自分自身の道を持っていて、あなた自身がその道の創造者である、プロデューサーである、そしてこの道は続くという意味を込めています。だからこそ『...』の部分が重要なんだとコンサートで言っていて、ドットの部分を“ドッドッドット”と言うとみんな笑うんです。でも、“このドットが大事なんだよ!”と伝えると、“そうだ!”と認めてくれて、曲紹介のときには“それでは『The Road...(ドッドッドット)』”と言うと、“...”の部分を一緒になって“ドッドッドット ”と言ってくれるんです。だから、もしかしたら。大阪の方は外国の方みたいに一緒に“ドッドッドット”と言ってくださるかな!?って期待しています(笑)」

--ドッドッドット。覚えておきます! 今日はありがとうございました。




(2011年12月 7日更新)


Check

Release

『The Road...』KEIKO MATSUI

12月7日(水)発売
2500円
AVCD-38358

<収録曲>
1. Secret Pond
2. Falcon's Wing
3. Nguea Wonja
4. Bohemian Concerto
5. Embrace & Surrender
6. Awakening
7. Touching Peace
8. Affirmation
9. The Road...
10.Hikari~旅立った魂と生かされた魂へ~(Bonus Track)

Stage

松居慶子

発売中(12/15(木)まで販売)

Pコード:151-335

〈シアタージャズ at BRAVA!Vol.4〉

●12月18日(日)17:00

シアターBRAVA!

全席指定-7000円

※未就学児童は入場不可。

[問]シアターBRAVA![TEL]06-6946-2260

完売必至! お早めに!
チケット情報はこちら

Profile

まついけいこ●東京生まれ。5歳よりクラシックピアノを始め、高校在学中より映画音楽の作曲など音楽活動を行う。18歳でヤマハと契約し、アーティスト活動を開始。その後独立して渡米。アメリカでは、最も有名なコンテンポラリー・ジャズ・ピアニストとして知られている。コンサートはヨーロッパ、南アフリカ、ロシアと世界中で開催。日本を代表するピアニスト・作曲家だ。